メディアとつきあうツール  更新:2003-09-14
すべてを疑え!! MAMO's Site(テレビ放送や地上デジタル・BSデジタル・CSデジタルなど)/サイトのタイトル
<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

テレビが”ただの箱”になる?
――地上放送デジタル化を考える

≪シンポジウムの概要≫
第4回市民とメディア全国交流集会
テレビが”ただの箱”になる?――地上放送デジタル化を考える

■パート1:「デジタルテレビ商戦最前線から」
 液晶・プラズマディスプレイ…。デジタルテレビ販売の現状をリポート。
 報告:小田桐誠(ジャーナリスト)

■パート2:「パブリック・アクセスの現在」
 川井信良(むさしのみたか市民テレビ局 代表)

パート3:パネルディスカッション
「地上波デジタル放送で見える日本の未来」

パネリスト
 坂本 衛(ジャーナリスト/『GALAC』編集長)
 懸樋哲夫(ガウスネット事務局長)
 碓氷和哉(民放労連委員長)
コーディネーター
 須藤春夫(法政大学教授/メディア総研所長)
(2002年6月22日 東京・自動車会館にて)

≪放送レポート再録時のリード≫
これは、2002年6月22日東京で開かれた「第4回市民とメディア全国交流集会」でのパネルディスカッション「地上波デジタル放送で見える日本の未来」をまとめたものです.中見出しは編集部でつけました。
(「放送レポート」2002年9/10月号)

≪おことわり≫
以下は、放送レポートのパネルディスカッション再録記事を、さらに抄録としてまとめたものです。坂本の発言はそのままですが、それ以外の発言はすべて要約です(文責は坂本)。詳細は「放送レポート」178号を参照。とくに引用される方は、必ず初出誌にあたってください。

メディア総研の関連ページへ

政府のいうメリットとは?

須藤春夫[要旨] デジタル放送を推進する立場として総務省の出席を求めたが、時間の調整がつかないとの理由で欠席。

 政府はデジタル放送の視聴者へのメリットとして、次の5点を指摘。1)ハイビジョンに代表される高品質な画像・音声サービス。2)高機能化――データ放送など新しい放送。3)通信網と連携し高度な双方向のやり取り。4)車載テレビなど安定した移動受信。5)視聴者に優しいテレビ。語速変換(早口の番組でも高齢者や障害者が聞きやすいように変換)して放送できる。その他、デジタル化の圧縮技術で使用周波数が大幅に削減でき、電波利用を大幅に増大することができる、10年間で212兆円の経済波及効果と、711万人の新たな雇用創出の機会が生まれるなど。

 地上波デジタル化のスケジュールで最大の問題は、2011年にアナログ放送をやめてしまうこと。1998年の地上デジタル放送懇談会の報告書では、終了目標は2010年で、「放送対象地域のデジタル放送対応受信機が世帯普及率85%以上」「現行のアナログ放送と同一放送対象地域をデジタル放送で原則100%カバー」の2条件に達していなければ終了目標は変更、といっていた。しかし昨年の電波法改正では、この見直し条件もなく2011年に打ち切ることがはっきりした。

 視聴者には全体の動きがよくわからないまま、一方的に政策サイドがスケジュールを進めている。これが、放送という放送法に定められた公共的な性格を有するメディアのあり方として好ましいのか、問題だ。

"主催者"側の情報を疑え

坂本衛 地上デジタルの問題で申し上げたいことが2つあります。1つは進め方の問題で、国民の皆さんの幸せが最初からまるで考慮されていないということです。これを進めているのはメーカー、放送局、お役所の3者で、唯一、国民だけがカヤの外に置かれている。実際にテレビを見るのは国民・視聴者ですから、その意向をまったく無視した進め方というのは実に無謀で、ずさんなものになっています。

 もう一つは、デジタル幻想とでも言いましょうか、「デジタル化というのはいいことだ」という頭からの思い込みで話が進められていることです。私は、それはテレビの本質に対する完全な誤解に基づいていると思っています。この間題はあとでまた触れたいと思います。

 そもそも、電波――テレビの電波も携帯電話の電波も同じですが――は国民の共有の財産です。基本的にお金を出すのは見ている人です。テレビを買うのも、テレビの番組を作るための制作費を出すのも、テレビで流されるCMを見ている視聴者です。総務省の予算は、もともと国民の税金です。放送局は、みんなの共有財産である電波を預かっているだけです。

 ですから、テレビに関する極めて重大な使用方法の変更――いま見えているものを見られなくして、新しいものを始める――そういうときには、お金を払って電波を持っている国民・市民の話を開かなければ、進めるべきではないと思います。

 しかし、審議会などの場で総務省の政策が決められていきますが、その委員にはメーカーの代表と放送局代表のほかは、有識者・学者ぐらいしか入っていません。「国民代表はメンバーにいるのか」とたずねたことがありますが、主婦連などの団体の方が1人入っていて、それが国民だと総務省(注:正確には郵政省=現・総務省)はいっていました。

 それから、「デジタル化を推進するのは国民の合意である」とお役所はいいますが、「それはどこで調べたのか?」と聞いたら「インターネットで調べました」といっていました。インターネットでは推進派が多かったということなのです。それは国民の総意ではないと思います。お年寄りなどは、これに対して意見をいっていないでしょう。しかもこの間題が、いったいどのぐらいのお金がかかるのか、どういうメリットまたはデメリットがあるのかが、国民にはわかりやすい形で知らされていません。

 「GALAC」2001年10月号で、2500人にアンケートしたことがあります。その中で、現在の地上テレビ放送が2011年に打ち切られることを見聞きしたことがある人は18・66%でした。5人に4人以上は知らないのです。日大の授業できょうの集会のタイトルを放送学科の4年生に見せて、「テレビが”ただの箱″になるってどういう意味かわかる?」と聞いたら、「ただって、今もただじゃないですか」と(笑)。これからテレビ局に就職しようという連中が、何の話だかわからない状況です。まして、テレビを楽しみに見ているお年寄りなどがこういうことを知っているのかと考えると、10年後に打ち切るというのはふざけた話だと思っています。

 いま流れている情報は、主催者側の情報だけです。たとえば、BSデジタル放送が二百数十万世帯まで普及してきたと新聞に書いてありますが、これは大ウソです。普及台数は出荷台数よりちょっと減るわけですし、CATVを通じて見ている人が百数十万人いるといっていますが、この中でデジタル方式で見ているのは5万世帯ぐらいですから、あわせて100万ちょっと、せいぜい120万という数でしかないとみられます。それが、「300万世帯近くになっている」と解説も一切なしに新聞には書かれている。こういう進め方はインチキで、やがてしっペ返しがくると思います。

 また、総務省はBSアナログ放送を2007年ぐらいまでに止めることを打ち出そうとしていますが、これは止められないと思います。そのときにアナログBSを見ている人が多すぎるからです。同様に、地上波のアナログ放送も、2011年には絶対に止められないと思います。

 これは、国民・大衆しか決められないことなのだから、総務省がいくらやろうといってもできません。それにしても、すでに打ち切りの方向で税金もつぎ込んでいますから、たとえばスケジュールを緩やかに長くするとか、いまの政策を転換しなければ将来たいへん具合が悪いことになると思います。

健康被害は本当にないのか

懸樋哲夫[要旨] 私は電磁波の問題に取り組んで10年目。最近は、携帯電話の電磁波がたいへん問題。携帯電話用タワーの建設計画の際に反対運動が起こると、NTTなど事業者は「東京タワーに比べたら非常に低い電波」という。だが、東京タワーの電波を浴びていて健康障害が起きたかどうかは誰も調べていない。「電磁波を浴びると女の子が生まれやすい」という噂がある。港区の出生性比を調べると、普通の環境では女の子1に対して男の子1.06のところ東京タワーにいちばん近いエリアの保健所で1.03だった。学者は「断定はちょっと難しい。可能性の指摘にとどめておいたら」という意見。

 英、豪、米では、放送塔そばの定期健康調査や疫学調査が、少ないながらもある。たいてい白血病や脳腫瘍が多いという報告が出ているが、誤差の範囲ではという反論もあり、これが証拠とはいいにくい。

 デジタルの電波は人工的な形をしており、われわれの体に受け入れる素地がないため、とくに体への影響が懸念されるといわれる。デジタル波はアナログより出力が小さくてすむというが、大きな帯域幅に間欠的に情報を入れていくので、人体が受ける影響も大きくなるのではないかという指摘もある。10年、20年たったとき何らかの影響が出るかもしれないという懸念も。政府は、こうした安全性を確認したうえで推進しているのか。WHO(世界保健機構)の電磁波の影響についてのレポートには「デジタルの電磁波については、これまでのデータは使えない」とある。新たな安全確認作業が必要だ。

手つかずのアナ・アナ変更

碓氷和哉[要旨] 民放労連は今年4月に「現在の地上放送デジタル化の計画を凍結せよ」という主旨の緊急提言を出した。その理由は次の通り。

 まず周波数変更作業の問題。いまの放送システムは、親局→中継局→(違う周波数でまた)中継局→ミニサテ局と、狭い地域でも電波が届くようにしている。テレビ放送用として1〜12chのVHF、13〜62chのUHFの電波があり、このほとんどのチャンネルを使っている。だから、現在「デジタル用」のチャンネルを使っているところは他のチャンネルに変更し(アナ・アナ変更作業)、これが終わってやっと土地が更地になるという感じ。これに昨年4月、852億円かかるという数字が出た。

 財源は電波利用料という総務省の徴収する特別財源。電波利用料の制度は、そもそも電波障害調査や無線局監理システム整備のため、放送や無線の免許を持つ人が負担して電波環境を改善に役立てようという制度。携帯電話も電波利用料が徴収されており、年間総額が400億円くらい。いま放送局が支払っている電波利用料の合計が約4億円で、全体の1%ぐらいを負担している。この電波利用料からアナ・アナ変更の費用を捻出するのが総務省の方針だが、国民的な合意は得られていない。

 さらに、この852億円という数字はとんでもなく少なく見積もった数字だと判明。実際には2000億円を超える費用が必要なことが明らか。それでも総務省は、2003年デジタル放送開始にいささかの変更もないという。ところが、このアナ・アナ変更の作業がまったく手つかず。平成13年度で123億円、14年度分についても122億円の予算がついているが、実際にはこの金に手をつけられない状態。関係者は2000億円に膨らんだアナ・アナ変更の対策費用を一生懸命圧縮しようとしているが、次のような問題が発生している。

 同じチャンネルで放送すると混信が起こるから、受信者保護のためCATV設備を作ったり周波数を変更する対策が取られる。その混信度合いを判断する基準があるが、その基準を甘くしようと検討されている。多少画面に乱れがあっても、デジタルに切り変わるまでの数年間は我慢してもらおうと、対策費を圧縮する。これは、視聴者の利益をまったく考えていない政策だ。

高画質もデータもいらない

須藤[要旨] 政府のいう視聴者のメリットは、本当に視聴者のメリットにつながるか。つながらないなら、デジタル化の持つ視聴者・市民にとってのメリットをどう設定できるのか。

坂本 ある新年会の席で、テレビ局側の出席者が「BSデジタル放送がなかなか普及しないのは、受信機の価格が高いせいじゃないか。もっと安く開発してくれないか」とメーカー側に頼んだら、ソニーの社長だったと思いますが、「あれは軽自動車じゃなくて、ベンツのようなものだ。そんなに簡単に安くならない」といっていました。ベンツはしっかりした車で、すごいスピードで走り、いろいろな機能も付けられていて確かにいい車ですが、値段は800万円するよという話なのです。それがいいということと、国民みんながいいものを享受できるということは話がまったく別だと思います。

 テレビの本質とは、そこに映っている画面の中味、ソフトウェアの問題です。そのソフトを持ってくる途中の経路を、デジタルの電波にしようといっているわけですから、もともとソフトの中味とは関係ないのです。たとえば、チヤツプリンの映画はアナログで見てもデジタルで見てもおもしろい。

 90年代の初めぐらいに、当時の郵政省にハイビジョンの取材に行きました。まだアナログハイビジョンの頃で、走査線が1125本だから11月25日はハイビジョンの日だと郵政省がいったら、通産省は9対16だから9月16日がハイビジョンの日だと馬鹿バカしいことをいっていた時代(笑)。

 郵政省の1階にハイビジョンの受像機が置いてあって、その前に黒山の人だかりがしていました。郵政省の役人は自慢気に「みんなあんなに喜んでみているでしょう」と私にその様子を話していましたが、それは夏の暑い日で、甲子園の高校野球を放送していたのです。高画質で音がよくて解像度が高いから人が集まっていたのではなくて、ただ高校野球を見たかっただけだったのです。

 ここ10年ぐらい、ビデオデッキの売り上げを調べてみたら、S-VHSや昔のHi8という高画質ビデオの割合は、毎年9%から12〜13%の間で納まりました。だとすると、画質がよいから見たいというテレビは、10台のうち1台ぐらいしか必要ない、ということになると思います。そのテレビで本当に十分に楽しめるソフトは映画やスポーツ、演劇やアート番組などでしょうが、それは視聴者にとってメインの番組ではなくて一部分だと思います。タモリの『笑っていいとも』を高画質で見なくては絶対ダメだと思っている人は、1人もいないと思います。

 高機能化、データ放送も可能ということですが、たとえば9回裏のツーダウン満塁の場面で「このバッターはどのぐらいの打率だっけ」などと、データ放送を見る人はいません(笑)。データ放送なんかいらないと思っています。天気予報だって、すでにパソコンでも携帯電話でも見られます。また、仮に野球放送に付属したデータ放送があったとしても、選手の情報などを見たいということであれば、そういうものはCMの間に見て、試合が始まったら見ないと思います。それは、民放にとっては非常に具合の悪いことではないでしょうか。

 双方向性は、デジタル化のメリットではありません。電話はアナログでも双方向ですから。さらにいえば、テレビの番組について「これはいささかおかしいのではないか」とテレビ局に電話をする人がいっぱいいます。ところが、なかなか電話がつながらないのです。私は、デジタル化による双方向メディアをめざすより前に、テレビ局の電話をつながるようにしろといいたい。それは電話やオペレーターを増やせばいいだけのこと。わざわざ高いテレビに買い換えさせなければ双方向化ができないと思っているのであれば、どうかしています。

 安定した移動受信。それも結構ですが、ではそのために車に28インチのテレビを積めというのでしょうか(笑)。

 視聴者に優しいテレビは、アナログのままでもできます。ちゃんと字幕をつけて放送することぐらい、いまでもできるのにやっていない。なぜデジタルになればできると考えるのでしょうか。

 山がちで電波の混信も起こりやすい国土であるのに、いまこれだけ無料のテレビ放送が普及している日本で、もっといいテレビにしてくれというのが、そもそも理解できません。いくらメリットがあるよといって押し付けても、視聴者は割高なものは買わないし、役に立つと思わなければやはり買いません。普及するかどうかは、最終的には国民が決めることです。

 アナ・アナ変換を国費でやれと民放連会長がいいますが、それは国民が税金から払うということです。もうそういう時代は終わりにきていると思いますが、これは”箱モノ行政”です。実現可能性や本当の国民のニーズを考えていない。山の中に、誰も通らないトンネルを掘るのと同じような話が始まろうとしているので、はなはだよろしくないことだと思っています。

選択の余地ない"押し売り"

碓氷[要旨] 確かにハイビジョンはきれいな画像。テレビ番組を作る際のデジタル化は、もうすでにテレビ局の中ではかなり進んでいる。そのことと電波のデジタル化は切り分けて考えなくてはいけない。

 先日、私もテレビ朝日・BS朝日で放送したワールドカップの日本―チュニジア戦を職場で(笑)見ていた。私たちはBSデジタル放送で見ていたが、ちょうど隣の部屋でアナログの地上波放送を見ているグループがいて、そちらのほうがわれわれより2秒ぐらい先に盛り上がっちゃう。「あーっ」といったのが聞こえたあとで、われわれが「おーっ」となる(笑)。なぜかというと、デジタル処理によって約2秒、映像・音声に遅れが出るから。BSの場合、衛星・地球の往復がプラスされて、2.5秒ぐらい遅れる。このように、高画質の裏に潜んでいる大きな問題点もあると思う。

 先ほど坂本さんが「データ放送はCM中に見る」といったが、民放の場合、CM中はデータ放送をカットする(笑)。ワールドカップのとき「選手インタビューがデータ放送で見られる」ということだった。そこで、データ放送の画面を開き、選手の名前を選んで、選択のスイッチを押したら、その瞬間CMに入ってしまった(笑)。CM中は番組に関係するデータ放送はカットされるが、スポンサーの要請によってはCMにデータ放送がつくことが想定される。が、果たして15〜30秒のCM間にデータ放送を開いて見るのかは、疑念を抱かざるを得ない。

懸樋[要旨] 買うか買わないか、選択の余地がないところがまったく納得いかない。選択の余地がないのだから押し売りだ、「押し売りお断り」という声明を総務省に読み上げて渡した。総務省は何の反論もしないで、ちゃんと受け取ってくれた。経済波及効果が総額212兆円だそうだが、これは経営者のメリットで、買う側には何のメリットもない。

 環境保護の観点からいうと、省エネ型の燃費のいい車に買い換えると環境にいいかといえば、それを作る際エネルギーを消費しているのだから、そのまま前の車に乗っていたほうがずっと環境にいいのだという詰も。デジタル化には、余分な環境負荷をダブルで加えるという意味もあると思う。

チャンネルプラン公開して

須藤[要旨] ここで、会場の皆さんから発言を募りたい。

会場A[要旨] 私は横浜在住。横浜市は自然難視に加え高層ビルによる都市難視まであり、東京タワーから50キロぐらいの近さでも難視聴がある。これがデジタルになったらなくなるといわれているので、大きなメリットだろうと期待している。ただ、いま共聴アンテナで見ている人たちは、デジタルになれば自分でアンテナを高いところに上げれば大丈夫と理解しているが、VHFからUHFに変わってもやはり同じ電波だから、デジタルで受信状態がよくなるのかどうかわからない。そういうことがほとんど説明されておらず、視聴者として非常に困っている。

碓氷[要旨] いわゆるゴーストによる障害はほとんどなくなるだろうといわれている。専門的にはマルチパスに強いという言い方をするが、ゴーストのない、きれいで安定した画面が見られると考えられている。だが、これは安定した移動体受信よりマルチパスに強いことを優先した話なので、総務省がいうような移動体による安定した受信が保証されるかというと、今の想定では決してそうではないと思う。

会場B[要旨] チャンネルプランについて質問。私は友人から、アナログでの100%カバーに対しデジタルは80%ぐらいを見込んで建設計画を作っているという話を聞いている。実際はどうなのか。ちやんとアナログの電波が届く範囲にデジタルの電波も届くような設計をしているのか。

碓氷[要旨] 現在使っている中継局についてはほぼチャンネルプランを作っているはず。細かい中継局をたくさんつくるのはかなり費用がかかる。全体の費用を100%とすると、60%ぐらいの費用で80%ぐらいのエリアをカバーできるという大雑把な試算がある。残りの20%は、CATVを引くとか地域の自治体から援助を受けるとか、放送事業者側の腹の内があるようだ。そういう意味で80%という数字が出てきているのだろう。

須藤[要旨] NHKの場合は100%カバーすることを義務付けられている。80%というのは民放のことを差す?

会場B[要旨] NHKも含めて。NHKに開いても内部資料だからと公開してくれない。チャンネルプランはあるはずなのだが。碓氷さんがいったようなことをやるなら説明が必要なはずだが、「検討中だから見せない」という対応。民放労連のようなところがきちんと公開させたほうがよいのでは。

会場C[要旨] 議論を聞いて、デジタル化そのものに最終的に賛成かどうか。要するに遅らせろといっているのか、やめろといっているのか、はっきりしない。いっそアナ・アナ変更などせず、一斉にデジタルに変えてしまえば済むわけで、それは簡単にできると思う。外付けのコンバーターは1000万台以上作れば1万円以下になると思う。それを無料で配れば一気にできる。

須藤[要旨] きょうの話の流れとしては、デジタル化のメリットを、政府側でなく視聴者・市民の側でどういう可能性があるのか、もっと積極的に提案したい。その点で結果的に視聴者の側に跳ね返ってくる問題として、デジタル化をきっかけに、地方局の設備投資等の負担が多くなり、何らかの形で地方局の整理・統合がありうると思う。それは、地方で放送を享受している視聴者の側からすると、きめ細かい地域放送を失うという点でかなり大きな問題を含んでいる。

すさむローカル局の現場

須藤[要旨] 次に、政府はいわないから、この場でデジタル化のデメリットとは何か明らかにしたい。

坂本 伝送路のデジタル化でいちばんいいことは、帯域圧縮という技術が使いやすくなることです。これは、多チャンネル化ができるということを意味します。もう一つは、何でも送れるということ。つまり、放送の電波で画像プラス音声しか送れないのではなくて、コンピュータのソフトを送ってもいいし、全部の帯域を使って、すごくきれいな画面 ――ハイビジョンとか高精細度テレビといわれているもの――を送ってもいい。3つぐらいに分けて標準画質のテレビや、もっと細分してラジオを送ってもいいし、ファクシミリ放送や文字放送のようなものを送ってもいい。

 多チャンネル化もデジタル化のメリットの一つであれば、たとえば、フジテレビなら8チャンネルを三つにわけて、一つはフジテレビのキー局でやっているドラマなどを放送して、別のチャンネルではフジテレビ系列のローカル局が、今まで全国レベルでは流せなかったようなドキュメンタリーを午後7時から流すとか、あるいはショッピングチャンネルをやるとかいろいろなことが可能です。その中で市民のアクセスチャンネルのようなものなど、そういうメリットは考えていけばいろいろ思いつくはずです。

 NHKをはじめ放送局サイドが、とにかくハイビジョンというものを全面に押し出し過ぎているのがよくないと思います。結局、いま放送しているものがただハイビジョンになって、横長できれいな画像になるというだけの話で、中身は今までと同じ、ということになるのではないかという気もします。

「地上波デジタル――地方の『ホンネ』」という覆面座談会を『GALAC』2002年4月号でやりました。参加者には地方の中堅以上のローカル局につとめる制作、編成、営業の社員がいましたが、座談会が終わったあと、ある参加者は「これは社内の会議でも話せなかった」といっていました。ローカル局では「総務省も決めたし、もちろん民放連合長もいまの計画でいくといっているし、当然、自分の会社の社長も同じだ。番組制作はすでにほとんどデジタルで作っている。この流れはもう止められないのではないか」ということになっているのです。

 それから、「このようなデジタル化の進め方は、テレビのあり方としていいのか」と疑問に思っていたような放送局の経営者たちが、だいたいこの5〜6年でいなくなったようです。また、むかし「報道は主流だ」というような言い方がされましたが、最近のローカル局では、報道はあまり主流じゃないという雰囲気になってきています。バリパリ働いていちばん活躍できる30代、40代の連中が、番組制作の現場からデジタル関係の部門に異動させられ、東京支社で情報を収集するような仕事をさせられるといった流れになっています。

 しかもデジタル化は、何年かかけて放送局の社屋を新しくする、ということを意味します。そうすると、莫大な設備投資のために、これまでは番組の自主制作率をせめて十数%、できれば20%にしようとがんばってきたけれど、そういうことはお金がかかるからやめて、そのかわりにキー局の番組を流して、それで利益を積み上げよう、ということになってくる。いま、ローカル局の現場はかなりすさんでいます。

 それから、ローカル局といっても準キー局のようにキー局に匹敵するところや、老舗の局でしっかりしたところ、ついこの10年ぐらいの間にできたような小さいところと、いろいろあります。とくに小さいところでは、「デジタル化でどうするのか?」と聞くと、ほとんどが「何もできない」と答える(笑)。自分たちの問題というより、自分たちが整理される問題だと思っているんです。キー局などはデジタル化でまっすぐ進んでいますので、放送業界の中でちょっと矛盾が噴出してきているところではないでしょうか。

「生き残る」には市民の信頼

碓氷[要旨] ローカル局の場合ほぼ年間の売り上げに匹敵する投資が、デジタル化のために必要だといわれる。そのために何が行われているかというと、制作費削減が第一のターゲット。自主制作の番組を減らし、利益の上がるテレビショッピング番組を増やすようなことが行われている。民放労連の立場からいえば、デジタル化への投資のために「もう君たちの賃上げはないよ」と経営側がいい出した。「右肩上がりの時代は終わった」と、人件費にも手を着けてきている。

 デジタル時代に、ローカル局が「生き残る」――あえてこの表現を使うが――ためのカギは、やはりその地域に信頼されること。地域の市民・視聴者に愛される放送局でなければ、デジタル時代の「生き残り」は非常に難しい。ところが現実の放送局の政策は、地域番組を切り捨てて東京の番組を垂れ流す。テレビショッピングで安易にお金を稼ごうとする。というわけで、まったく逆の方向に向かっているのではないか。

須藤[要旨] 懸樋さんは電磁波の問題について、個別の放送局に対してどのような問いかけを?

懸樋[要旨] 番組制作やニュースの取材で記者・ディレクターの方が電磁波の問題で取材にくる。でも、自社の放送局がこんな悪い電波を出しているとは報道できないだろうと私も思い込んでいるので、そこから先はあまり話をしない。直接放送局に何か申し入れるというようなことは、今のところ考えていない。

須藤[要旨] デジタル化に伴う受像機の買い換えによる大量廃棄問題は? 小坂総務副大臣は「デジタル化の普及は徐々に広がっていくので、突然受像機を買い換えるということはありえず、大量廃棄も起こりえない」と発言しているが。

懸樋[要旨] あまり詳しくないが、デジタル化で買い換えを促進されることは事実。10年後の段階で、10年以上使いたいテレビを持っていると、突然見られなくなってしまうケースが出てくるのも当然だと思う。それが何%あるかわからないが、その分は確実にごみになる。

 私がいちばん強調したいのは、5年後ぐらいに使っているテレビの調子が悪いから買い換えようかなと思ったとき、電気屋さんに「デジタルテレビでなきや見られませんよ」というふうに勧められることになる。アナログテレビが買いたかったとしても、あと5年しか見られないということになる。これは問題だと思う。

世論を喚起する番組見たい

会場D[要旨] 率直にいって、われわれがテレビを買い換えるのは、テレビが壊れたとき。ちょっと映りが悪いぐらいは我慢するもの。現在の経済状況からすれば、テレビは安いほうがいいから、国民感情からいってもデジタル化は絶対に急ぐべきではないと思う。まだアナログテレビで十分だという声が圧倒的に強いのではないか。BS放送もあまり必要じゃないと思う。NHKは画面を通じてBSへの加入を訴えるが、必要としているのはNHKのほうであり、われわれの必要とはまったくかけ離れた問題意識だろうと思う。

 むしろ問題は、本当に必要なソフトが現在のテレビで提供されているのか、ということだ。国会では、健康保険法改正や有事法制が大きな問題になっているが、ワールドカップサッカーブームの影に隠れ、なかなかわれわれの思うような形で報道されない。これはソフトの問題。放送をデジタル化することよりも、テレビそのものが国民のニーズに本当に応えているのかが問われるべき。もちろん、テレビは娯楽という要素も大事だが、もっと社会性・公共性を重視して国民の世論を喚起していくことが求められている。その意味で、アナログテレビの廃止問題をもっと国民の間に浸透させ、この間題についての業界や官僚・政府のやり方に対する批判を高めていく必要があるのではないか。

須藤[要旨] ご指摘のとおりだと思う。政府のいう視聴者にとってのデジタル化のメリットは相当問題をはらむ。むしろ、先にアナログを打ち切ってデジタル放逸を強引に普及きせることが前提にあるために、こういう政策をとってくるのだろう。

 昨年の国会の議論の中で、衆議院総務委員で自民党の平井卓也氏はこういっている。「アナログテレビは非常に低価格になっている。この安いアナログテレビを今後もどんどん売っていくと、アナログ受信者がなかなか消えていかない。そこで、メーカーにお願いしてデジタル放送も見られるような装置を、これから何年かはテレビに組み込んでおく。そうすれば、メーカーにもメリットがある。そういう誘導装置のようなものを検討すべきだ」と。平井さんは、その後『中央公論』で「地上波デジタル計画は凍結せよ」とまったく違う立場の論文を発表しており、どうなっているのかと思うような方だが、ご本人は民放テレビ局社長の出身。デジタル移行のためには地方局がたいへんな経済負担を負わなくてはいけないと後でわかって、突如としてひっくり返ってしまったのだろうと思う。

 自分たちのやっていることに確信が持てないから、視聴者に積極的に説明して世論を喚起していくこともしない。このままでは、結果的に店頭に受像機が並んでしまい、仕方なく視聴者が買い換えなければいけないという羽目になると思う。

ハイビジョンの呪縛捨てよ

須藤[要旨] では、私たち視聴者はデジタル放送をどうとらえるべきなのか。もうこんなものやめてしまえ、ということなのか。スケジュール等の面で違ったやり方があるのではないか、ということか。

坂本 私は、デジタル方式の放送の有効性は明らかだと思います。何年後かわかりませんが、絶対にデジタル放送に変わっていくと思います ただし、アナログがこれだけ普及した状態になっているときに、いま検討されているやり方では到底無理だろうと思います。2011年にアナログを止めてデジタルに完全移行するということも、無謀でずさんすぎる計画だと思います。2015年でもまだ早い。2020年でどうか、という長い時間の話になってくるでしょう。

 それから、2003年にデジタル放送を開始しなくてはいけない、という必要性も私はあまり感じていません。国民・大衆が緩慢に負担に耐えられて、そのコストを負担できるような進め方でいい。しかもまず国民の意向を聞いてから、進め方をゆっくり考えればいいと思います。

懸樋[要旨] 私は、デジタル電波の健康への影響・安全性が確認されない限り、推進してはまずいのではないかと思っている。

碓氷[要旨] まず、いまの計画にある「デジタル放送=ハイビジョン」という呪縛から逃れることが必要なのではないか。6メガヘルツの帯域をもらったからハイビジョンのチャンネル一つだけで埋めようというのが、いまの放送事業者の考え方。6メガあれば現在の画質の放送なら3チャンネル分流せる。半分の3メガヘルツでも、現在の放送の画質を保ちながら、プラスアルファのサービス、たとえばデータ放送などを充実させることが考えられる。そのうち受信機の価格も下がり、混乱なくデジタル放送に移行していくことができるのでは。

須藤[要旨] デジタル放送は、視聴者にとってどういう点で必要なのか。また、政府が進めるような方法ではないとすれば、どういう形で進めることが望ましいのか、会場から意見があれば。

会場A[要旨] 共聴アンテナでは、デジタル化にどう対応すればいいのか、どこに聞きにいってもわからない。

碓氷[要旨] 共聴アンテナは通常、VHFのアンテナを立て、ブースターという増幅器を入れ、そこから各家庭に配るというシステム。デジタル化に対応するためにはデジタルのチャンネルに対応するブースターを入れる。あわせて各家庭でデジタル対応のテレビを買ってもらわなくてはいけない。この2つの手順がそろって初めて共聴設備を通してデジタル放送が視聴可能になる。

会場E[要旨] そういう場合いちばんいいのは、NHKの受信相談に相談すること。むこうは契約して欲しいわけだから(笑)。

会場F[要旨] いま、移動体通信の映像提供電波では、放送用電波だけではなく携帯用の画像提供電波も同時に周波数が割り当てられているはずだと思う。それにかかる労働力や資源の負担のことについて一言。

碓氷[要旨] 携帯用というのは、すでに行われているサービスのこと? デジタル化では、それぞれの放送局に与えられた周波数の一部を使って携帯用のサービスをすることが想定されているが、そのためだけに人があてられているわけではなく、かなりの人員が地上波の仕事もしながらデジタル関連の仕事も兼務でやっているのが実状。たとえば番組制作の現場でも、16対9の横長サイズのカメラで撮りながら、実際にいま放送されるのは4対3の画面しかないので、両方のサイズをにらみながらカメラマンがアングルを決める、といった新しい問題も起こっている。

坂本 きょうの問題はテレビに絞られていましたが、政府のIT計画では5年後ぐらいまでに、日本の大半の家庭にもアメリカ並みのインターネット常時接続環境を整えることになっています。そのためにパソコンを買うのは、やはり国民です。ハイビジョンも買え、パソコンも買え、光ファイバーも導入しろって、国民をあおるだけ。そういう話がいまバラバラに進行しています。だから私は、国が情報戦略の根本のところで総合的なビジョンをしっかり描かないと、話にならないと思っています。

碓氷[要旨] 民放労連では、総務省・NHK・民放遵・全国地上デジタル放送推進協議会に対して、議事録や資料の開示を求める情報公開請求の準備をしている。

須藤[要旨] この問題は、もっと世論喚起をし、私たちのほうでさらに問題点を確認しなければいけないことがたくさんあると思う。急ぎ足の討論になったが、ありがとうございました。