メディアとつきあうツール  更新:2003-10-11
すべてを疑え!! MAMO's Site(テレビ放送や地上デジタル・BSデジタル・CSデジタルなど)/サイトのタイトル
<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

地上デジタル放送
【政策提言】
日本国はこの修正提言を
採用する以外に道はない

≪リード≫
2003年12月1日、関東・中京・近畿の三大広域圏で地上デジタル放送が始まる。その7年7か月余り後には、地上アナログ放送が打ち切られる予定だ。しかし、現行の計画はすでに破綻している。2011年にアナログ放送を止めることはできない。そこで、唯一実現可能と思われる無理のない修正計画をここに提言する。
(「GALAC」2003年10月号 総力特集「地上デジタル放送の落としどころ」)

≪付記≫
地上デジタル放送の現行計画(2003年夏段階での計画・予定スケジュール)が、その予定通り実現できないこと――2006年12月までに全国すべての地域でデジタル放送を開始できず、2011年7月までに地上アナログ放送を停止できないことは、すでに絶対確実な情勢である。国(総務省)が以下の提言を受け入れなくても、スケジュールは自動的にダラダラと延びる(ただしこれまでの例では役人は責任を取らないだろう)から、国民大衆・視聴者のみなさんはあまり心配は要《い》らない

なお、この論考の掲載誌は、衆参両院全総務委員(国会議員)、最近の郵政大臣経験者、総務省、総務省記者クラブ、ほとんどの放送局、全テレビメーカー社長、その他主だった地上デジタル放送関連団体に献本済みであることを付言しておく。これは3年後、5年後、10年後に「知らなかった」と言わせないためである。

国民には正確な情報を伝え
望ましい判断を求めよ

 巻頭一〇ページの論考「地上デジタル放送計画『すでに破綻』の決定的な理由10」と、各界識者がそれぞれの立場から地上デジタル放送計画の問題を指摘した論考を、読んでいただけただろうか。

 ここまで読めば、もはや現在の計画通り地上デジタル放送が実現できないことを疑う読者は、ほとんどいないのではないか。万一、納得できない点があれば、どうか遠慮なく反論(ただし具体的な根拠をともなった反論)を寄せていただきたい。さらに詳しいデータを出して議論させていただく。

 ただ、「計画通りに実現しないとしても、現在の計画を進めるしかない」と思う読者は、放送関係者をはじめとして、少なくないのではないかと思う。

 筆者は、あるキー局首脳から、
「確かに現在の計画通りには進まないだろう。しかし、二〇一一年からアナログ放送が終わるといって予定通りにならないものを、二〇一一年はもっと先だといってしまえば、予定がなおのこと遅れてしまう。だから二〇一一年にデジタル全面移行と言い続けるべきだ」
 という意味の言葉を聞いたことがある。

 だが、これは視聴者・国民大衆を愚弄《ぐろう》するインチキな言い草である。それは、実際の戦況をひた隠しにして「必ず勝つ」と言い続け、無謀な戦争を続けて結局は負けた戦前の軍部・大本営と同じ言い方である。

 現在の民主主義社会では、国や社会の行く末は主権者である国民が決めるのだ。日本という国は、戦後そのような新ルールを導入したのである。一部支配層に判断を預けるより間違える可能性は少なかろうからそうしたのであって、その国民の判断が結果的に間違っていても、それは仕方がない。

 「地上デジタル放送計画で本当のことをいえば予定が一層遅れるから、そこはボカしたまま現在の計画を進めるべき」というのは、国民が判断を誤る恐れがあるから正確な情報は伏せるべきだというのと同じで、民主主義社会のルールに根本的に反する主張である。

 だから、断じて受け入れることはできない。

 国民には最初から正確な情報を伝え、そのうえで望ましい判断をするように導くほかはない。それこそが政治家や役人の務めであり、マスメディアの責務である。

 そこで、本稿では正しい情報に基づく、地上デジタル放送計画の修正案を提案する。

軌道修正が遅れて
よいことは何もない

 このまま現在の計画を進めても、どうせ二〇一一年までのどこかで結局は修正される。いまは、せっかく始まろうというときだ。修正するにしても何年かたって、やっぱり無理だとみんなが思ってからでよいではないか。そう思う読者もいるかもしれない。

  だが、この考え方は誤りである。まだ始まっていない現在だからこそ、一刻も早く軌道修正をしなければならない。

 というのは、修正の必要な理由が、地上デジタル放送計画をマラソンレースにたとえれば、四二・一九五キロ走ればよいと思っていたのが一〇〇キロレースになるという話だからだ。

 二〇一一年というゴールが先に伸びるから、いま考えているペース配分で走り出せば、何年か持ったとしても途中で倒れてしまう。

 放送局は、アナログ・デジタルのサイマル放送期間が伸びるから負担が増し、新規のデジタル化投資だけでなく、二〇一一年以降は不要と思われている大規模な(十年に一度の)アナログ設備更新が必要となる可能性が極めて強い。メーカーも、早期のデジタル化投資がムダになる恐れがある。

 ただし役所だけは、二〇一一年に地上デジタル放送への全面移行に失敗しても、計画を立てた担当者がすでに担当部局にはいないから、誰も責任を取らず損もしない。

 以上は些細なことといえるだろうが、筆者がもっとも恐れるのは、視聴者・国民大衆の大半が「地上デジタル放送というのは、決して計画通りに進まず税金をムダ使いし公的資金の投入まで求める、どうしようもないものだ」と思いこんでしまうことである。そうなれば、放送局がいくつか潰れるどころでは済まない最悪の事態を招く。

 そんな事態を避けるために、国、放送局、メーカーは計画を早急に見直すべきである。

 以下の提言は、国、放送局、メーカーはじめ各部門が受け入れやすいように、すでに決まっている二〇〇三年十二月一日の放送開始は動かさず、可能な限り現実的で無理のないものとした。もちろん、NHK、民放などにあって地上デジタル放送の現場を知る専門家の意見を採り入れた提言である。

 以下の提言は、国会や政府や自治体に向けた政策提言でもある。国、政府、自治体の関係部門、とりわけ国の重要政策を立案する部門である国会議員の諸賢には、ぜひ参考にしていただきたいと強く願うものである。

《地上デジタル放送計画への提言》

(1)スケジュールの見直し

 現行の地上デジタル放送計画は、二〇一一年に地上アナログ放送を止め、全面的に地上デジタル放送に移行するというスケジュールを達成できない。

 そこで、二〇〇三年十二月一日に三大広域圏で地上デジタル放送を開始するという予定はそのままとするが、「二〇〇六年十二月に三大広域圏以外の地域で放送開始」という予定は、「二〇〇八年十二月に三大広域圏以外の地域で放送開始」と改めるべきである。

 また、「二〇一一年七月二十四日までに地上アナログ放送停止・地上デジタル放送に全面移行」は「早ければ二〇一五年、遅くとも二〇二〇年までに地上デジタル放送に全面移行」と改め、「二〇〇八年段階の状況を見て、スケジュールを確定する」とすべきである。

(2)真の「国策」としての地上デジタル放送計画推進体制の構築

 現行の地上デジタル放送計画は、総務省、放送局、メーカーの三者が推進しているが、真の「国策」となりえていない。放送局は全放送局、メーカーは全メーカーが参画しているが、総務省以外の省庁が参画していないからだ。

 そこで、計画を各省庁の壁を超えた国家プロジェクトとするため、内閣府に内閣総理大臣を本部長とする「(仮称)地上デジタル放送推進本部」を設置し、総務省、経済産業省、国土交通省などを中心に関係省庁の人員を配置して、計画の実施・推進にあたるべきである。内閣においてはその担当大臣を任命すべきである。

(3)視聴者不在・国民不在からの脱却

 現行の地上デジタル放送計画は、省庁の多くが参画していないばかりでなく、自治体が様子見の段階で、もっとも肝心要の国民がまったく蚊帳の外に置かれている状態である。

 そこで、前項で提案した「(仮称)地上デジタル放送推進本部」に、諮問委員会的な機関として「(仮称)地上デジタル放送戦略会議」を設置し、放送局やメーカー関係者以外に国民・視聴者の立場を代表する者や自治体関係者を入れて、無理なく実現できる修正計画を立案すべきである。

 その際、国民・視聴者の意向・ニーズ、視聴環境や経済的条件などについて大規模な調査をし結果を参考にするなど、「視聴者不在」を改めることがとりわけ重要である。

 また、国のIT戦略における地上デジタル放送の位置づけを明確にし、他の施策との競合を避けて役割分担を図ることも重要である。

(4)その他とくに検討すべき事項

 現行の地上デジタル放送計画には、手つかずのまま放置されている問題がある。修正計画には次の事項を盛り込むべきである。

・デジタル化によってもたらされる「高画質化以外のメリット」の再検討と、それを増大させる方策の検討

・小型テレビの将来像の検討と見通し

・民間放送を送り届けることができない九〇〇万以上の世帯のデジタル化対策

・大都市における何視聴世帯、とくに共同受信世帯(大都市以外の地方CATVも含む――このカッコ内のみサイトアップ時に加筆)のデジタル化対策

現在のスケジュールには
合理的な根拠がない

 少し解説が必要だろう。

 まず、地上デジタル放送のスケジュールであるが、そもそも二〇〇三年末の放送開始は、二〇〇三年十月の免許更新時期(五年に一度)に合わせたという以外、この時期でなければならない合理的な根拠はない。

 現時点で間に合わない二〇〇六年十二月も、「東名阪の三年後くらいが適当」という以外、この時期でなければならない合理的な根拠がない。「二〇〇六年にはアメリカがアナログ放送を終了する予定である。だから、日本では地方でデジタル放送を始める」という解説を聞いたことがあるが、まさかこれは冗談だろう。

 だから、二〇〇八年十月の免許更新時期に合わせて先延ばしにすることは合理的である。

 その時点でようやく、テレビが壊れたらどこの誰でも地上デジタルテレビを買えるという環境が整い、買い替え需要が本格化しうる。

 それでも、現時点で少なくとも一億台、ひょっとして一億二〇〇〇〜三〇〇〇万台あるかもしれないテレビ(当然二〇〇八年には減っている)をデジタル対応に置き換えるのだから、そこからデジタル完全移行まで数年〜十年程度を見込んでおくのが、無理のない妥当な計画だ。二〇〇八年段階で前倒しできそうなら、そうすればよい。

 真の「国策」としての地上デジタル放送計画の推進体制については、省庁の壁を打ち破る必要があるから、内閣府の首相直属機関として実施・推進本部をつくるほかないだろう。

 しかし、この推進本部が、省庁が個別に出してくる政策を受けて、省庁間利害を調整しつつ集約する程度の機能しか果たさないのでは、まったく意味がない。

 そのためにも推進本部の中枢に国民の代表を入れた諮問機関(少なくとも懇談会)を設置して、政策提言の機能を持たせることが必要だ。 そしてこれまでの視聴者不在を改めつつ、省庁横断的な政策提言を行い、それを推進本部が各機関に下ろして強力に実施させる形でなければ、地上デジタル放送の成功はおぼつかないだろう。