メディアとつきあうツール  更新:2003-07-03
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<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

体験! 
CSデジタル多チャンネル
――パーフェクTV!と暮らす

≪リード≫
日本では1996年10月に本放送を開始したパーフェクTVによって、デジタル多チャンネル放送が幕を開けた。
96年秋に入れた受信機は、直後に1度、明けて2月に1度交換した3台目(だから出荷台数と普及台数は全然異なるのだよ!)。
だが、いまも現役として稼働中である。
もちろんスカイ(フジ・ソニー)系のチャンネルは映らないのはイタイが。
以下で、CSデジタル多チャンネルが始まった当時のレポートをご覧いただこう。
受信機価格が数万円以上、月3万円のチャンネルまで存在したとは、いやはや。

(「放送批評」1997年04月号 特集「体験!CSデジタル多チャンネル」)

受信機セットは5万円
工事費込みで7万円程度は必要……イニシャルコスト大

 パーフェクTV!が、わが家にやってきた。1997年1月から有料放送が始まった「CSデジタル多チャンネル」とは一体どんなものであるか。機器を設置する場面からレポートを始めることにしよう。

 受信に必要な機器は2つ。専用チューナー(ミニサイズのVTRほどの大きさ)とパラボラアンテナである。

 必要な設置作業は、南側ベランダにアンテナを固定し、アンテナケーブルを室内に通すこと。日照をさえぎらないよう、アンテナをバルコニー横へはみ出させる固定具を使う。ケーブルは、使っていないエアコン用デクトから引き込むことにする。あとはチューナーとAVアンプ(一般的にはVTRかテレビ)を結び、チューナーと電話線を結べばよい。

 電話は、毎月1度、深夜に10秒ほどむこう――パーフェクTV!(日本デジタル放送サービス)からかかってきて視聴データを取るほか、「仮登録終了のお知らせ」や「新設チャンネルの案内」といったメールが送られてくる。そのために必要なのだ。

 主にCATVを手がけているという電設会社がやってきたのが朝10時ころ。工事は昼すぎには終わった。

 ここまででテレビ10、ラジオ2チャンネルの無料放送を見ることができる。この後、カスタマーセンターに電話して仮登録をすれば、2週間ほとんどのチャンネルが映る。この間に好きなチャンネルを選び、機器についてくる申込書に記入して郵送すれば、加入契約完了というわけだ。

 必要なコストは、機器を除くと加入料2800円、以降毎月の基本料290円と視聴料で、2か月に1回銀行引き落としになる。

 視聴料は、ベーシック系21チャンネルのパックが月2700円、好みの12チャンネルのパックが月1900円。このほかプレミア系のテレビ21チャンネルとラジオ102チャンネルが、1チャンネルあたり月300円〜3万円(←あとからの注 誤植ではありません)。PPV(ペイ・バー・ビュー)系が1番組300円〜1000円。プレミアム系には、月4000円のスペイン語放送が2つで5000円の「ラテンセット」というように、割引セット料金が設定されている。

 チューナーとアンテナは、実勢価格で5万円程度。製造しているのはNEC、ソニー、東芝、日立、松下で、どれを選んでも大差ない。一般に知られていないメーカーの製品も、5社からのOEM供給なので心配いらない。

 これに、アンテナ固定具代と工事費用がかかる。ベランダにつけるか屋根につけるか、壁に穴が開いているかいないかで、費用は異なるが、2万円前後は見込んでおくべきだろう。自分で取り付けることもできそうだが、ケーブルをバルコニーのパイプに這わせるとか、エアコンの穴をパテでふさぐなど、結構面倒くさい。専門家にまかせたほうが無難だろう。

70チャンネルで
テレビの「窓」が広がった……多チャンネル化

 さて、設置以来2か月、時間が許すかぎりなるべくパーフェクTV!を視聴するように心がけた結果レポートである。

 まず、主催者側発表で「24時間」「70チャンネル」(ラジオを数えると「170チャンネル」)の新しいテレビが映るようになったことに対して、とりあえず「これはよいことだ」と断言してしまいたい。コストうんぬんの話はひとまず置き、これが最大の感想だ。

 むろん「多チャンネルの光と影」という議論もある。しかし、水道の栓をひねればいつでも必ず水が出てくる、その栓がいっぱいあることは、少ないよりよいのだ。いやなら栓をひねらなければよいわけで、あるに越したことはない。

 2か月見ていて、これまで10に満たなかったテレビという窓が、ひとつひとつは小さいものの数が増えた分、大きく広がったと感じる。少なくとも、いままであまり見たことのない映像に接することができたと思う。

 たとえば、ある日あるチャンネルでは、インドのスポーツを中継していた。7人くらいが手をつなぎ待ち構える敵陣へ、攻撃チームの1人が進出してきてタッチして逃げ帰ったり、守るほうがつかまえたりする。知っているいちばん近いものは「鬼ごっこ」で、インド国鉄チームとか銀行チームとかが対戦するのだ。アナウンサーは英語でまくし立てるが、解説がないのでルールがよくわからない。わからないまましばらく見入ってしまった。

 またある日には、映画チャンネルで、内気なゲイの若者が海辺でオヤジと出会い奇妙な共同生活の挙げ句に結ばれるというイギリス映画をやっていた。筋だけいうと気色悪い話で、実際中身も気色悪かったが、海岸を映す異常感覚の映像が美しく、明け方まで見てしまった。地上波でもNHK衛星第2でも、決してかかることのない映画だろう。

 このほか、「こんなのもやってんのか」と思ったものを、順不同で羅列してみる。

 無料チャンネルでは、「事情報V=60πDoN/(itif×10^3)」がアメリカのさまざまなカーレースを紹介して愉快。TVゲームのプレイステーションを持っている人には、ゲーム情報の「DigiCube」。

 ベーシック系では、芝居やオペラがかかる「シアター・テレビジョン」。2つあるカラオケチャンネル。深夜OUT OF CONTROLという番組をつけておくとオシャレな「Oki Doki」。鉄腕アトムはじめ遊星少年パピィ、筒井康隆が脚本を書いていたスーパージェッターなど懐かしキャラが並ぶ「キッズステーション」。テンション高いイタリアのお色気番組や、BBCのブラックなギャグ番組を見ることができる「CHANNEL WE」。映画2チャンネルも、好きな人には悪くない。個人的な感想だが、ある日「シネフィル・イマジカ」でルイス・ブニュエルを5本もやっていたのには驚いた。LDで買ったので、後の祭りであった。

 プレミアム系では、スポーツが4チャンネル。格闘技専門やゴルフ専門もあるから、これはお好みで。映画3チャンネルもお好み次第だが、「衛星劇場」だけが邦画を流し、歌舞伎や藤山寛美の舞台もやる。このチャンネルは深夜はアダルト劇場と化し、日活ロマンポルノや画面いっぱいにモザイクのかかる洋モノを放映。こういうものを子どもが見ては困るという場合は、チューナーの暗証番号登録システムを使えばよい。

 このほか、自然、科学、冒険、歴史、文化など5つのジャンルのドキュメンタリーをそろえた「ディスカバリーチャンネル」、英会話の「GLC」、ハングルやスペイン語の外国語放送などがある。試験放送中だが音楽好きの人には100チャンネルのラジオもある。

 コスト問題と、そもそもテレビを見る時間がないという根本問題を抜きにすれば、CSデジタル多チャンネルは、筆者が当初考えていたよりも、よほど魅力的だと思われた。

もっと専門性の徹底を
見せ方に工夫を……専門チャンネル

 と、褒《ほ》めたところで、不満に思ったことをいくつか指摘しておこう。

 第1の不満は、バーフェクTV!のラインナップを概観すると、なるほど多様に思えるが、いざ視聴料を払う段になると、きほど多様性を徹底的に追求しているようには思えなくなることである。

 というのは、上に名前を出した10チャンネルを見るだけでも、毎月7000円以上かかるのだ。実際の視聴者がそんなに払うとは思えず、ベーシック系のパック(安いほうで1900円)に、プレミアム系のスポーツか映画の2本セット、あるいはプレミアム系1本(千数百円〜3000円程度)といった選び方をすると思う。若い人ならベーシック系を省くかもしれない。

 すると問題は、その特別選んだ1チャンネルか2チャンネルに、視聴者がどこまで満足できるかという話になる。選ぶ視聴者にとっては、1つか2つの井戸が、細くても深ければ深いほどよい。だが、その探さがいまひとつ徹底していないように思われる。

 たとえば、筆者は腕はへポだが暇なら専門番組を見てもよいと思う程度の将棋ファン。だが囲碁はまったくわからない。すると、1400円の「囲碁・将棋チャンネル」を不満に思う。半分は見ないからで、「囲碁チャンネル」「将棋チャンネル」という専門チャンネルに徹底してほしいと思うのだ。

 ほかにも、チャンネルのタイトルと違う番組――たとえば映画チャンネルにショッピング番組を流すような例が少なくない。CS全体には多様性が必要だが、個別チャンネルに必要なのは徹底した専門性だ。時間つなぎとしか思えない、チャンネル名と無関係の羊頭狗肉《ようとうくにく》番組は、なくしてもらいたい。

 第2の不満は、あるチャンネルでほしい情報やエンターテインメントをやっていることは確かなのだが、見せ方の工夫が足りないために、情報がうまく手に入らないケースが少なくないことである。

 たとえば、「ウェザーシャワー」は天気予報チャンネルだが、今画面に出ているのが北海道の天気だとして、東京の天気を知りたいときにとてもイライラする。BGM(絶え間なくCDがかかる)としてつけておく人を除き、本当に急いで天気を知りたい人には不親切な情報の出し方である。画面の下にゲージを出し、東京の天気はあと40秒後に始まるとわかるような見せ方は、できないのだろうか。群馬で地震があったとき、このチャンネルは、いち早く(地上波でいちばん早いテレ朝とほぼ同時に)地震情報を出したので感心した。それだけに残念だ。

 交通情報の「ACCESS!」でも同じ感想をもった。使い勝手が悪く、望みの情報を取るまでにアクセクしてしまう。

 カラオケチャンネルなどもそうで、ある番組で10曲やるとして、7番目の曲だけが必要というときに困る。子どもが好きそうな歌を10曲も録画して、最新カラオケ集を1本つくってやろうと思ったが、とてつもなく時間がかかりそうなので諦めた。

 第3に、スタート当初はこんなものなのかもしれないが、内外問わず購入番組が多く、たまに当たる自社制作番組となると見ていられないというケースがある。とくに、スタジオで若い司会者たちがダベッているような番組には、ついていけない。若い連中には、仲間内だけで盛り上がるようなつくりが受けているのだろうか。

 見てられないついでに書いてしまうと、PPV(ペイ・パー・ビュー)チャンネルの映画があまりに魅力的でないので驚く。1番組あたり300円〜1000円(主流は500円前後)の価格だが、最低の300円でも高いと思うような映画が多い。ショーン・コネリーじゃないジェームズ・ボンドを、わざわざ300円払って見る人はいないと思うのだが。

 第4に、輸入番組が多く、字幕つき番組が多いことで一言。注意してみていると、とても誤植が多い。ワープロの打ち間違いと思われる凡ミスが多いのだ。

 いちばん笑ったのは、番組ガイド画面に出てきた「バッハ・ブランデンブルグ狂騒曲」。そういう冗談番組があるのかと番組解説を調べたら、純然たるクラシック番組で、「協奏曲」の誤植であった。

番組選びにひと苦労
リモコンの操作性も問題……使い勝手は今一つ

 第5に、これはハード(チューナーとリモコン)の問題でもあるのだが、見たい番組にたどり着くまでのプロセスに、非常な困難がある。

 なにしろ70チャンネルもあるから、新開ラ・テ欄のような一覧表が存在しない。ぴあで編集している月間ガイド「バーフェクタイムズ!」(300円)でチェックするか、EPGと呼ばれる番組ガイド(リモコンのボタンを押せば画面に出る)で調べるしかない。

 しかし、ガイド誌はチャンネルごとの毎月のタイムテーブルなので、「今月みる映画」などを調べるにはよいが、今から2時間ヒマだから何を見るか、というとき因る。チャンネル数と同じ数のタイムテーブルで、何日の何時と調べていくと、15分やそこらかかる。活字も小さく読みづらい。

 そこで画面に番組ガイドを出すわけだが、これまた操作性がよろしくない。

1画面には7チャンネル分の一覧表が出て、カーソルが上下方向(上にいくほどチャンネル番号が若い)と右方向(右にいくほど時刻が進む)に動くようになっている。ところが、カーソルが画面から出てしまうと、新たな情報を受信するまでにやたら時間がかかるのだ。

 この一覧表でわかるのはタイトルだけなので、内容を知るには「機能ボタン」を押し、解説画面を出す。これまた受信するのに時間がかかり、しばらく待っていると「番組説明を受信できませんでした」などとトボけた表示が出ることもある。

解説を読んだら、さほどおもしろくなさそうなので、ガイド画面に戻ろうとすると、これもすぐには表示されず、またゼロから受信し直す。とにかく時間がかかる。文字放送の出たてのころに感じた、あのイライラと同じだ。

 番組ガイドの内容をある程度本体に記憶させればよいのだが、コストを抑えるためそんな機能はカットしてあるのだろう。

 リモコンに「キャンセルボタン」がないのも気になった。キャンセルが利かないため、一度ボタンを間違って押すと、関係ない画面(たとえば番組予約の画面)に飛び、その画面でいちばん上の行から下の行までカーソルを移動しなくては抜け出せないということが起こる。そのためにリモコンのボタンを何度も押さなければならない。

 これも省コストのための省略かと思うが、こんな複雑なリモコンで、キャンセルボタンを省いてはいけない。これは、むしろ設計ミスというべきだろう。

 もうひとつ、ハードの話をすると、うちに置かれた受信機(2台目)は、番組ガイドで1月1日の表示が「1/1」となるべきところ「13/1」と出る。2月1日はどうなるかと見ていたら「14/1」と出た。どうやら機械のバグらしい。

 このバグ以外にも、画面に時折モザイクがかかってしまう不良チューナーがあり、メーカーが交換に応じているようだ。どんな製品でも、品質が安定するまでにはしばらくかかる。心あたりのある視聴者は、販売店に申し出たほうがいいだろう。

多チャンネルと
どう付き合っていくか……視聴者側の課題

 日本最初のCSデジタル多チャンネル放送は、さまぎまな問題を抱えながらも、まずまずのスタートを切ったようである。1997年3月末時点で、加入者30万に達するかどうかは微妙なところだが、やがて50万、100万と増えていくことは確かだろう。

 そこで、つくづく思ったのは、テレビのつくり手、送り手あるいはハードメーカーもまだ試行錯誤の段階にあって走りながら考えているが、私たち視聴者の側も、こうした多チャンネルとどう付き合うか、いまだ準備ができていないということである。

 たとえば、「キッズステーション」という1日中子どもむけ番組を流しているチャンネルがあるが、まだ子どもには見せていないし、わが家でどう見るか決まっていない。

 あるいは見せないほうが正解かもしれない、と思ったりする。これは考えどころである。

 料金表とにらめっこしながら、ひとつひとつのチャンネルを見るか見ないか検討することも、案外悪くない。1500円なら見るが3000円だったら見ないというように、映像の価値を価格で見積もることは、実はとても大切なことだと思われる。

 そんなことを考えさせるのに、イニシャルコストが7万円前後。これが安いのか高いのか。これも考えどころではあるのだが。