メディアとつきあうツール  更新:2003-10-12
すべてを疑え!! MAMO's Site(テレビ放送や地上デジタル・BSデジタル・CSデジタルなど)/サイトのタイトル
<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

【地デジQ&A】
ここがわからん?? 教えて!!
地上デジタル放送

≪リード≫
2003年12月1日、関東・中京・近畿の三大広域圏で地上デジタル放送が始まる。その7年7か月余り後には、地上アナログ放送が打ち切られる予定だ。しかし、現行の計画はすでに破綻している。2011年にアナログ放送を止めることはできない。その問題はひとまずおくとしても、地上デジタル放送にはわからない点が少なくない。Q&A方式でわかりやすく解説しよう。
(「GALAC」2003年10月号 総力特集「地上デジタル放送の落としどころ」)

≪付記≫
地上デジタル放送の現行計画(2003年夏段階での計画・予定スケジュール)が、その予定通り実現できないこと――2006年12月までに全国すべての地域でデジタル放送を開始できず、2011年7月までに地上アナログ放送を停止できないことは、すでに絶対確実な情勢である。国(総務省)が以下の提言を受け入れなくても、スケジュールは自動的にダラダラと延びる(ただしこれまでの例では役人は責任を取らないだろう)から、国民大衆・視聴者のみなさんはあまり心配は要《い》らない

なお、この論考の掲載誌は、衆参両院全総務委員(国会議員)、最近の郵政大臣経験者、総務省、総務省記者クラブ、ほとんどの放送局、全テレビメーカー社長、その他主だった地上デジタル放送関連団体に献本済みであることを付言しておく。これは3年後、5年後、10年後に「知らなかった」と言わせないためである。

※文中太字は地上デジタル放送の基礎用語。余裕があればミニ用語事典でもつくろうかと思いますが、時間が……。

 そもそも地上デジタル放送って、何でやるの?

 推進者の思惑別に一言ずついえば、総務省(旧郵政省)は「電波の効率利用」を図りたいから、やる。

 デジタル化で地上テレビ放送が使っている電波の帯域を整理すれば、電波に空きが出る。ここを通信事業者に使わせれば、新しいビジネスやサービスが生まれる。同時にテレビ電波も効率利用・高度利用ができ、高画質多チャンネル移動体受信など新しいサービスができる。すると、テレビ・通信事業者も、視聴者・通信ユーザーも、テレビ・通信メーカーも得。総務省も仕事や予算や所管先や天下り先が増えるから得。一石何鳥にもなる。

 放送局ではNHKが、世界に先駆けて開発したのに鳴かず飛ばずだったハイビジョンを今度こそ絶対に普及させたいから、やる。

 民放は高画質・多チャンネル・移動体受信のどれも広告収入を増やす見込みが薄い(基本的に分散するだけだ)から積極的にやる理由はないが、ほかのみんながやるといい、資金も国が出す(アナアナ変換)という話になったから、やる。

 メーカーは、新しい高価な機器が売れるから、やる。

 具体的に、テレビの中身はどう変わるの?

 第一に高画質・横長(16対9)になるが、NHKを除き、視聴率が分散するから基本的に多チャンネル化はしない。ただし民放では、同一の野球中継を巨人・阪神ファンむけに二本立てで流すというような複数チャンネル化は実現するだろう。

 第二に電子番組表(EPG)やデータ放送など、デジタルならではのオマケが付く。ただし、これらは視聴者の利便性を向上させるものの、あくまでオマケ、+アルファ。ドラマ本編を見ずにドラマのあらすじや俳優紹介を見たり、野球中継を見ずに選手の成績を見る視聴者はいない。

 しかも全局が高画質化しオマケをつけるから、ある局のある番組を見たいと思わせる「何か」は、現在のアナログテレビにおけるそれと同じだ。つまりテレビの中身は、見た目が変わり、オマケも付くものの、本質的にはアナログデジタルで変わりはしない。

 少なくとも八年間サイマル放送が行われ、アナログ4対3とデジタル16対9のテレビが混在するのでしょう? 縦横比は、どういう映像が流れるの?

 映像素材はハイビジョンカメラで撮れば16対9、古いカメラで撮ったりイラク戦争の現地映像のように海外メディアが撮れば4対3。NHKの大河ドラマはBSデジタル用と地上アナログ放送用を別々(16対9と4対3)のカメラで撮って、それぞれを流している。しかし、民放にはそんな芸当はできないから、一つのものを二つの放送で流すことになる。

 (1)素材が16対9の場合は、デジタル放送ではそのまま流し、アナログ放送では(a)上下に黒味を出す(レターボックス)か(b)左右を切る(サイドカット)かする。

 前者(レターボックス)は小型テレビで見ると画像がかなり小さくなるので、視聴者の不評を買うかもしれない。

 後者(サイドカット)はもともとの素材段階で左右を切っても大丈夫なようにしておく必要がある。たとえばドラマで主人公が海辺に一人ポツンと立っているシーンは左右を切ってもあまり問題ないが、食卓で二人が向かい合うシーンは左右を切ると二つの鼻だけが映ってしまい問題だ。うまくサイドカットできるかどうかは、カメラマンの技量や撮す対象(ドラマかスポーツかニュースか、スタジオかロケか、アップかワイドか)によって大きく異なる。

 (2)素材が4対3の場合は、アナログ放送ではそのまま流し、デジタル放送では左右に黒味を出す(サイドパネル)。理論的には上下を切ることも考えられるが、現実的ではない。

 ところで(2)は、どのテレビで見ても映像は4対3だから、これまでと何事も変わらない。すると横長テレビを買った人が怒り出すだろうから、基本的には(1)を増やしていくほかない。その際(a)と(b)どちらでいくかは、試行錯誤を繰り返しつつ決めていくしかなさそうだ。なお、CM素材については16対9のものはレターボックスで流す(サイドカットしない)と決まっている。

図 地上デジタル放送の収録素材とテレビの関係「GALAC」2003年10月号から。イラストはブブリン

 高画質テレビと標準画質テレビも混在するでしょう。画質という点では、どういう映像が流れるの?

 基本的に、16対9素材は高画質、4対3素材は標準画質と考えていい。だから、前項(1)は、デジタル放送では高画質のまま、アナログ放送では高画質を標準方式にして(ダウンコンバート。略してダウンコン)流すことになる。ハイビジョン収録の番組をアナログ放送で見ると、ハイビジョンではない番組をアナログ放送で見るよりは、ややきれいである。

 前項(2)は、もともとハイビジョン収録ではない標準画質番組を高画質方式にして(アップコンバート。略してアップコン)、デジタル放送で流すだけであるから、それほどきれいではない。もちろんハイビジョン収録ではない番組を流すアナログ放送(現在の多くの放送)よりはきれいである。

 同じ時間帯の一チャンネルを分割する場合は、16対9だが標準画質という放送が流れることもある。

 なお、最初から16対9の高画質で撮影する映像は、ドラマ、スポーツ(カメラを固定するもの)、映画、芝居、音楽、アート、アニメ、ドキュメンタリー、期首期末特番などのジャンルが適しているといわれる。ハイビジョン対応スタジオで収録するニュース、朝や夕方の情報ワイドなどもスタジオ部分は16対9でいいが、これには4対3の中継や海外映像が多用されるから、その見せ方が問題だろう。

 逆に16対9の高画質にあまり適さないのは、地方局の中継を多用する報道情報系番組、スポーツのうちカメラが動くたとえばマラソン、バラエティ番組などだ。

 うちは共同受信アンテナで見ている。どうしたらいい?

 大都市では世帯数の半数近くが共同受信アンテナによる視聴ではないかという見方もあり、深刻な難問だ。

 新築マンションの各戸が屋上で共同受信という場合は、一部の機器を更新するだけで比較的安価に済む可能性があるが、どのタイミングで更新するかという住民の意思統一が問題。古いマンションではケーブルごと更新しなくてはならないかもしれず、その場合は各戸一〇万円以上というような負担が必要だろう。この場合は意思統一がさらに難しくなる。

 地域一帯の共同受信では、管理組合があって積み立てなどしているか、ビル陰難視聴で原因者負担によってケーブル化されたのかで、話が全然違ってくる。

 前者の場合、いくつかの地域・組合の試算を見ると一戸あたり一〇万円〜二〇万円というような負担が必要になるところが多いようだ(加入戸数、施設の寿命、地域がどこにあるか、広さなど条件によって異なる)。デジタル化更新は不可能として、地域のCATV(存在すればの話だが)への乗り換えや個別受信を勧め、将来的には現行組合が解散する予定の地域もある。

 後者は、現在のところ手の打ちようがない。難視聴の原因となるビルが気前よくデジタル用のケーブルを引いてくれればよいわけだが。

 さらに問題なのは、関東地区のある共同受信設備で各戸二〇万円を払ってデジタル化更新をした後に新タワーが建ち、五〇〇〇円の室内アンテナで個別受信できたという場合だ。もちろん誰も補償してくれないから、慌てて更新しないほうがよいとしかいえない。