メディアとつきあうツール  更新:2009-03-14
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<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

地デジ(地上デジタル放送)「完全移行」への道
公開シンポジウム(2008年10月)

≪シンポジウムちらしより≫
テレビのアナログ放送終了・地上デジタル放送「完全移行」の予定日である2011年7月24日まで、あと1000日余りと迫りました。
生活保護世帯へのデジタルチューナー配布や、デジタル波が届かない地域に向けた「衛星セーフティネット」などの対策が打ち出されていますが、「その日」に向けて準備は万全でしょうか。
また視聴者の理解は十分でしょうか。
アナログ終了に向けた取り組みの検証と展望を、さまざまな立場から議論します。

≪シンポジウムの概要≫
アナログ放送「終了」まであと1000日
公開シンポジウム「地デジ『完全移行』への道」

日時:2008年10月25日(土)13:00〜17:00
会場:日本青年館 中ホール 会場案内図)
入場無料
主催:民放労連・メディア総合研究所
プログラム第1部:講演・冒頭発言
(1)上瀬千春(フジテレビ技術開発局役員待遇技師長)
(2)坂本 衛(ジャーナリスト)
プログラム第2部:パネルディスカッション
パネリストは上記2名に加えて、吉井 勇(月刊ニューメディア編集長)、荒川顕一(ジャーナリスト)、赤塚オホロ(民放労連中央執行委員長)、岩田 淳(テレビ朝日編成局)、コーディネーター/須藤春夫(メディア総研所長・法政大学教授)
※シンポジウムの詳細は『放送レポート』2009年1月号に掲載されています。

≪このページの目次≫


地デジ「完全移行」への道チラシ】

地デジ「完全移行」への道
第一部 問題提起(坂本衛による)

BSデジタル普及遅れ、地上デジタル破綻、地上アナログ停止できず
10の理由を三つ書いた

 まず最初に、私の書いたものや資料についてご説明しておきたい。

 『放送レポート』214号で最近、「アナログ放送を停止できない10の理由」を書きました。それから『GALAC』で、BSデジタル放送が始まるときに「1000日1000万台」と言っていましたが、それが無理だという「理由10」も書きました。同じく『GALAC』で2003年に、地上デジタル放送が始まる前から破綻している理由10というのも書きました。

 10の理由を三つ書いたから30の理由です。いずれも私のホームページで読むことができます。グーグルでもヤフーでも坂本衛と入れていただければ出てきますので、ぜひ探してみてください。

 30の理由には重なっているものがあります。また、放送局やテレビを作るメーカーが頑張ったために解消されたものもあります。ですから今日は、まだ解消されていない点について、お話したいと思います。

放送局の対策は、思いのほかうまくいった
しかし、2011年7月に地上デジタル完全移行はできない

 まず現状認識ですが、思いのほか放送局の対策はうまくいった。ある民放幹部が「放送局側は120%うまくいっている」と言っていましたが、私も同感で、150%ぐらいうまくいったのではないでしょうか。

 私は地上デジタルが始まる前に「今のやり方では2割ぐらいの世帯に届かない」と言っていましたが、結果としては9割以上に届くことになってきました。これは放送局に余裕があったということでもあります。ホリエモンに捨て金400億円をくれてやっても、給料は一銭も下がらないというぐらいカネがあった(笑い)。

 ただし、結論から言うと、私は2011年7月24日に地上デジタル放送の完全移行はできない、アナログ放送を停止することができないと思っています。日ごと、強くそう思うようになってきたという感じでしょうか。

 こう言うと、私がデジタル放送に反対していると思う人が多いようです。「2ちゃんねる」には「アナログマンセーおやじ」とか書いてあった(笑い)。しかし、私はデジタル化に反対だと言ったことは、一度もない。2003年の原稿にも「反対はしない」とはっきり書いています。私の家も実家にも地上デジタル放送が入っています。できれば推進したい。だけど(現行計画の期限通りには)無理だろう、と思っています。

テレビの原理とは何か?
テレビ・システムとは何か?

 ここで私は、テレビの原理についてお話ししたい。百科事典にテレビの原理としてよくブラウン管の原理が載っていますが、あれはテレビ・システムのごく一部。テレビの原理とは、こういうことだと思います。

 まず現実というものがあります。イラクの戦場でも月の表面でもいいです。その現実のうち、目で見える光の情報と聞こえる音の情報をテレビカメラとマイクでとらえる。

 同時にそれらの情報を電気信号に変換して、放送局に持って帰るなり中継で送るなりする。それを放送局から電波に乗せて出す。ケーブルで出す場合もある。

 それを受けるのはアンテナかケーブルで、家庭にあるテレビ受像機に引き込む。この電気信号をテレビ受像機が光信号と音信号に再変換して、光信号はモニターから出す。音信号はスピーカーから出す。だから、スピーカーとマイクの構造はまったく同じで、方向がひっくり返っているだけです。

 こうして、もともとある現実にいろいろと操作して現実に近いもの、擬似現実を出す。私は、最初の現実のところから、テレビに疑似現実が出るまでが、テレビというシステムだと思います。

テレビはトータルなシステム
その後半は、局ではなく視聴者が担っている

 言いたいことは第一に、テレビとはトータルなシステムだということです。

 もっと重要な第二のポイントは、このシステムの真ん中に区切り線を引くと、線から手前は放送局がやっているのに、線より後は一般の家庭や企業とか、見る人が担っていることです。

 だから「テレビは誰のものか」と言えば、トータルのテレビ・システムは、テレビ局だけのものではありません。後半は明らかに皆さんの家にあるテレビのことで、それをお金を払って付けたのは、そこに住んでいる人です。つまりテレビシステムの後ろ半分は国民、視聴者が、自分で金を出して担っているのです。

 システムの前半分、テレビ局側はかなりうまくいった。問題は後ろです。ほとんど間に合わないレベルだと思います。

 デジタル化をテレビのカラー化と比較する人もいます。しかし、白黒からカラーになるときテレビシステムの頭のところを変えましたが、後ろは変えなくても映っていた。カラー放送を受けて白黒テレビで流していたわけで、お金がたまった人からカラーテレビを買えばよかった。非常にスムーズに移行できました。

 今度は違います。デジタル化は送り出しから家庭で受けるまでの「伝送路」のデジタル化です。そこが変われば受ける機械も全部変わる。トータルでシステムを変えなければなりません。つまり1台1台の端末を全部更新しなければ無理だということです。それがスタート時点で1億2000〜3000万台あったことは間違いないでしょう。

受信機の普及が間に合わない
実際の普及は2000万世帯に届いていない(2008年秋段階)

 今、売れているデジタルテレビは17インチで4万円代ギリギリじゃないでしょうか。価格ドットコムで探して、いちばん安い17インチが4〜5万円だと思います。問題はアンテナやCATVのセットトップボックスが必要なことで、これらに3万円くらいかかるという話になるので、何やかんやで最低10万円かかる。

 5000万世帯で10万円だったら、総額5兆円かかりますね。今、地上デジタルテレビの売れ筋はほとんど20〜30万円ですが、1世帯が30万円かけるのであれば、全部で15兆円かかります。さっき言ったテレビシステム前半の民放のコストは1兆2000億〜3000億円で、NHKも同じくらいでしょう。しかし端末は数が多いので、最低5兆、ひょっとしたら15兆円もかかります。それを2011年までにできるかというと、どうもできそうもないと思います。

 JEITAが発表する地上デジタル放送受信機の出荷台数は、日本メーカーや韓国メーカーが日本の国内市場に出した分で約4000万台だといいます。内訳はハイビジョンテレビ、DVDレコーダー、HDDレコーダー、セットトップボックスなど全部を含めています。パソコンは除いてあるはずです。

 もちろん2台3台と買う家があります。それから企業や役所、学校などが買います。ほかに流通在庫、店頭展示品もあります。あと不良品があります。私の実家で42インチのデジタルテレビを入れたら、BSだけよく映らなかった。アンテナのせいのような気もしましたが、電話したらすぐ交換になりました。40万円ぐらいの機械です。こうした不良品まで全部ひっくるめて4000万台。

 実際の普及は一家に2台あっても1と数えますから、たぶんまだ2000万世帯に届いていないと思います。

なぜ統計やアンケート調査では違う結果が出るか?
それはいい加減なアンケートだから

 なぜ統計やアンケート調査では違う結果が出るのかと思われるでしょうが、それはいい加減なアンケートだからです。

 民放連のアンケートは単身世帯を除いています。5000万世帯のうち1000万は単身世帯で、そのうちの400万が一人暮らしのお年寄り、独居老人です。この人たちにどのくらい普及しているかは、いっさい数えていません。これでは話にならないと思います。

 総務省の緊急移行調査は、いろいろなアンケートを同時にやる民間の相乗り調査に総務省が申し込んだもので、調査対象は4000世帯、有効回答は1265、回収率は3割。その3割の中で「見ている」ではなく「見られる状態にある」と答えたのが30%強。これは対象の4000世帯の11%強です。

 この調査は、調査地域に偏りがあり、過疎地や離島のデータは含みません。外出していたとか会えないという理由で回収率が低くなります。田舎を対象とせず回収率が30%の内閣支持率のアンケート調査があったとして、政治部記者はそんな調査結果は絶対に記事にしないと思います。

 テレビの問題くらいです。こんないい加減な数字が流通しているのは。

 民放連の広瀬道貞会長は「そろそろ普及率は5割になる」と言ったと思いますが、元のデータが非常に偏っている。民放連の調査では年収199万円以下の人は5%です。日本では今200万円以下は約20%と言われています。調査では持家比率は74%という。この会場で「持家の人は?」と聞いて、7割も手を挙げるでしょうか。

 ようするに民放連は金持ちに調査をして、それで「もうすぐ5割になる」と言っているのです。皆さんが親戚や友人など10人ぐらいに「今、地上デジタル見ている?」と聞いてみれば、見ている人は3割もいないんじゃないですか。それが正しい数字だと思います。

2011年段階で地上デジタル対応テレビが6000万台
アナログ停止はできず、放送局が「延期してくれ」と言い出すだろう

 JEITAの予測は、2011年段階で地上デジタル対応テレビが6000万台ぐらいになるだろうというものです。始まる前にあったアナログのテレビが1億2000万〜3000万台だから、半分ぐらいが置き換わるという話です。

 今、2000万世帯ぐらいだとしたら、あと3年で、たとえば800万台×3で2500万台くらいは出る。上乗せして3000万台が出たとして、6000万台ということです。

 すると、10年前に家にあったテレビの半分は映らなくなるということです。映らなくなると、明らかに視聴時間は減るでしょう。

 受信台数も時間も減れば、民放の広告収入は激減すると思います。NHKの受信料収入も激減します。芸能プロデューサーが使い込んだとか会長が尊大で反省していないと言って受信料支払いが減ってしまいましたが、今度はまったく映らなくなるのですから、さらに受信料は減ると思います。

 つまり、1億2000万〜3000万台あったであろうテレビが6000万台ぐらいまでデジタル化されハイビジョンになった段階でアナログ放送を切ると、NHKも民放もたいへんだということです。

 あまりにもたいへんなので、私はテレビ局が「延期してくれ」と言い出すと思います。全職員の年収もガタッと減っていい、ざっと2兆円の広告収入費が1兆5000億円になってもいいという覚悟があればやってもいいですが、テレビ局にそんな勇気はないと思っています。それが私の現状認識です。

テレビの原理上、視聴者を無視できない
地上アナログ放送終了時期を延ばせばいい

 ようするに、テレビの原理から考えて、送り出し側の理由だけで簡単にテレビを止められるとは思えないというのが一つ。もう一つは、ちゃんとしたデータで話をしましょうよということです。

 1億2000〜3000万台あったテレビが6000万台になることと、2011年段階にデジタル受信機が1億台になることは全然別の話。

 2011年にデジタル受信機が1億台になるのだったら、10年前のアナログ受信機の台数と比べなければおかしい。それは2億台以上ですから、ちょうど半分です。何でその段階が打ち切りの時期なのか、私は理解できません。

 「アナログを切るぞ」と言って脅せば何とかなるという時期は、私はもうちょっと先の話だと思います。

 もちろんギリギリ最後の場面で──85%ぐらいまで普及した、どこかで切らなければならないというところでブチッと切るのは構わないと思うし、そのときに補助金が必要ならば出せばいい。1年延ばすより、お金をドーンと出して切ったほうが得ならば切ればいい。でも今は、そんな段階のまだ手前だと思います。

 テレビは1年に800万台か1000万台ぐらいしか売れない。これは、持っているテレビを10年ぐらい使って、壊れたら買っているというだけのことです。

 絶対に2011年に切らなければいけないという合理的な理由があって、2011年7月24日と決めたわけではない。たまたま法律でアナログ放送はあと10年ということになっただけの話ですから、終了時期を延ばせばいい。

緩やかな落ち着きどころを探すべき
アナログ停止を強行し、見放されて困るのはテレビだ

 私は郵政省の審議官をやった月尾嘉男さんと一緒に本を作ったことがありますが、月尾さんも私のホームページを読んで、「どうも間に合わないだろう」「延ばせばいいんだ、そんなものは」と言っていました。

 2008年、元総務大臣の竹中平蔵さんの本も一緒に作ったので、竹中さんにも私が「ちょっと無理じゃないですか」と言ったら「だめなら延ばせばいいでしょう」と言っていました。そんなものです。延ばせばいいと思います。

 放送局も無理をしたから国民にもある程度負担してもらうというのも一つの考え方でしょうが、私は、もっと緩《ゆる》やかな落ち着きどころを探したほうがいいような気がします。

 というのは、本当にギリギリになって「いいや、もう見ないから」という人や「インターネットで情報を取るから」という人が多くなったとき、困るのはテレビだと思うからです。国民はあまり困りません。

 統計などから漏れている一人暮らしお年寄りは、テレビにかなり時間を割いている。自分の友だちはテレビだけだと思っていたりするのはそういう人たちです。

 その数を数えずに「はい、もう何割きましたから」というのは、ちょっとひどい政策だろうと思っています。

地デジ「完全移行」への道
第二部 パネルディスカッション

地デジ「完全移行」への道
パネルディスカッションでの坂本発言

はじめにご注意

 以下、シンポジウム主催者・パネリストに掲載許可を取っておりませんので、坂本の発言部分と、全体の進行・発言の脈絡が最低限わかる司会の発言だけを掲載します。ただし後半一箇所、民放労連委員長・赤塚オホロさんの発言は、現状認識に欠かせませんので、あえて掲載します。(坂本)

須藤 お二人の問題提起を念頭におきながら、それぞれ一〇分程度ずつご意見をうかがいたいと思います。

岩田 (略)

吉井 (略)

荒川 (略)

赤塚 (略)

須藤 ありがとうございます。総務省の回答を読んでも型通りの返事しか返っていないということで、それなりの責任ある方に出てきていただいて直に考えを聞きたかったのですが、仕方がないので、その見解を元にしながら検討したいと思います。

 坂本さんは、視聴環境を考えたとき、とても定められた期限にデジタル化へ移行できる見通しが立たないということを、根拠となるデータのあいまいさ等々を指摘しながら述べられましたが、しかし国も放送事業者も依然として移行を前提にする姿勢です。雑誌『放送研究と調査』の中で総務省の吉田地上放送課長が座談会で「オールジャパンでこのことは進めていけば必ず達成できるだろう」と言っていました。掛け声はオールジャパンであったとしても、事実上国民の側がオールジャパンになっていく必然性、必要性はないと思います。この姿勢は坂本さんの目から見て、どう評価されますか。

国民に何の相談もなく始めて、
いまごろ何が「オールジャパン」?
郵政省・総務省は「オールジャパン」に値する何をした?

坂本 先ほどNHKに一年間のコール数が六六四万あるという話がありましたが、その中で、「テレビの走査線五二五本しかないけど、少ないんじゃないか」とか、「画面をもっと横長にしてもらいたい」という電話はたぶん一本もないでしょう。国民の大多数が、そういうところには不満をもっていないのです。もちろん画面がきれいなのに越したことはないし、ゴーストが出ないのにも越したことはない。音もCDなみにいいほうがいい。お金のある人はそれをやればいいですが、普通見ているバラエティ番組とか、朝出掛けに「今、何時だろう」と思ってつけているニュースとかが、ハイビジョンで横長の大画面である必然性はない。荒川さんも言われた「何のためだかよく分からない」というのは、そのことだと思います。

 デジタルにしようと決めたときは、私は断じてオールジャパンではなかったと思います。「審議会のメンバーで国民の側というのは誰ですか」と郵政省に聞いたことがあって、研究者から市長になった人と主婦連の人くらいでした。だから、デジタル化はほとんどの一般国民には何も聞かないで始めたことです。それで私は「これではやがてしっぺ返しをくいます」と書いたのですが、今でも同じ考えです。あと三年というときになって、「これはオールジャパンなんだ」と総務省が言っているというのは、何言っているんだという感じがします。

 総務省は最後まで絶対できると言い張るでしょう。日本の官僚は絶対自分がまちがっているとは言わないで、二、三年経ったら担当者が代わって「情勢が変わりました」と言って、政策を変えていくのが今までのやり方です。「アナログハイビジョンはもう失敗ではないか」と私が取材で聞いたときに、当時の郵政省の技術官僚が「あれは前の人がやったことだから」と言いました。「実名を出してそう書いていいか」と言ったら、「いや、やめてくれ」とあわてて言いました(笑い)。彼らは連続性もなければ、やったことに責任をもつようなシステムでもない。社保庁を見たって自衛隊を見たって分かるでしょう。私が何人か会った政府高官も「あんなもの延ばせばいいんじゃないの」と言っているので、ダメならば延びるだろうということです。

 2011年と決めたとき、共産党しか反対しなかった。たぶんそのときには、電波法改正にこういう意味があるとは分からなくて、みんな賛成したんでしょう。国会が全会一致で決議した首都機能移転というものがあって、期限はそろそろのはずですが、移転先もまだ決まっていないでしょう。みんなで決めてもダメなものはダメで、私は延ばしても何の不思議もないと思っています。

 今頃オールジャパンだと言い出したのは無責任な話で、あなたたちはオールジャパンに値するようなことをやったのかと責任を追及すべきだと思います。

テレビは重要なライフライン
テレビがないために災害の死者が出たら
放送局や総務省は責任を取れるのか?

須藤 今年3月にNHK放送文化研究所が地上デジタルについて一連の調査をする中で、アナログ放送の実際の終了時期について地方自治体と民放局に対してアンケート調査をしています。返ってきた回答を見ますと、2011年7月24日を実際の終了時期と考えている、というのが57%でした。四割近くの民放経営者は、実際の終了時期は7月24日になりそうにないと考えているのです。地方自治体はもっと少なくて、たった14%しか7月24日に終了するだろうと思っていないということで、視聴者と実際に接している部門ほど懐疑的であるというのが、この数字から見ることができると思います。

 上瀬さんは、仮に延ばしても先に延びていくだけで一向に転換しそうにないということでした。今のアンケート結果からみて、どうも民放全体として必ずしも足並み揃えて認識しているわけでもないようですが、どのように評価されますか。

上瀬 (略)

須藤 そのテレビをやめてしまうというのは、いろいろな背景があると思います。対応が悪くて頭にきて、テレビを買い替えないという確信をもってやめる人もいるでしょうが、高齢者の場合、どう対応していいかわからない、相談センターを設けて対応すると言っていますが、実際どこまで対応できるか分かりません。そういう人にこそ、日常の娯楽であるし、日々の生活の基礎的な情報源として非常に大事なのは日本のテレビの有り様です。テレビってそんなものだったのかということで切るというのは必ずしも妥当だとは思えない。むしろ、それほど大きな変動があるのが地上デジタル移行の問題ですから、延期してでもそういう人たちのカバーがきちっとできることを確認してから移行することこそが、日本のテレビ放送のもっている公共性をまっとうするやり方ではないかという気もします。

吉井 (略)

坂本 放送は老人の慰めというだけではなくて、ライフラインになっている。衛星セーフネットという話も出ていますが、衛星波は台風や豪雨のときに、雨粒と電波の波長がほとんど同じになるので、どうしても映らなくなる。地震で一センチ、パラボラアンテナがずれたら映らない可能性が高い。地上放送はそんなことはないです。上瀬さんの考え方も分かりますが、慎重な姿勢で手当てをしてから切らないと、テレビがないために災害から逃げ遅れた死者が出たら、テレビ局の皆さんや総務省は責任取れますか、と思います。

須藤 ライフラインのセーフティネットとして衛星を使うという話が情報通信審議会の第五次答申の中で突如として出てきたのですが、これは停波期限が決められていて、あと一〇〇〇日近くになっても受信環境が整わないということから、やむなく緊急避難的に出された措置だと思います。しかし、このセーフティネット方式というのは非常に問題があると思います。ひとつは坂本さんがおっしゃったライフラインとしての問題等もあると思いますし、もうひとつは、衛星で全国放送を流してしまうわけで、辺地に住む視聴者は本来、地域的な情報がほしいはずです。地域的な情報が来ないまま全国放送は来るということでは、何のためのセーフティネットかということにもなりかねません。

 吉井さんは停波問題についてどうお考えなのか、一言お願いします。

吉井 (略)

上瀬 (略)

坂本 私は新宿の神楽坂に住んでいまして、燃えたホテルニュージャパンの後に建った立派なビルが東京タワーと間をふさいでいるので、地域一帯全部ケーブル化されています。私の家は集合住宅の四階ですが、見渡すとアンテナがボコボコ引っ繰り返ってそのままになっている。つまりケーブルになって、もうアンテナを使わなくなったので、もともと付いていたアンテナが何本も朽ち果てているのです。あと三年で、引っ繰り返っているアンテナが全部撤去されて地上デジタルのアンテナが付くか、または今、無料で入っているケーブルテレビに月三〇〇〇円払うか。それを、見渡す限りの家の人たちがあと三年でやるだろうか、無理だろうなと思います。皇居まで歩いていける場所の話ですよ。

荒川 (略)

上瀬 (略)

荒川 (略)

須藤 (略)

上瀬 (略)

須藤 (略)

上瀬 (略)

須藤 (略)

岩田 (略)

藤 会場から質問が来ています。デジタル放送そのものの利便性を放送としての価値としてどう見るか、とくにテレビ局に所属している人から、デジタル放送の利便性をどう評価しているのか聞きたいという質問です。同時に私からも、たしかに技術的にはいろいろな可能性があると思いますが、実際にそれを番組化していくとなると、それなりの費用がかかると思います。そういうことも含めて、デジタル放送の利便性がどのように放送局側から見られているのか、うかがいたいと思います。

上瀬 (略)

岩田 (略)

赤塚 (略)

須藤 会場の視覚障害者の方から質問が来ています。地デジの初期設定は、買った当初は電器店にやってもらうけれども停電等々で消えてしまうのかどうか、もしそうだとすると、どのような手立てで回復させるのか、教えてほしいということです。

吉井 (略)

上瀬 (略)

質問者 (略)

吉井 (略)

会場 (略)

須藤 (略)

岩田 (略)

吉井 (略)

須藤 (略)

荒川 (略)

最大の普及策は、ちゃんとした番組を作ること
このテレビがうちに1台なければ困る
そう思わせるものを必死に作れ

須藤 坂本さんは「デジタル化自体は反対ではない」と言っていましたから、デジタル化そのものに対する坂本さんなりの可能性を見ていると思いますが、どう評価されますか。

坂本 デジタル化でいろいろなことができますが、だからこそ大事なのは、今までのテレビと変わらないことを、ちゃんとデジタルでやるということです。ちゃんとした番組、おもしろい番組、役に立つ番組を作ることです。宮藤官九郎のドラマはデジタルでもアナログでもおもしろいんです。『サンデープロジェクト』で、田原総一朗のしわがいっぱい見えてもまったく意味がない。問題は、彼がどのぐらい政治家に突っ込んで質問しているか、でしょう。

 双方向の話が出ましたが、ハイビジョンを入れてちゃんと電話線につないでいる人というのは、ほとんど聞いたことがない。テレビドラマを作っている人はこの一時間、とにかくテレビだけを向いていてくれと思って作るんです。それがCMで「詳しくはネットで」と言うのは、テレビを見ないでくださいというのを番組の途中に挟むことです。何であんなことをやるのか理解しがたい。そんなことをやっているようではダメなんです。

 インターネットでできないことをやるのがテレビです。テレビの人は「ネットにやられる」と恐れていますが、インターネットの検索ワードのリストを作っているサイトを見てみれば、トップ一から二〇〇まで、ほとんどテレビの話題ばかりです。テレビで騒がれていることをグーグルやヤフーで調べる人がほとんどなんです。私は、テレビは携帯電話でやれることをやる必要はないし、インターネットでやれることも、やらないほうがいいと思います。テレビにとっていちばん大事なものを追求していかないと、テレビ離れはまさに起こるのです。

 地上デジタル放送の最大の普及策は、ちゃんとしたテレビ番組を作ることだ、ちゃんとしたテレビ放送を流すことだと、私は確信しています。このテレビがうちに一台なければ困る、これが切れたら困ると思わせるようなものを必死に作る。放送局の方はそれをまじめに考えたほうがいいと思います。何でこんなにクイズ番組ばかりやっているのか。金がかからないから、地上デジタル放送で投資がかさむからだったら本末転倒です。テレビが一回止まるということは、これまでの五五〜六年の間にないことが起ころうとしているわけです。だから、皆さんがテレビをもう一回見直すいいチャンスです。私は放送局がまさに土壇場で、まだちゃんと映るようになっていてほしいと思われるかどうかの瀬戸際に立っていると思います。それこそソフトが大事だということで、私は昔からハード至上主義はダメだと言っているのです。

須藤 もう一点、赤塚委員長に質問です。仮にアナログ放送終了が延期された場合、放送局の経営へのインパクトについて民放労連で議論されているのでしょうか。

赤塚 もちろんしています。これは経営者が考えて、情報を開示していただきたいところですが、試算によれば、もし三割ぐらいの人がテレビを見られないことになったら広告収入も三割減ってしまうという、暗澹たる予測のレポートもありました。逆に延期すると、回線費用で民放だけで年に一〇〇億円、NHKも同じくらいかかる。またマスターが2011年で終わる予定なのに延ばすとなると、延命治療のためのお金も結構かかるので、ちょっと予測できないのですが、比較してみると延期したほうが安いのではないかという話は出ています。

 六〇〇〇万台というJEITAの予測だと、100%普及はちょっときつい状況かなと思いますが、組合の中でも現時点で「延期しろ」とはっきり言っていません。国が簡易チューナーを配って、その出来がよくて、障害者などにもちゃんと使えるもので、それが五〇〇〇円で提供されるのであれば、それはそれでいいことだと思います。

須藤 やはり7月24日にアナログを停止してデジタルに全面移行する理由がはっきりつかめない、視聴者によけいな負担を強いるだけにならないかという質問があります。一言ずつご発言ください。

上瀬 (略)

岩田 (略)

吉井 (略)

坂本 総務省がなぜ2011年7月24日にこだわるか、分かりません。彼らはまちがっていると思われたくないから、ぎりぎりまで動かさないのかもしれませんが、それでは国民に迷惑がかかるという感じはします。

 これは今朝の新聞に入っていたジャパネットタカタの広告です。この中にテレビが八機種出てきますが、いちばん小さいのが三七型で二六万円、まだ小さいテレビはまともに売られていない。こういうところにでかでかと四〜五万円のテレビで、一七インチ、お年寄りが使える簡単リモコンが付いている、というのが載らない限り、普及は進まないと思います。

 もうひとつ、読売新聞のテレビ欄の欄外に小さく「地上デジタル放送完全移行まであと一〇〇二日」と書いてあります。これを入れるのに広告費がいくらかかりますか。一日一〇万円としてあと一〇〇〇日で一億円が、DPAの普及予算から出ているのでしょう。しかし、本当にみんなに通じるようなことをやってもらいたいと思います。

荒川 (略)

赤塚 (略)

須藤 ありがとうございました。日本の地上デジタル化が急がれる理由というのは、国際的なデジタル競争の中で遅れをとらないという国策でもあるでしょうし、何よりも日本全体の情報化政策があると思います。とくに森内閣以降進められてきた中心的な戦略であるe‐Japan計画、u‐Japan計画という中で、テレビは、さまざまな情報の端末だという位置づけがされています。

 95年に初めて日本では地上デジタル化の方針が当時の郵政省によって打ち出されましたが、それは国家戦略であるe‐Japan計画に組み込まれることで、期限が定められて移行するということの位置づけがなされたと思います。これは小泉内閣時代になって、2010年に日本のe‐Japan計画が完成するということになっていますので、それとの強い連動性があると見ています。

 いただいた質問も処理しきれないで、失礼いたしました。それでも、どういう問題点があるのか、皆さんの発言によって浮き彫りになったと思います。お忙しい中をご出席いただき、ありがとうございました。

地デジ「完全移行」への道
日録メモ風の更新情報から

公開シンポジウム「アナログ放送『終了』まであと1000日
地デジ『完全移行』への道」お知らせなど
日録メモ風の更新情報 2008-10-22から抜粋

10-22
●「2011年 地上アナログ放送を停止できない10の理由」(『放送レポート』2008年9月号=通巻214号)全文をサイトアップしました。400字で46枚
●10月25日(土)13:00〜17:00には、民放労連・メディア総合研究所共催の公開シンポジウム「アナログ放送「終了」まであと1000日 地デジ『完全移行』への道>」が東京・日本青年館で開催され、坂本も第一部で講演し(30分ほど)、第二部パネルディスカッション(2時間以上)にも参加します。入場無料。地上デジタル放送に関心のあるすべてのメディア記者、メディア研究者に(上記論文を読んでからの)参加を強くおススメします。総務省発の情報だけで記事を書くと、必ず間違うからです。総務省の主張が正しいか坂本の主張が正しいかは、1000日後にはわかります。そのとき(2010年7月24日)を待たなければ、日本のテレビがどうなるか判断を下すことができない新聞記者・雑誌記者・放送記者・ウェブ記者・メディア学者・メディア研究者には、悪いけど存在意義がない。ないでしょう? そのときには、子どもにだって、どうなるかわかるんだから

総務省による調査の問題点など
日録メモ風の更新情報 2008-10-23から抜粋

10-23
●メディア総研から、シンポジウム開催のお知らせ
アナログ放送「終了」まであと1000日 公開シンポジウム「地デジ『完全移行』への道」
11月25日(土)、下記の要領でシンポジウム『地デジ「完全移行」への道』を開催します。テレビのアナログ放送終了・地上デジタル放送「完全移行」の予定日である2011年7月24日まで、あと1000日余りとなる10月25日に、アナログ終了に向けた取り組みの検証と展望を、さまざまな立場から議論する企画です。これからの放送における重要な問題でもあり、ぜひ多くの方々にご参加いただきたくお知らせいたします。
日時2008年10月25日(土)13:00〜17:00会場:日本青年館 中ホール(東京都新宿区霞ヶ丘町7-1 TEL:03-3475-2550 会場案内図)◆入場無料主催:民放労連・メディア総合研究所◆プログラム第1部:講演・冒頭発言(1)上瀬千春(フジテレビ技術開発局役員待遇技師長)、(2)坂本 衛(ジャーナリスト)◆プログラム第2部:パネルディスカッション パネリストは上記2名に加えて、吉井 勇(月刊ニューメディア編集長)、荒川顕一(ジャーナリスト)、赤塚オホロ(民放労連中央執行委員長)、岩田 淳(テレビ朝日編成局)、コーディネーター/須藤春夫(メディア総研所長・法政大学教授)
●シンポジウムのA4チラシ(pdf)はこちら。日大マスコミII・放送特殊研究Vの受講生も、参加していいよ。ちなみに、10月10日に坂本が受け取ったチラシでは、第1部「問題提起」の部が「(1)デジタル化に向けた取り組み 交渉中(2)デジタル化計画に死角あり? 坂本 衛」となっている。総務省が全員「時間がない」、各局も軒並み辞退で、フジ技師長がようやく出てくれたと。テレビ局は、NHKも民放も「やれ」と言われ「やる」と約束したことは、2011年までにほぼ完了する見込みだから、いちばん無責任なのは「国策」推進の総元締め・総務省。総務省はあと1004日、どこに逃げて、どこに隠れているつもりなのか。メーカーも放送局も商売。その総務省だけを、私たちは税金で食わせているわけですが……
●それにしても総務省詰め記者たちは、なぜ総務省の報道発表が世の中の出来事を正しく反映していると思うのか、本当に不思議。たとえばデジタルテレビ放送に関する移行状況緊急調査(平成20年9月)。これは、中央調査社が毎月実施する「個人オムニバス調査」(複数の依頼者による相乗り)に1回限りで調査項目を加えたもの。電子住宅地図からの層化3段無作為抽出法によって全国20歳以上の男女約4000人を抽出し、個別面接調査によって1265サンプルを回収した。だから約4000人のうち回答が得られた1265人の調査結果(回収率30%前後)であって、単身者・学生・共稼ぎ・外国人世帯などに多いだろう連絡がつかなかった人(不在者)、調査そのものに無関心な人、地上デジタル放送に無関心な人などが(結果的に、平均より高い比率で)除外されてしまうデータである。もちろん、住宅地図からの抽出段階でも対象地域が限定される(たとえば北海道のド真ん中の原野や離島など、そもそも住宅地図データが存在しないか、調査員が極めて訪問しにくければ、対象地域から外す。また4000人が全国に均等に散らばるのでなく、いくつかの狭い調査エリアが全国に散らばる。その散らばり方、都市部がどの程度の割合かなどは非公開だが、地上デジタル放送の普及が進んでいない郊外・山間部・過疎地などが高い比率で除外される傾向にあることは当然)。2011年7月に日本全国の地上アナログ放送を全停止するのだから、私たちが知りたいのは日本全国津々浦々に住む4000人のデータであって、調査しやすい地域に住む4000人のうち、調査に協力的な在宅者1265人に限定したデータではない(注:総務省によれば、この1265人だけに限定しても、地上デジタル放送を見ることができるのは4割にも達しない。実際に見ている人はさらに少ない!
●だから、この調査はサンプルにもともと偏りがあり、地上デジタルの全国普及率調査としてはかなり信頼性に欠けるが、そのことを総務省は問題にしていないらしい(北京五輪後で、もっと高いのではと期待していた点は、やや残念と思っている)──なんてことは、総務省情報流通行政局地上放送課の担当課長補佐と5分電話で話し(さっき話した)、中央調査社サイトを5分調べればわかる。なぜ、新聞記者は10分の手間すらも惜しんで、デタラメ記事をタレ流すのだ? 約4000人を対象とする調査で、実際に面会できた約477人(世帯)が、地上デジタル放送を見ることができると答えた(4000人に聞こうとしたが、不在者その他が多く、地上デジタル放送を見ることができると答えた世帯は、12%に達しなかった)という明白な調査結果から、どうやったら日本全国で世帯普及率5割弱などという記事が書けるのか? 特定の地域「だけに」電話する回収率30%前後の内閣支持率調査があったとして、政治部記者がそのまま記事にできると、本気で思うのか?【10月26日追記。一部誤解を招く表現があったと思われるので、一部を修正(この●と一つ前の●)。上智大学・音好宏の指摘による】
●【ついでに、以下も追記】たとえばビデオリサーチの調査は、調査機を自宅に設置し調査に協力してくれる世帯を調べる視聴率であって、置いてくれと頼む機会がなかった(昼間は不在がちの)世帯は、平均より高い比率で除外される。たとえば単身者、夫婦共稼ぎ、外国人世帯など。そんな面倒くさいことはご免と断った高齢者世帯なども除外される。結果的に、3人以上世帯や二世代以上世帯(主婦や年寄りが在宅する確率が高い)の割合が高くなる。だからダメ調査だとか使えない統計だとはいえないが、そのような調査・統計データだとわかって使う必要がある。以上によって除外される世帯の傾向と、世帯訪問によってNHK受信契約をしてもらうときに除外される(会えなかったり断られたりする)世帯の傾向がよく似ているため、視聴率調査では、もっぱら若い単身者や学生が見る、あるいは高齢者しか見ない番組の視聴率がハッキリ低く出る。総じてNHKの視聴率が、民放よりも高めに出る。また、調査機を置いてある世帯は、視聴率調査に高い関心のある世帯であるから、たとえば「視聴率とは何か?」という番組の視聴率が、ハッキリ高く出る。もちろん誤差があるから、2〜3%の違いをうんぬんしてもほとんど意味がない。さらに、一般には「関東地区」の調査結果しか使われないため、全国の視聴率や各地方の視聴率と大きく食い違うことがある。たとえばプロ野球の視聴率は、地域の人気が根強い球団が西日本に多いから、関東地区の視聴率と近畿や北九州の視聴率が全然違う(7%と25%というような違いが出ても、何の不思議もない)。新聞による内閣支持率調査(電話)は、「読売ですが」と聞いただけで断る者・協力的な者、「朝日ですが」と聞いただけで断る者・協力的な者が、それぞれ一定の割合でいるため、自民党政権の支持率は読売で高く、朝日で低く出る(半年前より高い・低いというトレンドはどちらも同じように出るが、パーセンテージに開きがある)。業界では「読売と朝日の中間を取れば、だいたい間違いない」と思われている

地上デジタル放送関連の坂本論文ご案内など
日録メモ風の更新情報 2008-10-24から抜粋

10-24
●【再掲】アナログ放送「終了」まであと1000日 公開シンポジウム「地デジ『完全移行』への道」のお知らせ◆日時2008年10月25日(土)13:00〜17:00会場:日本青年館 中ホール 会場案内図)◆入場無料主催:民放労連・メディア総合研究所◆プログラム第1部:講演・冒頭発言(1)上瀬千春(フジテレビ技術開発局役員待遇技師長)、(2)坂本 衛(ジャーナリスト)◆プログラム第2部:パネルディスカッション パネリストは上記2名に加えて、吉井 勇(月刊ニューメディア編集長)、荒川顕一(ジャーナリスト)、赤塚オホロ(民放労連中央執行委員長)、岩田 淳(テレビ朝日編成局)、コーディネーター/須藤春夫(メディア総研所長・法政大学教授)◆明日です。ふるってのご出席、ディスカッションにご参加をお願いします
●【この項3ページは別窓で開きます】2011年 地上アナログ放送を停止できない10の理由(『放送レポート』2008年9月号=通巻214号)の項目だけピックアップしておきます。詳しくは全文をお読みください。興味がある方は、地上デジタル放送 現行計画『すでに破綻』の決定的な理由10(「GALAC」2003年10月号 総力特集「地上デジタル放送の落としどころ」)、BSデジタル放送 1000日1000万台が“絶望的”な10の理由(「GALAC」2000年12月号 特集「発信!! BSデジタルの『吉凶』」)もどうぞ。30の理由のうち、放送局やメーカーの取り組み、視聴者国民大衆の意識の変化などによって、変わったものもあれば変わらないものもある。どれがそうで、なぜなのか、よく考えてください。なぜテレビ・新聞・雑誌があまり問題にせず、広く伝えもしないことを、8年前、5年前から筆者が強く主張しているかについても、お考えいただければ幸い
【地上アナログ放送を停止できない理由─1】日本にあったおよそ1億2000〜3000万台のアナログ対応テレビのうち、半分程度しかデジタル対応テレビに置き換わらない。だから、2011年にはアナログ放送を停止できない。
【地上アナログ放送を停止できない理由─2】「地上デジタルテレビが6000万台以上あれば、1世帯に最低1台以上だから完全移行できる」という考え方は、誤りである。テレビの半数が失われることは、視聴者国民大衆にとってデメリットが大きすぎる。だから、2011年にはアナログ放送を停止できない。
【地上アナログ放送を停止できない理由─3】テレビの半数が失われることは、放送局にとってもデメリットが大きすぎる。だから、2011年にはアナログ放送を停止できない。
【地上アナログ放送を停止できない理由─4】「2011年には地上デジタル放送受信機が1億台に達するから完全移行できる」という考え方は、誤りである。メディアが報じる受信機の普及台数は、地上デジタル放送の普及世帯数と大きくかけ離れている。総務省や民放連発表の世帯普及率も過大な見積もりだ。だから、2011年にはアナログ放送を停止できない。
【地上アナログ放送を停止できない理由─5】古いアナログテレビにつなぐ簡易チューナーは、まがい物であり、普及すればするほど視聴者国民大衆が迷惑を被る。地上デジタルテレビの代替物とはならず、その普及を前提とする地上アナログ放送の停止は、誤りである。だから、2011年にはアナログ放送を停止できない。
【地上アナログ放送を停止できない理由─6】4〜5万円の地上デジタルテレビや、5000円以下の簡易チューナーは、それだけの出費では済まない。アンテナかケーブルにつながなければ映らないからだ。その分、地上デジタル放送の導入コストはふくらみ、普及に時間がかかる。だから、2011年にはアナログ放送を停止できない。
【地上アナログ放送を停止できない理由─7】集合住宅の共聴施設の多くで、これまでの設備を地上デジタル放送用に改修する必要があるが、なかなか進んでいない。受信障害対策共聴施設や辺地共聴施設の改修、個別受信への移行にも、問題がありすぎる。だから、2011年にはアナログ放送を停止できない。
【地上アナログ放送を停止できない理由─8】2150万世帯が加入するCATVは、事業者が営利企業、三セク、地方自治体、その他と入り乱れ、実態がハッキリしない。ロードマップでは「視聴可能」となる予定だが、結局は、加入世帯がどれだけSTBやテレビを導入するかによる。その見通しは暗い。だから、2011年にはアナログ放送を停止できない。
【地上アナログ放送を停止できない理由─9】地上デジタル放送の計画時や着手時期と比べて、放送を取り巻く環境が大きく変化した。格差の拡大、貧困化、さらに最近の物価高が、デジタル化に大きな影を落としている。スタグフレーション状況で、個人消費が冷え込んでいるのだ。だから、2011年にはアナログ放送を停止できない。
【地上アナログ放送を停止できない理由─10】地上デジタル放送を「国策」というが、視聴者国民大衆に正確な見通しを伝え、その強い支持を得てこそ、真の「国策」となる。現状では、本当に国を挙げた国策の体をなしているか、大いに疑問である。だから、2011年にはアナログ放送を停止できない。
言いたいことはただ一つ。デジタル化は「手段」にすぎず、「目的」ではない。これだけです。以上の10項目は、商用サイトでなければ自由に引用・転載して構いません(できれば当該ページにリンクを。本文の転載は避けてください)。そして、どうかみなさんで議論を深めてください。テレビは放送局だけのものでも、まして総務省のものでもない。テレビ・システムは間違いなく半分、あなたがた視聴者・国民・大衆のものなのだから。放送局の論点は「2011年7月24日に地上デジタル放送完全移行・地上アナログ放送完全停止ができるか、できないか」(ほとんどが、できないと思い始めていますけれども)。ところが、あなたがた視聴者・国民・大衆の論点は違う。「2011年7月24日に地上デジタル放送完全移行・地上アナログ放送完全停止をさせるか、させないか」です。決めるのは、みなさんなのです

「地デジ『完全移行』への道」シンポジウム参加のお勧めなど
日録メモ風の更新情報 2008-10-25から抜粋

10-25
●午前11時半、日本青年館。昼食兼打ち合わせ。午後1時〜5時、アナログ放送「終了」まであと1000日 公開シンポジウム「地デジ『完全移行』への道」(入場無料詳細は10-24の項をご参照)。終了後に懇親会。地上デジタル放送の進捗状況について、その正確な普及状況について、2011年7月24日の「地上デジタル放送への完全移行・地上アナログ放送の完全停止」の実現可能性について、真摯で現実的な議論ができる場になればよいと思っています。とくにこの問題を担当する新聞・雑誌・放送記者のみなさんには、参加をおススメします(会場からどんどん質問してください。あとで個別にお話しするのも望むところです)
●もちろん坂本は、「地上デジタル放送への完全移行・地上アナログ放送の完全停止」は、延期するしかないと思っています(いうまでもなく、地上デジタル放送への移行には賛成)。また、5000円の簡易チューナーなどという“まがい物”を普及させることにも反対です。詳しくは、地上アナログ放送を停止できない10の理由にて。反論がおありの方は、ぜひご参加のうえ、まともなデータに基づいて具体的に反論を。もちろん、反論に足るまともなデータなど存在せず、延期は規定路線といえるでしょうけれども(私は総務大臣経験者から、間に合わなければ延期すりゃいいと直接、聞いている。最近の経済の落ち込みは、誰もが想定外なのだから、経済環境の悪化を理由に延期すればよいだけの話)

「地デジ『完全移行』への道」シンポジウムの様子ほか
日録メモ風の更新情報 2008-10-26から抜粋

10-26
●昨日のシンポジウムは、非常におもしろかった。会場には岩本太郎、丸山昇、隅井孝雄、松田浩、谷口源太郎、音好宏、田場洋和、石井清司、碓氷和哉、井戸秀明はじめ100名弱ほどか。名刺交換したのはテレビ新広島・平田洋一(システム技術局技術部リーダー)、文化通信・中島優(編集局放送部兼サイト事業部。日大芸術学部放送学科出身だそう)、しんぶん赤旗・和田肇、衆院議員吉井英勝秘書・山下唯志。会場には、視覚障害者も来ていて、地上デジタルに対する切実な不安を語った。たとえば「初期設定で住んでいる地域を入力するそうだが、停電で入力し直すのか」「リモコンが複雑すぎ、どうしてよいかわからない」「耳で聞いてわかる、言葉による解説番組が少なすぎる」などなど。地上デジタルを本当に国策にしたいなら、厚生労働省が地上デジタル問題を自分たちの問題としてとらえ、高齢者にとって望ましいテレビ、障害者にとって望ましいテレビのことを考えるべき。それが全然できていないと、私は放送開始前から主張している。まだ、全然やっていません。高齢者や障害者を一切無視する面積比56%縮小のインチキ5000円チューナー問題もそうだが(なんで誰も国会で取り上げない?)、これはシンポジウムでは話す時間がなかった。終了後、南青山3丁目のナントカいう店(碓氷和哉と「どんな店?」「さあ。店を予約するヤツが、魚民みたいなチェーンじゃないほうがいいですよね、と言ってたけど」なんて話しつつプラプラ歩いていき、店の看板を見ると、魚民と同じ感じの文字で、魚民と同じフロア。「これ、きっと裏で調理場つながってるぜ」と)で懇親会。9時前帰宅
●シンポジウム概要は『放送レポート』に載せるそうです。フジテレビ技師長・上瀬千春とは2003年3月7日の緊急国会シンポジウム「地上テレビのデジタル化を考える」でもご一緒。このときの司会も須藤春夫(法政大社会学部教授/メディア総研所長)。こうやって討論会にちゃんと出てくるのだから、やっぱりフジテレビは民放の中でも、もっとも開かれている放送局でしょう
●ところで『月刊ニューメディア』編集長の吉井勇が、非常におもしろいことを二つ言っていた。一つは「昨年、増田寛也総務大臣に大臣室で会った。デーンと置かれた50インチのハイビジョンで字幕放送を見ようということになったが、どういうわけか字幕が出ない。調べると、デジタル放送ではなく、アナログ放送に接続されていた!」と。だから、その前の総務大臣も、その前の前の総務大臣も(増田寛也、菅義偉、竹中平蔵、麻生太郎らは)総務大臣室の50型薄型ハイビジョンでアナログ放送を見ていた可能性が非常に高い。これは、おもしろい。というか、日本の地上デジタル放送推進計画の絶望的な状況を如実に示す大スキャンダルです。うちのハイビジョン受像機は、地上アナログ放送・地上デジタル放送どちらも受信していますが、画質が全然違うから、アナログだけ見ても、いくらなんでもヘンだとわかる。それに気づかないのは、霞ヶ関ではきれいなアナログ放送をケーブルで見ているからかも。いずれにせよ、国策「地上デジタル放送完全移行」の歴代責任者である歴代総務大臣が、現在の地上アナログ放送を薄型ハイビジョンテレビで見て、何の問題もないと思っていた(忙しかったから見てない? ならば大臣室のハイビジョンはただの飾りで、何十万円かの税金の無駄遣いだから、さっさと売り飛ばせ!)。じゃあ、大多数の国民も、地上アナログ放送で何の問題もないと思って当然では。大多数の国民に、あと1000日でテレビを買い換えろと、どの面下げて頼めるんでしょうねぇ!? もう一つは、「菅義偉、竹中平蔵、NHKのせいでそれぞれ1年ずつ。都合3年遅れた」と。なるほど、そういう見方もあるかもしれない。私は誰が総務大臣でも3年やそこらは遅れている(遅れているのが現状である)と思いますが

「地デジ『完全移行』への道」会場内アンケートなどについて
日録メモ風の更新情報 2008-10-27から抜粋

10-27
●10月25日のシンポジウム、回収した会場内アンケートによると87%が「おもしろかった」と答えたそう(「普通」や未回答はごく少数)。主催者側とのメールのやりとりで書いたこと三つほど。注は当欄での追記
●〈議論も多岐にわたり、Xデーの議論も見解の相違するバトルにならず、まとまった印象。坂本さんの熱いメッセージを、上瀬さんが受けて「そのとおり。いいことを言う」と後押ししたのは感動的でした〉に対して◆ま、私ほど「テレビに優しい」論者も少ないと思いますけれども。放送局が言えずにいることを全部、総務省が悪い、国は何やってんだと、リスクを一手に引き受けて「代弁」しているわけですから(注:フジテレビ技師長がうなずいたのは、「Xデーがいつなんて、どうでもいい。肝心要《かなめ》の大事なことは、テレビ放送が明日も、3年後も、5年後も、わが家で受信できなければ絶対に困ると、視聴者国民大衆みんなが思うおもしろい番組、役に立つ番組、感動や癒しをもたらしてくれる番組を作り続けることだ。放送局はそれに全力を注ぐべきで、その姿勢が支持されればデジタル化できる」といった趣旨の坂本発言)
●ちょっと嫌みですが◆アナログ・ハイビジョン失敗、BS1000日1000万無理、CS400万無理、光ファイバー普及たいへん(計画達成できず)、NHKは値下げできる……。誠に申し訳ないが、いずれもこれまで、そうなる何年も前に断定して、ハズレたことはない。その証拠となる古い論文も全部サイトで公開している。ま、今回もハズレはしないでしょう。
●〈地上アナログ終了決行・地上デジタル延期がどう決まっていくか、読めない〉という趣旨に対して◆私は、すんなり延期すると思います。延期して困るのは総務省と放送局「だけ」なので(注:放送局は地上アナログ終了を決行しても困る。後述)。メーカーはハイビジョンが6000万台売れれば御の字(予定通り。何の問題もない。それがJEITAの予測。少なすぎるからと増産計画など立ててない!)。国民も全然、困らない。延期できないと思うほうが、大局観がおかしいと思いますね。
●三つ目につき、さらに言えば、総務省は「メンツが潰れる」だけで、別に損はしない。自分のカネで何かやったわけではないし、延期しても給料は下がらない。「なんだ。無責任じゃないか」と言われても、「前の人がやったこと。もういません(別の部署に移っている)」と言えばいいだけ(アナログ・ハイビジョン失敗のとき「無責任じゃないか」と坂本が言ったら、郵政官僚はそう答えた)。延期で出費が嵩《かさ》むのは、アナログ・デジタルのサイマルコストが余計にかかる放送局「だけ」。もっとも、アナログ・マスターの更新はせず、なんとかツギハギ処理でもたせれば、あとはアナログ送出コストだけを、なんとかすればよい。その出費のマイナスと、アナログ停波強行時のマイナス(国民の過半数を占める中〜低所得者層の猛反発と、NHK=受信料/民放=広告費の大減収)をテンビンにかければ、延期したほうが「放送局にとって」得策に決まっている。ようするに、延期して本当に困る者は少ないが、延期しないと大勢が困る。これが大局観。だから、延期は規定路線。これはシンポジウムでも言ったが、1990年に国会が全会一致で「国会及び政府機能の移転を行うべきである」と決めた首都移転(首都機能移転、遷都)は、誰一人ヤル気がない。議決を通した政治家(90年当時の衆参国会議員の全員)は誰も責任を取っていない。日本の国策なんて、そんなもの。できなきゃ、やらないか、延ばすだけ。インド洋給油もそう。一時中断したら、アメリカはどんな剣幕で怒った? 日米同盟関係の、どこがどう崩れた? ガソリン暫定税率の一時撤廃(税金分値下げし、すぐ元に戻した)もそう。大混乱すると言っていたが、どう大混乱した? 道路が造れなくなって、誰が深刻に困った?

地デジ「完全移行」への道
紹介記事など《ご参考》

民放労連からのメッセージ:
公開シンポジウム〜地デジ「完全移行」への道(10月25日)

 テレビのアナログ放送が終了する日とされている2011年7月24日まで、あと「1000日」。テレビが見られなくなる「地デジ難民」が大量に生まれるかもしれない事態だが、いまひとつ議論が盛り上がっていない。こうした中で民放労連とメディア総合研究所は共催で、デジタル化の問題点を検証する公開シンポジウム「地デジ『完全移行』への道」を10月25日に東京都内で開催した。

 デジタル化を進める政府の総務省からは「多忙」を理由に出席を得られなかったが、代わりに主催者が出した質問状には担当部署である地上放送課から文書で回答が寄せられた。回答はおおむね総務省の基本的な立場を述べる公式的なものだったが、アナログ放送終了時期見直しの可能性を問う質問には、「『現時点では』見直すことは考えていない」と但し書きがついたことは注目される。

 放送事業者の立場からフジテレビ技師長の上瀬千春氏がデジタル化の現状について、また11年のアナログ終了は絶対に無理と、かねて精力的な発言を続けてきたジャーナリストの坂本衛氏がそれぞれの立場から講演。その後、メディア総合研究所の須藤春夫所長がコーディネーターをつとめ、上瀬、坂本両氏に加えて放送局担当者や研究者、ジャーナリストら多彩な顔ぶれによるパネル・ディスカッションとなった。

 月刊ニューメディア編集長の吉井勇氏は、少子高齢化社会が進行する中で、デジタル化で放送に何ができるかを示すことが必要と問題提起。

 テレビ朝日編成局の岩田淳氏は「デジタル移行で高齢者や弱者が取り残されることのないよう全力をつくす」と放送局サイドの決意を述べたが、視聴者の立場から「地デジにしたいなんて誰が言った!?」(晋遊舎)を最近上梓したフリーライターの荒川顕一氏は、「バラエティ番組をやる情熱で地デジ問題を放送局は取り上げてほしい」と苦言を呈した。

 会場からは「テレビはどんどん障害者に使いづらいものになっている。もっと人にやさしいテレビにしてほしい」と、参加した視力障害者からデジタル化計画の進め方に疑問が出された。

 民放労連の赤塚オホロ委員長は地デジ難民を出さないための提言づくりを進めながら、今後もこうした市民に参加してもらえるシンポを継続的に開催していきたいと述べた。

 なおこのシンポの模様は放送レポートの12月上旬に発行される1月号で詳しく紹介される予定。

文化通信(速報)平成20年10月28日
◎フジ上瀬氏―アナ停波延期で普及率変わらず
調査不十分、停波強行で広告収入激減危惧も
民放労連ら「地デジ完全移行」シンポジウム

 民放労連とメディア総合研究所は25日、アナログテレビ停波まで1000日に迫ったことを受け、公開シンポジウム「地デジ『完全移行』への道」を東京・日本青年館で開催した。同会では、予定通り2011年7月24日での停波を推進するフジテレビ上瀬千春技術開発局役員待遇技師長兼デジタル技術推進室長と、停波は延期せざるを得ないとするジャーナリストの坂本衛氏が講演を行い、それぞれが意見を述べた。

 上瀬氏は、「アナログ停波が延期になると、その分普及率が格段に伸びるのか。人間の行動心理学から、1年2年延ばしても変わらないのでは」と疑問を提示。その証拠として、04年6月に実施した多摩局のアナログ周波数変更に際してのコールセンター問合せ件数を例に挙げ「半年間文書等で知らせていたものの、変更直前になって殺到したが、変更後わずか1週間で0件になった」と説明した。また、新タワーへの移行に際し、アンテナの方向を変えなければならないという懸念に対しては「芝公園の東京タワーと墨田区の新タワーを結んだ円の中の地域が影響を受ける話だが、その地域では電波が強いので建物の反射等でほとんど受信できる。むしろ、方向よりもSFN(同一周波数ネットワーク)の調整から外れるエリアが問題。だが、コールセンターの問合せが1万件以下であれば1日で対応できる」とした。

 一方の坂本氏は、「デジタル化に反対している訳ではなく、延期すべき」という立場を強調。「テレビの原理というものは放送局と視聴者が役割を担っていると考えられる。しかし視聴者側が2011年7月24日に間に合わない」とした。具体的には「民放連による普及率調査は(収入が比較的低い傾向にある)単身世帯を除いて行っている。総務省の9月の緊急調査は回収率が30%程度だ。これらの間違った数字を元にアナログ停波を強行すれば、民放の広告収入、NHKの受信料収入が激減するのは必至。そうなればテレビ局は延期を申請することになるだろう」との見通しを述べた。その上で「困るのはテレビ局。もう少し緩やかな”落ち着きどころ”を探すべきだ」との考えを主張した。

 同会では、民放労連委員長でTBSテレビコンテンツ事業局デジタル事業センターの赤塚オホロ氏、テレビ朝日編成制作局の岩田淳氏らが加わり、パネルディスカッションも実施。会場には視覚障害者も来場しており、初期設定やリモコン操作での苦労を強く訴え、政府が一体となって取り組むことを要望した。

▼訂正=本紙10月28日付「民放労連ら『地デジ完全移行』シンポジウム」記事中、ジャーナリスト坂本衛氏の主張が「総務省の緊急調査は回収率が低いため間違っている」と受け取れる内容になっておりますが、正確には「(1)回収率が低く、多くはじかれるサンプルが単身者・高齢者などに偏りがち、(2)調査地域に偏り(調査しやすい場所=比較的人口が密集している地域など)がある、などの理由により、結果をそのまま全国の普及状況を表すものとして使うことには極めて問題ある調査だ」という主張です。【文化通信(速報)20年11月4日】

※坂本の発言が言葉足らずだったのが悪いのですが、坂本サイト記事などを読んだ文化通信・中島優記者が、わざわざ補足説明を出してくれました。ありがとうございます。なお、この項見出しの◎から、直上の文章までは、「文化通信」からの引用であり、著作権その他一切の権利は文化通信社にあります。【坂本付記】