メディアとつきあうツール  更新:2003-07-03
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<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

BS-4電監審答申
地上民放首脳陣の”評価”

≪リード≫
ここにリードが入る

(「放送批評」1993年08月号)

 郵政省による前代未聞の”白紙諮問”から1年余り。「放送衛星3号後継機の段階における衛星放送の在り方」を審議してきた電波監理審議会(会長は生田正輝・慶大名誉教授)が、1993年5月21日に答申を提出した。

 これで、BS−4のあり方をめぐるいわば”机上の”議論に、ようやく一区切りがついた。ほぼ今世紀いっぱいのわが国の衛星放送の姿が、おぼろげながらも骨格だけは、浮かび上がってきたといえるだろう。これを民放各局は、どのように評価しているのか。

「BS参入への道が開けた」

 ある関西民放のトップは電監審答申が出た直後、「どうもよくわからない答申だ。よほどよく読み直してみないと……」という感想を口にした。

 実際、答申には「地上民放の衛星への参入を認める」との文言《もんごん》があるわけではない。一読した限りでは、むしろ、含みを残したあいまいな印象すら受ける。

 だが、「この種の文書は、まとめる過程での郵政省の感触や、発表と相前後して伝えられた郵政省の考え方などを総合して、行間を深読みしなければわからない」(放送記者)のだ。そういう読み方をすれば、大方の民放――とくに東京キー局にとっては、今回の答申はかなり高く評価できるものだったようである。答申に対する各局の第一印象は、以下のようになる。

「民放が一致して主張してきたのは、BS−4では、各系列ごとに結集する新しい事業体が1波を持ち、地上ネットワークと衛星放送の有機的な連携を図りながら、新時代の放送を担っていきたいということ。答申ではその道が開かれた、その可能性が認められたと思う。この点では、満足すべき内容だと評価しています」(北川信・日本テレビ専務)

「基本的な方向はこんなものかなという話。系列で参入するという道は一応開けた。なにより一つの方向づけができた、区切りがついたという意味でよかったと思う。けしからんとか不満というのはありません」(田代功・TBS常務)

「郵政省も初めて現実路線をとってきたなという印象。いままでは理想を追うというか、視聴者や放送局の現実からちょっと離れて走ってきた感じがあったからね。100点満点でいえば、80点くらいはつけられると思います」(富田徹郎・フジテレビ常務)

 答申は、民放系列の衛星参入を明確に保証したわけではないという点については、日テレの北川常務が、
「確かに書いていないじゃないか、という声はある。しかし、現時点で電監審として言える表現は、全部出ていると思う。今回の答申でわれわれは、BS−4の″椅子″の数合わせまでは要求していない。これで十分です」
 と語る。

 かねてから今回の答申は玉虫色のままで終わるのではないかという見通しがあったが、そうではなく、電監審としては踏み込めるだけ踏み込んだ答申だという評価である。

 答申には、マスメディア集中排除の原則の考え方はBS−4でも維持するとある。かねてこれが民放の衛星参入に対する障壁となるのではという懸念があり、郵政省もそれを匂わせて民放を牽制《けんせい》していた。しかし、この点も懸念材料ではなくなったようだ。

 フジの富田常務は、「民放関係者も読み違えていたのは、系列各社が出資して新しくつくる事業会社は、既存事業者として排除されるのではなく、新規参入者になるんだということですよ」と前置きして、いう。

「衛星放送の新会社に対する10%の出資規制や役員の兼任禁止などで、マスメディア集中排除の原則が適用されても、一向に構わない。逆に、原則が緩和されて10%が20%ならばいいのか、キー局が資本金の51%を持てばいいのかというと、そのことにメリットはない。キー局が支配してはダメで、系列ぐるみで乗らなければやっていけるはずがない。CXはフジ10%、関西テレビ8%……という従来の出資比率で何の問題もない」

 日テレの北川常務も、ほぼ同じような見解である。
「言論・報道の基本的な使命を考えれば、少数者がマスメディアを独占することが望ましくないのは明らか。マスメディア集中排除の原則は、われわれが反対すべき筋合いのものではない。まして、その原則は高く掲げながらも、行政における運用基準の緩和措置を要請しており、地上放送の培ってきた経営資源を衛星放送の健全な発達・育成に活かされることも考慮との一項も入っている。これで十分だと考える」

MUSEは認めるしかない

 今回の答申が民放系列のBS−4参入への道を開いたことに対する評価は以上の通りだが、答申にはこれまでの民放の主張と必ずしも相入れない部分もある。最大のものはハイビジョンの扱いだろう。

 答申は、目的・理念の項で高精細度テレビジョン放送の普及促進をうたい、放送方式としてMUSE方式ハイビジョンとNTSC方式の併用を打ち出した。デジタル・ハイビジョンはBS−4段階では採用されず、MUSEかデジタルかという議論は、現状を追認するという形でひとまず終止符が打たれたわけだが、これはどうみるか。

 TBSの田代常務はいう。
「これが政府の大方針なのだから、とやかくいう立場にないですね。MUSEで試験放送を重ね、ソフトを蓄積し、受像機も100万円を切ったいま、全部をストップしてデジタルを待つという選択はありえないでしょう。デジアナ論争は、評論家的な立場でやるのはおもしろいかもしれないが、現実的な話にはならない。将来デジタル化されるにしても、デジアナ・コンバーターが安く普及するといったことで、MUSEの導入はムダにはならないと思う。私は楽観しています」

 電流周波数、狭軌鉄道、右ハンドルの三大ケースに続いて規格導入の失敗例になるかもしれないと懸念していた富田常務も、ここは「受像機が400万円のままなら状況が違っていたかもしれないが、いまとなってはしょうがない」と追認。

「太平洋を飛ぶ飛行機が故障したとして、ある地点までは引き返した方がよくても、それを越えると向こう側まで飛んだほうがいいってことがある。それと同じでMUSEハイビジョンはすでに引き返し不能地点を越えた」 かつてハイビジョンは本当に美人かと疑問を呈していた北川専務も、今回は次のようにいう。

「答申でデジタルを見送ったことを書いた部分はなかなかよくできている。放送や通信のうち衛星放送というローカルな帯域だけでデジタル伝送方式の規格化を進めてもしょうがないと。それはその通りなんだ。周辺メディアの実用化を踏まえて、放送と通信の整合性を図る必要がある。いまBS−4でデジタル化しても誰も得しないし、20年後にデジタルに移行しても誰も困らない」

ハッキリしないハイビジョン普及チャンネル

 こうして民放もMUSEハイビジョンの選択を受け入れるわけだが、答申がいう「ハイビジョン普及チャンネル」については、注文を残している。

 現在のBS−3ではNHK2波、JSB、ハイビジョン推進協会による試験放送の4波が流れている。答申によると、NHK2波とJSBはそのまま(当面NTSCだが普及状況に応じMUSEを導入)、試験放送は暫定的なハイビジョン普及チャンネルに引き継がれて、BS−4の最初の4チャンネルが埋まることになる(残り4チャンネルは3年以内に放送普及基本計画を策定する)。

 普及チャンネルではNHKが先導的役割を果たすが、暫定利用が終われば、同チャンネルは一般放送事業者が利用するとも書かれている。だが、この普及チャンネルの姿が、もうひとつハッキリしないのだ。

「暫定的としたことは評価できる。しかし、普及チャンネルの主体の条件づけが明示されておらず、ハイビジョンが思うように普及しなかった際の運営がどうなるかが不明瞭。点数をつけると、ここでマイナス10点かな」(北川・日テレ専務)

 郵政省の見解では、暫定期間は残り4チャンネルが立ち上がった時点までというのがひとつのメド。郵政省は「第二陣がNTSCとMUSEの”まだら”放送を始めれば、普及チャンネルは必要なくなる」と考えている。 しかし、まだらはまだらでも、MUSEが申し訳程度の産毛のようなまだらだと、暫定期間が伸びる可能性も否定できない。

 1993年6月2日の定例会見で川口幹夫NHK会長は、「ハイビジョン普及チャンネルは、衛星放送加入者の75%か80%程度にハイビジョンが普及する時点まで必要」との認識を示した。これだと、NHK中心の普及チャンネルは、10年やそこら続きかねないのだ。この場合NHKは、BS−4で実質的に3波体制を確保することになる。

 もっとも、BS−4後発機立ち上げ時期に民間へ返上させるという郵政の方針は固く、NHKの巻き返しは無理、それどころか郵政は地上2波・衛星2波というNHK映像4波体制の見直しまで手をつけるのではないかとの見方もある。普及チャンネルの帰趨は今後も見逃せないところだ。

 これに関して当面問題になるのは、ハイビジョン推進協会の設置期限である1994年11月以降をどうするか、現在の試験放送と同じやり方を続けるのか、という問題である。

「BS−4に乗り、ハイビジョンもやるつもりである以上、民放も基本的には従来通り参画したい」(田代TBS常務)というのが一般的な見方だが、「NHKだけでやり、民放は降りるという可能性だってありうる」(東京キー局幹部)との声も聞かれる。

 現在の試験放送に出しているカネは、NHKが約100億円、民放が数千万円からざっと3〜5億円程度といわれる。もっともこれは人件費などを含まないから、実際の負担はさらに膨らむ。93年度決算は赤字基調との暗い見通しが流れる現在、衛星参入の確証が得られないまま試験放送へ持ち出しを続ければ、株主から経営責任さえ問われかねないというのが民放の主張だ。

 この主張とNHK、郵政の思惑のせめぎ合いをへて、今秋にはハイビジョン普及チャンネルの姿が固まるものと思われる。

民放チャンネルは5か6か

 ハイビジョン普及チャンネルとともに不確定な要素として残ったのが、放送大学学園の問題である。答申は、放送大学はBS−4の事業主体として適当だが、財政的な措置などの結論を出す必要があるとした。後発の4チャンネルを固めるまでに「三年以内」と期間を置いたのは、主としてこの結論待ちという理由からだと思われる。

 民放は、NHKとの対抗上、一刻も早く衛星に参入する必要があるという立場からすれば、この3年は長すぎるという不満が当然出るわけだ。

「関係省庁の調整で財源の手当てがつき、国会を通って放送大学が乗るにせよ、必要な準備期間は2年強で足りるのではないか。見きわめはもっと早くつくだろうから、3年置いたという点でもうマイナス10点。ほかに減点するところは見当たらないから、全体で80点」(北川・日テレ専務)

 フジの富田常務はさらに踏み込んで、
「放送大学構想は学園紛争当時にできたが、当時のVTR普及率は0%、法律が通った81年でも2.5%ですよ。いまはVTR普及率80%台の時代で、CD−Iなど新しいメディアの可能性も大きい。だったら、放送大学はビデオで十分ではないか」
 と、放送大学をBSで流す必然性はないのではないかとの疑問を投げかける。

 また、3年以内の猶予期間についても、
「放送大学はこの夏に決着がつくのではないか。今年夏の概算要求で進展がなければ、来年の予算でもつきませんよ。有料規制の緩和や契約約款の許可制の緩和といった行政措置で法改正が必要でも1年。法改正しなくても抜け道はあると思う。3年以内は1年として十分ではないか」(富田フジ常務)
 とみる。

 実際のスケジュールがどうなるかの見通しは、先発4チャンネルの打ち上がる97年の翌年――98年に後発スタートというのがいちばん早い見方だ。95年の早い時期に利用主体が決まれば、3年程度で打ち上げまでこぎつけることが可能という。

「仮に、98年BS−4の後発四チャンネルが上がらなくても、この頃にはBS−3b、BS−3N、BS−4先発4ャンネルが空にあることになる。すると、BS−4の2機が出揃わない段階で、前倒しに残りの4チャンネルがスタートする可能性もあると思う」(民放首脳)

 もっとも、これは衛星トラブルなどがないと仮定してだが、最近の衛星および打ち上げの信頼性は、かつての国産衛星の比ではないほど向上しているのも事実である。

 さて、スケジュールがどうであれ、放送大学が参入するならばBS−4の8チャンネルの内訳はNHK2、放送大学1、民間放送5(JSBと返還後の普及チャンネルを含む)、参入しないならばNHK2、民間放送6(同)となり、民放5系列をなんとか収めるだけの”椅子”はあることになる。

 こう考えると、普及チャンネルのあり方や放送大学の帰趨と同時に、JSB問題が依然としてBS−4計画に大きな影を落としていることがわかる。

「JSBの累積赤字はざっと500億円というが、デコーダーの未払い分を含めると累積債務は七百数十億円に膨らむ。債務が資本金よりはるかに大きい会社は、存続はしていても難破船ですよ。これに200億円手当てしたって、沈没を1年先送りにするだけで、なんの解決にもなっていない。結局、キー局のどこかが引き受けざるをえないのではないか」(民放首脳)

 だとすれば、引き受ける者にとって、JSBカードはジョーカーなのか、オールマイティーなのか。JSB問題には、まだまだ紆余曲折がありそうだ。

 一方、答申が出て、民放関係者の郵政省に対する見方もかなり変わってきたようだ。答申に対する評価は紹介した通りだが、「われわれ民放のいうことに、よく耳を傾けるようになった」「よく勉強している」など、郵政省の姿勢を評価する発言が多く聞かれた。

 いわゆる”やらせ”問題での対応などを見ると、この評価をただちに鵜呑《うの》みにはできないが、郵政が人の意見を聞こうというのは結構なことである。

 今後、民放各系列は、従来の計画をより現実的な事業計画につくりかえていくことになる。しかし、免許申請に対する資格審査の物差しはどのようなものになるのか、地上民放以外の新規参入者と組んだ場合の編成権をどう確保するか、テレビ広告における構造変化のなかで地上と衛星の総合的な運用をどう図っていくのかなど、課題は山積している。

 当然、郵政省にもこれまで以上に意見をいわなければならない。郵政がどこまで柔軟に対応するか。BS−4をめぐる攻防はこれからが正念場である。