≪リード≫ |
◆テレビのデジタル化にはさまざまなメリットがあるのは確かです。電波を効率的に利用でき、多チャンネル化が可能になるし、画質もよくなる。映像・音声以外のデータも送ることもでき、コンピューターとの相性もいい。
けれど、それを進めるのに、大多数の国民をないがしろにしているのが問題です。昨年12月に始まったBSデジタル放送もそうでしたが、誰のためにやるのかという肝心な視点を棚上げにしたまま話が進められている。
電波というのは国民共有の限られた財産です。その使用法に関する抜本的な変更なのだから、「何のためにやるのか」「それが始まったらどうなるのか」「コストはいくらかかるのか」などを明示し、国民の意見を聞く必要があるのに、まったくなされていない。
◆BSと違って地上波のデジタル化はすべての視聴者にかかわってくる問題です。なのに、ほとんど知られていないのが実状でしょう。「GALAC」では先日、この問題に関する2500人アンケートをやりましたが、その認知度は驚くほど低い。 まだ、 集計途中ですが、 90%以上の人が知らないという感じです。
さらに、問題なのが見通しが悪すぎるという点です。総務省とNHK、民放などが相談しながら進めている計画ですが、彼らには高画質に対する誤解がある。高画質というのは普及の後押しにはならないんです。考えてみて下さい。高画質でタモリの「笑っていいとも!」を見たいと思う人がどれだけいますか。もちろん、画質がいいに越したことはないが、そのためだけに30万円のお金を出す人はそう多くない。そのことはBSのデジタル放送で証明されつつあります。
◆3年間で200万台以下という見方でした。BSデジタル用受像機の売れ行きは今、月2万台程度ですから、どんなに多く見積もっても1000万台はいかないでしょう。現行の地上波でみんな満足しているからですよ。ソフトが魅力的であれば、お金をかけても見ようとする人も増えるでしょうが、現状のBSデジタルは、それに見合う水準にないということです。
無理もない。キー局の社員は1000人くらいいるのに対し、BSデジタル局はせいぜい、50人くらいです。そんな人数で毎日充実した番組を作れるわけがありません。見る人も少なく、多くの広告費を集められないから、十分な制作費をかけられず、魅力的な番組が作れない。それで見る人が増えないという悪循環になっている。立派な高速道路を造ったものの、走る車がいないという感じです。
◆視聴者の側には許容量の限界があります。一般の人が1日にテレビを見る時間はせいぜい3時間余です。CSデジタルやBSデジタル、インターネットなど、さまざまなチャンネルがある中で、使えるお金の問題もある。受信料や接続料で払えるのはせいぜい月に1万円くらいでしょう。そんな状況で、地上波のデジタル化用にテレビを買い替えたいと思う人は多くないはずです。
◆コストを払うのは国民なのだから、国民にきちんと説明して納得してもらうしかない。繰り返しになりますが、地上波のデジタル化はすべての人に投資を強いる問題です。一部の金持ちだけでなく、経済的な余裕のない年金生活のおじいちゃんやおばあちゃんにも新たな投資を強いる。中身がよくなり、コストが安いのなら、さほど説明はいりませんが、中身がどうなるかわからなくて、コストも高くつくわけだから、十分な説明と慎重な対応が必要だと思います。
放送は行政やテレビを売るメーカー、放送局のものではなく、国民のものです。拙速に既成事実を積み上げるのではなく、コストはいくらでこんな中身にしたい、こんな問題があるけれど、こうやって解決していくと、ビジョンを明確に示す必要がある。今のままでは、単なるハコもの行政で、国民に不必要な支出を強いるだけ。デジタルへの移行も予定通りにはいかないと思います。どう転んでも2015年くらいまでずれ込む見通しです。