メディアとつきあうツール  更新:2003-07-02
すべてを疑え!! MAMO's Site(テレビ放送や地上デジタル・BSデジタル・CSデジタルなど)/サイトのタイトル
<ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

青少年有害環境対策基本法
なんて、けっ飛ばせ!!

≪リード≫
市民が知らないうちに、とんでもない法案が国会に浮上してきた。その名は「青少年有害環境対策基本法」。権力側の恣意的裁量を許す危険な代物だ。「若者に有害」を理由に、私たちの環境がいたるところで規制されようとしている!

(「GALAC」2000年08月号)

 参議院自民党は2000年4月から5月にかけて、「青少年有害環境対策基本法」の素案をまとめ、発表した。検討の過程には内閣法制局も入り、警察、法務、自治、文部、厚生、郵政など関係省庁とのすり合わせも済んでいる。同党はこの法案を、野党を巻き込んだ議員立法で国会に提出し、今秋にも成立させたい意向だ。

 これに対して6月8日、メディア総合研究所(所長・青木貞伸)を中心にジャーナリストやメディア学者など有志112人・団体が「表現の自由を脅かす」として、同法案を国会に上程しないよう求める緊急アピールを出した。

 しかし、その後は目立った反論を聞かない。NHKも民放も沈黙したままだ。不幸にして、新聞、雑誌、テレビなどが参議院自民党の動きや法案の内容を報じないため、何が起ころうとしているのか知らないマスコミ関係者も多い。知っていても、選挙中に政権党を刺激したくないという、いつもの配慮が働く。

 そこで、法案の問題点を検討し、これは放送局が無視してよい対岸の火事では決してなく、言論・報道の自由を侵害するとんでもなく危険な動きであることを、強く訴えたい。

総務庁長官または都道府県知事が
勧告および公表できる

 まず「青少年有害環境対策基本法」(素案)の中身だが、この際、第一の「総則」(目的、定義、基本理念、責務などの能書き)は省く。責務の項は、保護者に第一義的責任を自覚せよと説教しつつ、国と地方公共団体に青少年有害環境対策を行う責務があり、事業者や国民はこれに協力すべしという話で、国・行政優位の押しつけの色彩が濃いが、ここでは割愛する。

 第二の「基本方針の策定」も、内閣総理大臣が基本方針を立てるという抽象論だから飛ばそう。第三の「国民的な広がりをもった取組の推進」では、青少年有害環境対策の「強調月間」という警察の麻薬・交通違反摘発を思わせる貧しく愚かな手法が採用されているが、これも笑って見逃そう。

 第五の「青少年有害環境対策センター」も、総務庁長官が適当な財団を全国的な対策センターに決めるという話だから、そんなものに国が関与するのは問題だが省く。(第六はその他) もっとも看過できないのは、第四「事業者等による青少年有害環境の適正化」である。その4「勧告及び公表」の項を引用しよう。

 「(1)総務庁長官又は都道府県知事は、第二の基本方針に即し、事業者の供給する商品又は役務が次の各号のいずれかに該当していると認めるときは、当該商品又は役務の供給に係わる事業者又は事業者団体に対し、その供給方法等について必要な措置をとるべきことを勧告することができる。

 〈1〉 青少年の性的な感情を著しく刺激し、又は性的な逸脱行為を誘発し、若しくは助長するおそれがある場合

 〈2〉 青少年に粗暴な又は残虐な性向を植え付け、又は暴力的な逸脱行為若しくは残虐な行為を誘発し、若しくは助長するおそれがある場合

 〈3〉 その他青少年の不良行為を誘発し、又は助長する等の青少年の健全な育成を著しく疎外するおそれがある場合

 (4)総務庁長官又は都道府県知事は、(1)による勧告をした場合において、その勧告を受けた事業者又は事業者団体が正当な理由なくこれに従わないときは、その旨を公表することができる。」((2)(3)(5)は略、〈1〉〈2〉〈3〉は実際は丸数字)

 PTAが目の敵にするエロ本の自動販売機を例に解説しよう。この場合「商品又は役務」に当たるのがエロ本だ。エロ本が「青少年の性的な感情を著しく刺激」するのは自明の理だから(というか、性的な感情を著しく刺激する雑誌を世間はエロ本と呼ぶ)、これは正《まさ》しく〈1〉号に該当する。

 問題は「供給に係わる事業者」(「供給する事業者」とは書いてないことに注意)で、当該エロ本の出版社は当然だが、自販機メーカー、運送屋、場所を貸す大家、電力会社などもこれに認定される可能性がある。これらの事業者が関与しないと、闇夜に煌煌と輝く自販機でエロ本を供給できないからだ。

 そして「総務庁長官又は都道府県知事」は、以上の事業者に対して、エロ本を自販機で売るという「供給方法等」(等って何?)について「必要な措置」(たとえば撤去、移動、塀で囲うなど)をとれと勧告できる。従わない場合、その事業者名を公表することもできる。

抽象的・包括的で曖昧な「不良行為の誘発・助長」
勝手にどんな会社でも規制できる

 結構なことだとPTAのおっ母さんたちは思うかもしれないが、そうは問屋が卸さない。

 ここで「商品又は役務」といわれているものは、新聞、雑誌、書籍、テレビ(地上波、CATV、CS、BSすべて含む)番組とCM、映画、VTR、CD、LD、DVD、ゲームソフト、インターネットのサイトや配信、ダイヤルQ2、のぞき部屋、ビデオルーム、ファッションヘルス、ストリップ、ギャンブルなど、何でもよいのだとしか、解釈のしようがない。

 しかも、〈3〉号で抽象的かつ包括的に「青少年の不良行為を誘発し、又は助長する等」(等って何?)と書いてあることに注意してほしい。

 早い話、総務庁長官か都道府県知事が勝手に「青少年の不良行為を誘発・助長する」と認めれば、どんな商品やサービスを売る会社も、改善を勧告され、従わなければ社名を公表されてしまう――それを可能にする法律が「青少年有害環境対策基本法」の正体である。

 もちろん、テレビ番組に適用されれば制作会社、放送局、日本民間放送連盟(事業者団体)のどれもが勧告を受け、従わなければ名前を公表される恐れがある。局は供給に係わる事業者だから、「悪いのはプロダクション。うちは無関係」と言い逃れもできない。このことは明らかに「言論・報道の自由」を脅かす。

 だが、あまりに曖昧な法律だから、事態はそれにとどまらない。電力会社すら供給に係わる事業者として認定されうると書いたが、解釈次第では縛れない会社など存在しないというくらいの、恐るべき愚劣な法案である。

 歯止めは「この法律の適用に当たっては、表現の自由その他の国民の基本的人権を不当に侵害しないように留意」との注意項目だけ。地元が騒いだだけで、オウムの子弟に義務教育を受けさせない憲法違反がまかり通る日本では、こんな一項など何の歯止めにもならない。

 憲法第九条の曖昧さを問題視する自民党議員は、曖昧で恣意的な解釈を許す法は悪法と知っているはず。それでもこの法案を通そうとするのは、規制をかけたいターゲットが明確だからだろう。ある自民党議員は記者レクで「出版物(雑誌)とテレビ放映」と狙いを語っている。

 「十七歳」の衝撃的事件が相次ぎ、国を挙げて青少年有害環境対策が必要と思う気持ちは、わかる。しかし、深刻な青少年問題を「急激な情報化の進展、過度の商業主義的風潮のまん延等」(素案の基本理念より)のせいと短絡するこの法律は、青少年の性的・暴力的な逸脱行為について何一つわかっていない無知蒙昧な起草者の手によるものと、断定せざるをえない。

 この法律は、閉塞状況の中で悩み、心を閉ざし、ときにキレて性的・暴力的な逸脱行為を引き起こす青少年たちの問題解決に、まったく役立たない。しかも、恣意的運用の余地が大きく「表現の自由」や「言論・報道の自由」を侵害する恐れが強いから、百害あって一利もない。

 すべての新聞社、出版社、放送局は、法案の内容を正しく国民に伝え、問題点を指摘して、国会上程前に葬り去るべきである。