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光の運動量 p=h/λ について

そもそも「光」とは

コンプトン効果の話では,「光の運動量」というやつが突然出てきました. この光の運動量というのは,あまり馴染みのない話だと思います. ここでは,光の運動量がどうして“p = h/λ”という式で表せるのか簡単に解説します. とりあえず,光は電磁波の一種なので,その辺の話から始めます...

電磁波と言えば,電磁気学の教科書なんかで上のような図が書いてあったりします. とりあえず,電場と磁場が交互に互いを生み出しながら空間中を「波」として伝わって行くんだ・・・ というような説明が定番だと思います. そして,電磁波はその波長によって,下の図のように色々な呼ばれ方をするのでした.

目に見える「光」と呼ばれる電磁波は,だいたい波長が400 nmから800 nmくらいのやつを指します. 周波数でいえば,だいたい400 THzから800 THzの間くらいです. 目に見えないほど波長が長い電磁波はいわゆる「電波」と呼ばれるもので,通信に用いられているあれです. 逆に,可視光より波長が短い電磁波はレントゲン撮影に使われる「X線」なんかがあります. いずれにせよ,結局は「電磁波」であることは全部同じなので, 電磁気学の土台に乗せて考えることができます.


(※ここから先の説明では,常に光を電磁波という「波」として扱いますが, 光電効果のところで説明したように, 光は波と同時に粒子としての性質も持っていることが分かっています. そんなわけで,結局は電磁波のエネルギーも量子化されているという事になります. 不思議な話ですが,とりあえず今は上のイラストのような波をイメージしておくということで... )

光のエネルギーと速度の関係:“p=E/c”

早速ですが,これから導きたい結論を最初に出してしまいます.

“p”は電磁波の(光の)運動量, “E”というのは電磁波のエネルギーで,“c”はおなじみの光速(約 3×108 (m/s))です. 冒頭の“p = h/λ”は,上の関係式から導かれるものです. 今後の目標は上の式を電磁波の話の流れから導くことなのですが, とりあえずここでは,上の式から“p = h/λ”が出てくる事だけを簡単に確かめてみます.


まず,エネルギー E に関して確認します. エネルギー E は, プランク定数 h を用いると「量子化」の様子を次のように表すことができるのでした.

これをp=E/cに代入すると,次のようになります.

ここで,波動の性質のところで出てきた「波の速さの式」というやつを使います.

上の式でいう「速さv」というのは,この場合「光速c」なので,vをcに置き換えておきます. また,光の話だと振動数は“f”ではなく“ν”(ニュー)を使う習慣らしいので,これも変更しておきます.

これをさっきの p = hν/c に代入してやると,

・・・ということで,p = h/λ が出てきました. くどいですが,以上の話の肝は「p = E/c」という関係式です. これが無いと始まりません.

普通は“p=2E/v”

“p = E/c”という関係は馴染みの薄いものだと思いますが, おなじみの「力学」で出てくる関係と似た形をしているという話だけ書いておきます. とりあえず,普通の力学で習う話は,次の図のようなものでした.

いわゆる「質点の運動」の話で,運動量も運動エネルギーもおなじみの式だと思います. ここで,運動エネルギーの式を少しいじります.

上の式を,運動量について表す式へ変形すると,次のようになります.

いわゆる「おなじみの質点の運動エネルギー」は“p = 2E/v”であるのに対して, 電磁波の場合は“p = E/c”となっています. 形だけを見比べれば,係数の「2」が無くなっているだけです.

物体の場合はエネルギーを2倍してから速度で割ると運動量が出てくるのに対して, 光の場合はエネルギーをそのまま速度で割れば運動量になることになります. ぱっと見た限りだと,光のエネルギーは普通の物体のエネルギーの2倍になっている・・・?という感じになります.

(※ただし,「物体の速さ」の“v”は物体の移動速度のようなイメージなのに対して, 光速の“c”は位相速度というやつなので,厳密に同じイメージというわけではありません... この辺は,位相速度と群速度の話を参照してください.)


もし覚えやすくするためのイメージを作るならば, 光は電磁波なので,常に電場と磁場の両方が存在することになります. そして,電磁波全体のエネルギーというのは電場と磁場のエネルギーを足し算した物になるので, 式の上では普通の物体のエネルギーの2倍に見える・・・というのもありかもしれません.

電磁気学の話になります

とりあえず,このページでは“p = E/c”という光の(電磁波の)運動量とエネルギーの関係式を使えば, 光の波長と運動量を結び付ける “p = h/λ”という式が出てくることだけ確認しました.

次ページからは,「どうして p = E/c という関係が出てくるの?」という話を掘り下げます. 数式の話なので,まずは電磁波を数式(方程式)で表してやらないと話が進みません. そこで出てくるのがマクスウェル方程式というやつです. 完全に電磁気学の話なので,トランジスタの話どころか,量子力学の文脈からも逸れてしまいます... (もし興味がありましたらどうぞ.)




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