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波動の性質

波の速さの式と位相速度

前ページ では,「光には粒子性と波動性の両方がある」という二重性の話になりました. ここでは改めて「波」の性質について軽めに確認しておきます.波の話は今後やたらと出てくるので...

まずは,高校物理で出てくる「波の速さの式」というやつです.

v (m/s)というのは「波の速さ」, f (Hz)というのは「振動数(周波数)」, λ (m)というのは「波長」でした. 例えば,光を上の式に当てはめるとすると,波の速さは光速 c ≒ 3×108 (m/s)です. また,振動数は高校物理では“f”で表すことが多かったと思いますが, 量子力学の文脈ではやたらと“ν”(ニュー)を振動数の文字として使うことが多いので, 光の場合の「波の速さの式」は下式のような感じになります.

では,「波の速さの式」が表している「速さ」とはどんなイメージなのか・・・ということで, とりあえず下のflashを見てみます.





今回の式で表現されている「速さ」というのは,上のflashの赤い点のように, 波の中のある一点が動いていく様子に目をつけた場合の「速さ」ということになっています. 少々くどいかもしれませんが,一応この式を導出しておきます. 「波の速さの式」を作る時は,波の中のある一点が,1波長だけ進む時のことをイメージするのでした.

波の振動数 f というのは,1秒間に山と谷がパタパタと繰り返す回数を示しています. 言い換えると,1波長(1つの山と,1つの谷)分の動きをするのには逆数をとって1/f (秒)だけかかります. 波の中のある一点は,1波長分の距離λ(m)を1/f(秒)だけかかって移動するように見えるので, 速さ=距離/時間=fλ・・・ということになります.

これまで「波の中のある一点」と呼んでいたものは,「位相」と呼ばれたりもします. sin(θ)の中身(引数)の“θ”のイメージです. そんなわけで,今回の式で表現されるのは「ある位相に対応する点が動く速さ」ということで, 「位相速度」と呼ばれたりします.

今回は「波の速さの式」だけ出しますが, 「波の形」の方を表すsinとかcos,eなどの関数は 「波動関数」として後々出てきます...

波動の回折

次は「波の回折」の話です. もともと「回折(diffraction)」という言葉は,「回り込み」を指すものです.

上の図は水面を上から見た様子をイメージしたものです. 障害物の隙間を通った波は,まっすぐ進むだけではなく障害物の物陰まで回り込んで行きます. これを「回折」と呼ぶのでした. 適当に水を入れた容器などで実験できます. 光の場合でもドアの隙間から光が回り込んで入ってくるのが見えたりと,色々な状況で観察することができる現象です.

波の回折現象は,上の図のようにスリット(障害物の隙間)の所に「点波源」があると見なして解釈するのでした. スリットに入るまでは“平面波”だったものが,十分に狭いスリットを通過すると, まるでそこに1点の波源があるようなふるまいをします. この「点波源」のイメージは1600年代後半にホイヘンスさんという人が考えたそうです. ホイヘンスの原理というやつです.

波が回折する時の回り込み具合については, 「波長に対してスリットが小さいほど回り込みの角度は大きくなる」 ということが実験的に知られています. これもまた,上図のように素源波を並べたイメージで説明されることが多いです. (定量的な扱いはここでは省きます...)

この回折現象が単品で出てくることは少なく, 大抵は回折を起こすためのスリットなどを複数並べた状態で, 次に説明する「干渉」とセットで考えることが多いです.

波動の干渉

波と波がぶつかると,波の重ね合わせが生じます. これを「波の干渉」と呼んだりします.

山と山,谷と谷の位置がそろった(位相がそろった)2つの波が重なると, より大きな振幅の波ができます. 逆に,山と谷の位置が完全に逆になっている(位相が180度ずれている)波が重なると, 波は消滅してしまいます.波の干渉(重ね合わせ)は,こんな感じのイメージです. (この辺の「色々な波の重ね合わせ」の話は今後やたらと出てくるのですが, これを扱う数学がフーリエ解析だったりします. そんなわけで,波の話ではちょくちょくフーリエ解析が出てきたりするのですが, とりあえず今はスルーします...)


次のflashは,よくある「ヤングの干渉実験」というやつを模擬して作ったものです. とりあえず,ONボタンを押すと左側から波が出てきます.


↓1度クリックしてアクティブにしてから,ボタンを押してください.




このflashは,水面にできる波を上から見た状態をイメージしています. 一番白い部分は「波の頂点」になっています. 白い部分が波の“山”であるのに対して,黒い部分は波の“谷”になっています. 水面は凹んでいます.

黄色の丸いマークはドラッグして動かすことができます. このマーク中央部の点における「水位」が右下に表示されます. 波が無いニュートラルな場合,水位は真ん中になります. マークの場所を色々と変えてみて,水位が変化する様子を確認してみてください...

とりあえず上図のように,波が全体的に広がる状態まで待ちます. なんとなく放射状の灰色の線が見えないでしょうか?

上の図は,「波が強め合う場所」を赤いラインでつないだ線と, 「波が弱め合う場所」を青いラインでつないだ線を書いています. これは,実際に黄色いマークをその場所へドラッグすれば確認できます. 「水位の変化が激しい」ということは波の振幅が大きくなっています. 逆に,「水位の変化が無い」ということは,その場所では波が消滅していることを示します.

この実験のように,2重スリットを通った波は綺麗な(?)模様をつくることが知られています. これを「干渉模様」と呼んだりします. 波が強め合うラインは「明線」,波が弱め合うラインは「暗線」と呼ばれます. また,波が最後にぶつかる一番奥の壁」を見ると, 「波がある場所」と「波が消滅する場所」が交互に並んでいる ことが分かります...


では,上のflashと同じ実験を「光」でやったらどうなるでしょうか... 光を非常に狭い幅の2重スリットを通すと,後ろに置いたスクリーンに明るい線と暗い線が交互に現れます. これは,flash上で行った実験と全く同じものとして説明できます. そんなわけで,やはり光も「波動」として2重スリットを通った後に回折して干渉するんだ・・・ということが確認されたのでした. 「明線」とか「暗線」という名称の由来は,光でこの干渉実験をした時のイメージから来ているようです.

この「光を2重スリットに通す実験」は1800年ごろにヤングさんという人がやったわけですが, 当時までは光が粒子なのか波動なのかで意見が分かれていたようです. そんな時代に行われたこの実験では,「回折」「干渉」という 波の特徴が出まくっているわけで,「光は波だ」ということを証明する結果となりました. 非常にインパクトのある実験ということになっています.

( 更にこの実験から100年ほど後に,前ページの光電効果の実験から「光の粒子性」も確認されました. そんな流れで,現在は「光は波動であり,粒子でもある」という解釈が一般的になっています. なんだか不思議な話ですが実験結果がどうしてもそうなっているので, しょうがない(?)感じです. )

もう少し光の話が続きます

結局,ここまでの話は「光には粒子性と波動性がある」という事に尽きます. 言いたいのはそれだけなのですが, 最後のダメ押しということで次ページでは「コンプトン効果」の話に行きます. この実験も,それなりにインパクトがある物ということになっています...




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