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光電効果

光を当てると電子が飛び出す

前ページ では,「エネルギー量子: “E = hν”」というのがエネルギーの最小単位だという 「量子仮説」というのが出てきました.これを証明する話として有名なのが 「光電効果」に対する解釈の話です.

まだ電子そのものが主役というわけではありませんが, 量子力学への前フリという感じになります.

金属の表面に光を当てると,表面から電子が飛び出します. これは「光電効果」(photoelectric effect)と呼ばれるもので, 量子力学が出てくる前から知られている現象でした. おそらく金属内の自由電子が光のエネルギーを吸収して,外に飛び出すんだろうな・・・ というイメージは湧きます. しかし,現象そのものは知られていても, 「当てる光と出てくる電子数の関係」を正しく説明することはできていなかったそうです.

上図のような実験系は,「色々な光を当てた時,どのくらい電子が出てくるのか?」 ということを調べるためによく使われるものです. 向かい合わせた金属板の片方に光を当てて,金属板から飛び出た電子がぐるっと回路を1周するようにしてあります. 「流れていく電子の数」を測定したいので,単純に電流計で測ります.

とりあえず,実験系を模擬して作ったflashで遊んでみます.何も考えず,適当に...



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では,これ以降で「光電効果の実験結果」というやつを1つ1つ整理していきます.

1.光の振幅(光の強さ)だけを変えた場合

まず,「振動数」を十分小さくした状態で,「光の振幅」だけを変化させてみます. 光の振幅は「光の強さ」,もしくは「まぶしさ」に対応しています. 実際に実験してみると, 振動数が小さい場合は,光の強さをどんなに大きくしても電子は出てきません. そんなわけで,電子が出る・出ないは「光の振幅」とは関係ないことになります.

2.光の振動数νだけを変えた場合

今度は,「振幅」を十分小さくした状態で,「振動数」だけを変化させてみます. すると,「ある振動数を超えると電子が出てくる」ということが分かります. さらに,振動数が大きいほど「出てくる電子のスピード(運動エネルギー)が大きい」 ということも確認できます.

これは,前ページで出てきたプランクの量子仮説

を意識すれば,振動数(ν)が大きいほど電子に与えるエネルギーも大きくなるからだろうな・・・と, なんとなく納得できます. しかし,初めて光電効果が確認されたのは1839年くらいです. これに対してプランクの量子仮説は1900年のことなので,光電効果が発見された当時は何が起こっているのかよく 理解できないという状態でした...

3.振幅と振動数を両方変化させた場合

では,電子が出てくる程度の適当な「振動数」に設定した上で, 「振幅」を色々と変化させてみます. すると, 「振幅が大きいほど出てくる電子の量が増える」 ということが確認できると思います.

さて,ここまでの実験結果というのは実際に何度も確認されてきた話なのですが, 妥当な解釈は与えられていませんでした. これに対して,「エネルギー量子」の考え方を使って説明を立てたのがアインシュタインさんという人です.

アインシュタインの光量子仮説

「光電効果」に関する実験事実として知られているものを整理しておきます.

  1. 光の振動数を大きくしていくと,ある値以上で電子が出てくる.
  2. 振動数が大きいほど,出てくる電子のスピード(運動エネルギー)が大きくなる.
  3. 振幅が大きいほど,出てくる電子の数が増える.

普段の感覚からすると光は「波動」(波)です. よって,振幅を大きくすれば電子に与えるエネルギーが増えそうな気がしますし, 小さい振動数の光でもエネルギー的に“無効”になる事はありません. それまで知られていた光の性質では光電効果は全く説明がつきませんでした...

これらの実験結果に対して,アインシュタインさんは 「光はエネルギー E=hν を持った“粒子”だ」と考えれば筋が通ると言いました(1905年).

光源から光波という波動が出ているイメージではなく, 光源から出てくるのは「光子(photon)」というツブだと考えたのです. 1つ1つのツブ(光子)は,E=hνだけのエネルギーを持っています.

光の強さ,これまで「振幅の大きさ」としてイメージしてたものは, 「光子の数」に対応します. 光子の数は必ず「1つ,2つ・・・」と数えられる 整数になので,光全体のエネルギーも必ず E=hνの整数倍になっているはずです. この辺の話は,プランクの量子仮説と同じ結論になります. 1粒1粒数えられる「光子」が集まって光ができているんだ,というアインシュタインさんの仮説は 「光量子仮説」と呼ばれています.光量子というのは,光子のことです. もともと“photon”(フォトン)は“light quantum”(ライト・カンタム)と呼ばれていました. light quantumを直訳して,「光量子」です.

光量子仮説で光電効果を解釈する

では,「光量子仮説」に従って光電効果の実験を説明してみます.

1.光の振動数を大きくしていくと,ある値以上で電子が出てくる.

物質(金属など)の中から電子が出てくるためには, 電子を切り離すためにそこそこ大きなエネルギーを与える必要があります. 光子がE=hνというエネルギーを持ったツブだとすると, このエネルギーが電子を物体から切り離すエネルギーより小さい時は,どんなに長い時間光を当てても電子は出てきません. 逆に,電子を切り離すエネルギーより大きければいつでも電子は出てきます.


2.振動数が大きいほど,出てくる電子のスピード(運動エネルギー)が大きくなる.

光子が持つエネルギーが十分大きい時の話です. 光子が持っているエネルギーの一部は,電子を切り離すために使われます. それでもエネルギーが余った場合,その分のエネルギーは電子の運動エネルギーになると考えます. そうすると,振動数が大きいほど電子が勢いよく出てくる事を説明できます. 結局,光子のエネルギーは全て電子に移る感じです.


3.振幅が大きいほど,出てくる電子の数が増える.

「光の振幅」は「光子の数」に対応していました. 振幅が大きい光を金属に当てるということは, 1つ1つがE=hνのエネルギーを持っている光子を大量にぶつけてやるイメージになります. 1つ1つの光子は電子にエネルギーを与えて電子をふっ飛ばすので, 当然,光子の数が多いほど出てくる電子の数も多くなります.


・・・ということで, 光子というツブをイメージすると光電効果の実験をそれっぽく説明することができます. しかし, 前ページ で出てきたプランクの仮説,E = hν を直接証明することは未だできていません. そこで,電子が飛ぶ方向に対して逆向きに電圧を印加する実験が考案されました...

エネルギー量子E = hνの確認

エネルギー量子仮説の大事な所は,「プランク定数hを使って,エネルギーは E = hνとして表せる」 ・・・ということでした. これを証明するために,飛び出した電子に外部電界でブレーキをかける実験が考案されました.

冒頭のflashで「逆方向電圧」というスライドバーを動かして,電子にブレーキをかけてみます.

飛び出した電子のスピードは金属板に当てる光の振動数によって違うわけですが, とりあえず振動数のスライドバーを一番上にした状態を考えます. 電子はかなり速く飛び出して,そのまま向かい側の電極へ入って行きます. この状態だと「電流が流れる」わけですが, 逆方向電圧を徐々に増していくと電子の動きは遅くなるため,電流の値は小さくなっていきます. さらに逆方向電流を大きくすると,電子は電極にたどり着く前に失速し,バックし始めます. 電子はバックした後にそのまま元の電極へ戻ります. 光が当たらない側の金属板からは電子は飛び出さないため,結局電流はゼロになります.

この,「電流が止まった時」について考えます.

電子が飛び出す最小の振動数をν0とします. hν0のエネルギーの全ては,電子を原子核から切り離すために使われます. すると,ν0以上の適当な振動数νの光を当てた時の電子の運動エネルギーは,

ということになります. これに対して,ある電圧Vで減速される時に電子がされる仕事は,

となります.実際,電界の方向は電子が進む方向と逆なので,電子はエネルギーをどんどん失う形になります. そして,ちょうど電流がストップする時には電子が最初に持っていた運動エネルギーと 電界からの仕事がつり合い,

が成り立っているはずです. つまり, 逆方向電圧をどんどん大きくしていって「電流が止まる瞬間」の電圧を見れば, 電子の運動エネルギーを測定できる ということになります.

こんな感じで電子を電圧Vで加速・減速した時のエネルギーを考える事はよくあるので, そのまま“eV”(エレクトロン・ボルト)という単位がエネルギーの単位として採用される時もあります. 普通にジュールで考えたいときは,定義から以下のように計算できます. (電場のエネルギーに関する話は電場とポテンシャルの所で軽く説明しています.)

金属板に当てる光の振動数を色々と変化させて, それぞれの振動数において電流が止まる電圧「V0」を測定すると,下図のような結果が得られます.

上図右の「エネルギー - 振動数」のグラフの傾きは, E = hνの関係が正しければ,プランク定数hと値が一致するはずです. そして実際,この実験から得られたプランク定数hの値は, 前ページで出てきたプランクさんの黒体放射の話から求められたプランク定数とよく一致し, 互いに妥当性を証明する結果となりました.

この実験は,アインシュタインさんの光量子仮説が出された後の1916年にミリカンさんという人が考案したものだそうです...

粒子と波動の二重性

では結局のところ,「光とは何なの?」という話になります.

日常的な感覚からして,光は普通に「波動としての性質」を示すことが分かっています. しかし,今回の光子の話のような,「1粒,2粒・・・」と数えられるような 「粒子としての性質」 も示しています. これに対する解釈としては,現在のところ「光は粒子でもあり,波動でもある」という「粒子・波動の二重性」 のイメージで捉えられています. 正直,簡単には受け入れがたい話ですが,実験結果から考えるとこれ以外に考えられないという感触です. 不思議ですよね・・・.

次ページでは,改めて「波動の性質」について触れます. これまで普通に「波動」と言っていましたが,波動の性質に関わる話は今後もたくさん出てくるので, 高校物理で習う程度の話を先に復習としてまとめておきます.




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