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電場とポテンシャル

電子にはたらく力を考えたい

前ページでは, 「伝導電子はどこから来るのか?」という疑問から 金属中の電気伝導についてざっくりと見てきました.

今回は,伝導電子が原子核から受ける力について,電磁気学の土台に乗せて簡単に考えてみます.

内容としては高校物理の復習という感じで,電場とかポテンシャル(電位)などの話です. 半導体について考える時に必ず出てくる「バンド図」というのがありますが. 今回はその辺につながる前振りということで...

クーロン力

電磁気学では,最初は「プラスの電荷」をメインに考えるのでした. 「電流として流れるのは電子なんだから,マイナスの電荷がメインでは?」と思うところですが, 純粋に「電気的にはたらく力」を考える話の流れではどんな教科書でも最初はプラスの電荷をメインに考えます. やっぱり「プラス」のほうが素直だからでしょうか・・・? とりあえず,プラスの電荷同士に働く力から始めます.

↓1度クリックしてアクティブにしてから,左上の+電荷をドラッグしてください.

中央の電荷は固定されています,動かせません. オレンジ色の矢印(ベクトル)は,「各場所ごとに働く力の向きと大きさ」を示しています. 各場所ごとにオレンジ色の矢印の向きや長さが色々と変化することに注目してください. とりあえず,上のflashは「プラスとプラスの電荷が反発して動く」という,それだけの話です. 力の向きは常に反発する方向で,2つの電荷が近いほど力は大きくなります.

これを定量的に(具体的な数で)表現したのが,おなじみ「クーロンの法則」というやつでした.

電荷どうしに働く力は距離(r)の2乗に反比例します.逆二乗則ってやつです. ただの反比例ではなく逆二乗則なので,少し距離をとるとガクっと力が弱まるイメージです. また,力の大きさがそれぞれの電荷の大きさ(Q1,Q2)に比例するというのは,直感的に分かりやすいと思います. この力の「大きさ」は,上のflashの矢印の「長さ」に対応しています. “k”はただの比例定数で,だいたい9×109 (N・m2・C-2)という値です.


(比例定数の“k”についてですが,これは「クーロン」という電気量の決め方に由来してます. もし,このクーロンの法則をもとにして「1クーロン」を決めるならば, 「2つの同じ電荷を1メートルの距離に置いて1ニュートンの力がはたらく時,その電気量を1クーロンとする」 といった具合にすれば比例定数が無い簡単な式で済みます. しかし,「1クーロン」の定義は電流の話から来ています. そもそもは「電流同士に働く力の大きさ」から「1アンペア」が決まり, 「1アンペアの電流を1秒間流した時のトータルの電気量」として「1クーロン」が決められています. 「電流間にはたらく力」という話に関しては,ローレンツ力とかビオ・サバールの法則だとか,電磁気学を一巡りする必要があるので ここでは省略します. とりあえず,kはただの比例定数だということで... )

電場

今までの説明では,「中央のプラス電荷からもう1つの電荷へ力がはたらいている」というイメージで進めてきましたが, この状態を別の見方で考えます. 「電場」というやつです.

空間の中央に電荷を置いた事によって,「この空間全体が電荷を動かす性質を持った」と考えるのが 「電場」(もしくは「電界」)の考え方です. 動く電子は単にプラスの電荷と反発しているだけですが,それを「空間から力を受ける」みたいに考えてしまいます. その場所ごとに電場から力を受けるという感じです. こう考えることで,動かす電荷だけに意識を集中することができます. 電場の中で電荷が受ける力の向きは「電気力線」という矢印で表すのでした. プラスの電荷同士は常に反発するので,これを電気力線で表すと「プラスの電荷から全ての方向へ矢印が出ていく」という 感じになります.

身の回りの物が下に落ちるのは「重力」があるからですが,これは地球上に「重力の場(重力場)があるから」と考えることもできます. 重力場の中では全ての物は下向きに力を受けていますが, 普通は単に「その辺にあるものは常に下向きの力を受ける」と,まるで空間そのものに作用があるように捉えている感覚があると思います. 電場も同じようなもので電荷が勝手に動く空間なんだ・・・ というのが,教科書なんかによくある説明です.

「電場」の考え方を意識すると,クーロンの法則は上のような見方になります. 固定している電荷(電場を作る電荷)をQ1,動く電荷をQ2とすると, Q2は電荷Q1から力を受けるのではなく,電場Eから力を受けるという感じです. “E(r)”と書いているのは,電場Eの大きさがr(中心電荷Q1からの距離)によって変わるので, 「Eは位置rの関数」という事を明示するためです. 今回は電場の大きさが場所によって変わりますが,どの場所でも同じ大きさの「一様電場」というのもあります.


とりあえず,ある電荷に働く力の大きさは「電場の大きさ×電荷の電気量」ということで.

ポテンシャル(電位)

ここからは,電場の中で「高さ」みたいなものをイメージしようという話になります. 「電位」(もしくはポテンシャル)というやつです.

最初のflashでプラスの電荷が反発して離れていく様子は, 「中央の電荷を山頂とした山」の斜面を落ちていくように見ることができます. 下り坂の傾斜が急なほど速く動き,傾斜が緩いとゆっくり動きます. この「高い所から低い所へ落ちていく(勝手に動く)」という事について, もう少し詰めて考えます...



普段使う「高い」とか「低い」という言葉は,「位置エネルギー」の大小の話になります. 重力場の場合は位置エネルギーが大きい場所を「高い」と言いますが, 電場の場合もやはり同じイメージで行けそうです. そんなわけで,まずは電場中の位置エネルギーを計算してみることにします.




位置エネルギーは,その場所まで動かすためにした「仕事」の合計のことでした. 仕事(U)は「動かすためにかけた力(F) × 距離(r)」というのが定義ですが, 「動かすために必要な力」が場所ごとに変化する場合は下式のように積分で表すのでした.

たとえば,質量が“m”の物体に働く重力は“mg”なので, それを高さ“h”まで持ち上げる仕事は“mgh”のようになります. 重力の場合はどの場所でも「mg」という一定の力がかかっているので計算が簡単ですが, 電場の場合は場所ごとに力の大きさが変わるので少々面倒です. 電場の中の位置エネルギーを計算するには下式のようにするのでした.

ここで,「動かすためにかける力(F)」が“-E・Q”とマイナス付きになっているのは, 「電場に逆らって」動かすからです.

電場から受ける力は,電場を作る電荷Q0から離れる方向を向いています. これは,距離r(この場合は座標のように考えます)の「正の向き」ということになります. この電場の力に逆らって動かすので,向きとしてはrが減る方向,「負の向き」ということになります. そんなわけで,マイナスを付けて“-E・Q”の力を外部から与える・・・という感じになります. では,電場中の位置エネルギーについて計算を進めてみます.

上の式では動かす方の電荷を“Q”,固定されている電荷(電場を作る電荷)を“Q0”という名前にしました. 位置エネルギーはrに反比例する形になりましたが,これは「電場を作っている電荷に近いほど“高い場所”」という イメージに合っています.




「電場中の位置エネルギー」を計算できたので,例のごとく重力場と比べてみます. 重力場中では,質量“m”の物体が高さ“h”の場所で持つ位置エネルギーは“mgh”でした. 当然,同じ高さ“h”であっても“m”が重いほどその位置エネルギーは大きくなります. 「質量m」「高さh」は別々のイメージとして分離されています. こんな具合に,電場中の位置エネルギーについても, 「動く電荷の持つ電気量Q」「電場中の高さ(のようなもの)」のかけ算だと見るようにしてみます.

・・・ということで,上の式のように「位置エネルギーU」は, 「rの関数“φ(r”)」「電気量“Q”」のかけ算になっています. この“φ(r)”は位置エネルギーを計算する上で「電場中の高さのようなもの」という感じの量で, 「電位」もしくは「ポテンシャル(potential)」と呼ばれるものです. (φはファイと読みます.)


ここまでは説明の流れの都合で,「位置エネルギー」を通して「電場」と「ポテンシャル」の関係を繋いできました. しかし,ポテンシャルφ(r)は電場E(r)から直接計算で導くことができます. ポテンシャルは「1クーロンの電荷が持つ位置エネルギー」,電場は「1クーロンの電荷が受ける力」なので, 単純に 「電場E(r)と逆向きの力を距離rで積分すればポテンシャルφ(r)になる」 ということになります. (式の形としては,2つ前の式の両辺からQを除いた感じです.)

そんなこんなで,ここまで考えてきた「点電荷が作るポテンシャル」を図示すると下のようになります.

上の図のような,縦軸にポテンシャル,横軸に位置を書いたグラフは「電場中の地形図」という感じになります. 半導体の話を進める中でよく出てきます. 「ポテンシャル分布」とか呼ばれることもあります.



位置エネルギーの「基準」

とりあえず,ここまでの話で出てきた「電場」と「ポテンシャル」について, そのイメージを下のflashで確認してみます.



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上のflashでは,電場中の電荷を動かすとポテンシャル中の電荷も連動して動きます. ポテンシャル中の電荷はドラッグできません...

ここでは,「位置エネルギーの基準」について考えてみます. 重力場の「高さ」のイメージでは,一番低い所を基準にします. 「海抜高度」とか言うように,普通は海面を基準にしています. 海面が「高さゼロ」とういことになります. では,電場の場合はどうか・・・?と考えると, 「一番位置エネルギーが小さい場所」は上のflashでも確認できる通り,中央の電荷から遠くに離れた所になっています. すると,完全に「位置エネルギーがゼロ」になる場所というのは,どんどん電荷を離していって 無限大の距離(無限遠)まで引き離した時ではないかと予想できます.

また,ポテンシャルは「1クーロンの電荷が持つ位置エネルギーの値」ということだったので, ポテンシャルも同様に無限遠を基準にした方がよさそうです. これは,次の式で簡単に確認できます.

そんなわけで,位置エネルギー(ポテンシャル)の基準は「無限遠」とするのが定番ということになっています.

電場(電子から見た場合)

ここまでで一通り電場とポテンシャルについての話が終わったので, ようやく本題の「電子」をメインに据えた話に進みます.



↓1度クリックしてアクティブにしてから,電子をドラッグしてください.



まずは電場の話ですが,上のflashの通り, 単純にこれまで出てきた「動く方の電荷」のプラスとマイナスを入れ替えただけです. 電荷に働く力は,クーロンの法則に「-Q」を代入するだけで,以下のようになります.

力に「マイナス」が付いているのは,例によって「方向」を表していることになります. プラスの場合は「反発する力」ということ(rが増える方向に力が働く)でした. 今回は力にマイナスがついているので,「引きあう力」ということになります. 「プラスの電荷とマイナスの電荷は引きあう」という当然の結果が出てきます.

電場については,別に動かないプラスの電荷(Q0)が電場を作ることは同じなので変化はありません... くどいですが,式で書くと次のようになります.

結局,プラスの電荷を主役としてこれまでの話を組み立ててしまったので, 「マイナスの電荷が受ける力は電場の向きと逆向き」という事になっています. 当然,電気力線の向きに対しても逆向きの力を受けます. いずれにせよ,電場から受ける「力の大きさ」に関しては「電場の大きさ×電荷の大きさ」で計算できるということで.

ポテンシャル(電子から見た場合)

次は,「電子のポテンシャル」(マイナスの電荷のポテンシャル)について考えてみます.

ポテンシャルは,そもそも「位置エネルギー = ポテンシャル × 電気量」という形から取り出したものでした. とりあえずマイナス電荷の位置エネルギーを計算してみます.

・・・ということで,素直に計算すると「位置エネルギーが負」ということになります. これは先ほど「位置エネルギーの基準」を「無限遠」に決めてしまった事から由来します. 位置エネルギーの基準(原点)が無限遠なので, 無限遠での位置エネルギーの値が「ゼロ」だということになります(下図).

上図の通り,マイナスの電荷の場合は「電荷に逆らって動く向き」というのは, 中心のプラス電荷から引き離す向き(位置rを大きくする向き)です. 逆に,「プラス電荷に近づく向き」にはマイナス電荷は勝手に動くので, rが小さいほど位置エネルギーは小さくなっていきます. すると,元から「rが無限大」の場所をポテンシャルの原点としてしまったので, 全ての(有限の領域の)座標rにおいては「位置エネルギーが負」になってしまった,という話です. なんというか,マイナスのエネルギーと聞くと変な感じがしますが, 数学的な処理上の話なので,とりあえず受け入れておきます.

ポテンシャルの話に戻ります. 先ほど位置エネルギーを計算していたので, 「位置エネルギー = ポテンシャル × 電荷」の関係をくくり出すと,

・・・ということで,当然ですがポテンシャル自体は何も変わりません. プラスの電荷が作る電場やポテンシャル分布が,相手の電荷のプラス・マイナスによって変化するはずがありません. それは良いのですが,ここからが問題です. プラスの電荷が作るポテンシャル分布中を,電子(マイナスの電荷)がどのように動くか図示してみます. かなり分かりづらい感じになります...

電子の動きをポテンシャル図の上で書くと上図のようになります. マイナスの電荷はプラスの電荷に引きつけられるように動くので, ポテンシャルのカーブを「上る」ように動くことになります. プラスの電荷をメインにしてポテンシャル等を考えてきたので然りという感じですが, これだと,せっかく「高さ」をイメージするためのポテンシャル分布図が意味を為さなくなります... 特に,半導体屋さんの興味は電流を担う「電子」にあるので,このままだと何の御利益もありません. そんなわけで,半導体の教科書では電子がメインであることを前提として, ポテンシャル図の上下をひっくり返して書くことが多いです. あくまでグラフの書き方を変更するだけで,数式の上では何も変わりません.

そんなわけで,電子から見た電場とポテンシャルを表現したのが以下のflashです. 今後は特に断らない限り,ポテンシャルは上下をひっくり返して書きます.


↓1度クリックしてアクティブにしてから,電場(実空間)の電子をドラッグしてください.



普通,「ポテンシャル図」として書かれるポテンシャルは1次元上の電場と対応しています (“r”の軸が1本しか無いので). 上のflashでは,電場の形の対称性を利用して, 無理やり2次平面上の電場を1次元向きのポテンシャル図に対応付けています. 2次元平面上の電場に対応するようなポテンシャルの絵を書くと,下図のような感じになります.

こんな形のポテンシャルを, 「クーロン・ポテンシャル」とか呼びます. 要は1つのプラス電荷がつくるポテンシャルの形です. 穴です.


電流とポテンシャル

前に, 電流について のところで出てきた電池の役割について,ポテンシャルをイメージしながら考えてみます.


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電子から見て,電池のプラス極というのは「ポテンシャルが低い場所」です. 電源を何か物質(金属など)につなぐと,プラス極側につないだ部分のポテンシャルが下がります. 電源の出力電圧を上げると,より多くポテンシャルが下がることになり, ポテンシャルの傾きが急になります.すると,電子が流れる速さが大きくなり,結果として電流が増える・・・という感じです.

ポテンシャルを考える時,その場所ごとのポテンシャルよりも, 2点間のポテンシャルの差を気にすることが多いです. 2点間の電位差(ポテンシャル差)のことを「電圧」(voltage)と呼ぶのでした. 単位はボルト(V)です.

大抵は,「2点間」と言っても片方をポテンシャルがゼロの場所に固定します. クーロン・ポテンシャルの場合は無限遠ですし,電源の場合はマイナス極です. 地球の表面(地面)は電気的に中性になっていて, 電位としてはゼロになっていると考えられています. 電源のマイナス極は,地面とだいたい同じ電位(ゼロ)だということで,“Ground”を略して“GND”と呼んだりします. たとえば,精密な測定器を複数使う現場では,全てのマイナス極を束ねて地面へ接地(アース)します. 複数の測定器で測定する電圧の基準を揃えて,精度を上げるためです.


また,ポテンシャル差がある2点間を電子が落ちていくと,電子は加速されることになります. 加速されるということは必ず運動エネルギーを得るわけですが, 電子1個分の電荷e(だいたい e = 1.6×10-19 Cです)が1 Vの電位差を落ちる時に得るエネルギーをそのまま 「1 eV」と書いて表します(電荷×ポテンシャル = エネルギー). “eV”という単位は「エレクトロン・ボルト」と読みます. エネルギーの単位なら普通にJ(ジュール)を使って「1 eV = 1.6×10-19 J」としても良いのですが, 1つ1つの電子のエネルギーを考えるときはeVを使う方が便利なので,しばしば使われます. イオン加速装置なんかを使う時は「keV」(キロ・エレクトロンボルト)オーダーの加速電圧を使ったりします. keVはそのまま言うと長くて言いづらいので,略して「ケブ」とか呼びます.


原子の中のポテンシャル

さて,ようやく前ページの話題に戻ります.

前ページで「電子を入れるコップ」と書いていた物は, クーロン・ポテンシャルそのものです (後からコップみたいな形だと思ったので,コップという事にしました). 原子核が作るクーロン・ポテンシャルは,電子を閉じ込めて外へ出ていかないようにする働きをしています. また,「上」と書いていた軸は,ポテンシャルのイメージで書いていました.

ここまでの考え方だと,「クーロン・ポテンシャル」があれば, 電子はそのポテンシャルの形に従って下へ落ちていく(原子核にくっつく)はずです. しかし実際の原子では,電子は原子核へ落ちていくことなく原子核の周りに存在します. 更に不思議なことに,電子の居場所は自由でも良いはずなのに, 「K殻」や「L殻」などのように,電子は飛び飛びのポテンシャルにしか居ません.

この辺の疑問を解決するには,「量子力学」というやつが必要です. そんなわけで,次は量子力学について話を進めます.

とりあえず次ページでは,ここまでの前フリの内容をまとめておきます.




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