トップページ > トランジスタ入門 > 前フリ(5)

電流について

電子というものがあるらしい

前ページでは抵抗率の話から, 「そもそも電流の量は何によって変わるのか?」ということが気になったのでした.

「電流」については,たしか高校物理である程度まともに(定量的に)習ったかと思います. 最初に 「電子というマイナスの電気を持った“ツブ”があるらしい」 と言われてから話が始まるのでした. 本当にそうなの?という話は,とりあえず今は置いておきます.

金属にせよ,半導体にせよ,様々な物質の中にはこの電子がたくさん入っています. そして物質の両端に電源を繋ぐとたくさんの電子が動くそうで,それが「電流」だと説明されます. 「ツブが動く」というイメージは直感的にわかりやすいので, この考え方は電子そのものが発見されるよりも昔からあったらしいです. 細かい事はよく分かっていない時代なので,「なんとなくそんな感じ」で済まされていたようです.

電流は,言わずもがな,「電源の+極から−極へ向かって流れる」ということになっています. ところが実際に動く電子は電流とは逆向きに動きます. これは単純に,マイナスの電荷を持っている電子は電池のプラス極に引きつけられるように動くからです.

(「電子」が実際に発見される前までは,電流を担っているのは「プラスの電荷」だと思われていました. 確かに,そのほうが考え方としては素直です. ところが,後になってから物質の中で「動く」のはマイナスの電荷を持っている電子だと分かりました. そんな歴史の流れがあるので,今となっては「電流の向き」と「電子の動く向き」は逆になっています. これのおかげで今後の話が若干ややこしくなったりするのですが,とりあえず「電子が主役だ」ということで話を勧めます. )

 

電源の役割

くどいようですが,物質の中には「たくさんの電子」が入っています. 電源はその電子を「動かす」働きしかありません. 流れるプールのイメージで言えば,水(電子)がたくさん入っているプールという容器(物質)において, 水をかき回すポンプが「電源」という感じです.
(子供の頃に「電池が切れる」という表現を聞いて,電池というのは電子のタンクで, 電子を生み出す装置みたいなものなんだろうな・・・という勘違いをしていました. 電池が切れるのは,「電子を汲み上げる力を失う」という感じに近いです...)

何が「電流の大きさ」を決めるのか?

何が「電流の大小」を決めるのか?という疑問を解決するためには, 「物質の中身」について詳しく見ていく必要があります. ここでは,小難しい話は後回しにして,非常に簡単な(テキトーな)モデルを使ってなんとなくイメージだけを作ることにします. とりあえず何も考えずに下のflashのスライドバーを色々動かして遊んでみてください...

↓1度クリックしてアクティブにしてから,スライドバーを動かしてください.

まず,動き回っている青い球が「電子」です.動かない大きな赤い球は「原子核」のようなものです. 「電圧」のスライドバーを動かすと電源の出力電圧が変わります. 「電子密度」のスライドバーを動かすと,電子の数が変わります. 今回は物質の大きさ(枠の大きさ)が固定なので,「密度」という表現にしています. 「原子密度」のスライドバーを動かすと,原子の数が変わります.これも電子と同様に密度という表記にしています.

電子は左側から入ってきて,原子核に何回かぶつかった後に左側へ出ていきます. この, 「ある一定時間(たとえば“1秒間”とか)に流れ出ていく電子の数」 が「電流の大きさ」ということになっています. では,上のflashで動かせる3つのスライドバーごとに,パラメータを変化させた時の様子を考えてみます.


 ・電圧

電源の電圧を大きくすると電子を右側へ動かす力が大きくなります. これに伴い電子のスピードも速くなり,電流の量は増えます. ここで,今考えているのは「物質ごとに抵抗率が違う理由は何?」という事ですが, 「電源電圧が大きいほどたくさん電流が流れる」というのはどんな物質でも同じことです. そんなわけで,これまでの疑問を言い直すと 「同じ電圧を印加していても,流れる電流が物質ごとに違う理由は何?」 という感じになります. (電子のスピードと言えば「移動度」とか「有効質量」の話もあったりしますが,それは導体と半導体の大きな違いとは関係ないので今は置いておきます...)


 ・電子の数

次に,電子の数についてです. 電流は「1秒間に流れ出る電子の量」なので,電子そのものの数が増えれば電流が増えます. この「電流に関わる電子の数」は,物質によって全然違います. そんなわけで,物質の抵抗値を決めている要因の1つはこの「電子の数」です. (MOSFETは,この電子の数を変化させてスイッチをON・OFFするというのが原理になっています.)


 ・原子の数(障害物の数)

最後に,原子の数について考えます. このモデルでは,電子は原子にぶつかってはね返されます.これを「電子が散乱される」と言うらしいです. ある電子が散乱されると,それだけ左側へ到達するまでの時間がかかってしまうので,電流の量は減ってしまいます. この「電子を散乱するモノ」の数も物質によって違いがあるので,これも物質ごとの抵抗率を決める要因になっています.

実は,電子が実際にぶつかるのは原子核ではありません... ここでは詳しく触れませんが「正確ではない」ということだけ書いておきます. それにも関らず,どうしてこのモデルが色々な説明に出てくるのか?といえば, 「電子が何かモノにぶつかりながら(散乱されながら)流れていく」 ということ自体は間違っていないからです. このモデルだけでも,おなじみ「オームの法則」を導くことができたりします.

ここまでのまとめ

さて,そもそもの疑問は,「導体」や「半導体」の抵抗率の違いは何が原因なの?ということでした. そして,同じ電圧を印加した時でも流れる電流が異なる原因として,以下の2つが出てきたのでした.

ここで,前ページで出ていた抵抗率の表を思い出してみます.

物質の抵抗率は,その種類によって何ケタも変わっています. 10倍,100倍の世界ではありません,8ケタ(1億倍)以上大きく変わっています. これはものすごいことで,ここまでケタで変わる量というのは滅多にありません. では,「電子密度」と「原子密度」,どちらが物質によって全然違った量になり得るのか・・・? ということをイメージしてみます.

物質は原子の集まりです. 物の「重さ(重量密度)」は原子の重さや密度で決まりますが, 多少の重さの違いはあってもケタ違いの差はありません. 軽い物質と重い物質を比べて,「密度が1億倍以上も違う!」なんてのはお目にかかったことが無いと思います. すると,物質ごとに異なっているもの,すなわち「導体」・「半導体」・「絶縁体」を分けているものは, 「電子の数」ではないのかなあ・・・?という気持ちになってきます.

新しい疑問

ここまでの話で,電流を流す・流さないを決めるのは「電子の数」だという雰囲気になってきました. しかし,その「電流に関わる電子」というのはどこから来るのか?というのがイマイチよく分かりません. 更に,それが物質によって「ケタ違いに」異なる理由もよく分かりません.

物質は「原子」から構成されています. さらに,1つ1つの原子は「原子核」と「電子」から構成されています. きっと原子について詳しく見ていけば,電気伝導に関わる電子について何か分かるのでは・・・?と思いつつ, 次ページでは「原子」について掘り下げてみます.




前へ  次へ