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半導体とは?

抵抗率の話

前ページ まではトランジスタの機能に関する説明でしたが, ここからはトランジスタの中身について突っ込んでいきます.


その手の本を読んでいると,「トランジスタは半導体デバイスである」とか書いてあります. 子供の頃にそんな本を読んでいた僕は, 半導体というのは謎の“超素敵マテリアル”のような物だと思っていました. 実のところ,半導体はそんな大したものではありません.

まず「導体」と言えば,電気を良く通す物質,金属なんかが思い浮かびます. その反対は「絶縁体」で,ゴムとか木材などのイメージです. では,「半導体」はその中間だから・・・「中途半端な導体」なのか?という印象を受けます. 中途半端に電流を流す物と言えば,「抵抗器」を連想します...

抵抗と言えば,おなじみ「カーボン抵抗」です. カーボン抵抗は名前のとおり,カーボン(炭素)が材料です. 鉛筆の芯などに使われている「黒鉛(グラファイト)」のような物がカーボン抵抗の材料に近いです. 鉛筆の芯には電流が流れますが,もちろん抵抗もあります.しかし,黒鉛はいちおう「導体」の仲間に入ります. カーボン“抵抗”という名前なのに,その材料は導体だと言われると少々違和感があるかもしれません.

どんな材料にも電気抵抗はありますが,テスターなんかで測る「抵抗値」は,当然ですがその物体の寸法によって変わります. 長さを短くすれば抵抗値は小さくなりますし, ものすごく薄っぺらくすれば(電流が通過する断面積を小さくすれば)抵抗値は大きくなります. カーボン抵抗はお店で様々な抵抗値の物が売っていますが,あれはサイズを調整しているだけです. カーボンをものすごく細くしたり,逆にすごく太くしたりして,抵抗値を大きくしたり小さくしたり している感じになっています.

最初に出てきた「導体」・「半導体」・「絶縁体」の区別をつけるためには 「物質ごとに抵抗の大小を比べる」ことが必要になります. しかし,物体の電気抵抗はサイズによって変化してしまいます. それなら「同じサイズの物どうし」を比べればいいだろうということで,そこから「抵抗率」という考え方が出てきます. サイズを揃えるなら一番分かりやすい数字が良いので, 「長さ1m,断面積は1m2」とサイズを決めてしまいます. ある物体の抵抗値を測ったら,その長さLと断面積Aの値を使って「これは長さ1mで断面積1m2に換算したら何オームなんだ?」 ということを計算で求めます.それが抵抗率という値になります.

「導体」・「半導体」・「絶縁体」というのは,単純に抵抗率の大小で分類されています. 抵抗がとても大きければ「絶縁体」,抵抗がとても小さければ「導体」,絶縁体と導体の間の中途半端なのが「半導体」です. 「半導体」というのは抵抗率が中途半端な物質の名前・・・というだけの話で, そこまで深い意味があるわけではありません.

とりあえず頻繁に出てくる半導体の名前として,ケイ素とゲルマニウムがあります. ケイ素(Si: Silicon)は普通「シリコン」とか呼ばれています. 今はゲルマニウムよりシリコンの方がメジャーです. シリコン・トランジスタという名前はお店とかでよく目にするかと思います. そのほかにもV-V族半導体だとか色々ありますが, 今後の解説は全部「シリコン」の話だけで進めていきます.

上の写真はシリコンの結晶です.持ち上げた時の重さや感触は金属に似ています.

半導体の何がすごい?

ここまでの話で「半導体ってのは中途半端な抵抗率の物質のことだ」という説明をしましたが, これだけだと半導体のどこが便利なのかイマイチよく分かりません. ただの抵抗じゃないか,という感じになってしまいます.

半導体の便利なところは,周りの状況によって抵抗率が大きく変化するところです. しかもちょっとやそっとの変化ではなく,抵抗率が何ケタも激しく変化します. そして,その変化というのを周りの温度だとか,印加する電界とか, 混ぜ物(不純物ドーピング,ずっと後で解説します...)なんかによって きちんとコントロールすることができます. その性質を利用して,「電気的にON・OFFできるスイッチ」のような機能を持つトランジスタという部品が生まれました.

半導体についての疑問

ここで,色々と疑問が湧いてきます.



以上の疑問を解決したいというのが,今後のモチベーションになります.
ここで落ちついて考えてみると,「抵抗」という考え方は電流が流れることを前提としています. 抵抗は「電流の流れにくさ」ということでした. すると,「抵抗は何で決まるの?」という疑問は 「電流の量は何で決まるの?」と言いかえることができます. そんなわけで,次ページでは「電流」について詳しく考えることにします.




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