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前フリのまとめ

ここまでの流れ

ここまではトランジスタの動作原理を説明するために使えそうな高校物理・高校化学の知識を整理しましたが, 当然,完全に説明することはできませんでした. それどころか,新しく出てきた「どうして?」という疑問が山積みです. とりあえず,今まで1つ1つの疑問を積み上げてきた流れについて,振り返ってみます.



  トランジスタについて

最初に,トランジスタはどんな部品?の所で, トランジスタの動作をざっくりと解説しました. トランジスタは,「コレクタ」-「エミッタ」間の抵抗値をベース電流で変化させることができる 可変抵抗です.

トランジスタの凄いところは,

・・・ということでした.これらの性質から,トランジスタには「増幅作用」や「スイッチング作用」という 機能が備わっています. どうしてトランジスタにはこんな機能があるのか?という疑問に対して, まずは「半導体」について調べようという流れになります.



  半導体について

もともと「半導体」という言葉は物質の区分けにすぎません. 半導体とは?のページでは, 物質が抵抗率によって「導体」・「半導体」・「絶縁体」に分けられていることを確認しました.

では,電気抵抗とは何で変わるのか?そもそも電流が流れるとはどういう仕組みなのか?という疑問が湧きます. 何にせよ,物質の中身について詳しくしらべていかないと始まりません. そんなわけで,まずは「電流」について考えることになったのでした.



  電流について

電流の流れる仕組みについて,高校物理で出てきたような話から始めて, いまいち分からない点を整理しました. 抵抗率を決める要因,言いかえれば「電流の量を決める要因」として, 電流についての所では以下の3点を取り上げました.

この中で,物質ごとに異なるのは「電子の数」と「障害物の数」です. 実際に電流として動くのは電子なので,電子自体に興味が移ります. そもそも,電流として流れる電子はどこから来るのか?という内容で, 次の「原子や電子に目を向ける」に進むことになります.

また,「電圧」に関しては別に物質ごとの抵抗率とは関係ありませんが, 次の次,「電場とポテンシャル」のところで少々詳しくつっこんだりしました.



  金属中の伝導電子について

原子や電子に目を向けるのところでは, 高校化学のような話がでてきました. 電流として流れる電子(伝導電子)は,物質を構成している原子から出てきます. その仕組みについて,一番簡単な例として「金属の電気伝導」を扱いました. キーワードは以下の3つです.

原子の中身まで意識した上で, そもそもの疑問である「伝導電子の数を決めるものは何か」を考えようとしました. 電子は1つ1つの原子核から引力を受けていますが, 電子が原子核に引きつけられてしまうと電流として流れて行くことができません. そんなわけ,次は「原子核(プラスの電荷)と電子(マイナスの電荷)の間にはたらく力」 について詳しく見ることにしました.



  ポテンシャル

「原子核と電子の間にはたらく電気的な力」を考えるなら,電磁気学の土台に乗せられます. 電場とポテンシャルでは,ごちゃごちゃと高校物理で習う「電場」や「ポテンシャル」の話を 出しましたが,内容としては「電子は原子核に引き寄せられる」という事だけです. 別にポテンシャルという言葉を出す必要はありませんでした. しかし,今後の説明で「ポテンシャル」という言葉を使わないとかなり面倒な事になるので, そのための前フリということでした... 主な内容は以下の3点です.

前の原子や電子に目を向けるのところで出てきたコップのような図は, クーロンポテンシャルを意識したものでした. クーロンポテンシャル中の電子ならば,「放っておけば電子は一番下に落ちる」はずです. しかし,実際の原子では「K殻」や「M殻」などの,中途半端なポテンシャルの所に電子が安定して存在しています. この理由は,高校で習う電磁気学や力学だけではどうしても説明することができません.

そんなわけで, 「どうして電子は原子核へ落ちて行かないの?」 という疑問を残しつつ,次の量子力学の話に進むことになります.

半導体の話に行くまで

最終目標は,「トランジスタの動作原理を知りたい」ということです. そこまで行く道のりについて,ざっくりと見ていきます.

次の図は,トランジスタの動作を理解するために必要な知識をおおざっぱに書いたものです. 「トランジスタの物理」にたどり着くには色々と前知識が必要で, スムーズに話を進めるには一番下の高校物理から順番に理解してどんどん上へ行くことになります.

しかし実際のところ,上の図で灰色になっている部分について僕は大学で習っていません. そもそも大学のカリキュラムにありませんでした. 一応,1年生の時に量子力学をなんとなく習いましたが,その時の記憶は全くありません... その後,電気電子工学科という学科に入りましたが,いきなり授業で半導体の話を聞かされた時は 教授が何を言ってるのかさっぱり分かりませんでした. うちは物理屋ではなく電気屋さんの学科なのでガチガチの物理が必要という感じではないのかもしれませんが, 今振り返ってみると穴だらけだと思います... それでも,なんとなーくトランジスタが分かる・・・という状態で4年生になり,卒業しました.

半導体の理解のベースとなる「固体物理」を知ったのは,大学院に入った後でした. その後,いちおうトランジスタの研究室に入ったし改めて勉強しとくか・・・という気分になり, 固体物理の教科書を読んだりしました. すると,それまで使い道が分からなかった量子力学の話が必要だと気付いたり, 統計力学とかいうものが出てきたり,量子力学の理解に必要な解析力学というものを知ったり・・・という感じで, 今に至ります.

これからの目的は,あくまで「トランジスタの原理を説明すること」です. その上で重要な所をかいつまんで行きたいと思います.別に統計力学や固体物理をガッツリやろう,という事はしません. ただし,適当に省略してしまうと話が飛びすぎて意味がわからなくなるので, 1つ1つのトピックの「話のつながり」には特に気を付けます. また,あくまで電気屋の物理というスタンスなので, 物理的・数学的な厳密さに欠けるかもしれません.ご了承ください...

また,道具としての数学(こんなことを言ったら数学屋さんに怒られそうですが)として, 微積分やフーリエ解析は必要です. また,線形代数や複素解析などは持っていたほうが良いかもしれません. 無くてもその場で軽く解説するように心がけます.

( もし,まだ大学に入っていない,もしくは大学院に入っていない方がここまでの話を読まれた場合, 「いろんな物の性質(物性)を知るには工学部や理学部に入って電気や物理を学べばいいのかな・・・」と 思われるかもしれません. 確かにその通りですし,そういった学科に実際に入りたいと思うかもしれません. しかし,落ちついてください.別に自然科学を理解しているとか,勉強ができるからといって幸せになれるとは限りません. 正直,そんなもんはどーでも(以下略). 理系の大学は,つらい所かも・・・しれません. ただただ教科書にかじりついている事は不毛かも・・・しれません. 趣味として適当に教科書を読むなら,大学からの束縛も受けず自由にできます. 大学や学科の選択は,よく先々のことを考えてから実行してください... 僕はもう血を吐きたくありません. でも,きっと,ガッツがあれば何でもがんばれます.)




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