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マクスウェル方程式

電磁気学の話です

「マクスウェル方程式」ということで,電磁気学の内容を一通り確認します.


前ページでは,光の運動量が “p = E/c”だと分かれば,量子力学でよく出てくる“p = h/λ”を導けるんだという話になりました. この p = E/c という関係は,電磁波(光)の方程式を色々といじると出てきます. この関係式を導こう,というのが今後のモチベーションになります.

とりあえず「電磁波」に関わる式が相手なので,まずは電磁波を数式で表す作業から始める必要がありそうです. そのためには,電磁気学の基礎方程式である「マクスウェル方程式」というやつを使うことになります. まずはざっくりとマクスウェル方程式を眺めることにします...


(※電磁気学は大学で半年〜1年間くらいの期間で教わるものだと思います. マクスウェル方程式というやつは,電磁気学の授業の最後あたりに「まとめ」として出てきたりします. ページを小分けにして丁寧に説明しようとも考えたのですが, とりあえずこの1ページだけで一気にやります.適当な「復習」ということで.)




 

ちょっと長くなりそうなので,インデックスを付けておきます.








 

とりあえず

とりあえず,以下の4式はまとめて 「マクスウェル方程式」(Maxwell's equations)と呼ばれるものです. マクスウェルさんという人(James Clerk Maxwell,1831〜1879)は, それ以前に発見されていた電場や磁場についての性質を色々とまとめたそうです. 電場や磁場の性質は,この4つの式で全て表せるらしいです.すごいですね.

上の式は「微分形のマクスウェル方程式」と呼ばれるものです.

式中の“div”とか“rot”という記号は, 微分の計算に相当します. この書き方だと計算の中身が分からないので, 次の式のように,∇(ナブラ)というやつを使って記述されることもあります.

上の式で使っている∇(ナブラ)は,次のような演算子ということになっています.

初見では,何のためにコレがあるのかよく分かりません... とりあえず,今は見るだけで流します.


微分形に対して,「積分形のマクスウェル方程式」というのもあります. 微分形でも積分形でも,言っている現象自体は同じことです. 高校物理で習うような電磁気の話は,こっちの積分形のイメージに近い感じです.


微分形と積分形を並べて書いてみると,だいたい似たような雰囲気になっています.

積分形はある程度の大きさを持つ「範囲」を相手にしているのに対して, 微分形は空間上のある「一点」に関わるものになっているそうですが, それは後々の説明で... 微分形は慣れないとピンとこない表現かもしれません. しかし,電磁波の方程式を作る時は微分形の式をたくさん使うので,早めに慣れてしまいたいところです.

ここからは,1つ1つの式に関して軽く内容を確認していきます. 先に高校物理で習う話を簡単に復習して積分形のイメージを作り, 次に微分形の式にイメージを結びつけていく・・・という流れでいきます. やたらと数式が出てきますが,1つ1つの話はシンプルです.


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【第1式】電場に関するガウスの法則(積分形)

マクスウェル方程式の1つめは,「電場の性質」についての内容です.

普通,色々な人が興味を持つ対象は「動いている電荷」,つまり電流です. 止まっている電荷に興味を持つ人はあまりいない気がします. では,なぜ電荷が動くのか?と考えると,「電場から力を受けているから」と説明することが多いです. そんなわけで,「電場」について詳しく知ることは,電磁気学の基本中の基本だったりします.


「電場」はトランジスタの電流について考える上でも,避けて通れない内容です. 「場」のイメージにも触れつつ,ちょっと丁寧に進めていきます.

【第1式(積分形) その1】 -電場のイメージ-

まずは,おなじみ 「クーロンの法則」(Coulomb's law) から始めます.

上のクーロンの法則の式は,下図のようなイメージでした.(Q2が力を受けて動く方の電荷だとします.)

「電荷が受ける力の大きさ」は, 「距離の2乗に反比例(1/r2)して,電荷同士の積(Q1Q2)に比例する」 という法則です. “1/4πε0”の部分は次元合わせの係数です.これについては後で掘り下げます. 力を受ける「方向」の意味を付け加えるために,“e”という単位ベクトルをつけている感じになっています.


単位ベクトル e は 距離 r の向きの単位ベクトルなので,次のように表現されることもあります.

突然 “ e ”と言われても分かりづらいので,上の式は親切な表現という感じになります.





次に,「電場」(Electric Field)のイメージの話です. 電場のイメージは,クーロンの法則とは若干違っているのでした. 「遠くの Q1 から力を受ける(遠隔作用)」という感じではなく, 「その地点における電場 E から力を受ける(近接作用)」と考えるのが “電場”のイメージになります. ・・・とはいえ, Q1 が作る電場 E は,次式のように「クーロンの法則からQ2を除いただけの式」になります.

上の電場の式では,「Q2」という相手が居なくなったので, 単に「位置ベクトルrで指定される場所の電場」を表す式ということになります. しかし,まだまだ「距離 r 」が入っていて遠隔作用っぽい感じなので,上の式はあまり嬉しくありません. 「その地点における“場”から力を受けている」という雰囲気をもうちょっと出したくなります. 結局,それが“場”というやつのイメージなので.


そんなわけで,ここからは「電場の様子を表す“電気力線”に着目してみよう」という流れになります.

電気力線の「向き」は,その場所でプラス電荷が受ける「力の向き」を表しています. また,「本数」は, もともと「単位面積あたりの本数(面密度)が電場の強さを表す」という決まりになっています. すなわち,電場 E を別の言い方で表現すれば「電気力線密度」ということになります. なお,ここで言う「単位面積」は,電気力線が貫通する面における単位面積を指します.

電場の強さは電荷に近いほど強くなる,というのは直感的に分かります(クーロンの法則より). 上の図は特に何も考えず,電荷から電気力線が全方向に出ている感じで書いていますが, 電気力線の密度に注目すると,確かに電荷の近くでは電気力線の密度が大きく,逆に電荷から離れた所では密度が小さくなっています. たしかに, 「電気力線の密度は電場の大きさに対応している」ということが実感できます.



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【第1式(積分形) その2】 -電気力線の総本数を数える-

「電場 E 」が生じる原因は「電荷 Q 」です. では,どうやったら原因である「電荷」と,結果である「電場」を結び付けられるのか考えてみます.

くどいですが,「電場 E 」というのは「電気力線の密度」の事なのでした. このことから,「きっと電荷 Q が大きいほど,電気力線の本数も多くなるだろう」 と考えるのは素直な流れだと思います. そんなわけで,とりあえず「電荷 Q から出る電気力線は何本なのか?」ということを考えてみます. もし電気力線の総本数が求まれば,それを適当な面積で割り算することで, その空間における「電気力線の面密度」を求めることができます. つまり,電場 E の大きさが分かるのです.


「電気力線の総本数」を求めるために,次の図のように, 電荷の外側をボールのような容器でぐるっと囲むことをイメージします. いわゆる,「閉曲面で囲む」というやつです.3次元の立体のイメージなので,円ではなく球です.

電気力線の総本数を数えたい時は,「閉曲面を突き抜ける本数を数える」というのが定番です. 電荷をぐるっと囲んでしまえば,他にはどこにも逃げ場がありません. ただし,ここで言っている「突き抜ける」という表現には,ちょっと決まり事があるので注意が必要です.

次の図は,電気力線の1本が閉曲面を貫通する部分を拡大したものです. 閉“”面と言っても, 「非常に小さい部分を拡大して見ればだいたい平面っぽくなる」と考えるのでした. これは微分の話でもおなじみ考え方です. その「小さな平面」に対して電気力線が正面からではなく,ナナメに入ってきた場合を考えます.

この場合,「面を貫く電気力線」としてカウントできるのは 「面に対して垂直な成分のみ」 という決まりになっています. ナナメって入ってくるものに対して, 「実際に効いてくる成分」は正面から入ってくる成分のみ・・・ という考え方は,素直なものだと思います.

これを数式で表さないと話が進まないわけですが,そこで出てくるのが「法線ベクトル“ n ”」というやつです. 法線ベクトル n は,その面に対して垂直で,長さ1の単位ベクトルです. これを用意すれば,“En”と書くことで 「電場のうち,面に垂直な成分」を表現することができます. ベクトルの内積の定義そのまんまです. この「法線ベクトル“n”」というやつは,電磁気学でやたらと出てきます. ベクトルが面を貫通するというシチュエーションが頻出するからだと思います...


では,電気力線の総本数を数えます. 「閉曲面」はどんな形でもいいのですが,ここでは簡単のために「球」で電荷を囲みます. 電場を作るプラス電荷は,都合よく(?)球の中心に置いてしまいます.

この場合,電荷から出る電気力線は球の表面上のどこでも「面に対して垂直に貫通する」ことになります. (円とか球の半径は円周上の接線と必ず垂直になっているので.)


ここで,もういちど電場の式を思い出します.

閉曲面として「球」を選んだ場合,上の式でいう“e”と,法線ベクトル“n”の向きは同じになります. 大きさは両方とも1(単位ベクトル)なので,結局“e”と“n”は同じベクトルだということになります. 普通はこんな綺麗には行かないのですが,今回は球で囲んでいるので色々都合がよくなります...


後は,「電場Eは(単位面積あたりの)電気力線密度を表す」ので, 電場の大きさに閉曲面の表面積をかけ算(内積)してやれば電気力線の総本数が求まります. また,計算では 「球の表面積は 4πr2というやつを使います.

・・・ということで,電場について記述している式から「距離 r 」がいなくなりました. この式が言っている内容は, 「Qクーロンの電荷から出る電気力線の総本数は“Q/ε0本”だ」という感じになっています. これで,「電場に関するガウスの法則(積分形)」の重要な部分はだいたい終わりです. ここからはちょっと細かい話を詰めていきます.



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【第1式(積分形) その3】 -比例定数 k について-

結局,「電気力線の総本数」の式は以下のようになったのですが, やたらと綺麗すぎてちょっと不気味です.

どうしてこんな事になったのか,考えてみます.

そもそも,クーロンの法則に出てくる“k = 1/4πε0”という係数は, この電気力線の総本数の式が綺麗になるように後付け(?)で考えられたものなので,当然といえば当然です. この係数は「電荷量(単位はクーロン)」と「電荷に働く力(単位はニュートン)」を結び付ける係数なのでした. これは実際に力を測定して実験によって決めることになります.(別の方法もあったりします,後述.) また,もともと「1クーロン」という電気量は,別の「電流同士に働く力の実験」を基準にして決められています.

では,どうして係数kの中身を “k = 1/4πε0などと, わざわざ表現し直すのでしょうか. まず1つ目の理由は,くどいですが,「電気力線の総本数の式が綺麗になると嬉しいから」です. 試しに,係数を単純に“k”とした場合の電気力線の総本数の式を見てみます.

なんかゴチャっとした感じになりました.ここで単純に思うのは,「比例定数kを“○×1/4π”の形で表せば上の式は約分できて少し綺麗になるだろう」という事です. “4π”というのはただの数(無次元量)なので,“○”の部分に次元を背負わせれてしまおうという考えです. そもそも“k”の値は実験値なので,“○”の部分は“k”を1/4π倍した適当な定数として(勝手に)決めてしまいます.

もし綺麗に約分できる事だけを求めて係数kを書きかえるならば,“k = A×1/4π”のような形として, 新しい定数“A”を適当に導入してやるのが素直だと感じます. しかし,実際はそうなっていなくて,“k = 1/A×1/4π”という形で,分母に定数がきています (これが“ε0”です). わざわざ“k = 1/A×1/4π”のような形にする意図が気になるところです... 試しに,両方の形で式を書き下してみます.

上の図で,“k = A×1/4π”とした場合(左側)では,電気力線の総本数の式が 「電場Eに球の表面積をかけ算して電気力線の本数を求めると,電場の元の電荷QのA倍になる」という感じになります. 電場Eをそのまま面積分したイメージです. これに対して,“k = 1/A×1/4π”とした場合(右側)では,式の雰囲気は 「電荷Qが出す電気力線の数は,自分が作る電場Eに球の表面積をかけ算した値のA倍になる」となります. こっちは電荷Qの方をいじらずに,電場Eの項の方に手を加える形になります.

結局,電場Eを主体とするか,電荷Qを主体とするかの違いがあります. 当然ですが,「便利な方を選びたい」と思うところです.




いちおう今考えているのは「電気力線の総本数の公式」みたいなやつなので, “公式”というからには様々なシチュエーションに対応できるようにしたいところです. 当然ですが,“電荷Q”はどこにあっても“電荷Q”のままです.増えも減りもしません. しかし,電場Eは周りの状況によって変化してしまいます.

両極端な状況を挙げると, 金属(完全導体)中では電場がゼロになります. 逆に,真空の場合は何も物質が無いということで,電荷Qが作る電場は一番効率よく(?)存在できます. どちらのケースでも,“電荷Q”は同じ大きさです. それならば,“基準”とするのは電荷Qの方が良いのでは・・・?という気分になります. そんなわけで,「電気力線の総本数の式」が“電荷Q”について綺麗に整理できるように係数kをいじることになりました. その結果が,“k = 1/4πε0”という形です. Qについて整理すると,すべて分数は消えて綺麗な形になります.

ここまでの話をまとめます.なぜ“k = 1/4πε0”とするのか,それは

・・・という感じです.



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【第1式(積分形) その4】 -電場に関するガウスの法則-

とりあえず,「電場に関するガウスの法則(積分形)」を完成させる流れに行きます.

ここまでの話で,まずは「電荷QからはQ/ε0本の電気力線が出ている」ことが分かりました.

さらに,これを「電荷Qが主役」という感じに書き直すと次の式になります. (ただε0を移項するだけですが,ちょっと気分が変わります.)

くどいですが,上の式の左辺には「電荷を囲む閉曲“面”にぶつかる電気力線を全て足し合わせる」というイメージ上の操作が含まれています(E・4πr2の部分). この操作は普通,「面積分」という名前で呼ばれます. 数式で表すと,次のようになります.

これが「電場に関するガウスの法則」(Gauss's flux theorem)の積分形というやつです. この名称は,この公式を作ったガウスさん(Carl Friedrich Gauss, 1777〜1855)という人にちなんで名付けられたものです. 積分変数はdSの部分を見ると“S”であることが分かりますが,これは面積SのS(Surface)です. 要は,適当な閉曲面の全面積に渡って,(イメージ上)微小面積ごとに分割して,電場と法線ベクトルnとの内積を取りつつ全部足し算してくださいという意味です. (球の場合は単純に表面積4πr2をかけ算するだけだったので特に積分演算っぽいことはやりませんでしたが.)

実際のところ,電荷を囲む閉曲面は(閉じていれば)どんな立体でも構いません. 円筒でも,直方体でもOKです. 今回の話では計算が単純で分かりやすい「球」でやりましたが, 上の図のように適当な閉曲面の場合でも,総本数の式が通用することを数学的に証明することができます. その場合は「立体角」というやつを持ちこんで考えるわけですが,ここでは省略します.



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【第1式(積分形) その5】 -電束密度 D-

あらためて,ガウスの法則(積分形)の式を見てみます.

上の式は,「電荷Eは電気力線の密度だ」というイメージに基づいて作ったのでした. しかし,実際に面積分されているのは“ε0E”であって,“電場E”ではありません. この“ε0E”というかたまりは,「電束密度」(Electric Flux Density)と呼ばれています. 電束密度は“ D ”という記号で書かれます.

電場Eは「電気力線密度」だったことを思い出すと, 電束密度という名前は「電束」(Electric Flux)という線(の束)がありそうな雰囲気を出しています. 実際,電束密度Dは電場Eに定数をかけただけなので,電束の形というか,向きは電気力線と同じ感じになっています. ただし,大きさ(本数)は違いますし,次元も違います...


この電束密度 Dを使ってガウスの法則を表すと,次のようになります.

さっぱりした式にまとまりました. これがマクスウェル方程式の第1式という事になっています.

この式はもともと「電気力線の総本数」を求めるために作ってきたものでした. しかし,上の式で面積分されているのは電束密度Dです. すると,ここで「電束」という線が電荷から出てくる事をイメージすると, この式は「電束の総本数」を表す式という事になり, その本数は“Q本”だと言っているわけです. QクーロンからQ本の電束が出ているので,1クーロンだったら電荷から1本の電束が出ます. 電束密度の次元は,上の式で電束密度に面積(m2)をかける(面積分)するとクーロン(C)になっていることから, [C/m2]となります.

では,突然出てきたこの電束密度というやつは何?という話を最後に少々...




電束密度の話は,絶縁体(誘電体)の中の電場の話をする時に出てきます. 「分極」というやつと関係があるのですが,今のところ別に絶縁体に興味は無いので軽く流します. (後々,MOSトランジスタのゲート絶縁膜の話で出てくる・・・かもしれません.) とりあえず,普通の一般化した話では,電束密度Dは物質ごとの“誘電率ε”を使って次のように定義されます.

ここまでは一番単純な“真空中”の電場を考えてきましたが, 「同じ電荷Qが作る電場であってもどんな物質の中にあるかで電場Eの大きさは変わってしまう」という話がありました. 「誘電率」というやつは,そんな時の「電場の変化具合」を表したりします.

物質ごとに誘電率の値は決まっているのですが,その物質が電場を通しにくいほど誘電率は大きくなります. すると,電場の大きさと誘電率の大きさは相殺することになるので,“誘電率×電場”の積は結局一定の値となります.これが電束密度です. 別に電束密度自体は電荷が受ける力の大きさとは関係ありません. しかし,「電荷Qが一定なら電束密度も一定で,電場のように大きさが変わらない」 という事が,“公式”を作る上で嬉しいのです.式が綺麗になるので...

結局,マクスウェル方程式の第1式は「電荷Qが作る電気力線の総本数」を表す式です. 電場Eは「電荷が受ける力」とか「電気力線密度」とか,イメージしやすい量なのですが, 媒質によって値が変化してしまうので“公式”としてまとめるには不都合です. これに対して,電束密度Dはどんな媒質中だろうと電荷Qの大きさと一対一で対応しているので, 上のように「電荷Qが出す電束の本数はQ本」という,単純明快な式としてまとめることができた・・・という感じです.



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【第1式】電場に関するガウスの法則(微分形)

マクスウェル方程式の1つめ,ガウスの法則の「微分形」です.

ここまではガウスの法則の積分形を作ってきました. 積分形の「閉曲面で囲む」というのは意外と(?)実用的で, コンデンサなら直方体,同軸ケーブルなら円柱という感じで,「定番の閉曲面」みたいなやつが決まっています. しかし,この「積分形」というやつは,「ある程度広がった範囲の電場をまとめて扱う」 という場合しか使えません.

「微分形」を作るモチベーションは,広がった範囲の電場ではなく,「空間上のある一点」の電場をピンポイントで扱いたい・・・ という感じです.

「空間上の一点」は,x,y,zの座標で指定します. 上の式のようにDやρは場所ごとに値が変わるものだということ,つまり「位置の関数」になっていることを明示すると, なんとなく1点を指定している感じが出ます.

(もちろん,ここまで出てきたEやDも全て位置の関数ですが,式がゴチャゴチャするので明示していませんでした. これからも省略しますが,きちんと書けば上の式のようになるということで...)

【第1式(微分形) その1】 -電荷密度を考える-

まずは,イメージしやすい電荷の項(右辺)から手を付けます.“ρ”というやつです.

「微分形」は空間上の1点に関わる話なので,電荷のほうも空間的に細かくバラして“点”と言える程度の大きさにしておきます. クーロンの法則なんかでは「点電荷」ということで,サイズがゼロ(点)の電荷を想定していましたが, 現実の電荷は普通の「物質」なので,必ずある程度の大きさがあります.

上の図のように,電荷を細かいマス目で切り分けます. その切り分けた1つ分のブロックに含まれている電荷の量を,単位体積あたりの電荷量ということで電荷密度と呼びます.記号はρ(ロー)です. 微分っぽい考え方をすると,この切り分けるマス目の大きさを極限まで小さくすれば, 「ある1点における電荷密度ρ」になります. 電荷密度の次元は[C/m3]です.

この電荷密度ρを,電荷分布が存在する全領域で積分すれば,当然ですが切り分ける前の“全体の電荷量Q”になります. この積分は,「単位体積あたりの電荷密度ρ」に「単位体積dV」をかけて,全領域に関してどんどん足し算していくイメージです. この操作はそのまんま「体積分」と呼ばれています. 積分変数はdVの“V”なわけですが,きっと体積V(Volume)のVだと思います.


上の式を,前に作った「ガウスの法則(積分形)」に代入してみます.

“Q”の部分を電荷密度の体積分に書き換えました. とりあえず式に出てくるのが電束密度Dと電荷密度ρだけになって, それっぽい(?)感じです. くどいですが,左辺の電荷密度Dは「面密度」なのに対して,右辺の電荷密度は「体積密度」です. そんなわけでそれぞれ面積分と体積分ということになってます.



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【第1式(微分形) その2】 -微小体積から出る電気力線の本数-

次に,電場(電束密度)の方に手を付けます.左辺の“∇・D”というやつです.

「積分形」の話の時は,“閉曲面全体にぶつかる電気力線の総本数”をイメージすることで話を進めてきました. 今回は「微分形」なので,“ある一点から出る電気力線の本数”を考えることになります.


“一点”と言っても,ただの点を電気力線が通過するイメージは難しい(電気力線は“面”を貫通するイメージ)ので, 最初は点ではなく「微小体積」を考える流れにします. 微分を持ち出すときの常套手段です...

上の図では,微小体積から電気力線が「出る」時のイメージと, 微小体積から電気力線が「出ない」時のイメージを比較しています. 「出ない」時は,電気力線が微小体積を貫通しているだけです. 微小体積の前後で電気力線の量は変化しません. これに対して,「出る」時は微小体積の前後で電気力線の量が増えています. すると, 「微小体積の前後を比べれば微小体積から出る電気力線の量を表せるのでは?」という気がしてきます. もし微小体積から電気力線が出ているなら,微小体積を通過する前後で電気力線の本数が増えているはずです.


数式で表すために,微小体積を座標に乗せます. ここからは,簡単のためにx方向の電場“Ex”だけを考えます. (電場はベクトルなのでE(Ex, Ey, Ez)という感じで3成分を持っています.)

微小体積の各辺の長さは,dx,dy,dzとします. 上の図の通り,電気力線が通過する「前」の面は緑の面(座標はx)で, 電気力線が通過した「後」の面は赤い面(座標はx+dx)ということになります. 緑の面,赤い面,ともに面積はdy・dzです.

ここで,電場Eは「電気力線の密度」なので,“電場×面積”でその面を通過する電気力線の本数が求まります. よって,緑の面を通過する電気力線の本数は“Ex(x,y,z)・dydz”で, 赤の面を通過する電気力線の本数は“Ex(x+dx,y,z)・dydz”と表せます.

すると,微小体積の前後での電気力線の増加量, つまり,求めたかった「微小体積から出る電気力線の本数」は, 単純に赤の面から緑の面を引き算すれば求まります.

上の式で表される量が負になる事もあるかもしれませんが,その場合は「電気力線を吸いこんでる」ということになります. これは単純に向きの問題で,負の電荷の場合がこれにあたります.




ここまでは“面”を意識しやすいように,立方体の形をした「微小体積」を使って考えてきました. くどいですが,この微小体積はあくまで“点”のイメージの代わりです. 上の「微小体積から出る電気力線の本数」の式では微小体積(dV=dxdydz)の形が見えづらくなっているので, “dxdydz”の積のかたまりをくくり出しておきます.

引き算の部分の分母に“dx”を入れて,無理やり“dxdydz”のかたまりを作りました. “dxdydz”を立方体の微小体積“dV”に書き変えておきます.

ここで,上の式で赤いアンダーラインを引いた部分は, 「電場E(x,y,z)という3成分を持つ関数について,とりあえずx方向だけを考えて変化率を計算してください」という形, つまりx方向の「偏微分」の定義そのまんまになっています.

電場はもともとE(x,y,z)という3変数関数なので,同じx座標だったとしても, 微小面積“dydz”の中でy座標やz座標がズレると電場Eの大きさが変わってしまうかもしれません. それならば,とりあえず電場Eのx成分だけ気にして計算しておけば良いだろう・・・という気持ちで偏微分が出てきます.

そんなわけで,偏微分の形を使いつつ,x方向の「微小体積から出てくる電気力線の本数」を表すと,以下のようになります.

そこそこまとまった形になってきました.




ここまで作った式が本当に「x方向へ出ていく電気力線の本数」になっているなら, 逆方向(x軸のマイナス方向)へ出ていく電気力線にも対応しているはずです. ちょっと確認しておきます.

まず,「x軸のマイナス方向へ電気力線が出ていく」という状況なので, この電場Eのx成分は当然マイナスの値になります. 計算に使う電場の強さは,適当な値ということで,とりあえず緑の面では“-a”とします. また,計算を簡単にするために,赤い面では電場の大きさがゼロだとします. この状況で「微小体積から出ていく電気力線の本数」を計算してみると,次のようになります.

計算の結果,プラスの値が出てきました.そんなわけで,プラスの向きだろうとマイナスの向きだろうと, 微小体積から「出ていく」電気力線の本数をきちんと表せている事が確認できました.


結局,x方向については「微小体積から出ていく電気力線の本数」を次の式で表せます.

ここまでx方向だけ相手にして考えてきた事を,そのままy方向,z方向に対しても適用します. 同じことを繰り返すだけなので省略しますが,結局“x”と書いている部分を“y”や“z”に書き換えるだけになります. そんなわけで,y方向,z方向に向かって「微小体積から出ていく電気力線の本数」は以下のようになります.

では,微小体積から“全方向へ出ていく”電気力線の本数を計算します. 話は簡単で,これまで作ってきたx方向,y方向,z方向の式を全部足し算するだけです.

上の式が,「微小体積から出ていく電気力線の本数」の式となります.

あとは,ここまで用意してきた「微小体積内の電荷(電荷密度)」と「微小体積から出ていく電気力線」を結びつける作業をやるだけです.




ここで,既に作っておいた積分形のイメージを使って,うまく微分形の式をまとめられないか考えてみます.

電荷密度ρを電荷Qの範囲全体で体積分すると,全体の電荷Qが得られるのでした. これと同じように,「電気力線」についてもすべての範囲で微小体積が出すものを足していけば,やはり電荷Q全体が出す電気力線の本数と一致しそうな気がします. もしそうなら「電荷」と「電気力線」のそれぞれについて,微分形と積分形の話がつながることになります.


そんなわけで,微小体積をどんどん足していくと,外へ出ていく電気力線はどんな感じになるか見てみます.

上の図では,1つの微小体積からは4本の電気力線が出るとしています. この微小体積を2つ用意してくっつけます. 電気力線の総本数は,当然ですが, 微小体積の数だけ電気力線を足し算すればいいので8本です. 2つの微小体積が接する面は内側に隠れてしまいますが, そこから出ていく電気力線は隣の微小体積を通過して結局外へ出ていくことになります. すると,くっつけた後の表面から出ていく電気力線も,やはり8本となります.

ここで,「表面から出ていく電気力線の総量」というのは, 積分形の話で出てきた「電場Eの面積分」のことです. これと「微小体積から出ていく電気力線の“体積分”」が一致しているわけです. 数式で表すと次のようになります.

くどいですが,上の式は「微小体積ごとの電気力線を体積分したもの」が「電荷の外側を囲む閉曲面にぶつかる電気力線を面積分したもの」に 一致するという式です. 左辺は体積分,右辺は面積分ということになっているわけですが, この式は電場の話とは別に,体積分と面積分を変換する公式として重宝するらしいです. 「ガウスの“定理”」と呼ばれるそうです...

積分形で作っておいた式が,ここまで微分形の流れで作ってきた式とつながりました. これで,「微分形のガウスの法則」の重要な部分はだいたい終わりです.



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【第1式(微分形) その3】 -微分形の「ガウスの法則」-

ここまでの話で,「電荷」と「電気力線の本数」の両方とも,微分形と積分形の形がつながりました.

ここで,前に作っておいた「積分形のガウスの法則」は以下の式でした. 「電荷Qから出ていく電気力線の本数はQ/ε0」というやつです.

上の式の左辺を,今回微分形の立場で持ってきた「微小体積から出る電気力線の体積分」で置き換えます.

ここで,電荷Qというのは電荷密度ρの体積分でした.

上の式を使って,Qの部分もρを使った式に書き換えます.

ε0を両辺にかけ算して,以下の式ができあがります.

上の式の両辺を見比べると,どちらも体積分の形になっています. 体積分してイコールになるということは, 体積分する前の値も同じになっているはずです. というわけで,積分操作をとっぱらって中身だけの式にします.

これが,「電場に関するガウスの法則(微分形)」というやつです. イメージとしては,微小な空間(ほぼ“点”と言っても良い)にある電荷密度ρから出ていく電気力線の本数は, 電場Eのx,y,z方向への変化率を全て足したものだ・・・という感じです.

例のごとく,電場と誘電率の積の形が出てきています. 大きな電荷のかたまりだろうと,単位体積当たりの電荷密度ρだろうと, 1クーロンあたり1本の「電束線」が出ているのは同じです. 電束線の良い所は,「電荷の量だけに依存して,周りの媒質に影響を受けない」ことでした. 今回も周りの媒質に左右されない“公式”を作りたいので,電束密度を導入することにします.

上の定義を使って,微分形のガウスの式を書きなおしておきます.

くどいですが,上の式の意味は「電荷密度があると,電束線(電気力線)の量が空間的(x,y,z方向で)に変化する」というものです. 要は,電荷から電気力線が出ていくよ,です.



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【第1式(微分形) その4】 -“div”(ダイバージェンス)について-

ここからは,別に本質的ではないのですが,式の形を綺麗にしようという流れです.

まず,「ベクトルの内積」というやつを確認しておきます. とりあえず適当な3次元ベクトルABを用意します.

これらの「内積」ABは,ベクトルの成分を使って次のように計算するのでした.

また微分形のガウスの法則へ話を戻します. 電束密度を偏微分するところですが,これを無理やり「偏微分演算子のベクトル」と「電束密度のベクトル」とに分離します.

ここで,上の式でくくり出した「x,y,z方向それぞれの偏微分演算子のベクトル」は ナブラと呼ばれる記号∇で表すそうです. どうして,わざわざナブラなんてものを用意するかというと, この「偏微分演算子のベクトル」というのは,今回の話の他にも様々なシチュエーションで出てくるからです. 色々と便利なやつです.

すると,もともとの式はナブラと電束密度を使って以下のように表現できます.

で,微分形のガウスの法則は以下のような式でした.

上の式を,ナブラを使って表すと,次の式になります.

かなりスッキリまとまりました. すっきりした式なので,微分形のマクスウェル方程式の第1式としてよく紹介されます. 書きやすいですし.覚えやすいので.


ここで,“∇・D”の部分のもともとの意味を思い出すと, これは「電束線が微小体積から出ていく量」という感じでした. このイメージから,ナブラと内積を取ることを「発散を計算する」と言ったりします. 電気力線(電束線)の「発散」というのは,湧き出しというか,飛び出しというか,なんかそんな感じです. 「発散」は英語で“divergence”(ダイバージェンス)と言うわけですが, これを略して“div”と書いたりします.

上の式は,結局「ナブラとDとの内積を計算しろ」という意味なのですが, 既に「発散」の計算のイメージができている人にとっては“div D”と書いたほうが, 物理的に何を意味しているのかすぐに分かるので嬉しい・・・らしいです.

ここまで長々と作ってきた微分形の式ですが,実際に電場を扱う時はあまり使いません. ただ,この式をちょろっと変形した「ポアソン方程式」というのは電場の解析でやたらと多用します. そっちの方が便利だからです. (ポアソン方程式は,半導体の中の電位分布を考える時に出てくるかもしれません.とりあえず今はスルーします.)

以上でマクスウェル方程式の第1式の話は終わりです.



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【第2式】磁場に関する法則(積分形)

マクスウェル方程式の2つめは,「磁場の形」の話になります.

左辺の面積分は,第1式の電場に関するガウスの法則と同じイメージです. この式では,その面積分の値が常にゼロになるよ...と言っています. これはどういった意味なのか,考えてみます.

今回は説明する内容があまりありません...押さえる項目は1点だけです.

【第2式(積分形) その1】 -発散場と渦場-

閉曲面をイメージして面積分する話は,「電場に関するガウスの法則」で散々出てきたやつです. ちょっと復習しつつ,どんな状況なら閉曲面での面積分がゼロになりそうか考えてみます.

まず,普通に閉曲面の中から外へベクトルが出ているような場では, どんなにベクトルを小さくしたところで面積分の値はゼロになりません(左図). では,右図のように閉曲面を1本のベクトルが貫通するようなイメージをしてみます. この場合は閉曲面に対して「入る量(マイナスとしてカウント)」 と「出る量(プラスとしてカウント)」が同じなので, 面積分の結果はゼロになります. しかしこれだと,そもそも「何かがある場所」を閉曲面で囲もうとしていないだけのような気がします...

ちゃんと「中に何かがある」場所なのに,閉曲面で囲んで面積分するとゼロになる状況を考えてみます.

上の図のように,ベクトルがあっても,そのベクトルがどんどん曲がっていって自分の根本に入っていくような形であれば, 「閉曲面で囲った時の面積分がゼロ」という結果になります. つまり,ベクトル場が1つのループを作っている場合が今回の話に当てはまります.

これは,中学校や高校で習う「右ねじの法則」の形と同じです. このような形の,ループするような感じの場を「渦場(うずば)」と呼ぶらしいです.

「渦場」に対して,電荷から電気力線が出るイメージの電場のような形を「発散場」 と呼ぶそうです.このマクスウェル方程式の第2式が言っているのは, 「磁場は必ず渦場になっている」という感じになります.

電気に関する「電荷」の磁気バージョンとして,もしも「磁荷」のようなものがあれば, 電場と同じノリで“磁荷”から“磁力線”が出ていくような磁場ができるはずです. しかし,この第2式は「そんなことはあり得ない」と言っています. これは,「単磁荷(N極のみ,S極のみの磁石みたいなもの)は存在しない」ということになります. これまでいろんな人が探したらしいのですが,だれも見つけられなかったそうです.

すると,「磁荷が無いなら,何が磁場を作るの?」という疑問が自然と湧きます. これに答えるのが,後で出てくるマクスウェル方程式の第3式です.


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【第2式】磁場に関する法則(微分形)

マクスウェル方程式の2つめ,磁場に関する法則の「微分形」です.

もう積分形のところで重要な内容はほとんど書いてしまいました. 特に書くことがありません.微分形です.

とりあえず,「渦場を微小体積に分割する」イメージをします. すると,どの微小体積も「磁力線が貫通するだけで増えも減りもしない」ので, 1つ1つの微小体積から新しく磁力線が出ることはない・・・つまり磁場の「発散」はゼロ,というイメージです. おわり.

この∇・Bというのは必ずゼロになるので, 後々電磁波の式をいじる時に「∇・Bはゼロなんだから足しても引いてもいいでしょ?」 という感じで突然式の中に付け足したりすることがあります. 式変形でよく使われるテクニックだったりします.

以上でマクスウェル方程式の第2式の話は終わりです...


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【第3式】アンペール・マクスウェルの法則(積分形)

マクスウェル方程式の第3式です. とりあえず,「電流(とか)が磁場をつくるよ」という式です.

時間で偏微分する項が入っているので, ここから先は“時間”を意識しなければいけないようです. 時間の流れが関係するということは,常にシーンとしている場ではなくて,ウネウネと(?)変化する場をイメージする感じになります. そんなわけで,式に出てくるのは「空間(x, y, z)」と「時間(t)」の関数です.これを明示すると,下のような感じになります.

ちゃんと書けば上のようなイメージになるわけですが, 式がゴチャゴチャして見づらい感じです. 例のごとく,今後は省略した形で書きます...


さて,今回の「第3式」は説明の内容がちょっと多くなっています... 全体のボリュームを意識しつつ,「今は何をメインに考えるの?」という“現在地”を把握しておかないと, 迷子になってしまうかもしれません. 小分けにして考えていきます.


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【第3式(積分形) その1】 -「磁場」とは?-

今回の主役は「磁場」です.いったいコレは何なのか?という話から始めます.


そもそも“場”というのは,「物体に力がはたらく空間」みたいなやつでした. 力がはたらくので,場の中にある物体は(勝手に)動き回ることになります. 「電場」の話では,これを意識して「力」の話から出発しました. 「電荷にはたらく力」「クーロンの法則」「電場」「ガウスの法則」...という流れです. 対象にはたらく「力」が全ての出発点です.


今回の「磁場」でもその流れを真似して,同じパターンに持ち込めると楽です. すなわち,“電荷”に対して“磁荷”なんてのを想像して, 「まずは“磁荷”にはたらく力について...」などと考えるのが素直なところです. しかしながら,第2式のところで出てきたように, 実際には「単磁荷は無い」ということになっています. 電場の場合と同じ流れで話を進めるのは難しそうです...

ここでは電場の話は一度忘れることにして, イチから磁場の話を組み立てます.




さて,磁荷は無いらしいので,考える“モノ”として思いつくのは「電荷」しかありません. この「電荷にはたらく力」というのは,もう第1式の電場の話で片付けてしまった感があります... ところが,この電荷が「動く」と,電場だけでは扱えない話が出てきたりします. 電荷が動いたやつ,すなわち「電流」にはたらく力について考えてみます.

上の図のように「電流」(実際は「電線」ですが...)を2本並べたものをイメージします. この時,2本の電流の間には力がはたらきます. (どんな教科書にも書いてあるおなじみの実験だと思います.)

2本の電流が同じ向きの時は電流同士が引き合う力がはたらき, 電流を逆向きに流すと反発します. ここで,「どうしてこうなるの?」ということを考えてみます. 電流を「プラスの電荷が動くもの」と考えると,プラスの電荷同士は反発するはずです. しかし,上の実験では“同じ向き”の電流が引き合っています. 電場のイメージで捉えようとすると,なんだかよく分かりません... この実験結果の重要なところは,「クーロンの法則では説明不可能」だというところです. そんなわけで,昔のエライ人達は「電流の周りには,電場とは違う“何か”があるんだ」 と考えるようになったそうです.


ここで, 中学校や高校でおなじみの,「電流と磁石を使った実験」をイメージします. 磁石の近くで電流を流すと,電流に対して磁石が決まった向きへ動く(回る?)ことが確認できます.

これを見た昔の人は,電流の周りにできる場は磁石の力と同じ種類の物なのでは?と考えたらしいです. そんなわけで,磁石っぽい場,「磁場」(Magnetic Field)と名前を付けよう...という感じになりました.




ちょっとここで,とても重要な話を書いておきます.


ここまでの話で,主役は完全に「磁場」だという雰囲気になっています... しかし,実はそうではありません. すべての根っこ,今回のモチベーションは, 「平行電流にはたらく力を説明したい」ということです. そのヒントを探るために磁石を持ち出して実験をしたのでした. しかし「磁石」そのものは,今回はただの脇役です. 「磁石が動くのはどうして?」とか,「そもそも磁石はどうして磁石なの?」とか, そういう話はまた別の内容です. (電子のスピンとか,物性論の話に首を突っ込むことになります. そこら辺の話は,ずっと後で書きます...)

今回の主役はあくまで「電流」,実体としては動いている電荷です. そして「電流に力がはたらく場」は主に, 「磁束密度」 (magnetic flux density)というやつを使って考えるのでした. 磁束密度の単位はテスラ(T)です. この磁束密度というやつは,「誘磁界」(magnetic induction field) とも呼ばれたりします. (本質的なイメージを考えると,「誘磁界」のほうが分かりやすい言葉だと思います...が, 日本の教科書のほとんどには「磁束密度」と書いてあります.)

とりあえず上の表の通り,「電場E」に対応するのが「磁束密度 B」という感じになっています. 「じゃあ,そのメインの場(磁束密度)のほうを“磁場 H”と名付ければよかったじゃないか・・・」 と思われるかもしれません. どうしてこなったのかは,歴史の流れが絡む話になります. 昔の人は「磁荷」が本当にあるという前提で,磁気の理論を組み立てて色々と名前を付けました. しかし,実際には単磁荷は存在しないため, 現在のようなメインの場の方に磁束“密度”なんて名前が付くような感じになっています...

とりあえず,「力に関わるメインの“場”は,磁束密度なんだ」という事だけおさえておいてください. 磁場 Hは何の役に立つの?という話は, 後の方で出てきます.




上の話では「主役は電流なんだ」ということを強調しましたが, それでは,「磁石」というのは何者なのでしょうか・・・.


ややこしいところですが,磁石というやつは周囲の「磁場 H」から力を受けます... 電流が作る場は「磁束密度 B」ですが,これと「磁場 H」とはどういう関係なの?と思うところです. ここで電場の時の,「電場 E」と「電束密度 D」の関係を思い出してください. あれと同じで,とりあえずは「磁束密度 B と磁場 H は同じ“場”を違った見方で見たものだ」 という感じでとらえておきます. そんなわけで,磁石は電流がつくる磁束密度にきちんと反応してくれます. 特に,空気中などの場合は磁束密度と磁場の向きは同じなので, 電流が作る磁束密度の向きを調べる時は磁石を使っても平気です.


( ※「磁石」というイメージは,そもそも物質内の円形電流(電子のスピン,電子の軌道運動)を, 等価的に小さな磁気双極子と見なしたものです. 「磁石」の正体が円形“電流”ならば,当然,磁束密度から力を受けます. ここで,力を受ける本体の「円形電流」は,常に磁石(主に鉄でできている)の中にあります. すると,円形電流が直接触る磁束密度 B = μHの“μ”は,常に「鉄の透磁率」を使うことになり,磁石の更に外側にある媒質とは無関係です. このことから,円形電流が受ける力(= 磁石が受ける力)は, あたかも周りの媒質に左右されずただ磁場 H の値のみに依存するように見える・・・という感じになっています. この様子を指して,「磁石は磁束密度ではなく磁場から力を受ける」と表現するらしいです. 本質は「電流は磁束密度から力を受ける」という,ただそれだけの話です. )




さて,電流の周りには「磁束密度」が生じているらしいです. とりあえずイメージを膨らませるために,磁場の「」と「向き」を調べてみます. おなじみの,電流の周りに磁石を置く実験をイメージします.

電流が作る場は,ぐるっとループするような形となっています. これは,マクスウェル方程式の第2式が言っている内容とつじつまが合います.


電流がつくる磁束密度の「形」はだいたい分かりました. 次は,「向き」を調べます. 単に「N極が指す向きが磁束密度の向きでいいだろう」と思うところですが, もうちょっと詳しく見てみます. ここでは,電気力線と似た感じの「磁力線」というやつを使ってみます. おなじみの電場と,新しく出てきた磁場を比較しながら進めていきます.

まず,おなじみの電場の方ですが, プラス電荷とマイナス電荷がペアになっているものをイメージします. “電気双極子”というやつです. (いま電気双極子を持ち出したのは,磁場の方で“磁石”と対応させたいからです .磁石には,N極単体やS極単体の「単磁荷」は存在しません.必ずN極とS極がペアになっています.) さて,上の図のように逆向きの電気双極子を並べた様子をイメージすると, 「逆向きの電気力線どうしは引き合う」という性質を確認できます.

次に「磁力線」です. 磁力線は電気力線と同じノリで,「磁石のN極から出てS極に入るもの」と決めます. ここで,磁力線も電気力線と同じように「逆向きの磁力線どうしは引き合う」 という性質があります. これは至って素直な考え方だと思います.


実際に電流の近くに磁石を置いた時の様子は,今の磁力線のイメージで正しく説明することができます. 結局,「電流がつくる磁束密度の向きは,磁石のN極が指す向きを見れば分かる」ということになりました. 少々くどい感じでしたが,一応念のためということで...


改めて,上の図を見てみます. 各場所における磁束密度の向きは,そこにある磁石のN極が指す向きです. よって,電流が作る磁束密度の向きは,中学校で習う通り 「電流が進む向きに対して右ネジを回す方向」ということが確認できます. とりあえず,電流の周りにはこんな感じの「渦場」ができているということで.




では,最初に出てきた「同じ向きに流れる2本の電流」の話を確認してみます.

「電流が作る磁束密度は,電流が進む向きに対して右ネジを回す向き」というやつを, 上の図で当てはめてみます.

すると,2つの電流の内側では磁力線が逆向きになっているので, ちゃんと「同じ向きに流れる平行電流間には,引力がはたらく」という結果を導くことができました. また,あらためて電流が作る磁束密度の「形」と「向き」は上のイメージの通りだと再確認できます.



ここまでの話で一番大切なことは, 「新たに“磁束密度”を導入することで,電流同士にはたらく力を説明できた」 という事です. この実験事実は,電場に関するクーロンの法則では絶対に説明できません. “磁場”もしくは“磁束密度”というやつを考えて,初めて筋の通った話ができるようになりました.



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【第3式(積分形) その2】 -電流が磁束密度から受ける力-

それでは,具体的に「電流が磁束密度から受ける力」 を考えることにします. “具体的に”ということは,数字をつかって「このくらいの大きさ」とか表現する必要があります. 要は,数式を持ち出そう・・・ということです.


まずは力を受ける対象である「電流」について,詳しく見てみます. 電流というのは電荷の流れの事なので, 本質としては「動いている電荷」をイメージすることになります. そんなわけで,「電荷」を意識しつつ電流をミクロな視点で見てみます.


まず,「電荷qが速度vで動いている」というイメージがおおもとにあります(上図,左). そして,電気を通す物質の中には電荷がいっぱいあるわけですが, ある面を「単位時間(= 1秒)あたりに通過する電荷の数」のことを「電流」 と呼ぶのでした(上図,右). 記号はI,単位はA(アンペア)です. 特に,電荷が通過する面について,「単位面積」あたりに通過する電気量のことを「電流密度」 と呼んだりします(上図,中). 電流密度 i の値に,適当な面積 S をかけ算すると,全体を流れる電流 I になります.


電流密度の分布が場所によって異なる場合は,「対象とする面」を考えて面積分することになります.

電流密度 i を面積分して全電流 I を計算する時は,面に垂直な成分だけを考えます. 面を通過する「実効的な電流」という感じです. 数式で表すと,下のようになります (明示していませんが,電流密度 i は場所(x, y, z)の関数です. つまり,電流密度 i は場所によって違う値でもいいよ・・・ということです).


上の式は,「1つ1つの電荷の動き」を合計すると「電流」になるよ, という話を数式で表しただけです. 結局,根っこの話は「1つ1つの動いている電荷は磁場からどんな力を受けるの?」ということになります. 次はこれについて考えます.




最初に出てきた「平行電流にはたらく力」を題材にして, 電荷1つ1つにはたらく力を意識しつつ,きちんと説明をつけていきます.


とりあえず下の図のように,2本の導線を上下に並べておきます. また,数式を導入しやすいように,座標(x, y, z)を敷いておきます. 今回は,上の電流が「磁束密度をつくる側」,下の方が「力を受ける側」とします (上下を入れ替えて同じ話をすれば,互いに引き合うことを説明できます).

磁束密度の中にある電流は力を受けます. これは,各電流が作る磁力線の向きをイメージすることで解釈していました. 「磁力線」どうしが反発する・引き合う・・・といった感じです. これに対して,今度はモノに着目し,「磁束密度の中では,動いている“電荷”が力を受ける」 という観点で話を進めることにします.

下側の電流(力を受ける側の電流)をミクロなイメージで見ると, 1つ1つの電荷が“速度 v ”で動いていて,磁場から“力 F ”を受けています. 力の「向き」は,実験の結果をそのまま書き下すと, 上の図の通りになっていることが確認できると思います. なんだかベクトルの向きがバラバラで,複雑です...




下の図は,1つの電荷が「電場」と「磁場」の中で受けるをそれぞれ示したものです.

電場は,電場自体の向きと力を及ぼす向きが同じなので,イメージが簡単だったと思います. 一方,「磁場(磁束密度)」の中では,“電荷が動く向き”と“磁束密度の向き”と“力の向き”の3つが全て別方向でバラバラです. このせいで少々ややこしい図になっています.

しかし,磁束密度の中で動く電荷が受ける力は,非常にシンプルな式で表せます. というか,単純になるように「磁束密度B」を都合よく決めたというだけです. 昔の人が勝手に決めました. この式からも,「電場 E 」と「磁束密度 B 」が対応関係にあることが分かります.


さて,受ける力の大きさは電荷 q にも比例するので, 結局力 F は,“F = qvB”という式で表されます. ここで改めて上の式を見ると, 磁束密度 B は「力F(N)」と「電気量と速度の積qv(C・m/s)」とをつなぐ比例定数という見方もできます. 磁束密度 B の単位はテスラ(T)でしたが,この中身は T =(N・s/(C・m))だと分かります. (C/s)= アンペア(A)であることを使って変形すると,(T) =( N/(A・m) )となります.




「力の大きさ」の話が済んだので,次は力の「向き」の話について詰めていきます. ここから,ベクトルの外積の話が出てきます.

中学校や高校では「フレミングの左手の法則」とか言って,左手の指を使って覚えたりしていました. しかし,そのままだと数式の土台に乗せることができません. きちんと「動く電荷が磁場から受ける力の向き」というやつを, 数学的に扱う(つまり,数式で表す)準備をしておきたいところです.

電荷が受ける力は,上の図の通り,電荷の速度 v と磁束密度 B を表すベクトルが張る面に対して垂直です. これを座標軸に乗せると, 速度 v をx軸,磁束密度Bをy軸の向きとすれば,力Fはz軸の向きという感じになってます. このx,y,zの位置関係(上図:右)は3次元座標で一般的に使われているものですが,これを「右手系」と呼ぶそうです. なぜ右手系と呼ばれるかというと,右手の親指,人差し指,中指をそれぞれが直交するように開いたとき, 「親指がx軸,人差し指がy軸,中指がz軸」という順番になるからです. 左手では決してこうはなりません.


上の「右手系」をイメージして,力Fの“向き”を表現してみます.

この,「vとBが張る面に垂直な方向にベクトルFを伸ばす」という操作を, “F = v×B”と,かけ算の記号“×”を使って表現するそうです. 一応,これが現在のスタンダートということで,物理屋さんの間で定着しているようです.

これは結局のところ,中学校で習う「速度vから磁束密度Bにむかって右ネジを回したときにネジが進む向き」という事になっているわけですが... いちおう,「このイメージを数式で表すことができた」というのが重要です. (とはいえ,右ネジのイメージは直感的にわかりやすいので,手計算をする時はよく使ったりします.)


この「ベクトルの外積」には向きというか,順番が決まっていて, “A×B”と,“B×A”は別のベクトルになります. “×”の記号の前に書いたベクトルをx軸,後に書いたベクトルををy軸に合わせてやる感じなので, 外積の結果できるベクトル(z軸の向き)は反対向きになります. (右ネジのイメージで言うと,ネジを回す向きが逆になります.)

上の図のように,“v×B”と,“B×v”は別物です. 磁束密度から受ける力は,常に“v×B”の方です.vが先です. (やっぱり,「vからBへ右ネジを回す」と覚えておくのが現場では一番役立ちます. とはいえ,数式で「外積」の方向を表現できるようになったのは重要な点です.)




もう少しだけ,磁場の中で動く電荷が受ける力の話は続きます...

ここまでの話では勝手に,常に「電荷の速度v」と「磁束密度B」が垂直になっている (直交している)状態を考えていました. 下の図のように,x,y,zの座標軸の向きと各ベクトルの向きが対応している事を説明する時に分かりやすいからです.


しかし,実際に実験なんかをやっている時は,「電荷の速度v」と「磁束密度B」が直交しているとは限りません. (きれいに90度の角度になっているなんて,珍しいことです. 大抵は電荷が動く向きに大して,磁場の向きはテキトーな角度になっています...)


電荷が磁場から受ける力の大きさは,速度vと磁束密度Bの間の角度によって変化します.


電荷の速度vと磁束密度 B が“垂直”の時は, これまでの説明通り,電荷は力“F = v×B”を受けます. これに対して,電荷の速度 v と磁束密度 B が同じ向き, つまり“平行”になっている場合は, 電荷は全く力を受けません. (磁束密度 B を表す磁束線を,庭に生えている“芝”に例えて, 「電荷が動いて磁束を刈る時に力を受ける」と説明されたりします.)


では,「電荷の速度v」と「磁束密度B」が“ナナメ”になっている場合を考えます. この場合, ナナメ方向の速度vのうち,実際に効いてくるのは「磁束密度Bと垂直な成分だけ」になります. これは直感的にも受け入れやすい話だと思います. これを数式で表すと,速度vと磁束密度Bが成す角度を“θ”として,下の図の通り「v・sinθ」と表せます.

すると,“v×B”の「大きさ」は“v・B・sinθ”という値になります (「向き」はv→Bに右ねじを回した時に進む向きです).


この“vBsinθ”は,図形的なイメージでとらえると分かりやすいです. 下の図(左)のように,辺の長さがA,Bとなっていて,間の角度がθである平行四辺形を思い浮かべます. すると,“ABsinθ”というのはちょうどこの平行四辺形の面積になっています.

同じ話を“v”と“B”についてすると, 力Fの大きさは「vとBが張る平行四辺形の面積」に,動いている電荷自体の大きさqをかけ算したもの・・・ ということになります. 「ベクトルの外積」はパッとイメージしにくいかもしれませんが, その値は「平行四辺形の面積」という図形的なイメージで捉えられます. さらに,外積の結果新しく出てくるベクトルの向きは,「平行四辺形に垂直」です. よって,2つのベクトルの外積を考えるときは, その2つのベクトルが張る「平行四辺形」が肝だと分かります.


ここで,これまでの話ををまとめておきます.




ベクトルの外積の話,最後の1つです.

ここまでは「電荷の速度vと磁束密度Bがなす角度θ」というやつを使って図形的なイメージで話を進めてきました. しかし,v も B もベクトルなので,「ベクトルの成分」だけでベクトル外積の計算を進められるはずです.

実際,設計などを現場で行う時は,コンピュータを使って計算をします. この場合,図形的なイメージを排除して純粋に数値だけの演算で表現しなければなりません. そういった場合に対応したい・・・というのがモチベーションになっています. “θ”という「角度」なんてものは,「平行四辺形」という図形をイメージして初めて出てくるものなので, 図形のイメージを無くし,θを使わずにベクトルの外積を表現したいわけです.


そんなわけで,次の図のように A (Ax,Ay) と B (Bx,By,) という2つのベクトルが作る平行四辺形の面積を求めることにします.

簡単のため,ベクトルA,B共にxy平面上のベクトルにしています. この2つのベクトルの外積をとると,z軸(図には書いていませんが)に向かって“A×B”というベクトルが生える感じになります.


ちょっとゴチャゴチャしてしまいますが, 下の図のようにしてベクトルAとBが張る平行四辺形の部分の面積を計算してみます.

結局,平行四辺形の面積は「“ピンクの四角”+ 2ד灰色の変な形”」で,次の式で求められることになります.

以上の計算から,“A×B”の大きさは,“AxBy - AyBxで表される事が分かりました. くどいですが,これは“A×B”というベクトルの「z成分」です (AもBもxy平面上のベクトルとしたので,外積を取るとz方向にベクトルが伸びていきます).

式で書くと,以下のようになります.

ちょっとややこしい感じになっていますが,次のようなイメージで覚えると楽(かもしれません). 「z成分」を考える場合は,zの次にある「x」から添え字をスタートさせます. よって,1つ目の項の添え字は“x→y”で,“AxByとなります. 2つ目の項の添え字は,1つ目の項の添え字を逆にします.つまり,“y→x”です. よって,“AyBxです. あとは,1つ目の項から2つ目の項を引き算して, “AxBy - AyBx となります. ベクトルの外積を計算する時は,x→y→z...と順番に頭の中でぐるぐる回す感じになります.


x,y,zの3成分すべてを計算すると,以下のようになります. この式の各成分が表しているのは,「単なる平行四辺形の面積なんだ」と考えると, ちょっとは親しみやすくなるかも(?)しれません.

では,改めて,電荷の速度vと磁束密度Bの外積を計算してみます. 単に,文字が変わっただけです.

上の式から,電荷が磁場から受ける力“F = q・v×B”は以下のようになります.

これで,ようやく動いている電荷が磁場から受ける力を数式で表現することができました. 式としては“F = q・v×B”という短いものですが, 準備が大変だったので,ここまでくるのが長くなってしまいました・・・.




電荷にはたらく力について整理できたので,ようやく, 一番始めの実験で出てきた「電流にはたらく力」を考えます.

上の図の通り,「電流」はたくさんの電荷の集まりなので, 単純に1つ1つの電荷が受ける力を合計することで, 「電流全体が受ける力」を求めることができます. すると,電流Iが磁束密度Bから受ける力は,以下の式となります.

これで,ようやく,「電流が磁束密度から受ける力」を数式で表すことができました. 電線の長さ(l)が長くなるほど受ける力が大きくなるというのは, それだけ電荷の数が増えるから・・・ということで,直感的に理解できるかと思います...

ここまでで,電流が「受ける力」の話は全て終わりです.



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【第3式(積分形) その3】 -電流が作る磁束密度-

次は,「電流が磁束密度 B をつくる」という話です. おなじみ(?)の,「ビオ・サバールの法則」というやつを作ります.

とりあえず,ここまでの内容では,電流 I が磁束密度 B から受ける力 F は,

で表されることが分かりました. ここで注意してほしいのは, 「磁束密度 B 」というのは,力 F を単純な式で表せるように(勝手に)決めた量 だということです. 1個の電荷が磁束密度から受ける力を「 F = q・(v×B) 」と表すことに決めたのが全ての始まりです. これは,電場から受ける力が「 F = q・E」なので, これと似た形にすれば分かりやすいだろうという感じで決められました.


では,この「磁束密度 B 」というやつが,そもそもどうやって発生するのか?という事が気になります. 前にも取り上げた,「電流の近くに磁石を置くと,決まった向きを指す」という実験(上図)から, 電流が磁束密度を作っているんだろうと予想はできます. しかし,「どのくらいの電流を流せば,どのくらいの大きさ(強さ)の磁束密度Bができるの?」 という事は全く分かっていません.その辺の内容を,数式を持ち出してきちんと求めることにします.




前に 「磁場」とは? のところで確認した通り,2本の平行電流の間には力がはたらきます. 力がはたらく原因は, 「それぞれの電流が磁束密度をつくり,その磁束密度によってもう片方の電流が力を受けるから」 だと考えていました.


やはり,全ての根本は上図の「電流どうしにはたらく力」なんです. よって,「磁場の大きさ」を値としてきちんと決定するには, 電流どうしにはたらく力をもとに考えるのが筋でしょう.


そんなわけで,昔のエライ科学者の方々は,とにかく「電流どうしにはたらく力」の実験を繰り返しました. 最初はとても単純な実験から始めたようです.その手順は以下の通りです.

  1. 片方の電流(“電流1”とします)を変化させつつ,もう片方の電流(“電流2”とします)は一定にして,受ける力を測定します.
  2. 今度は電流1・2の大きさを両方とも一定にして,2本の電流間の距離 r を変化させつつ,受ける力を測定します.

上の実験の結果,電流が受ける力は「電流量が大きいほど強く,距離rが大きいほど弱い」という実験結果が得られたそうです. まあ,当たり前だろう・・・と思うところです. ちょっと数学っぽく言えば, 「電流が受ける力は電流量に比例し,距離に反比例する」 という感じです.


これから,「電流1」は磁場を作る側,「電流2」は力を受ける側として見ていきます. (立場をひっくり返しても,全く同じ議論ができます.) くどいですが,電流2が受ける力 F2「 F2 = I2×B1・l」という式で表せるのでした. (ここで“B1”は「電流1によって生じた磁束密度」です.)


電流 I2の大きさや,電流 I2の長さ l を変化させていないのに, I2が受ける力 F2が変わる・・・ ということは,「電流1が作る “磁束密度 B1” の強さが変わるからだ」と考えるのが自然です. すなわち, 電流 I1が作る“磁束密度 B1”は, 「I1に比例し,距離 rに反比例する」 ということになります.

当然といえば,当然な結果です. 「電流が大きいほど発生する磁場は強くて,そこから離れるほど磁場は弱まる」なんて, 実験をしなくても直感的に予想できる結果だと思います... いちおうコレを数式で表すと,以下のような感じになります.

さて,いま欲しいのは,磁束密度Bがどのようにできるのか?を説明する「公式」です. しかし,今回出てきた上の式は,あまりにもフワッとした感じで, 磁束密度 B の値をきちんと定めることはできません.

本当に欲しいのは,上の式のような,「Bの値を求めることができる公式」です. ちなみに,これの電場バージョンが「クーロンの法則」です. 電場の方は既に「公式」が完成しています. それならば,「電場のクーロンの法則と似たような感じで,磁束密度の法則を作れないかな?」 と考えてしまいます. 磁場と電場は,なんだかんだ言って対称的なイメージがあるので,きっとなんとかなるんじゃないかと思うところです.


そんなわけで,電場に関する「クーロンの法則」をマネして磁束密度 B に関する法則を導けたらいいな・・・という気持ちで, これからの話を進めていきます.




あらためて, 「電流が作る磁場(磁束密度B)に関する法則」を考えるために, 似たような状態の“電場E”を考えてみます. 磁束密度を作る「電流」と似た形・・・となると, 「電荷を直線上に配置した棒」なんかが形としては似ています. とりあえず,「なんか細長ければいいや」程度の考えです.


上図のイメージだと,「直線状の電荷」も,「直線電流」も,生じている場の形は違います. しかし,「場の強さ(大きさ)は,中身の量に比例して距離に反比例する」 という点は共通している気がします. もちろん,直感的に「なんとなく,そう思う」だけなので,本当にそうなっているか数式を持ち出して確認してみないと分かりません...


そんなわけで,「直線状の電荷分布が作る“電場E”」がどのようになっているのか, クーロンの法則をつかって調べてみることにします.

上式のような結果になることを期待するわけです. すなわち,例の「電荷量に比例し,距離に反比例する」というやつです.




では,「無限長の線電荷がつくる電場」を,クーロンの法則から求めることにします. 積分計算が出てきますが,大したことはやりませんので...

「無限長」としているのは,計算すれば分かりますが,対称性のあるきれいな電場ができるからです. また,「線電荷」ということで,おなじみの「単位長さあたり ρ(C/m) の電荷がある」という設定にします. こういったシチュエーションで電場を求める時の常套手段は,微小な長さ dz ごとの 「電荷素片:ρ ・dz(C)」が小さい電場“dE”をつくると見ることです, その “dE” を全部足し算(積分)してやれば,棒状電荷全体がその1点につくる電場を求めることができます.

では,以下のように縦軸(垂直方向のイメージで,z軸とします)を用意し, ある座標“z”にある電荷分布が,中心から距離“r”だけ離れた場所につくる, 微小な電場dEをクーロンの法則から求めてみます.

上の図のように,位置rの場所にできる電場を 「水平方向の電場dEh (hはhorizontalの略)」と,「垂直方向の電場dEv (vはverticalの略)」に分けます (“d”が付いているのは「電荷素片がつくる微小な電場」という気持ちを込めています). このうち,dEvは上(+∞)から下(-∞)まで電場を足し合わせると,相殺してゼロになります. そんなわけで,位置rにおける電場E(r)は, 水平方向のdEhのみをz=-∞からz=∞までの全範囲で足し合わせたものだ・・・ということになります.

ここで,「sinφ」はφという変数を含んでいて邪魔なので, 積分変数zを含んだ形に変形したいところです. 上の図から,

・・・となります.これを代入して,

ここで,おなじみの置換積分ですが,「z = r・tanθ」と置き直してやります. (ここで使用するθは,今回でてきた角度の「φ」とは関係ありません.)

まず,変域の確認です.

z-∞ → ∞
θ-π/2 → π/2

次に,「刻み幅」のdzの部分を置き換えます.z = r・tanθと置いたので,dz/dθは次のようになります.

あとは,E(r)に関する積分計算を一気にやります.

結局,「無限長の電荷分布がつくる電場」は,次のような式になりました.

「1/2πε0」の部分は定数です. きちんと「電場の強さはρに比例し,rに反比例する」という結果になっています. これは,欲しかった結論と一致しています. とりあえず,ひと安心です.




ここで,磁場の話とつなげるために,ここまでの流れを整理しておきます.

ゴチャゴチャと積分計算をしたおかげで,「無限長の電荷分布が作る電場は“E ∝ρ/r“ の形」ということが分かりました. これに対して,磁束密度の方は「無限長の直線電流がつくる磁束密度 B は “B ∝ I/r“ の形」となっています.

磁場の話はただの実験結果で,根っこの『法則』というのはまだ分かっていません. とはいえ,電場と磁束密度を比べると式の形がとてもよく似ているので, 「きっと,根っこの法則も似たような式の形なんじゃないか?」と期待できます.




それでは,だいたいヒントも揃ってきたので, 本題の「電流が磁束密度を作る法則」を組み立てることにします, もちろん,電場と比較しながら,似ている点を吸収していく方向で進めます. ここで,下の表を,“単位”に注目して見てください.

まずは電場です.「直線電荷が作る電場の式」では“電荷密度ρ(C/m)”という量が登場していました. これに対して,電場の根っこの法則とも言える「クーロンの法則」では,“電気量Q(C)”が式に出てきます. この電気量Qは,当然ながら,「電場をつくる基本的な量」です. そして,この電気量Qと電荷密度ρの関係は,「 Q (C) = ρ(C/m)×l (m) 」という具合に, ρに「長さ l (m) 」をかけ算した量 となっています.

次に磁束密度です.無限長の電流が磁束密度を作る式には“電流 I (A)”という量が登場しています. 上で確認した電場の話から類推して,「長さ l (m)」をかけ算すれば「場を作る基本的な量」を作れるのでは? と(その場の勢いで)考えてみます. すると,“I・l (A・m)”というものが出てきます. この“I・l (A・m)”の単位を書き換えると,I・l (C・m/s)となります. (A = C/s なので.) この C・m/s という単位(次元)は,「速さv(m/s)で動く電気量(C)」を表していることに他なりません. 磁束密度の文脈でおなじみの“qv”というやつです.意外と,意味のある量が出てきました.




さて,この「長さ l」というやつを非常に短くして,“微小な長さ dl ”にすると, 下の図の通り,「ある1点」における電荷や電流を表す感じになります. この“疑似的な点電荷”は「電荷素片」と呼ばれていて, 同様に,“疑似的な点電流”は「電流素片」と呼ばれています. (“微小な長さ”とか言い出しているので,微分・積分のセンスが含まれている感じです...)


電場 E の場合は電荷素片“ρ・dz”が微小な電場“dE”をつくるのと同じように, 磁束密度 B の場合は「電流素片“I・dl”が微小な磁束密度 dB をつくる」と考えることができそうです. このイメージを大切にしつつ, 「電流によって発生する磁束密度の式」を書き下してみます.

上の表では,クーロンの法則における “ρ dl” の部分を,単純に “I dl” に置き換えて「磁束密度の基本法則」を作っています. こうしてできあがったこの式が, 「ビオ・サバールの法則」 (Biot-Savart law) というやつです.

結局,電場と磁束密度は,それぞれ「電荷」と「電荷の動き」が“場”を作っていることになります. そして,電荷がある位置から離れるほど,距離の2乗に比例して場の大きさは弱まります. 電荷の大きさや電流の大きさと,実際にできる“場”の大きさとの帳尻を合わせるために, 「k」や「k’」という定数を使っているわけです.

上の式では,定数を「k」,「k’」と別々に設定しています. 電場と磁束密度の大きさはバラバラなので,当然ですが・・・. ここで, 「じゃあ具体的にk'の値はいくつなの?」ということが気になりますが,これは後々決めることにします. とりあえず今は,「電流が磁束密度を作る法則」の式の形が分かったということでひと段落です.




「ビオ・サバールの法則」の話では,まだ「発生する磁場の向き」について, 数式で表す作業が残っています. これから詰めていきます.

上の図を,各ベクトルの「向き」に注目して見てください.「電流素片の向き(ベクトル“dl”)」, 「磁場を求めたい場所を指す位置ベクトル(ベクトル“r”)」, 「電流素片が作る磁束密度(ベクトル“dB”)」 の“向き”の関係は,ちょうと下の図の通り,“dB = dl×r”の関係になっています. ( dl がx軸方向, r がy軸方向, dB がz軸方向・・・という具合です. もっと言えば, dl から r へ右ネジを回して, ネジが進む向きに dB が伸びます. )


ただし,「向き」の話だけをしているので, ベクトルの長さ(絶対値)は「dB = dl×r」の通りになってはいません...


とりあえず,発生する磁束密度Bの向きは,「電流の向き dl と 位置ベクトル rの外積をとった向き」となっています. さて,磁場の話の最初の方で, 直線電流がつくる磁場は「電流を中心とした渦」になっていることを確認しました. 今の「外積: “dl × r”」を使った考え方で,きちんと実験事実を説明できるか確認してみます.

真ん中の電流(向きは“dl”)から,周りの各点へ位置ベクトル“r”を伸ばし, “dl×r”の向きを1点ずつ求めていきます. (くどいかもしれませんが,磁束密度“dB”は,位置ベクトルで指した場所における値なので, ベクトル“r”の先端が始点になるように絵を描いていきます.)

ぐるっと,電流の周りにできる磁束密度を考えると,きちんと渦場になっていることが確認できました. (実際に「右ネジ」を頭の中で回して,確認してみてください.) 特に問題なさそうな感じです. 以上の内容を,「ビオ・サバールの法則」の式に盛り込むと,次のような感じになります.


ここまでの話で,「dl×r」の向きだけが欲しい...という気持ちになっていました. 磁束密度dBの「値(= ベクトルの絶対値)」に関しては, 式中の“(定数)・I・dl/r2の部分で表現できています. ここに「向き」の情報を加えるために,単位ベクトルと外積をとっています. 単位ベクトルと外積をとった場合,向きは変わりますが,絶対値そのものは変わりません.

以上で,「ビオ・サバールの法則」の大まかな部分は決定できました. ビオ・サバールの法則の各パーツ(?)は,上図のようなイメージで捉えることができます. 「定数 k の値」の話は,非常に重要な内容ですが,もう少し先で...




ここまでの話で,ようやく「電流が作る磁場に関する法則」, すなわち「ビオ・サバールの法則」の形が固まってきました. もし本当にこの式が正しいのであれば,一番最初の話題である実験事実, 「直線電流が作る磁場は,電流量に比例し,距離に反比例する」 ということが式を使って導けるはずです.ちょっと確認してみます. (また積分計算をやります.)


例のごとく,「無限長の電流」を想定し,その各点における「電流素片」がつくる小さい磁束密度 dB を全部足し合わせる(積分する)・・・ という流れでいきます.(無限長の電荷分布の時と,話の流は全く同じです.)

電流から「距離 a」 だけ離れた場所に生じる磁場を求める,という設定にします. (電流が作る磁場は,電流自身を中心とした円(渦)の形になります. 今回のケースでは,“a”は,その半径ということになります.本当は,「半径」っぽく“r”を使いたいところですが, “r”は位置ベクトル“r”としてもう使っているので,仕方なく“a”としました.)


適当な場所にある,1つの電流素片が作る磁束密度に注目すると,以下のような感じになっています.

上の図の赤枠の中では,ビオ・サバールの法則を使っています. 外積の計算の部分ですが,この部分は単に「電流素片と位置ベクトルが成す角θ」を取り出すためにあります. (単に「向き」を与えるだけの目的で,外積の部分を付け足したのでした・・・.)


そんわけで,これから「磁束密度の大きさ」を求めるための計算式は,次のようになります.

今回の積分の積分変数は,“dz”となっています. ここで,角“θ”はzによって変化する量です. よって,以下の図のように考えて,θを z の式で表すようにしておきます.


これで,普通に(?) zに関して積分するだけの式が出来上がりました.

ここで,おなじみの置換積分ですが,「z = a・tanφ」と置き直してやります. (ここで使用するφは,今回でてきた角度の「θ」とは関係ありません.)

まず,変域の確認です.

z-∞ → ∞
φ-π/2 → π/2

次に,「刻み幅」のdzの部分を置き換えます.z = a・tanφと置いたので,dzは,

・・・となります.それでは, z に関する積分をφに関する積分に置き換えて, 最後まで計算していきます.

そんなこんなで,「無限長の直線電流がつくる磁束密度」 は,以下のような式になりました.

これは,「電流がつくる磁束密度は,電流量に比例して,距離に反比例する」 という実験事実そのものです. よって,これまで作ってきた「ビオ・サバールの法則」は妥当だと考えて良さそうです.


さてさて,次はようやく「定数 k」の中身に関わる話です.



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【第3式(積分形) その4】 -平行電流にはたらく力と「アンペア」の定義-

ここまでの話で,「電流が磁束密度から受ける力」の式と, 「電流がつくる磁束密度」の式の両方が揃いました. ここまで出てきた数式を一通りおさらいしておきます.


まずは,「動く電荷が磁場から受ける力」の式です.

上の式を使って,「電流が(単位長さあたり)受ける力」を導くと,次式のようになります.


今度は逆に,電流が磁束密度をつくるという話です. これは,次式の「ビオ・サバールの法則」にまとめられたのでした.

上の「ビオ・サバールの法則」を使って, 「無限長の電流から距離 a の位置に生じる磁束密度」 を計算すると,次のようになります.

以上,ここまで長々と考えてきた内容の結論だけをまとめました. ここからが本題です...




一番最初に話題にしていた, 「平行電流の間にはたらく“力”とは,どれくらいの大きさなの?」 という話を片づけます. そもそものモチベーションは,ここから来たのでした.


既に確認した通り,電流が受ける力は「F = I×B・l」 で求められるのでした.この式を使うと,上の図で電流 I2 が受ける力は以下の式で表されます.

磁束密度 B1 の値ですが,無限長の電流 I1がつくる磁束密度の大きさは以下の通りとなります. これは,前に積分計算をして求めていたものです.

よって,B1 を代入すると,電流 I2が受ける力の大きさは次のような感じになります.

ここで,話を単純にするために,「電流間の距離 a = 1m」「力を受ける電流の長さ l = 1m」として,式に代入してしまいます.

さて,ここにきて“定数 k”の役割がはっきり分かってきました. 定数 k は,「電流量と力の大きさの橋渡しをする係数」だと見ることができます. また,定数 k の単位は (N/A2 だと分かります.




ここまで当たり前のように,「電流の単位はアンペア (A) だ」と言ってきましたが, 実は,“1 アンペア”という量はこの式が元になっています.

さっきの式に, I1 = I2 = 1 を代入してみると...

上式の通り,電流 I2 が受ける力 F2“2k” (N) になりました. ならば,単純に「k = 1 (N/A2)」と(勝手に)決めてしまうことにします. すると, 「1アンペアの電流というのは,平行電流に互いに 2 (N) の力がはたらく時の電流量です」 といった感じで「1アンペア」を定義することができます.


くどいですが,ここまでの話の流れを図にまとめてみます.


定数 k は,電流の大きさと,そこにはたらく力の大きさの帳尻を合わせるための値です. ちなみに,この「電流の大きさと力の大きさを結ぶ係数 k 」のことを, 「透磁率」 (magnetic permeability)と呼ぶそうです. 透磁率は物質ごとに異なりますが,イメージとしては,「どれだけ磁力が届きやすいか」といったパラメータです. どの程度“磁場が透けるか?”といった感じで「透磁率」という日本語訳になった気がします...

ここで,「1アンペア」という量をどう決めるかは人間の勝手です. よって,この定数 k (透磁率) というやつは,アンペアの定義に従ってある値に定まることになります. 何を基準にするか?ということ次第で,どうとでも決めることができます.


もし,この k = 1 (N/A2) が採用されれば, 前に出てきた「ビオ・サバールの法則」は係数が無くなって,(ちょっとだけ)簡単な式になります.

しかしながら,実際のところは,k = 1 (N/A2) ではありません. これは歴史的な流れが絡みます...




昔むかし,まだ“電流量の単位”が決まっていなかった頃,今と同じ話が持ち出されたそうです. 「1アンペア」という量が決まっていなかったので, 当然ですが,電流量を決定する目安は「平行電流にはたらく力」しかありません. 今ならば,

「互いに1 m 離れた電流が,1 m あたり 2 Nの力を受ける時に流れている電流を“1 A”とする.」

・・・とすれば,定数 kの値はk = 1 (N/A2)となり, 非常にスッキリします. くどいですが.この“定数 k”というのは「ビオ・サバールの法則」の係数でした. この係数が“k = 1”であるならば,ビオ・サバールの法則の係数は無くなる(1 なので)ことになります.


「1アンペア」という量を決定した当時,エライ科学者たちは,やはり同じような事を考えていたそうです. ところが,実際に現代の電磁気学の教科書を見てみると, ビオ・サバールの法則の係数である k の値は, 「k = 1×10-7(N/A2)」 と書かれています.ケタが全然違います...


この原因は,歴史の流れを引きずっているところにあります.

現在,一般的に用いられる単位系は「SI単位系」というやつです. これに対して,昔は電磁気学の話をする際に 「CGS単位系」 というやつを使うのが流行っていた(?)らしいです.

CGS単位系では,力の単位として「dyn (ダイン)」, 電流の単位として「abA (アブアンペア)」 を使っていたそうです. 1 dyn は 1×10-5 N に相当します. また,1 abA は 10 A に相当します. 当時は,「力といえば,単位は dyn .電流といえば,単位は abA だ.」 というのが常識ですから, 今回の主役である“定数 k ”の議論になった時に考慮される単位は“dyn”abA でした.

そんなわけで,

◎「互いに1 cm 離れた電流が,1 cm あたり 2 dynの力を受ける時に流れている電流を“1 abA”とする.」

という具合に,CGS単位系に都合の良いように電流“アブアンペア”の値を定義してしまったそうです. この場合,定数 kの値は「k = 1 (dyn/abA2)」となって,確かにCGS単位系を使った場合は式がすっきりします.


しかしながら,現在主に使われている単位系は「SI単位系」です. よって,当時の k = 1 (dyn/abA2) を,現在の「アンペア」と「ニュートン」で表すと, k = 1×10-7 (N/A) という事になった・・・という話です.


「1アンペア」という電流の定義を,今風に書き直すと,以下のようになります.

◎「互いに1 m 離れた電流が,1 m あたり 2×10-7 Nの力を受ける時に流れている電流を“1 A”とする.」

・・・それでは,あらためてビオ・サバールの法則を書いてみます.

ちょっと定数 k の値が不自然(?)かもしれませんが, 以上で,「ビオ・サバールの法則」が本当に完成したことになります.



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【第3式(積分形) その5】 -アンペールの法則-

さてさて,ようやく“まとめ”の 「アンペールの法則」 まで来ました.

上の図の通り,直線電流がその周りに発生させる磁束密度は B = 2k・I/a となります. これはビオ・サバールの法則から導いたものでした. しかしながら,この式は「直線電流の周りの“1点”だけ」の磁束密度しか表せていません. 「直線電流が作る磁束密度は,トータルでどのくらいなの?」という事を考えないと, 本当の意味で「電流 I が発生させる磁束密度はこのくらいだ」ということを表した気分になれません.


そんなわけで,直線電流が発生させる磁束密度を全部足し算して合計することにします. 下の式は,「直線電流から距離 a だけ離れた場所に生じる磁束密度 B」を表していますが, この磁束密度は電流を中心とした半径 a の円上で,どこでも同じ値ということになります.

それならば,「半径 a の円に沿って磁束密度 B の値を合計する」ことで, 「電流が距離 a の場所に発生させた磁束密度」を全部表すことができそうです. 要は,円周の長さ 2πa をかけ算するだけです...

上の式では,「線積分」というやつで今回の計算を表しています. 単純に,ある閉ループに沿ってぐるっと各場所の磁束密度の値を足し算していくだけです. ちなみに,各場所ごとの「閉ループに沿った向き」を考えてやると, 下の図のように場所によってバラバラです. そんなわけで,積分する時はその“向き”と同じ方向の成分を取り出すことにします. 「閉ループに“沿っている”有効成分」・・・という感じです. これを数式で表すと,閉ループ上の微小線分,「線素: ds 」と内積をとる形になります. (今回は,きれいな円形の磁束密度を相手にしているので,内積をとる意味は特にありませんが・・・)

また,インテグラルの添え字の “c”は,“contour integral”(周回積分)の頭文字です. 今回のような,閉ループに沿った線積分のことを特に周回積分と呼んだりします. 単に,ある閉ループに沿って磁束密度の値を合計しているだけです. 今計算する「円形の磁場の線積分」は,単純に 2πa をかけ算するだけです.



さて,直線電流がつくる磁束密度 B を線積分すると“4π・k・I”という値になりました. ここで,定数 k ( = 1 × 10-7 (N/A2) ) の中身を, 次のように書きかえる事を考えてみます.

k の値が 1 × 10-7 (N/A2) だったので, μ0の値は「4π×10-7 N/A2 ということになります.このμ0は,「真空の透磁率」と呼ばれる値です. 磁場を遮る物が一切無い空間(= 真空)における,磁束密度の届きやすさ・・・といったニュアンスです. μ0を使って先程の閉路積分を表してみます.

すると,綺麗に4πが約分されます.このためにわざわざμ0を作ったのですが・・・. そんなわけで,「電流がある閉ループ上に発生させる磁束密度の合計」は, 次の式で表すことができます.

上の式が,「アンペールの法則」というやつです. やたらとキレイな式になりましたが,その裏には「1アンペアを式がきれいになるように決めた」とか, 「4πが約分されるようにμ0を導入した」とか,結構好き勝手なことをやっているわけです... とはいえ,全体としてきちんと整合性を保っているので,全く問題はありません.




ビオ・サバールの法則のアフターケアという訳ではありませんが, 「定数 k = μ0/4π」を,もともとのビオ・サバールの法則に入れてみます.

はい.上の式も,教科書なんかでよく目にする形の式です. いろいろと紆余曲折を経て,上式のような形にまとまったんだなあ・・・という気持ちで眺めておきます.




さて,先程の 平行電流にはたらく力と「アンペア」の定義 では,「1アンペア」という電流量を式がきれいになるからといったモチベーションで決定しました. 本当にこれで大丈夫なの・・・? という気分になります.


実際,「1アンペア」をきれいに決定したことで,真空の誘電率μ0も「4π×10-7 (N/A2) 」 と,きれいな値になっています. しかし,「磁場」のみではなく「電場」まで視野を広げると, 今回の単位の決定方法では全ての物理量がきれいな数字になるわけではない・・・という事が分かります.

電気量の単位「クーロン (C) 」は,「1 A の電流を 1 秒間流したときに流れる電気量」 という風に定義されています. すると,「クーロンの法則」の,「電気量」と「力」を結びつける定数 (ε0 : 真空の誘電率)でうまい具合に帳尻を合わせる必要が出てきます. 実際,ε0 = 8.854... × 10-12 (N-1・C2・m-2) と, かなりゴチャゴチャした値になっていますが,これは全てのしわ寄せがε0に来た結果です.




ちなみに,今回の「アンペールの法則」は磁束密度 B を“線積分”するという内容でしたが, “面積分”するとどうなるのでしょうか・・・? これは,既に【第2式】磁場に関する法則(積分形)で扱った内容です. 磁束密度を面積分すると,ゼロになるのでした.これを確認しておきます.

ループ状の磁束密度 B を,適当に閉曲面で囲むイメージしてみます.磁束密度全体が閉曲面の中にすっぽりと入っている場合, そもそも閉曲面を貫通する磁力線は無いので,面積分の値はゼロになります.

逆に,磁束密度のループが閉曲面を貫通するシチュエーションを想像すると, 次の式のように,「出る」磁力線と「入る」磁力線の本数は同じになります(磁束密度はループしているので). よって,やはり面積分の値はゼロになります.

以上で,磁束密度に関わる法則は一通り確認できました. 次は,ずっと保留していた「磁場 H」「磁束密度 B」の違いについて簡単に触れます.



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【第3式(積分形) その6】 -「磁場 H 」と「磁束密度 B 」-

さて,「アンペールの法則(積分形)」は以下のような式でした. いまさらという感じかもしれませんが,この式に出てくる「磁束密度 B 」というのは, 「電流に力を及ぼす場」です.

電磁気学の教科書を読んでいると,磁束密度と似たような「磁場 H 」というやつにお目にかかることがあります. この磁場というのは何者なの・・・?という話をさらっとしておきます.




まず,下の図のような「コイル」をイメージします. コイルが作る磁場を厳密に計算するところは省略しますが,コイルに電流を流すとコイルを貫通するような磁束密度が生じます. これは,大部分の人が子供のころに実験していると思います...

そして,コイルの中心に「鉄心」を入れると,コイルがつくる磁束密度が強化されます. これも,おなじみの事実だと思います. ここで,どうしてこうなるの?ということを考えてみます.


「鉄心」は鉄でできているわけですが,鉄の中には沢山の電子が入っています. この電子の動きは「電荷の動き」ということで,「電流」と等価なものと考えられます. 電流があるということは,それによって生じる「磁束密度」があるはずです.

しかしながら物質の中の「電子の動きの向き」は,普通はバラバラです. 大量の電子がバラバラな向きの磁束密度を発生させているので, トータルで見ると,物質の外側に出ていく磁束密度はゼロになります. しかし,ここに外側から物質に磁束密度を印加すると, 物質内の電子がこの磁束密度の力を受け,綺麗に整列することになります.

この「整列」のしやすさは,物質によって様々です. 「鉄」は特に整列しやすいので,より強い磁束密度を発生させることができるため,コイルの芯としてよく用いられます.




そんなわけで,「鉄心入りコイル」の周りの磁束密度は, 「電流がつくるオリジナルな磁束密度」と, 「鉄心がつくる磁束密度」を合わせたものになります. この鉄心がつくる磁束密度というのは,くどいですが,外部の磁束密度(= 電流が発生させる磁束密度)に影響されて生じたものです.

これを数式で表すと,次のようになります.

“BALLというのが全体の磁束密度, “BCurrentが電流がつくる磁束密度で, “BCoreは鉄心による磁束密度です. ここで,普通は「磁束密度」というものはループ状の場です. ある「1点」における磁束密度を考えるよりは, ループに沿ってぐるっと線積分したほうが, 電流がつくる「トータルの磁束密度」のイメージに近くなります. そんなわけで,上の式を両辺を,とりあえず線積分した形に書いておきます.

ここで,前につくった「アンペールの法則」を思い出します.

「電流が作る磁束密度の線積分」は,“μ0I”に等しいのでした. これを代入すると,次のようになります.

ここで,“BCoreというやつは, もともと電流がつくる「物質外部の磁束密度」に影響されて生じたのでした. その点を意識すると,“BCoreの大きさは, 外部の磁束密度の大きさによって左右されることになります. これを,数式で表してみます.

上の式は,「物質から生じる磁束密度は,その周りにある(電流がつくる)磁束密度に“比例”する」 と言っています. これはかなり単純すぎる話だと感じるかもしれませんが, 色々な物質で実験してみると,意外とこの近似は実用的なようです. この比例定数“χmは, 「磁化率」(magnetic susceptibility)と呼ばれるそうです.無次元の物理量です.




結局のところ,すべての根っこは「電流がつくる磁束密度」なんです. そんなわけで上の式を,主役である「電流」が式に出てくるように変形してみます. まずは,式全体を線積分します.

ここで右辺にアンペールの法則を使うと,次のように書き換えることができます.

「物質内の磁束密度は,外側の電流が影響するよ」ということが分かりやすい式になってきました.


これを,「全体の磁束密度の式」に代入します. ついでに,アンペールの式も代入してしまいます.すると,

・・・ということで,「トータルの磁束密度も,結局は電流がつくっている」というイメージを表せました. ここで出てきた,電流 I と磁束密度 B を結びつける比例定数 “μ0(1+χm)” のことを,(物質がある場合の)「透磁率」(magnetic permeabiity) と呼びます. “(1+χm)”の部分は無次元量ですが, この部分だけ抜き出して,「比透磁率」と言ったりするそうです.




ここまでの話で,以下の式が得られました.

これはこれで,「電流が磁束密度をつくる」という事実を表していて良いのですが, “χm”の値は,電流の周りにある物質によってバラバラです. すると,電流がある環境によって,その周りに生じる磁束密度の値もバラバラになってしまいます. つまり,「同じ電流量だとしても,その周りの状況によって生じる場(磁束密度)の大きさは異なる」 という,少々ややこしいことになります.


今考えている「マクスウェル方程式」は,電磁気の諸現象をまとめた“どこでも通用する公式”みたいなものなので, この「環境によって値が変わる」というのは好ましくありません... どうやったら「どこでも通用する公式」になるのか考えてみます.

上の式は,単純に,さっきの式の両辺を“μ0(1+χm)”を割っただけです. とはいえ,この式の右辺はただの「電流 I」が現れているので, 左辺の量も,「そこにある電流の値だけで決まる」と言えそうです.


そんなわけで,この「磁束密度を透磁率で割った値」は, 「電流の値のみによって決まる」という意味で便利なので,名前を付けることにしました. これが「磁場 H 」(magnetic field) というやつになります. 磁場の単位は (A/m) です.

磁場 H は,電流の値のみによって決まる値で便利ですが, そもそも根っこの話である「電流が受ける“力”」とは関係がありません. これは,電場 E が“力”に関わる場であったのに対して, 「電束線の本数を考えやすいから」という理由で電束密度 D を導入した流れに似ています. 電場 E は磁束密度 B と対応しており,電束密度 D は磁場 H と対応しています. “密度”という名前が食い違っているように見えますが,これは例によって歴史的な流れが関係しているので, ネーミングに関してはしょうがなく(?)受け入れておきます.




ちなみに,物質までひっくるめた全体の透磁率“μ”を使うと,磁束密度と磁場の関係は次の式で表せます.

特に,「真空中」では, 余計な物質は何も無いということなので,“χm = 0”になります. すると,“μ0(1+χm)”の部分はただの“μ0” となります. そんなわけで, “μ0”のことを「真空の透磁率」と呼ぶようになったそうです. 真空中では,磁束密度 B と磁場 H は以下の関係になります.

前につくっていたアンペールの式に,上の関係を代入してみます.

μ0で両辺を割り算することで,以下の式が完成します.

くどいですが,「磁場 H 」は電流が受ける力とは関係ありません. しかし,上式のように式がきれいになるので導入されました. この式は,電流 I の周りにどんな媒質が存在しても成り立つことになります. そのため,このきれいな式の方を「アンペールの法則」と呼ぶことも多々あります.


とりあえず,これでマクスウェル方程式の第3式の半分が完成しました. 最後に,残った半分をくっつけることにします.



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【第3式(積分形) その7】 -マクスウェルの変位電流-

ここまでの話で,「電流の周りには磁場ができる」ということが分かっています.

その磁場の様子を表現した式が,「アンペールの法則」でした.

ではここで,充電中の「コンデンサ」を想像してみます.

コンデンサは極板間が絶縁されているので,電流を流し始めてから時間が経つと, 電流が流れなくなります. しかし,電流が止まるまでの状態(過渡状態)では,向かい合った極板に電荷を貯めるために電流が一瞬流れます. この「一瞬」に注目します.

普通に電流が流れている電線の周りには,当然ですが,どこの場所でも磁場が生じています. これに対してコンデンサでは,極板の上下の「電線」には普通に電流が流れているものの, 「極板の間」には電流が流れていません. 電荷の流入によって極板に蓄えられる電荷量が変化するわけですが,“極板の間を電荷が行き来する”ということは無いわけです. すると,「極板の間に電流が無いなら,磁場も生じないの?」と思ってしまいます. しかし,そう考えてしまうと,極板間だけ連続性がとぎれてしまって,なんだか不自然な感じがします・・・.




では,電流以外の「極板間に存在する“動き”」を探してみることにします.

コンデンサに電流が流れ込み極板に電荷が溜まると, 極板間の電束線の本数が変化します. ここで,「電束線」というのは,1クーロンの電荷から1本でるというやつでした. 電荷の数が変化すれば,当然ですが,電束線の本数も変化します. 「1クーロンの電荷から1本」というイメージが分かりやすいので,ここでは電場 E ではなく 電束線を使って単純にイメージしました.

ここで,「電束線の時間的な変化によっても磁場は発生する」 ・・・と考えると, 電線の部分でもコンデンサの極板間でも,その周りに磁場が発生することになります. すると,磁場が途中で無くなる・・・という気持ち悪いことにはならず, 筋が通った感じになります. とりあえず,この考え方を採用して話を進めることにします.


では,「電束線の本数の時間変化」というやつを数式で表すことを考えます. まずは,「電束密度 D 」の時間変化を式で表してみます.

偏微分になっているのは,一般的な電束密度 D の値が場所(x, y, z)と時間(t),4つの変数を持つ関数だからです. 上のコンデンサの図では電束密度 D は空間的に一様ですが,一般的には各場所(x, y, z)ごとに違った値でも構いません.


次に,「極板間にある全ての電束線の本数」の時間変化を考えます. これは,次の式のように面積分するだけです. ただし,実効的に意味のある電束線は考えている面に対して垂直な成分だけなので, おなじみ「法線ベクトル n 」と内積をとっています.


では,前につくった「アンペールの法則」に, 「電束線の本数の時間的な変化も磁場をつくるよ」という意味を持たせてやることにします. これは単純に,上の式をアンペールの法則の右辺に加えるだけです.

上の式は, 「アンペール・マクスウェルの法則」 と呼ばれるもので, この式を使えば今回のコンデンサの話のように, 電線がどこかで途切れていても連続した磁場が生じることを説明できます. アンペールの法則の改良版といったところです.




あらためて,完成した「アンペール・マクスウェルの法則」を眺めてみると, “電流”と“電束線の時間変化”が足し算されています. 「足し算」というのは,2つの物理量が等価な場合だけ可能なことです. しかし,「“電流”と“電束線の時間変化”は同じような感じのものなんだ」と言われても,ピンとこないところです... その辺の話を掘り下げてみます.


まず,「1クーロン」という量は,どうやって決められていたのかを思い出してみます.

そもそも「電気量」(単位はクーロン)というものは, 電流をもとにして定義された量でした. 1 Aの電流を1秒間流した時に通過するトータルの電気量が, 「1クーロン」です. そのため,単位に目を向けると,「 (C) = (A・s) 」ということになります.


この電気量の定義から,電流を時間で積分すれば「電気量」が得られることが分かります 数式で表すと次のようになります.

ここで,「ガウスの法則(積分形)」というやつを思い出します. 次のような式でした.

この式は,「電荷Qから出る電束線の本数を合計すると,Q本になるよ」という意味でした. この式を,さっきの電流と電荷の関係の式に代入してみます.

上の式で,やっと「電流」と「電束密度」が結びつきました. あとは,上の式の両辺を時間で微分してやります.

・・・ということで,「電流」「電束線の本数の時間変化」は等価であることが分かりました. 実際に電荷の移動が無くても, その場所の電束密度が変化する(つまり,電場が変化する)ことがあれば, それは等価的に電流が流れていると見なせるということになります. そんなわけで,「電流っぽい」という気持ちを込めて, この電束の時間変化のことを,「変位電流」(displacement current) と呼ぶそうです.

アンペール・マクスウェルの法則では 「電流と変位電流の両方が,磁場をつくる原因になるよ」と言っているわけです.




さて,長々と磁場の話を続けてきましたが, ようやく完成版の式ができました.

くどですが,上の式の意味は,「磁場を作るのは,電流と変位電流である」という意味です. ここで,「電流」の部分を,電流密度の面積分として書き直しておきます. 他の部分が積分の形なので,電流だけ “I” というのもなんかアレなので...

一般的に上の式のことを,「マクスウェル方程式の第3式(積分形)」と呼びます. この式の別名は,「アンペール・マクスウェルの法則(積分形)」です.



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【第3式】アンペール・マクスウェルの法則(微分形)

マクスウェル方程式の第3式, アンペール・マクスウェルの法則の「微分形」です. 「電流や変位電流が,磁場をつくるよ」 という話です.

「磁場」についての細かい話は第3式:アンペール・マクスウェルの法則(積分形)のところで一通り済ませたので, 今回は積分形で作った式を「微分形」に作り変える作業だけです.

前に出てきたアンペール・マクスウェルの法則の積分形と同じく, 主役は磁束密度(磁場)です. 積分形の場合は「閉ループ状の磁場全体をぐるっと線積分する」という, 広い範囲の磁場を相手にしていました. これに対して今回の微分形では,「ある一点における磁場の渦(ループ)」を考えることになります.

おなじみですが,磁場 H や電流 I ,電束密度 D といった各パラメータは場所 (x, y, z)と 時間 (t) の関数となっています. 丁寧に書くと上の式のようになりますが,例のごとく,今後は省略します.


これからの内容をざっくりとまとめます.


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【第3式(微分形) その1】 -微小な「1点」における渦を見る-

今回は「微分形」なので,ある1点における磁場を見ていくことになります. 前に第3式(積分形)で確認した通り,磁場 Hや磁束密度 Bというのは 閉ループ沿ってできる場(渦場)なのでした. そんなわけで,これから考える相手は「ある1点における渦」ということになります.

そうは言っても,「点における渦」なんてものをイメージするのは難しいです. そもそも「渦」というのは 「ある程度の大きさを持った面のフチに沿って,ぐるっと回るもの」 というイメージになるわけですが, 「ただの点」のままではフチを考えることができません. そこで,「ある点における渦」というやつを, 「微小な面のフチに沿ったループ」に置き換えてしまいます. 微小な面積を極限まで小さくすれば点になるだろう・・・という,おなじみ微積分の考え方を使う感じになります.

「渦(回転)の向き」を表す手段ですが, これは例のごとく右ネジを回す方向と,右ネジが進む方向に対応させてしまうのが便利です. 「渦」というのは平面上にあるものですが,その平面に垂直に立てたベクトルを「渦を表すベクトル」として使います. 磁場の渦の向きに右ねじを回した時に,右ねじが進む向きにベクトルを伸ばします.

ベクトルの向きが分かれば,それと1対1対応で「渦の面」が決まります. さらに,そのベクトルの長さが「渦(回転)の大きさ」を表すと決めてしまえば, ベクトル1本で「渦の大きさと向き」を同時に表すことができて楽です. そんなわけで,今はベクトル1本で「渦(回転)」を表すのが常套手段になっているようです. この,「“回転”をベクトル1本で表す」というイメージは非常に重要で, 後々たくさん出てくる考え方です.




さて,それでは具体的に「ある微小な面のフチに沿った渦」を式で表すことを考えてみます. 「渦」の大きさは,そのフチに沿った線積分を計算することができるのでした. 「アンペールの法則(積分形)」で考えたのと同じ話です.

ここでは基本的な座標として下図のようにx-yの座標を敷いて,四角いフチで計算することにします.

上の図のように,「渦場」である磁束密度 B は,各場所においてバラバラな向き,バラバラ大きさとなっています. それを少し遠くから眺めると「全体として渦を巻いているように見える」という感じです.

渦を数式で表す方法は,「面に垂直なベクトルを使って表す」ということになっていました. 今回はxy平面に渦があるので,その渦を表すベクトルはz軸方向に伸びることになります.


では,具体的に「渦の形をした磁束密度 B の線積分」を計算します.

分かりやすくするために,「線積分」をそれぞれの辺ごとに分けて計算することにします. 最後に全部の辺について合計すれば,渦全体の線積分が求まる・・・という流れです. 1つの辺の線積分は,以下のようにして計算します.

各辺で線積分をする時,最初にスタート地点(始点)を決めます. 始点の決め方は任意です. そして,おなじみ「“その場所における場の大きさ”ד経路の長さ”」で線積分の値を求めます. ただし,今回は「経路の長さは非常に短い“Δx”」ということにしているので, 「Δxの区間内では磁束密度 Bの大きさは変わらない」と考えてしまいます. 微積分でよく出てくる考え方です. これによって,線積分は単純に「“始点における場の大きさד経路の長さ”」 で計算することができます.


そんなわけで,全ての辺について線積分を求めると,以下のような感じになります.

x方向の磁束密度は「Bxで, y方向の磁束密度は「Byとしています. 今回はxy平面上の磁束密度の場を考えているので,とりあえずこの2つで表現することができています. z軸方向の磁束密度を考える必要がある場合(たとえばyz平面内の渦)は, 「Bzを使う必要があります...


上の図から,今回の「微小面のフチに沿った線積分」は,次の式で表せます. 単純に,足し算するだけです.

上の式は,立派に「微小面のフチの沿った線積分」になっています. ただ,座標が“x+Δx,y+Δy”などとなって込み合っていて,式が少々ゴチャゴチャしてしまいました. BxやByの始点の取り方をもう少し工夫して, 次のステップに繋げる準備をしておきます. (後で出てきますが,偏微分をやりやすくするための作業です.数学的な小手先のテクニックです...)


まずは,四角形の上側の辺についてです. さっきは始点を右側の頂点にとっていましたが,これを左側の頂点に変更します.

この場合,x方向の磁束密度の大きさは「Bx (x,y+Δy)」を使うことになります. 線積分の方向,長さは同じなので「-Δx」のままです. 「ある辺の中で右端の値を採用しようと,左端の値を採用しようと, ほとんど値は変わらないだろう」という,おおざっぱな(?)微積分のセンスです. とりあえず,これで「Bx (x+Δx,y+Δy)」だったものが「Bx (x,y+Δy)」になりました. 少しだけ式が簡単になります.


さらに,もうひとつ.今度は右側の辺についてです. これも,始点の位置を変更してしまいます.

もともとこの辺の線積分は,始点を上側の頂点にとっていました. これを下側の頂点の値に変更します. 磁束密度の値は「By (x,y)」を使うことになります. これで,「By (x,y+Δy)」だったものが「By (x,y)」になりました.


あらためて,各辺の線積分の値を確認しておきます.

そんなわけで,このループをぐるっと1周する線積分の値は,次の式で表されます.

これで,「1点における渦の大きさ」を求めたことになります. くどいですが,実体としては「微小面積のフチに沿った,渦の線積分」です. ただ,この「微小面積」(上の式でいうと“Δx・Δy”です)が非常に小さいイメージなので, だいたい“点”だろう・・・ということです.

ある1点における渦の線積分が求まったので,次は「微分形のアンペールの法則」を作ることにします.






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【第3式(微分形) その2】 -“rot”(ローテーション)について-

さて,これまでの話で「ある1点における渦を線積分した結果」というのは. 次の式で表せることが分かっています.

上の式は「線積分」の式というだけあって, まだ「積分形」のイメージから抜け出せていません... これから,今欲しい「微分形」のイメージに近づけるために 数式を変形していく作業をします.


とりあえず,“Δx”と“Δy”で右辺をくくってみます.

さらに,両辺を“Δx・Δy”で割り算します.

すると,右辺に「微分」の形がそのまんま出てきました. やっと「微分形」っぽい雰囲気になってきました.

上の式では,B(x,y)という x と y の関数を, x もしくは y だけで微分している形になっています. これは,いわゆる「偏微分」というやつです. そんなわけで,偏微分の記号を使って書いておきます. (Δx→dx,Δy→dyという極限操作もとってしまいます.これが,「微小な面」を「点」に縮小する操作です.)


あらためて,今までの変形で出てきた式を見てみます.

左辺は,渦に沿った線積分を,“dxdy”で割り算した値となっています. この“dxdy”というのは,ループを考えた面の「面積」を示します.

線積分の値というのは,「渦の強さ・大きさ」といった意味を持ちます. これをループの面積で割り算しているわけです. つまり,左辺全体が意味するものは「単位面積あたりの回転の量(渦の大きさ)」という感じになります. そして,「単位面積あたりの渦の大きさ」は右辺の偏微分計算で求められますよ・・・というのが,この式が言っている内容です. なんだか不思議な感じですね.




ここまで求めてきた「単位面積あたりの渦の大きさ」は,次の式で表されます.

この値に,渦の大きさを求めたいループの「面積」をかけ算してやれば, 全体としてのループの大きさを求めることができます(場所によってループの大きさが違う場合は,「面積分」することになります).

ここで,この「ループにおける渦」はベクトルで表すルールがあったことを思い出します.

今回はxy平面上のループを考えていたので,渦の大きさを表すベクトルはz軸方向に伸びています. 単位面積あたりの渦の大きさをイメージすると,そのベクトルの大きさが今回求めた 「∂By / ∂x - ∂Bx / ∂y」になるわけです.

それでは,この「渦の大きさを表すベクトル」を3次元に拡張します. いままではxy平面内の渦だけを考えていたので,そこから伸びるベクトルはz方向のものだけでした. これに対して,yz平面内の場合は「x軸方向に伸びるベクトル」, zx平面内の場合は「y軸方向に伸びるベクトル」がそれぞれ「回転量」を表すことになります. (例えば,xy平面内におさまらないような,ちょっと傾きを持った面における渦を表現したい場合, 3次元の「回転ベクトル」が必要になります.)

x,y,z の3方向について,回転量を表すベクトルを並べてみます. 細かい計算は省略しますが,基本は今までの「xy平面内の渦」と同じ計算です.

このベクトルは,「3次元空間内のどんな向きの渦でも表すことができるベクトル」 です. 「渦場」を扱う場合,このベクトルはとても便利な道具になります. しかし,毎回このベクトルを書くのは,偏微分の計算なんかも入っているので面倒です. よって,特別にこのベクトルに名前を付けて,ラクに表記しよう・・・という事が考えられました. それが“rot”という記号です.

“rot”は“rotation”(ローテーション,「回転」)の略です. ある場(今回は“磁束密度 B ”です)の前に演算子のような感じで書くことで, 「その場の単位面積あたりの渦の大きさ」を表すことになります. rotBと書いてしまえば簡単ですが,その中身では上の式の通りゴチャゴチャと偏微分計算をしているわけです.




さて,ここで「ベクトルの外積」というやつを思い出します. これはもともと,「磁束密度の中で電荷が受ける力」を表すために出てきた話でした. ここでは簡単に,「×」という記号の計算のルールだけ確認しておきます.

簡単のため,次の式ではx成分とy成分をもったベクトル A とベクトル B で考えます.

「A×B」のz成分を計算するには,AとBのx,y成分を使うのでした. (このへんてこな計算方法は,電荷が受ける力を表しやすくするように特化したため生まれたのでした.) ポイントは「x→y→z→x→y→z... という順番」です. 外積の「z成分」を求めたい時は,「z→x→y」の順番に従って, z成分の外積の第1項は「Ax・Byとなります. 第2項は,添え字をひっくり返して「Ay・Bx となります.あとは「引き算をする」ということさえ忘れなければ,外積の計算方法もすんなり暗記できると思います.

では,話を戻します. rot Bのベクトルの各成分を良く見ると,これは「偏微分記号のベクトル(ナブラ∇)」と「磁束密度のベクトル」の外積になっている ことが分かります.

なんだか,都合よくいくものだな・・・と思うところです. ここまで計算された上で「∇(ナブラ)」が考案されたのかは分かりませんが, ナブラというベクトルは電磁気学で非常に役立つツールですね. 書かなければいけない数式の量が一気に減ります. (一方で,あまりに簡略化しすぎたために,初見では意味不明な数式に見えるわけですが・・・)

“rot B”と表記するのもスマートで素敵なのですが, 今後は「具体的な計算の中身が見える」ことを重要視しようと思うので, 「∇×B」の方を使うことにします. ∇×Bという形を見かけたら,ローテーションの事だな・・・と思ってください.






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【第3式(微分形) その3】 -ストークスの定理-

それでは,「マクスウェル方程式第3式(微分形)」,すなわち「アンペール・マクスウェルの法則(微分形)」を作っていくことにします. 前に計算しておいた,「ある点における磁束密度 Bの線積分」を思い出します.

上の式は,「xy平面内の渦」という簡単な例から導いたものでした. この式から「rot」のイメージが生まれています. ここで,この式をどんな平面内の渦でも対応できるように拡張しておきます. 単に,x,y,zの3方向を考慮するだけです.

まず「dxdy」の部分は,微小な面積という意味で「dS」と書き直しました. どんな面でも良いのですが,その面のフチにそった回転を考える感じです. また,偏微分の項は3次元のベクトルということで,「∇×B」に書き直してあります.


次に,両辺を面積分します.積分する「面」は,当然,渦に沿ったループが作る面です. (単純に,両辺に「dS」をかけ算する,と考えてしまってもかまいません.)

上の式が言っていることは,「ある渦場 B をループに沿って線積分した値」は 「rotB(= ∇×B)をその面内で面積分した値」と等しいという内容です. 重要なのは,この式によって「線積分と面積分が変換できる」という点です. この式は今回のように具体的な磁束密度の話とは別に, 「線積分と面積分を変換する公式」という意味をもっていることになります. この式は「ストークスの定理」と呼ばれていたりします.

(※「ガウスの定理」が体積分と面積分を入れ替えるのに使う公式であるのに対して, この「ストークスの定理」は面積分と線積分を入れ替える公式です. これで,体積(3次元),面積(2次元),線(1次元)が全てつながった感じになりました.)


このストークスの定理をイメージする際によく出てくるのが,下の図です.

「∇×B」という項は,「微小面積あたりの回転」を表すものでした. つまり,大きなル―プの中には各地点ごとに違う値を持つ「∇×B」が大量にあることになります. この小さなループを合計しているのが,ストークスの定理の右辺です. ここで,「ループの内側」に注目すると,1つ1つの微小ループが重なり合う場所では 向きが互いに逆向きになっています. 今回は四角形のループを敷き詰めた図になっていますが,円形の微小ループだろうと, どんな形の微小ループでも「微小ループが重なる場所は回転が打ち消される」ことになります. よって,ループ内の全面積について微小ループを合計した時に,最後に残るのは「フチの部分だけ」 ということになります. この,「フチの部分の線積分」というのは,ストークスの定理の左辺に一致します. だいたい,こんな感じでストークスの定理はイメージされているようです.




ようやく本題の,「マクスウェル方程式第3式(微分形)」です.

さっき出てきた「ストークスの定理」を,磁場 H について適用します. (とは言っても,前まで使っていた磁束密度 Bに関する式の両辺をμ0で割り算しただけです.)

ここで,「アンペール・マクスウェルの法則(積分形)」を思い出します. 次のような式でした.

ここで,上の2式は両方とも「磁場 H の線積分」についての式になっています. よって,上の2式の右辺同士をつなげてみます.

すると,次のような関係が導かれます.

ここで,上の式のすべての項は面積dSに関する面積分となっています. その中身(被積分関数)の部分だけを抜き出して,すっきりした式にします.

これが,「マクスウェル・アンペールの法則」の微分形です.



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【第4式】ファラデーの電磁誘導の法則(積分形)

マクスウェル方程式の第4式です. 「磁束密度の変化がループ状の電場をつくるよ」という式です.

この第4式は,高校物理の電磁気学でもおなじみの「ファラデーの法則」そのまんまです. 磁場の変化が,電場をつくるという話です. 電場がある空間の中には,当然,電位差が発生します.電位差が生じれば,そこに電流が流れます. これがいわゆる「誘導電流」と呼ばれるやつです. また,“電位差”そのものに着目して,「磁束密度の変化は“誘導起電力”を発生させる」という言い方をすることもあります.

例によって,上の式における電場 E や磁束密度 B は「空間(x,y,z)」と「時間(t)」の関数です. これを明示すると,以下の式になります.

毎度のことですが,この(x,y,z,t)というやつを丁寧に書くと式がゴチャゴチャしてしまうので, 今後は省略することにします.


ここからの流れは以下のような感じになります.さらっと終わらせます.


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【第4式(積分形) その1】 -レンツの法則-

今回の主役は「電場 E」です. ただし,一番最初に出てきたマクスウェル方程式の第1式(ガウスの法則)で出てきた電場とはちょっと別物です...

マクスウェル方程式の第1式は「電荷」がつくる電場の話です. これに対して,今回の第4式では「磁束密度の時間変化」がつくる電場を相手にします. いずれにしても,「電場」には変わらないので,そこに電荷を置いた場合, その電荷は力を受けて移動します.つまり,電流が流れます.


突然,「磁束密度の時間変化が電場を作る」と言われても,ピンとこないかもしれません. どうしてこの第4式,「ファラデーの電磁誘導の法則」が発見されるに至ったのか,ちょっと歴史の事を考えてみます.

この法則が発見される以前,既に「電流が磁場をつくる」という事実は知られていました. 第3式(アンペール・マクスウェルの法則)のことです. とりあえず,第3式(積分形)の式を出しておきます.

上の式は,「電流,もしくは変位電流の時間変化が磁場をつくる」という意味でした. ここで,電流 I は存在せず,電束密度 D の時間変化のみが存在する場合を考えます. 式としては“電流 I ”を消すだけです. 具体的なシチュエーションとしては,コンデンサの極板間などのイメージです. “電流は流れていないが電場(電束密度)の大きさは変化している”という感じです.

くどいですが,上の式は「電束密度の時間変化(変位電流)が,磁場を生み出す」という事を言っています. ここで,この式が「電場」と「磁場」が対になっていることに注目します. 電場(電束密度)の時間変化が磁場を生み出すなら,その逆もあってはいいのでは? つまり, 「磁場の時間変化は,電場を生み出さないの?」と思うのは,素直な考え方だと思います.




そんなわけで,「磁場の変化が電場を作る」ということを確かめるために実験が行われました. この実験には磁石とコイルを使う方法,2つのコイルを使う方法・・・などなど, 「おなじみのパターン」がいろいろとあります. とりあえず今回は,下の図のように2つのコイルを使う方法でいきます.

上の図の通り,最初に2つのコイル(ただの円形電流ですが)を用意しておきます. 上側のコイル1は,電流を流して磁場を発生させるためのものです. 下側のコイル2は,「磁場の変化」を受けて電場が生じるかどうかを確認するためのものです. 主役は「コイル2」の方です.

この実験結果は,小学校や中学校の理科実験でおなじみだと思います. 「コイル1に電流を流した瞬間に,一瞬だけコイル2に電流が流れる」という結果が得られます. この結果の解釈としては,以下の流れが自然だと思います.


コイル2に電流が流れるということは,その経路に沿って電場が生じている証拠です. よって,「磁場の変化が電場をつくる」という事実がこの実験によって確認できます. この時,コイル2に生じている電流は「誘導電流」(Induced current)と呼ばれたりするものです. この誘導電流は外部から印加される磁場の変化(コイル1の磁場の変化)をキャンセルする方向に,磁場をつくろうとします.

(※コイル2には,初期状態(上の実験では「磁場が無い状態」)をキープするように誘導電流が流れます. 今回のケースとは逆に,最初に上側のコイル1に電流が流れていて磁場を発生させている状態から, 突然電源を切って磁場を“消滅”させたとします. すると,下側のコイル2には,それまであった磁場を“発生”させる方向に電流が流れます. いずれにしても,コイルというやつには「磁場の変化を嫌う」性質があるわけです. 電源のON・OFFの直後は「磁場が変化する」ため,誘導電流が流れます. しかし,その後磁場が一定の状態に落ち着いてしまうと「磁場の変化」は無くなります. この時は,もう誘導電流は流れません. )


この,「コイルには,自分を貫く磁束の変化を妨げるように誘導電流が流れる」 という法則を「レンツの法則」と呼ぶそうです. 発見者のレンツさん(Heinrich Friedrich Emil Lenz,1804〜1865)にちなんだ名前です. このレンツの法則は,電磁気における「慣性の法則」という感じです.



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【第4式(積分形) その2】 -ファラデーの電磁誘導の法則-

それでは,先程の「レンツの法則」を数式で表すことを考えてみます. 具体的に,「磁場の変化の大きさに対して,どのくらいの大きさの電場ができるの?」 ということが分からないと,結局は使い物になりません...


くどいですが,“レンツの法則”が言っていることは, 「時間的に変化する磁束(=磁束密度 B ×面積 S )が印加されたコイルには, その磁束とは逆向きの磁束を生み出す電場 E が生じる」ということです. ここで,「逆向き」というニュアンスを数式で表す方法を考えます.


とりあえず,誘導電流を考えるコイルについて,「こっちが表だ」という向きを決めてしまいます. 向きは適当で構わないのですが,上の図では,「そのコイルを貫通する磁束の向き」と同じ向きを“表”としています. このほうが分かりやすい気がします.

そして,例のごとく右ネジで「“面の表側”と“ループの向き”」を対応づけます(正確にはベクトルの外積ですが). 右ネジを回して「ネジが進む向き」を“表”にした場合に,ループの正の向きは「ネジを回す向き」と決めます. このように決めておくと,コイルを貫通する磁束に対して,「逆向きのループ」というのをきちんと決めることができます.

これで,誘導電流の向きもきちんと定まります. 誘導電流は印加された磁束を打ち消す向きに流れるので, 「磁束の向きに対応するループの向きとは逆向き」 ということになります.


それでは,適当に「レンツの法則」を数式で表してみます.

左辺は「ループに沿った電場 E の総量」を表す形となっています. トータルでどの程度の大きさの電場 E が生じるのかを表すために,線積分をしています. (線積分の話はアンペールの法則の時と同じような感じです.) この左辺は因果関係でいうところの「結果」に相当します.

また,右辺は「磁束 Φ の時間変化の大きさ」を表しています. 磁束Φの時間微分なので,そのまんまです... ここで,マイナスが付いているのがポイントです. これはまさに,「外部から印加される磁束Φに対して,E を考えるループは逆向きに設定しなさい」という, レンツの法則の気持ちを込めた表現です. この右辺は因果関係でいうところの「原因」に相当します.

上の式では,おおざっぱに電場 E ができる様子を式にしただけなので, 具体的な値の大きさは「比例定数 k 」で調整することになります. この定数 k の値さえ決まれば,「磁束の時間変化と,発生する電場の大きさ」の関係式が得られることになります. よって,この k の大きさを決定することはとても重要な作業となります.


(※ちなみに,定数 k は無次元量,単位を持たない“ただの数”になります. これは,上の式の両辺の次元から確認することができます. 左辺は電場の線積分で,次元としては(N/C・m)です. これに対して右辺の磁束の時間微分は,「磁束Φ = 磁束密度B×面積S」, 「磁束密度B = 力F / (電荷q × 速度v)」 であることに注意すると, ∂Φ/∂t = ({(N/(C・m/s)・m2}/s) = (N/C・m)となります.定数 k を除いた部分だけで次元がぴったり合っているので,k 自体は無次元量だと分かります.)




それでは,「定数 k 」の値を調べることにします.

下の図のように,四角いコイルを磁場の中で動かす場合をイメージしてみます. 今回の例では,磁場の大きさは場所ごとに異なるものとします. 右側に行くほど,磁場は大きくなります.


まずは,「コイルの表面」を決めます. 今回は磁束が上向きなので,素直に上向きを「表」とします. (別に逆向きにしても,今後の議論は通用します.) これによって,ループの正の向きも決まります. (右ネジを回す向きです.)


それでは,このコイルを動かしたときに「コイルの面を貫通する磁束」がどう変化するかを考えていきます.

上の図では,動く前のコイルの位置を破線で表しています. そこから速度vで適当な時間 Δt だけ移動した後のコイルを実線で書いています. ここで,移動の前後で,「コイルの面を貫く磁束変化(ΔΦ)」について考えてみます. コイルは右側へ動いてしまうので,コイルは緑色の部分の磁束を失ってしまいます. その一方で,赤色の部分の磁束が新たに入ってくるので,この部分は増えることになります. よって,トータルの“磁束の変化”は,

ΔΦ = 「(赤色の部分の磁束密度×赤色の面積) - (緑色の部分の磁束密度×緑色の面積)」

ということになります. この値が全体としてプラスになることもあれば,マイナスになることもあります. プラスの場合はコイルを貫く磁束が“増加”したことになり, マイナスの場合はコイルを貫く磁束が“減少”したことになります.




では,「緑色の面」と「赤色の面」の具体的な面積を考えることにします.

上の図のように,コイルが速度 v で時間 Δt だけ動くと,左側の辺と右側の辺がそれぞれ幅“v・Δt” の面を掃きます.すると,正方形のコイルの1辺の長さを“ds”とした場合, 赤色と緑色の面の面積は共に“(v・Δt)・ds”と表すことができます. (辺の長さを“ds”という記号で書いているので,おなじみ「微小な辺の長さ」というイメージです. これは,後で積分につなげるための準備です. とりあえずここでは,単なる正方形の辺の長さということで.)


ただし,「緑色の面」と「赤色の面」では,磁束をカウントする方法が違うのでした. コイルが動いた後の状態では,緑色の面の部分はコイルの外側になってしまうので,磁束を失ってしまいます. これに対して,赤色の面の部分の磁束はコイルが新たに獲得します. つまり,「緑色の面はマイナスとして磁束をカウントする」ことになり, 「赤色の面はプラスとして磁束をカウントする」ことになります.


ここで,「面」について,その面積を表しつつ,「面の向き」の情報を付加する方法があったことを思い出します. 「ベクトルの外積」というやつです. (外積は,もともと動く電荷が磁束密度から受ける力を表すために作ったものでしたが, 今回はこれを単なる数学的な道具として流用します.便利なので.)

とりあえず,“(v・Δt)×ds”という外積を考えます. おなじみですが,この外積の大きさ(絶対値)は 「ベクトル “v・Δt” とベクトル “ds” が張る面の面積」を表します. また,向きとしては 「“v・Δt”から“ds”に向かって右ネジを回した時に,右ネジが進む向き」 となります. すると,この“(v・Δt)×ds”を使えば, 今回の「緑の面はマイナス(下向き)」,「赤の面はプラス(上向き)」という話をきれいに表せることが分かります.

くどいですが,“ds”の向きは,一番最初に決めた「コイルのループの正の向き」にとってあります. “ds”の向きはループ内の各辺ごとに異なるので, “(v・Δt)×ds”の向きも場所ごとに変わる・・・というのがミソです.

ちなみに,ループの中で,上の図の上側の辺と下側の辺は“ds”の向きが 速度 v と平行になっています. そのため,“(v・Δt)×ds”の値はゼロになります( |A×B| = A・B・sinθ,θはAとBがなす角). この「外積の値がゼロ」という計算結果は,コイルが動くイメージをすると, 「上側と下側の辺は動いても面を掃かない」というイメージと一致します.

以上の話をまとめると,コイルが動いた時に各辺が掃く面積は,向きも含めて “ (v・Δt) × ds ”で表すことができる・・・という感じになります.




ここまでの話から, 「コイルを貫通する磁束の変化」は,プラス・マイナス全部含めて,次の式で表すことができます.

線積分の形になっているのは,例のごとく,積分経路(ループ)をぐるっと一周してください・・・という意味になります. この積分経路はコイルの各辺ということになります. 上の辺,左の辺,下の辺,右の辺・・・と,各辺ごとに“(v・Δt) × ds ” を計算して,全部出し算します. これで各辺が掃く「面」を,向きも込みで考えていることになります. また,磁束密度 B は,各地点における B の値を使います(磁束密度 B は場所の関数なので).


さて,ここから“定数 k ”を決定するために式をいじる作業になります.


まず,被積分関数である “ B・(vΔt × ds)”の部分を「内積」や「外積」の手順に従ってバラします.


さらに,バラし終わった後の数式を再構築します. この時,最初の式とは違い,“ ds ”でくくる形にもっていきます.

“ds”を分離する形に変形すると,見慣れた“(v × B)”という形が出てきました. では改めて,今変形した式を元の式に戻します.

ゴチャゴチャと変形をしましたが, 結局上の式が言っているのは「コイルが動いた時の磁束の変化」ということです.


それでは,レンツの法則に出てきた「磁束密度の時間変化」を式で表します. 単に,上の式を時間で微分するだけです.




では,改めて“定数 k ”を使って適当にごまかしていた「レンツの法則」の式を出しておきます.

くどいですが,上の式は「磁束の時間変化が,ループ状の電場を作る」という意味でした. この右辺の部分に,いままで作ったdΦ/dtの式を代入してしまいます.

上の式では,両辺とも同じループ(コイルのループ)に沿った線積分になっています. それが両辺で一致しているそうなので, 積分の中身だけをひっぱり出してしまいます.

すると,おなじみ「電場 E 」と,「速度 v × 磁束密度 B 」との関係式が出てきました.


もともと,電場 E や磁束密度 B というやつは,「電荷が受ける力 F 」を表すために作られたのでした.

今回の「コイルを磁束密度の中で動かす」という実験では, コイルに電流が流れます. 電流が流れるということは,電荷が力を受けて動かされているわけです. その原因は,「電荷が電場 E から力 F を受けているから」とイメージすることもできれば, 「電荷が磁束密度 B から力を受けているから」と考えることもできます. (根っこは,ローレンツ力の話になりますが.)

ちなみに,今回のように「場所によって磁束密度 B が違う」という場合, 各辺に生じるローレンツ力の大きさもバラバラです. そのため,ループ全体としてみると,電荷の動きは一方向に偏ることになります. これが「ループに沿って電流が流れる」という結果につながります.


さて,電荷が受ける力 F は「電場 E からの力だ」と考えようと, 「磁束密度 B からの力だ」と考えようと, 同じ1つの電荷に注目している話なので,当然,F の値も同一でなければいけません.

よって,

となるはずです. すると,さっき出てきた“ E = k・(v×B)”という式は,

と,“ k =1 ”となる必要があることが分かります. ようやく k の値がきまりました...


改めて,最初の式に k = 1 を代入してみます.

そんなこんなで,「ループ中の磁束が変化した場合,そこに生じる電場」の式が完成しました. これは「ファラデーの電磁誘導の法則」(Faraday's law of induction)と呼ばれています. ファラデーさん(Michael Faraday, 1791〜1867)という人が発見したので, それにちなんだ名前です.




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【第4式】ファラデーの電磁誘導の法則(微分形)

マクスウェル方程式の第4式, ファラデーの法則の「微分形」です. 「磁束密度の変化が渦状の電場をつくる」 という話です.

「ファラデーの法則」自体の話は,既に 第4式:ファラデーの電磁誘導の法則(積分形)のところで済ませてあります. 今回は,積分形のところで作った式を「微分形」に変形する作業だけです.

例によって,電場 E や磁束密度 B は時間 t と場所 (x, y, z)の関数です, 丁寧に書くと上のようになりますが,今後は省略します.

今回はあっさりです.“rot”を持ち出して,微分形の式を仕上げます.

【第4式(微分形) その1】 -ストークスの定理を使って式変形-

物理的な内容で,新しく考いことは特にありません... 数式をゴチャゴチャといじることにします.


まず,積分形で出てきた「ループに沿った 電場 E の線積分」を, ストークスの定理を使って変形します.

また,「磁束 Φ 」というやつは,「磁束密度 B × 面積 S」で求める量でした. 例のごとく,場所ごとに磁束密度 B が異なる場合に対応するために 面積分の形で書いておきます.

ここまでの話を「ファラデーの法則(積分形)」に代入すると,次のようになります.

ここで,ループで囲われた「面積」は時間によらず一定と考えるので, 時間微分の項は dB/dt だけになります.

これを,もともとの式に代入すると,次のようになります.

両方とも同じ面積 S に関する積分なので, 被積分関数だけ抜き出してしまいます.

上の式が,「ファラデーの法則(微分形)」です.



以上で,全部終わりです. お疲れ様でした...


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