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ベッセルの不等式,パーセバルの等式

フーリエ係数は最適値なのか

ここまでの「収束定理」 の流れ全体を通して,フーリエ級数が収束すること, そして三角関数が完全直交系を張ることを確認してきました。

しかし,三角基底で様々な関数を表せるのは分かっていますが, その係数,すなわちフーリエ係数は最適な値を計算できているのでしょうか。。。

上のフーリエ係数の公式は, フーリエ係数のところで導出しました。 これをどうやって導出していたかというと, 「3次元ベクトルは基底と内積をとればその成分が出るから,関数もきっと同じノリでいけるはず・・・」 と,今思えばかなりテキトーな事をやっています。本当にこれで大丈夫なのでしょうか。

もし,ある関数をフーリエ級数で表すときに複数のパターンがあるならば, 当然,もともとの関数に一番近づくようにフーリエ係数を選びたいところです。  そんなわけで,あのフーリエ係数の公式で妥当なフーリエ係数を計算できているのかを確かめてみます。

二乗誤差を考える

たとえば,ある関数 f(x) を表すためにフーリエ級数を用意するとします。 そのフーリエ係数は,いつも通りの公式から出した値ではなく, 「別の値を持つフーリエ係数」だとします。 このフーリエ係数を, a'0,a'n,b'n と表わすことにします。

ここで, 「もともとの関数 f(x) と,フーリエ級数との差(誤差)を2乗して,1周期にわたって積分」 というのを考えます。 2乗しているのは誤差をすべて正の値としたいからで,1周期で積分しているのは 全体としての誤差を考慮するためです。 これを使って,関数とフーリエ級数の誤差を見積ることにします。

フーリエ係数の極値性

適当に計算を進めると,次式のような感じになります。

ちょっとゴチャゴチャしてきたので,1つ1つ分けて対処していきます。

まず,赤いアンダーラインの項ですが,これは 「フーリエ係数の公式」の形を利用して変形することができます。

はい,これで式中に a'0,a'n,b'n の比較対照である本来の(?)フーリエ係数 a0,an,bn が出てきました。

次は,青色のアンダーラインのところです。

ここで,「三角関数の直交性」より,-π〜πの間で積分して残るのは自分自身の2乗だけとなります。 ( 三角関数の直交性(1)三角関数の直交性(2) 参照です。 )

これで,赤いアンダーラインの部分と青いアンダーラインの部分を整理できました。 もう一度,最初から式を追ってみます。

上式では,式変形の途中で「a - a'」のように2種類のフーリエ係数同士を引き算する形へ無理やりもっていっています。「比較」と言えば引き算(?)なので。

以上まとめると,もともとの関数とフーリエ係数の「二乗誤差」は次式のような関係になっています。

ここで,「二乗誤差」を最小にするのは赤いアンダーラインの部分がゼロになった時だと分かります。 すなわち, a'0 = a0a'n = anb'n = bn が成り立つ時ということになります。  これによって,いままで使っていたフーリエ係数を導出する公式が 「最適近似」 となっていたことが確認できました。

このように,フーリエ係数は普通に公式で計算すればベストな値(?)となっているのですが, これを フーリエ係数は「極値性」を持っていると言うらしいです。

ベッセルの不等式,パーセバルの等式

さらに,上式に a'0 = a0, a'n = an。 b'n = bn を代入してやります。

上式で「二乗誤差」の部分は,当然ゼロ以上となっています。よって,

上でアンダーラインを引いた不等式を 「ベッセルの不等式」 (Bessel's inequality)と呼ぶそうです。

続けて,もう少しだけ式をいじります。 上の式において, N → ∞ の極限では SN(x) → f(x) となることを収束定理 のところで証明したので, 次のように式変形できます。

以上から, N → ∞ の極限ではベッセルの不等式の等号が成り立つことになります。 最後のアンダーラインを引いた等式を 「パーセバルの等式」 (Parseval's equation) と呼ぶそうです。

パーセバルの等式の意味

では,改めて「パーセバルの等式」を見てみます。

左辺の積分計算は,f(x) のノルムの2乗を求めるときの式となっています。 ノルムといえば,なんというか,関数をベクトルとしてイメージした場合の「ベクトルの長さ」 のようなものという感じです。。。

そして,左辺の方は各フーリエ係数を2乗して,全て足し合わせたような形になっています。 また,頭にπがかかっていますが,これは途中の三角関数の2乗を積分するあたりで出てきたのでした。 これは sin 関数や cos 関数のノルムの2乗である「π」であると考えられます。

そもそもフーリエ級数は「フーリエ係数×三角関数」という形式となっていました。 このフーリエ係数の各項のノルム2乗を計算したとすれば, フーリエ係数は定数なのでそのまま2乗されたものが出てきます。 sin関数や cos 関数の部分はノルム2乗としてπが出てきた・・・と見ることができます。 すると,パーセバルの式は 「f(x)のノルムの2乗」 = 「各基底関数のノルムの2乗の総和」 という式として見ることができます。 これは3次元ベクトルで言うところの3平方の定理に相当します。今回は無限次元なので,無限平方の定理というか,なんとうか。。。



ちなみに,パーセバルの等式に a0 = 0, an = 0, bn = 0 を代入すると, f(x) = 0 となります。 ここで,もしも三角関数以外の基底関数が存在するならば 三角関数の係数をゼロにしてもその基底が生き残るので必ずしも f(x) = 0 とはなりません。 よって,このパーセバルの定理によって前に証明した 三角関数の完全性 を再度確認できたことになります。




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