イケダワイナリー
〜質実剛健にしてエレガント〜
外観

地図上でみると一見わかりやすそうですが、実際には車一台が通れる細いわき道に入っていかないと出会えないのがこのイケダワイナリー。
醸造所のすぐ近くまでいっても、自宅と作業場の小屋があるだけで外観も目立ってはいません。看板のデザインが洗練されていることを除けば、初見では自家醸造の延長のような醸造所のように思える人もいるでしょう。

が、さにあらず。小規模なブティックワイナリーながら山梨どころか全国のどこに出しても恥ずかしくない素晴らしいワインが、ここから造り出されているのです。
歴史

このイケダワイナリー、1957年より醸造免許を取得していますが、先祖の代からずっと醸造を続けていたわけではありません。実際には当主である池田俊和氏が1996年から営業を開始した新しいワイナリーです。これはどういうことでしょうか?

1957年に許可された醸造免許自体はまったく別の個人が取得していたものでした。そして、この免許に目を付けた大塚食品がワイナリーを立ち上げるためにこの免許を買い取ります。
戦前・戦中は異常といえるほど果実酒の醸造免許を乱発した国税局も戦後しばらくすると一転して引き締めに転じたため、特に乱発しすぎた山梨県で新たな許可を得ることは困難でした。このため大塚食品も醸造免許をもっている小さい醸造所から免許を買い取る必要があったのです。
しかし、『山梨大塚ワイナリー』として設立されたこの醸造所はバブル崩壊後の衝撃に耐え切れず、廃業することに。この宙に浮いた免許の取得に池田俊和氏が名乗りをあげたことにより、現在のイケダワイナリーが始まったのです。

もともと俊和氏は東京で新聞記者をしていたのですが、ワインを造るために山梨県に引っ越してまるき葡萄酒に就業。山梨大塚ワイナリーの設備を引き継ぐ形で1995年に免許を買い取りイケダワイナリーを立ち上げました。
興味深いことにこの前後の期間に、俊和氏は滋賀県の太田酒造(琵琶湖ワイン)と岡山県の是里ワインで醸造指導を行い、是里ワインのリースリングに目覚しい進歩をもたらすなど、醸造コンサルタントとしても活躍しています。設立後も本業の傍らで勝沼町の農家の共同醸造所である菱山中央醸造の醸造にアドバイスを行っており、俊和氏の手腕が他社にも評価されていることがうかがえます。


年間の生産本数は約2万5千本で、原料に関しては全ての葡萄を山梨県内の契約栽培で確保。白でも低温長期発酵をしない、フィルターは最低限に留める、もちろん加熱処理はなし、とワイン本来の味わいと香りを引き出す醸造方法を採用しています。果汁をしっかり清澄し、バランスのとれた食事と合わせやすいワインを造りだすのが基本方針で、実際に作られるワインもそれにならったものが主体。
また、白ワインの醸造に使うのは日本固有品種である甲州のみ、銘柄も少数に絞るなど、堅実かつこだわりを感じさせます。

このワイナリーの後継者でありご子息である池田秀俊氏も東京大学農学部卒業後、カルフォルニアで最も有名なワイナリーの一つであるリッジ・ヴィンヤーズへ研修に。「アメリカを扱ったワイン本には、必ずポールのコメントが大量に載っている」とまで言われる醸造家ポール・ドレイパーに師事し、さらにオーストラリアのハンター・バレーなどにも研修に行ったという凄い経歴の持ち主。(※)現在はイケダワイナリーでその腕をふるっています。

親子で運営するこの真摯な醸造所は新興の上に規模が小さいこともあり、ここを知る専門家の中で評価が高くとも知名度の点ではあまり奮いませんでした。しかし近年では、2005年の国内コンクール「Japan Wine Conpetition」ではヨーロッパ品種赤部門でわずか二つしか該当がなかった金賞を獲得、その名を全国に知らしめています。

※ http://www.d2.dion.ne.jp/~ikeda_w/htop.htmがご本人のホームページ。オーストラリアやアメリカでの経験が詳細に書いてあります。
施設の概略
完全に家族経営なのでワインの直接購入、見学する場合も含め必ずメールまたは電話にて予約が必要となります。不意の訪問は無理なので、この点には注意してください。

施設は醸造設備のみ、専用の販売所もテイスティングルームもないというのは、愛好家の中で著名なワイナリーとしては例外中の例外。
納屋のような醸造所の中は真新しい木樽と、立派なステンレスの発酵タンクが設置されており外観に反してなかなかの充実ぶり。広くはないので自由に見学は無理なので、社員の方の説明を聞きながらあたりを見回すスタイルとなります。

興味深いことにステンレスタンクを使用していても甲州本来の香りを残すために、果実香以外の香りがつきやすい低温長期発酵はしていないとのこと。低温長期発酵を行わない甲州のワインは「酸化したような焼けたような」と表現したくなるニュアンスが感じ取れるものが多いのですが、イケダワイナリーのワインではそうならないのはさすがです。


葡萄畑
契約栽培による栽培が主力であるため、畑見学は実質できません。

イケダワイナリーでは勝沼を含め、山梨県の優良な農家と契約し原料の葡萄を仕入れています。
ただ自社畑でないといっても農家まかせというわけではなく、指導や方針を伝え、高品質の葡萄を造りだす努力に怠りはありません。
トップページに戻る


外観  歴史  施設の概略  葡萄畑  テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
テイスティング
テイスティングルームがありません。ということはテイスティングはなし、と思うでしょうがテイスティングはできます。ただ、場所がご自宅のとても立派な和室の居間!
色々なワイナリーを巡った方でも畳に正座してテイスティングする機会にはなかなか恵まれないでしょう。
場所はともかく池田氏自身がテイスティングするワインでグラスを共洗いしてくれるなど、大変丁寧に行われるテイスティングなのでこちらも真面目にワインに向き合う気持ちを新たにさせられます。

甲州遅摘み 2002:価格は1575円。2週間だけ樽発酵し、あとはステンレスタンクに戻すという手法がとられているためか、香りをかいでも樽の香りが少なく、白い花、洋梨の香りが主体。しかし、口に含むと果実味より樽由来のヴァニラ香がはっきりと感じ取れます。少し糖度を残した中口のワインという印象ですが、軽やかで料理と楽しみやすいワインです。

甲州樽熟 2003:
詳細は管理人のワイン記録に記述。余談ですが甲州のワインは淡い味わいなので、ごまかしがきかないとのことです。

セレクト 白 2003:価格2100円。樽発酵・樽熟成の甲州でやわらかく甘い樽の香りと白い花の香りがあります。印象としては終始とがったところがない優しいワインですが、果実味もしっかりしておりエレガントという言葉に合うワイン。穏やかな酸が飲み口を締めてくれるので骨格があり、バランスに優れています。イケダワイナリーでは高いワインですが、内容と比べればお買い得!

ヴァンルージュ 2002:価格は1575円。カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ベリーAを使用しています。色はかなり黒みがかった赤で濃縮感を予想させ、飲むと想像どうりのしっかりした飲み口。松の葉、黒こしょう、ブルーベリーなど複雑な香りで口に含んでも印象はかわりません。
味わいはエレガントでなめらかですが、やや香りが開くのが遅かったのでデキャンタージュするかスワリングしながらじっくり飲んだほうがいいかもしれません。

セレクト 赤 2003:詳細は管理人のワイン記録で。フルボディに偽りなしの重量感があり、知り合いの酒販業者は「AOCマルゴーに近い雰囲気があるが、より品質が高い」と評したワインです。

巨峰ロゼ 2002:イケダワイナリーで唯一の生食用品種を使用した、これまた唯一の甘口ワイン。価格は1365円。マスカット、メロン、キャンディといったとても華やかな香り。飲み口のいい軽やかなワインで、余韻は短めながらファンタグレープのよう。
巨峰を使ったワインは香りも味わいもぼやけたようなものが多いのですが、このワインは果実香豊かでおすすめ。


ワインはバランスに優れた食中酒ということがほぼ全ての銘柄に共通していますが、なによりこの内容でメルローの一銘柄(訪問した後に発売されました)を除き全て2100円以下というのは脅き。
銘柄も絞られラベルデザインもセンスがよく、どれを買っても損はありません。
購入方法 
ワイナリーでの直接購入、メール等による注文を受付けています。ぶどうの丘などにも置かれているので必ずしも直接行く必要はありませんが、取り扱い店は多くはありません。

ワイナリーアクセス
公式ホームページに地図が掲載されていますので、そちらをご参照ください。

総論
ハイレベルなワインを造っているという噂は聞いていても、なかなか行く機会がなかったワイナリーでした。

実際に飲んでみるとどうかというと、まず価格に比してエレガントな風格をもっているという点にびっくり。赤・白ともに濃縮感や完熟した葡萄を想像させる味わいがあり、私では赤をブラインドで飲んだら確実に「フランス」と答えてしまうようなワインです。
甲州も香りは少しおとなしめですがコクと含み香とのバランスがよく、テーブルワインとして造るという目標は達成されていると思えました。品質もさることながら、白ワインは日本固有種である甲州のみに絞る徹底した方針は、人により賛否はあるでしょうが特徴の一つです。
ちなみにヴィニフェラ種を使用した食中酒だらけのラインナップのなかで一つだけ「仲間はずれ」な巨峰のロゼワインも、果実香がきちんと出ているので飲まずに敬遠するには惜しい銘柄です。


観光施設という面ではまったく充実していないので、訪問は「ワインがおいしければいいんだよ」という方におすすめ。ワインの内容からいっても、やはり海外・日本問わずある程度ワインを飲んでいる人の方がいいように思えます。さらにいうと池田氏は丁寧な方なのですが風格と威厳があるので、お話を聞くと緊張してしまうかもしれません。このことは頭の隅ぐらいには留めておいたほうがよいかと(^^)

総括すると私自身がパワフルさよりもバランス重視ということもあり、一押しのワイナリー。1500円〜2000円で手に入れられる高品質なワインを造る珠玉の醸造所、と断言できます。
けして広くはない醸造所の内部。ただ外観とは異な
り新樽とステンレスタンクの並ぶ、見事な設備を所有
しています。
銘柄: 樽熟甲州 2003
生産元: イケダワイナリー
価格: 1575円
使用品種: 甲州
備考 淡いレモンイエロー。香りには、レモングラス、洋梨、などの豊かな果実香がありますが、樽の香りは明瞭には出ていません。
しかし、含み香には明らかに樽由来のヴァニラ・ロースト香、上立香の印象そのままの果実香もあります。優しい口当たりですが、しっかりとしたコクがあり、甲州としては複雑な含み香ともあいまってなかなか充実した飲み応え。アフターにはしっかりとした酸味があり、ワインを引き締めています。
余韻は短めでレモンや洋梨の香りがありました。

購入価値は充分のワインで、私個人はコストパフォーマンスの面から見てもおすすめできる内容のように思います。

飲んだ日: 2005年1月7日
社名 イケダワイナリー(株)
住所 山梨県甲州市勝沼町小佐手266-4
電話番号 0553-44-2190
取寄せ オンラインショッピングあり HP http://www.d2.dion.ne.jp/~ikeda_w/
契約栽培畑あり ツアー等 訪問可(要予約)
テイスティング可(無料・要予約)
栽培品種 甲州、巨峰、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、
マスカット・ベリーA
営業日 不定休
営業時間: 8:30〜17:00
★  2005年3月4日
備考:山梨県産ブドウのみ使用
銘柄: セレクト 赤
生産元: イケダワイナリー
価格: 2100円
使用品種: メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン
備考 やや紫がかった、ほとんど黒といっていいほどの濃いガーネットの色。
メンソール、ブラックベリー、樽のヴァニラ香を感じます。いざ口に含んでみるとはっきりと新樽特有のヴァニラ香が感じ取れ、そこにベリーやカスタードクリームといった濃厚な香りも含まれていました。
アタックはしっかりしており、低価格の日本ワインにはよくある未熟な葡萄の青い香りや味わいはいっさいなく、しっかり完熟したと思われるコク。後味はキレよく、少し樽の荒いタンニンがあるものの、細やかな葡萄のタンニンの味わいが残ります。

新樽の香りが強くあるものの、それだけではないワイン。なにより日本の小さいワイナリーで、この価格でこれほどのレベルのワインが造られていることには驚きます。メルロー、カベルネ好きは必飲。
飲んだ日: 2005年1月24日
※ 画像ファイルが破損していたので、もう一度行って
  から改めて掲載します。ご容赦ください。