菱沼中央醸造
〜葡萄の名産地、菱山の自家用醸造所〜
外観

山梨県の勝沼において、鳥居平と並ぶ葡萄栽培の好適地といわれる菱山。
主に高級生食葡萄を生産するこの山の中腹にある醸造所が、社名にその名を冠する菱山中央醸造です。
「葡萄の丘」を下って道路にでたところのほぼ向い側にある小さな醸造所で、特に看板などもでていないのでかなり見つけにくいのが難点です。
訪問する方は、地図と右図の写真を参考にして下さい。
歴史

菱山町の30件の農家が自家用にワインを醸造するために設立した醸造所がその始まりです。元々は地元の農家がそれぞれワインを醸造していたのですが、それでは生産した数量がわからず税金の徴収ができないため、国からの命令により昭和11年に共同醸造所として再編成されました。
第二次世界大戦が始まると、葡萄から取れる酒石酸を電波兵器に使用する関係から勝沼の農家は減反されるどころか積極的に葡萄栽培を行うことを奨励されます。菱山ももちろん例外ではなく、ワイン醸造のための砂糖の大量配給など(戦中の日本において砂糖は貴重品)の優遇措置を受けながらワインを造り続けました(※1)。この時期、果実酒の酒造免許が大量に発行されたためにこの時代にはかなりの数の小規模醸造所が出現しています。菱山地区には、現在は菱山中央醸造しか存在していませんが、かつては6つの醸造所があったということです。今もこの名残で、かなり小規模でありながら酒造免許を持つワイナリーが他地区にいくつか現存しています。

終戦後、多くのミニワイナリーが廃業・統合されていくなか、菱山中央醸造は途絶えることなく事業を続け今に到っています。なお、10年と少し前までは株式会社だったのですが、商法の改正などの関係から今は有限会社となっています。

菱山中央醸造のワイン造りは原料の栽培や作業も各農家が自分で栽培した甲州を使い、全員共同で醸造や瓶詰め作業を行なうという伝統的なものです。専門の醸造技術者はおらず、葡萄を栽培する農家の方々全員が栽培者であり醸造家でもあります。

昭和初期の破砕機や樽を使い、昔ながらの手法で醸造されるワインは洗練された現在の醸造方法とは一線を画します。旧式の圧搾道具を使用するために、フリーランジュースに近いながらも香味成分のよく溶け込んだ果汁(※2)となり、それがワインの品質に影響を与えています。

醸造されたワインの約60%は自分たちで消費し、残りが一般販売に回されます。
ただし基本的には自家用のワインのため、ほとんど流通には出回っていません。営業にもさほど熱心ではなく(ワインが本業ではないのですから当たり前ですが)、外国産のワインとの競合などとは無縁の世界でワイン造りが綿々と続けられています。
もっとも、同じく勝沼のイケダワイナリーから技術指導を受け、今の風潮に適したワイン醸造を心がけるなど、けして一般の市場を無視しているわけではありません。


生産量は多い時は18kリットル(720mlで約25000本)、少ない時は10kリットル(720mlで約14000本)とかなり少量です。しかし設立の経緯からもわかるように、原料には菱山産の甲州葡萄を100%使用しており、輸入ワインや他地域の葡萄はいっさい使用されていません。

※1余談ですが、第二次世界大戦中には山梨産の甲州ワインが一部地域に日本酒の代わりに配給されていたことがあります。米不足で日本酒を作る余裕がなかった当時の状況を表すエピソードですが、甲州ワインが酒石酸を取る液体でなく”酒”としても利用されていたことがわかります。

※2 旧型の圧搾機は圧搾率が低く時間もかかることから果皮の成分などが通常より多く溶け出し、スキン・コンタクトをしたものに近い状態になります。
施設の概略
ワイナリー専業の方々ではないので、前もって電話による予約が必要です。予約しておけばその時間に栽培家の方が来て試飲・販売等を行なってくれます。
ツアー形式とはいきませんが、醸造所内の器具やタンクの説明を行なってもらえるばかりでなく、時期が合えばタンクの中の新酒をテイスティングさせてもらうことができます。
駐車場に関してはそもそもぶどうの丘がすぐ側にあるのでそちらに一時駐車させてもらうのもよいですし、菱山にも駐車スペースがあるのでそれほど悩むことはないでしょう。

葡萄畑
菱山の農家の方々が原料を納入し、自分たちで醸造するという形式を取っているので、自社畑があるともないとも言い難い形態です。
各農家ごとに栽培している品種は異なりますが、醸造に使用されている品種は95%以上が甲州で、試験的に巨峰やデラウェアを使用したユニークなブレンドワインを少量醸造しています。
生食用葡萄の産地だけあって農薬や化学肥料はなるべく使わない葡萄栽培を実施しており、そういった面でも付加価値の高い栽培が行なわれています。醸造に使う甲州といえど手抜きはなく、生食として出荷できるレベルの原料のみが使用されます。摘房・かさによる葡萄の保護など手をかけた栽培が行われ、病気になったり裂果して痛んだような葡萄は基本的には醸造には使用されません。
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外観  歴史  施設の概略  葡萄畑  テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
テイスティング
あらかじめ予約しておけば試飲をさせてもらうことができます。
種類という面でいくと極めて少なく、何とたった2銘柄。どちらも甲州で辛口・甘口の2種類です。
他に4種類の葡萄をブレンドしたワインもありますが、こちらはごく少量しか生産されていません。


甲州(辛口):辛口といっても糖度がほとんどなくなったようなものではなく、分類でいけば「やや辛口」程度のワインです。香りは洋梨・チェリーのような果実香がはっきりとあり、味わいはクリーンですがなかなか厚みのある酸を感じます。
値段は720mlで1800円。1.8リットルで3000円です。

甲州(甘口):こちらは発酵を途中で中止して甘味を残したタイプ。香りは同じく洋梨・チェリーのような果実香がはっきりとあるのですが、ややアルコール度数が低く感じられ、辛口と比べると飲み応えという意味では一歩譲ります。しかし、酸味はバランスがよくしっかりしているので、夏の暑い時に冷やして飲むとおいしそう。
個人的には、軽い甘口のドイツワインに近いところがある気がします。
値段は720mlで1800円。1.8リットルで3000円です。

やはり手間がかかっている分が値段に反映されているのか、通常の甲州ワインよりもやや高めです。

全体に清澄なわりには酸味が意外にしっかりしており、薄っぺらいところはありません。醸造の取りまとめをしている菱山の方曰く「ワインのうまさは酸味のバランス。酸味がなくなったらワインではなくなってしまう」。
まさに正論で、ここまで言うだけあり酒石酸除去のような処理はいっさい行なっていないそうです。
購入方法 
購入は歴史の項でも少し触れていますが、直販以外は入手困難です。
事前連絡をして菱山に向かうのが一番ですが、電話・FAXによる注文も受け付けています。基本的にはテイスティングの項にあるワインが販売されている商品ですので、テイスティングの項を参照してください。

ワイナリーアクセス
・勝沼ぶどう卿駅からから車で6分。ワインの丘から下っていき左右に分かれた道路のほぼ正面にあります。
下記ホームページに地図が掲載されています。
http://yamanashi.visitors-net.ne.jp/~wine/map_html/map53.html
なお、下記のホームページは当ホームページとはいっさい関係ないため、このホームページの内容についてお問い合わせすることのないようにお願い致します。

総論
基本が自家用の共同醸造所であり、本業は農業でワインはサイドビジネスという状態なので、他のワイナリーとは経営方針が根本的に異なっています。
銘柄が極端に少なく、観光客向けとはおおよそ言い難いのでワインにあまり興味がない人と同伴でいくのには向いていません。どちらかというと、勝沼の歴史や文化などに興味がある人や、純粋においしい甲州ワインが飲みたい人に向いているワイナリーです。
また生計は桃・生食用葡萄などで立てている農家の方々なので、そちらの方面に明るい方なども行ってみると面白いと思います。

なんにせよ、勝沼の方々に根ざしたワイン文化の片鱗に触れるにはまたとないワイナリーです。
その甘い香りと味に日本ワインの歴史を実感しにゆくのもよいでしょう。
銘柄: なし
生産元: 菱山中央醸造
価格: 3000円(1.8リットル)
使用品種: 甲州(勝沼 菱山地区100%使用)
備考 ヴィンテージは非表示ですが、2003年のワインです。ラベルは簡素、というよりは無いも同然で法律上必要な最低限なことだけが記入されています。
色は薄いレモンイエロー。香りは重厚で、リンゴと白い花、わずかにレモンの香りがあります。
糖度を厚みがでる程度に残していますが、辛口の印象。しっかりとした厚い酸味と旨味、またごくわずかな苦味があり、味を複雑なものにしています。余韻は短いのですが、果実香と少したくあんを思わせる香りがあります。
洗練されすぎていない、地酒という雰囲気のワインです。さすが好適地といわれる菱山で栽培された甲州だけあり、ややバッドヴィンテージに入る2003年のワインでも、平均的な甲州より葡萄の個性がはっきりとでています。
飲んだ日: 2004年10月14日
昭和初期から使われている木製の圧搾機。このタイプの圧搾機で現役のものは全国でもごくわずかです。
社名 菱山中央醸造(有)
住所 山梨県東山梨郡勝沼町菱山1425
電話番号 0553-44-0356
取寄せ 電話・FAX注文可 HP なし
自社畑あり(本文参照) ツアー等 訪問可(要予約)
テイスティング可(無料)
栽培品種 甲州、デラウェア、巨峰、他 営業日 年末年始以外、要相談
★ 2004年3月12日
備考:共同経営型ワイナリー(本文参照)、勝沼 菱山地区産の葡萄のみ使用
菱山の農家の方々。澱下げの時期だったのでみなさんで作業中でした。自社ワインもお茶代わり用意されています。