是里ワイン醸造場
〜葡萄王国ワイナリーの苦悩〜
外観
人口は6000人以下という小さな町、吉井町。その町に似つかわしくないといえるほどの大きな観光施設、「岡山農業公園 ドイツの森 クローネンベルク」は高い丘の上にあります。実際に行くとまずその駐車場の広さに驚かされます(乗用車2000台分!)。さらに休日ともなれば多くの観光客でごった返す、岡山でも有名な観光地です。
その「ドイツの森」の地図をみればビール工房、パン屋、レストラン、パターゴルフ場、といった施設の中に、是里ワイナリーの名が見つかります。
歴史
醸造開始は1985年。設立当初は現在の場所ではなく、現在の吉井町にある「是里ワイン記念館」のある場所で醸造が行われていました。しかし、大規模観光施設の「岡山農業公園 ドイツの森 クローネンベルク」のオープンに伴いその中へと移転しました。
経営形態は第三セクターで、吉井町や地元農協による出資。設立目的は地元産葡萄をワインに加工し付加価値を高め、その販売を担うということで地元産葡萄のみによる醸造が行われています。吉井町は農業就業人口が非常に多い町ですが高齢化の波により、労働力が低下しています。そこで生食用よりは労力が少ない加工用の葡萄を生産する方向に転換する際に、是里ワインが必要となったようです(本当にワイン用葡萄のほうが労力が少なくてすむのかは素人なのでよくわかりませんが)。
ちなみに是里ワイン醸造場がある「ドイツの森」そのものは民間資本なので、民間施設の中に第三セクターが入っている状態になります。

「ドイツの森」がドイツの文化や食品などを売り物にしている観光施設ということもあって、現在はドイツのヴァルハウゼン村の協力・提携により、ワインの製法の指導を受けています。年間生産量は約3万5千本。原料は純国産のものを使用しており、一部を除きラブレスカやハイブリッド品種がその主な原料となっています。
設立目的からもわかるように基本的には農協経由による生食用葡萄を主体とした醸造になっているため、なかなかレベルの高いワインが造れないのが泣き所です。実際、岡山の葡萄農家は極めて生食重視。「ワインを造るために良い葡萄を造る」という発想がないという点では、同じく生食王国である山梨県以上といわれますから、こういう面ではかなり足を引っ張っられているのでしょう。
現在、リースリングの契約栽培を増やすなどして品質面での向上が試みられています。


施設の概略

「ドイツの森」そのものの施設に触れるとキリがないので、是里ワインの内部にある施設にのみ言及します。一階には販売所と有料試飲が可能な販売所があります。観光系ワイナリーとしては少し手狭な印象を受ける販売所にはたくさんの自社ワインが並べられています。
2階からはガラス越しに実際の醸造施設が見学でき、スペースを利用してオーク樽などが置いてある様子も見えます。また、2階そのものはレセプションルームとなっています。

が、どういうわけか私たちが階に上がった時、そのレセプションルームでは、つちのこに関する新聞やら記事が数多く展示されていました。
奈良や岡山でのつちのこに関する記事や懸賞金情報などが書いてあり、中には”つちのこ”の骨?、などオカルトなアイテムまであって、意外性がありすぎて驚きました。が、ワイナリーとは明白に関係がない内容なのは間違いなく、展示の仕方も高校の新聞部の発表のような感じで、なぜこんな記事があるのか等々、私では漠然と想像するのも難しい光景が広がっていました。


外観  歴史  施設の概略  葡萄畑 テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
葡萄畑
ドイツの森の施設内にいくつか見学用の畑があります。畑は全て垣根栽培が行われており、品種もリースリングと本格派です。
ただ、こちらは厳密にいうと「ドイツの森」の所有する畑であって、是里ワイン醸造場のものではないそうです。
是里ワインの主要原料のほとんどは、農協を経由した葡萄によってまかなわれています。
現在はリースリングを主力とするために農協や農家に要請して、生産量を増やしています。また、キャンベルアーリーは商品価値が薄いなどの理由から栽培はかなり減少傾向にあるようです。
テイスティング
売り場で無人販売所のような集金箱があり、飲む際にそこにお金を入れれば試飲用に置いてあるワインを飲むことができます。カップは小さい使い捨てタイプのものになります。
試飲カップと、私自身の能力の問題から、コメントは参孝程度に読んで下さい。


リースリング:詳細は管理人のワイン記録にゆずります。1200円と他のワイナリーの商品と比べてもコストパフォーマンスに優れており、おすすめの銘柄です。余談ですが、山梨県勝沼町のイケダワイナリーの池田氏もこのワイン造りには関わっているそうです。

マスカット:岡山特産(全国の90%以上)のマスカット・オヴ・アレキサンドリアを醸造したワインです。スキン・コンタクトを使用しています。香りにはまぎれもないマスカット香を感じ取れますが、含み香は弱めで、甘口ですがアフターに苦味を感じます。2300円という値段を考えると手がでにくい一本です。

ベリーA:1200円。色はやや薄め。香りがあまり感じられず、タンニンはまずまずありますが味わいは単調で薄いニュアンスを受けます。


ピオーネ:2000円。甘口のロゼワイン。香りの要素は少なく、狐臭に由来する甘い香りがあります。香り味わいは全体にぼやけた感じで、ピオーネのワインとしても濃縮感に欠けるところがある気がします。

全体に味わい・香りともに薄く弱いという印象を受けました。原料葡萄によるものなのでしょうが、それでも醸造技術でなんとか原料を克服しようとしているのが飲むとわかります。
そんななかで、リースリングだけはドイツの辛口のものと似たところのある、骨格をもったワインとして驚かされます。

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単に見本の陳列のように見えますが試飲コーナーです。集金箱にお金を入れれば全てを試飲可能。
購入方法 
直販以外に電話やFAX等でも注文を受け付けています。また、吉井町のいくつかのホームページからは通販も行われています。どういうわけか是里ワインのホームページは、存在していたようなのですがリンクが切れていてアクセスできませんでした。

ワイナリーアクセス
アクセスに関してはドイツの森の公式ホームページ”http://www.farmpark.co.jp/doitsunomori/”に詳しく説明されているのでそちらを御参照下さい。


総論
第三セクターで生食用葡萄が中心というところで、推して知るべしというワイナリー。その予想を裏切らないワインが大半です。生食用の葡萄を使ったワインのほとんどは、香りも味も薄く、個性がありません。生食用葡萄といえど、ワイン加工が前提で造るならそれなりのワインができることを考えると、葡萄のポテンシャルが低いと考えられます。
ただ、かなり品質に問題のある葡萄でも、第三セクターの悲しさで農協などから買わされて醸造せざるえないという話も聞きますから、事実なら何とかまともなワインを造らなければいけない醸造長の苦労が偲ばれる味ともいえます。

唯一、ドイツの技術者に指導をしてもらっているということもあってか、リースリングが目を引きます。醸造用葡萄のポテンシャルの高さといえばそれまでかもしれませんが、栽培が難しいといわれるリースリングのワインできちんと品種特性のあるものができているということは驚きです。このあたりのワインの品質がもっと良くなると国内でも注目されるワイナリーになるかもしれません。

他に観光施設の中なのでワイナリー単体では個性をアピールしにくく、観光客メインの営業のわりには内装やサービスの面からも徹しきれていない気がします。
サッポロ岡山ワイナリーを除けば、岡山県で唯一ヨーロッパ系醸造用品種に取り組んでいるワイナリーなのでその潜在力をもっと発揮して、道を開いていくことを期待すること切です。
銘柄: リースリング
生産元: 是里ワイン醸造所
価格: 1200円
使用品種: リースリング
備考 岡山県産のリースリングを使用したワイン。日本国内ではリースリングを使用した市販ワインは少なく、珍しいといえます。
淡いレモンイエロー。おとなしめながらもゴムや百合の花、レモン、品種特有の重油のような香りも少しだけあります。やや辛口で、味わいは本格的。含み香には心地よい花の香りがあり、酸味と軽い苦味が全体に複雑味を与えています。ブラインドならドイツワインの辛口として充分に通じるでしょう。
値段が1200円と、ヨーロッパ品種のワインとしては破格なのも驚き!生食用葡萄によるワインがもうひとつの是里ワイナリーの中ではまさに白眉といえる銘柄です。
行ったなら購入は必須です。
飲んだ日: 2004年11月18日
社名  (株) 是里ワイン醸造場 /是里ワイン
住所 岡山県赤磐郡吉井町仁堀中1356-1
電話番号 0869−58−2888
取寄せ 電話・FAXによる注文受付 HP ※調査中
契約栽培畑あり ツアー等 入園有料(ドイツの森):800円(一般)
テイスティング可(有料)
栽培品種 リースリング、マスカット・オブ・アレキサンドリア、キャンベルアーリー、マスカットベリーA、他 営業日 年中無休
(3月〜11月)9:00〜17:00
(12月〜2月)9:00〜17:00
★  2004年5月4日
備考:「岡山農業公園 ドイツの森 クローネンベルク」敷地内、岡山産葡萄のみ使用、第三セクター
醸造所の風景。右端にスペースを埋めるかのように樽が詰まれています