色は調和のために生まれたのでしょうか? それとも、区別のためなのでしょうか?
2008/11/23/sun/ Ysasayama
▼ Rep-6漢字「青」は、草木の芽生える印として生まれました(Rep-5:別ウィンドウで開きます)。「Green」ですね、でも現代は「Blue」…どうして? 群青(鮮烈な青)や鮮藍(ラピスラズリ)、孔雀藍(孔雀の藍)や宝石藍(宝石の藍)って中国色はBlue?「青」はイメージじゃないの?……。
江戸の大百科事典「和漢三才圖會」(†1)に記された一文です。空青:ぐんじやう、そう読むのだそうです。著者は僧医、寺島良安法橋(摂津南の大坂城御用医師)。空青:薬の名。銅青石の類。〔本草綱目〕石部石類空青には、銅精を燻(いぶ)すと空青ができる。中は空。
…調べると、薬だったのです(†2)。これで不思議「青」を繙ける、そう思いました。
もうひとつ出会いがありました。歴史的日本建造物の修復に数多く携わっておられる、京都川面美術研究所の仲政明氏レポート「西本願寺大師堂(御影堂)内の使用顔料について」(†3)です。(抜粋要約転載許諾に感謝)
始まりはGreen、そしてBlue。青顔料の歴史、天然「青」の稀少性を学び、その不思議を改めて考えます。
世界最古の木造建築法隆寺は、聖徳太子の父用明天皇の「病気平癒を祈願し」建立されました。挿絵はその金堂支柱飾下り龍を模した拙画。江戸の大修理(1692元禄5–1707宝永4)の際に附加され、昇り龍と対意匠で設置されたとか。霊獣の龍が、薬である空青を愛でる……漢字「青」の、BLUEへの扉を見つけた思いです。
1709年に儒学者 貝原益軒(1630〜1714)が編纂した「大和本草」(†4)はさらに詳しい。老齢80の元医師益軒は、中国伝書の儀を理し、独自の分類で国の物産を基軸としました。日本の実用生薬学はもとより、生物学書としても博学の全20卷です。ここにも「空青」は掲載されました。別名が曾青であり、上級の青色が紺青であること。さらに、中国より慶長の初め渡来したこと。日本の産出地は摂州多田の銀山で、特に川辺郡若宮村の産は色が良いとも記されています。
江戸の人々が生き物に広く興味を抱き、僧医が薬草を求めて奔走していた当時、中国明の李時珍(1518-1593)が著した「本草綱目」(†5)(動植物・鉱物図説書1596年)の和刻本も盛況だったようです。空青の絵図に扁青
と読めます。同書扁青には扁青石、別名を石青、大青、現代分析英名:Lapis Lazuli
の明記、青の宝石まで登場です。漢字「青」の色は、本当に複雑怪奇です。
見出しは中国医学の礎をなす基本草学書「神農本草経」(†6)(成立紀元1-2世紀)の、上品鉱物欄に綴られた、空青の効能です。盲・聾には特効でしょうか、九竅(身体の九つの穴)、血脉そして精神へと、五臓に繋がる効果を上げ、久服輕身延年不老、能化銅鐵鉛錫作金と、気になる文字を引き連れて、使用法を結んでいます。(底本:江戸嘉永7年、森立之校正本)
天の霊獣である龍は、ドラえもんのように霊なる美玉を携え、天の皇帝は、のび太のように不老不死の秘薬を地平の果てまで追い求め、天皇と貴族は、東方の清らかな大国の主:青い光を放つ薬師琉璃光王如来に、願わくば難病治癒と未来永劫の平安賜らん、と祈ったのです。「空青」は一縷の望みを繋ぐ、土中の稀薬草か貴薬石だったに相違ありません。
人は苦しみ(生・病・老・死)に喘ぐものです。仏陀はその苦から唯一解放するものは「智恵」だと説いて巡りました。しかし世は無常、どこかで苦を滅する秘策・秘物があると変容したのでしょう。何かが蠢き、誘うのです。「神農本草経」の注釈書で一躍時の人となった梁の陶弘景(456-536)は、医者で同時に道教茅山派の開祖でもありました。道教…、神仙(仙人)と不老不死を究極の理想とする思想です。
聖徳太子の父、用明天皇の病気治癒を願って建立された寺院の薬師琉璃光王如来は、不思議な治癒力をもつ現世利益の如来です。青い光が見えますか? 糖尿病治癒キャンペーンのために、東京タワーや鎌倉大仏が「ブルーの光」でライトアップされた最近のニュースはイメージが重なって、少なからずショックでした。
葛洪という東晋の神仙家がいました。紀元3-4世紀初期に、辰砂から取り出した硫化水銀の「丹」を原料として霊薬、つまり不老不死の薬を造る術を学び続け、「抱朴子」という神仙思想、煉丹術の理論書を出版します。その内篇[卷之第16黄白:小兒の黄金を作る法](追記変更2008.12.03)に、空青(銅責石)四両を加える方法
が記されているのです。丹と「空青」との出会いが「黄金」を生み、服用すれば永遠の命へと繋がっていく、人間の欲深さを見るに至ったのです。秦の始皇帝と徐福の話:不老不死の霊薬を求めていた始皇帝に、徐福が具申し捜しに出かけたが、そこは遙か日本だった
(司馬遷「史記」)とか、始皇帝陵の遺体安置所は水銀の河で囲まれている
とか、「空青」は命を左右できる秘薬鉱物? Oh My God!
道教、ここから陰陽の二極が生まれ、五行説に繋がって五方「東」の五色、「青」はBlue? とまた逆戻り。いつまで経っても上がれませんね。
インド仏教のサンスクリット梵経は、漢訳されることで遙か日本にまで伝来しました。インドへの大旅行を終え、偉人三蔵法師は考えたに違いない「仏典は不思議だらけだ。声音を漢字に翻すルールは必要だろう、訛謬だからと排除しないためにも」…ということで、旧約はキジ国の鳩摩羅什三蔵(350-409)、新訳は唐の玄奘三蔵(602-664)が特筆です。BhaiSajya Guru VaidUrya Prabha Rajaya Tathagata…これを薬師琉璃光王如来と漢訳した人物は、誰? 「琉璃」…なんて美しい漢字を紡ぎ出せたものでしょう。
キーワードはバイドゥールヤ:VaidUrya
追記2008.12.04:キャッツアイ:猫目石、ラピスラズリ、緑柱石、サファイヤ=いずれも宝石。病気治癒と宝石の関係は、根深いですね。
大乗経典漢訳の神俊、鳩摩羅什三蔵は、シルクロード西域タクラマカン砂漠のちょうど北に位置するキジ(亀茲)国で生まれました。4世紀頃には僧侶一万人余りが住む仏教メッカで、キジル Qyzil/Kyzil 千仏洞(紀元3-10世紀)が隣接します。20世紀初頭、ドイツ人アルベルト・フォン・ル・コックが探検・調査入窟した時、Lapis Lazuliの贅に尽くされたその仏教壁画群に、息を呑んだと言います。亀茲から西域北道を西にたどれば、アフガニスタンの角、バダフシャンにあるコッチャ川流域です。羅什は、空悟の悟りを開く契機を、Lapis Lazuliに見たということは、ないでしょうか。
玄奘三蔵による秀逸の漢訳「薬師琉璃光如来本願功徳経」には、如来の御名以外に三つの「琉璃」が記されています:有世界名淨琉璃、身如琉璃、琉璃爲地…「清らかな宝石という名の王国」「宝石のような身体」「宝石でできた大地」。この瑠璃、薬師と余程の関係にある宝石であると直感します。
薬師如来は現世利益の医者です。VaidUryaの真の正体を知る人物であれば、薬師如来の光の色格を違うことはないでしょう。琉璃光は薬師の象徴、命の光です。しかし命や永遠も、見方を変えれば煩悩です。自然と「空青」その石を、思い浮かべます。
キジル(Qyzil/Kyzil=赤い)と呼ぶのは天山山脈でしょうか、その奇岩むき出しの険しい山崖、地上80mほどに穿たれた二百以上もの御洞の中は、仏の宇宙が瑠璃の如く広がっていたのでしょう。Lapis Lazuli(Lazurite ラズライト:青金石)の「青」は人に乱され、人に支えられ、千年の時を越えて伝えられています。あぁ空青の「Azurite アズライト」よ、なぜお前は「Lazurite ラズライト」ではなかったのか!
日本の書物に出現する最初の色らしき文字は、「白」と「青」(白丹寸手(シロニギテ)青丹寸手(アオニギテ):古事記上巻)です。「青」は「Blue」ではありません。青土か草汁の色であろうと言われています。古来より緑色イメージを持って生まれた「青」の文字は、「空」という文字を得て「Blue」に成ったようです。「空青」はやがてその「Blue」を一点に集める「群青」へと、昇華していくのでしょう。まるで大空へ舞い上がる青龍のように。
このページの最初へ戻る ▲2009/01/15/thu/ Ysasayama
▼ Rep-7日本という国の印「日の丸」を、私は実に美しいと感じるのです。清く、潔く、強く、そして温かい。「日の丸」については、多くの人が、多くの考えを持ち、多くの意見を述べています。プラスもあれば、マイナスもあります。光の前で、すべて潔くあれば、必ず正しく理解されるだろうと信じているのです。
最近の冬晴れに太陽をよく観察しますが、赤い太陽など見たことはありません。古代から、アカシ(明し)、クラシ(暗し)、アオシ(蒼し)、シロシ(素し)と、光と共にあった日本人の色彩表現なのでしょう。太陽を見ると、真白に輝く中央に一段と「明う」照る真円。それを「丹(アカ)」としたのでしょう。
上図は、1999年8月13日、国旗国歌法制定による日本国旗意匠図。国旗国歌法 色彩については、地:白色、日章:紅色とあるのみ。実にシンプルです。
JIS日本工業標準調査会の制定慣用色名によれば、その「紅色」はマンセル値で制定:紅色=3R 4/14です。ここから各種変換値を、「井上(S.INOUE)氏の表色系変換」で求めると、「sRGB_Dec値=189/30/72」そして「sRGB_Hex値=#bd1e48」です。これらをPhotoshop/Illustratorなどに放り込んで印刷CMYKを求めると、CMYK近似値=c11-25/m91-98/y51-72/k0付近と推定できます。
農耕民にとって太陽は神の象徴、光と水とを司り、いのちを左右する存在です。人は太陽を畏れ、季節の移りを正確に知りたいと願ったことでしょう。左写真は、屋形古墳群(珍敷塚-原-鳥船塚-古畑)の、珍敷塚古墳(福岡県浮羽郡吉井町;円墳;昭和25年発見 31年国定史跡)出土の奧壁最下段石に描かれていた画の一部。顔料は赤色と青色二色。空と海は青色で塗り潰され、意図する象徴には赤色を使っています。中心を赤丸、光彩が無彩で同心に、その下に船、船首に鳥らしき生き物が描かれています。(6世紀中期-末期)
中国殷の時代、太陽は十個あったという話は有名です。(別項もじテナーニのRep-2参照)中国最古の地理書「山海経」(AD3世紀)の大荒南経には、帝俊の妻で十個の太陽を生んだ羲和という女性
が記され、また大荒東経には東海のかなた、湯谷という大きな谷の甘山に、高さ三百里の扶桑の木があり、一個の太陽がやってくると、一個の太陽が出て行く。太陽はみな鳥を載せている。
とあります。占卜を主宰する神聖王朝殷のご先祖神は鳥で、太陽の先導役か通信者であろうと思われます。思想書「准南子」(日本書紀 第一巻神代の書出しー古天地未剖。陰陽不分。ー
は「准南子」より)にも、太陽が十個現れ、余りの暑さ被害で帝の堯(ぎょう)は、弓の名手羿(げい)に命じて九つ撃ち落とさせると、九羽の烏が死んで羽を落とした
と、烏が登場します。連想すると、同心円は太陽、鳥は太陽に載る烏そのものでしょう。アマテラスを岩戸から引き出したのも天宇受売命と、鶏でしたね。
日本に神社を想像すれば、神宮の神明社、稲荷神社や八幡社、神仏習合の明神社等々数え切れない。その印が鳥居。太陽を崇める日本人の心が降り立つのです、「鳥」と同じように。太陽の化身と考えられていた「鳥」が、ある時は朱に、ある時は銀に、またある時は白にも金にも変る、まるで光の聖霊のように変幻自在の「丹」で染めた鳥居を目指すのです。
「丹」は水銀を、光り輝く太陽の化身「鏡」を創ります。丹砂鉱脈と神社所在が一致する不思議。奈良大仏建立前から仲違いしていた仏教側も、素木社殿伊勢神宮域の丹生水銀には勝てなかった、丹生鉱脈が天皇家を祭る伊勢神宮の手の中にあったのですから。
神社の主務は暦に関する祈祷、年中の太陽を読み、季節を占い、豊作への祈願です。「丹」は光を再現する秘薬だったのではと、一人冬の暖かい光りの中で感じるのです。(追記2009.02.08:自分が生まれたこの国の、神道や神社が今ひとつ釈然としない。幼少の折、社によじ上ってはかくれんぼした神社の神主さんが名付け親でもあるのですが、村内の八幡さんと何が違うのか…習った記憶もありません。調べる程に、道徳に縛る解説本の類に失望です。)
「丹」という文字と「光」という文字を見比べていると、奇妙な想像が湧いてきます:「日」の同心円/丸と兀(ごつ)、火と兀(ごつ)、三本足の八咫烏と兀(ごつ)、兀(ごつ)と鳥居、丹の字形と鳥居の形……。あぁ、今日も眠れない。「丹」も一筋縄ではいかない。もじテナーニへ続くか?
このページの最初へ戻る ▲2009/10/23/fri/ Ysasayama
▼ Rep-8また明らかにネアンデルタール人は身体彩絵を有していた。というのは、エル・カスティツロ洞窟のアシュール文化層では、赤い赭土製の顔料が発見されたからである。
(「人類と文化の誕生」第5章ムスティエ文化;H.キューン著 角田文衞訳;みすず書房1958)
学説上謎の多いネアンデルタール人。彼らも何かを意図して色を使っていた…。赭土(さに/そほに/あかに/しゃど)とは、日本の古語「赤い土」の意。世界土壌分類図(※1左図)を覗き込み、遥か太古を想って地べたの土を握ってみるものの悪戦苦闘、何とか凡例分類土壌を知る程度。土の色を知る前に、己の不勉強を知って顔が赤らむ。
日本絵具の赤の代名詞のひとつに「代赭」があります。古くから「煤鉄の郷」と呼ばれた中国山西省の代県は、万里長城雁門関を西北に従える中国北方軍事の要地で、ここに産する赭土から生成される赤い岩絵具が、極上だったのです。中国最古の生薬書「神農本草経」(紀元1-2世紀)にその名「代赭石」が記されています。俳人の金子兜太は山法師の熟した実の色が、まさに代赭色だ
(海程448号H20.12月)と読んでいます。木には不似合いなほど、イチゴに似た赤い実は人の目をひきます。九月の終わり頃だったか、近隣の公園でその赤い実を取って割ってみました。中は淡いクリーム色でほんのり甘い香。食べられるそうです。
詩人 福士幸次郎曰く赭土の「ソホ」とは、日本の古語「鉄」の意なのだ
と(自著「原日本考」白馬書房1942「原日本考続編」三宝書院1943)。極上「代赭石」は天然の赤鉄鉱、希少で高価だからこそです。今ではネット検索で中国サイトに山ほどヒットする煤鉄の郷山西省。質は二の次まず代県印と銘打って赤い土……頭を垂れる私です。
ベンガラ…太古に初めて使われた…インドベンガル地方で産出された…。まるで宣伝文句の「ベンガラ」殿。あなたはどなたですか?誰だ、そこにゐるのは?誰だ…?
と、ただ一言きり話せる鸚鵡のお話(※2)ではございますまい。
江戸時代のベンガラは、銅鉱山採石の副産物だったそうですが、近年では今から9000年も遡る考古学上の縄文出土品から、漆(うるし)ベンガラが検知されました(※3)。鉄器の存在も不明の太古にあって既に活用されていた証のベンガラ。これは、赤土/丹土などの鉄分含有の多い土壌を焼いて赤くした、生活の酸化鉄ベンガラでしょうか、それとも王国の象徴、宮殿や城などと同じ、特別扱いの「赤い粉」なのでしょうか?
強引に「ベンガル地方で産出」から推理すれば、赤い風化土のラテライトLaterite! 鉄分とアルミナに富んだこの土、露出時はチーズのように柔らかいが、太陽光を浴びるとコンクリートより硬くなる。水をかけても柔らかく戻ることがない。お前はレンガLater(ラテン語)のようだと命名(F.Buchanan1807未確認)されたらしい。現在、硬化前をプリンサイトPlinthite、硬化後を鉄石Plinthicとも呼ぶ、サバナ気候ならどこにでもある、ごく普通の痩せた赤〜黄色の土壌。なのに技術で極上の赤顔料が生まれるという摩訶不思議さ。
一書に曰く、伊奘諾尊いざなぎのみことと伊奘冉尊、共に大八洲國を生む。然して後に、伊奘諾尊曰く、「我が生める國、唯、朝霧有りて、薫り滿てる哉」。(中略) 土神を埴安神と號す。
(日本書紀 卷第一 第五段 一書第六)
日本の古代のことば「はに(埴土)」。「に」が土の意、「は」は?…わかりません。「埴土」は土性区分の名称。(参考:土性三角図表;国際土壌学会法 ※4)土の粒が小さく触ってもざらっとしない、こねて細くできる粘土でしょうか。「埴」という漢字は「字通」によると鄭玄(後漢の大学者)本に『戠に作る。熾、織のように用いて、赤の意あり』
とあり、赤色を意図する粘土(神儀用)との含みです。埴土そのものは特別な存在ではなく、含有物によっては品質に差もある普通の粘土です。
香具山の埴土で窯いた八十平瓮は、どんな風合いだったのでしょう。埴土の埴輪は独創的な赤味を醸します。(左画像:群馬県太田市飯塚町出土の国宝 挂甲の武人埴輪 6世紀 ※5)。土神さまです、褐色の焼上がりが霊を鎮めるスタイルなのです。喪服が白/黒であるように、埴輪は素焼きの赤が決まり、儀式の決まりと考えればいい。含有の「赤鉄鉱」純度が高いほど、鮮やかに焼き上がり心も晴れる…いろ(色)はに(埴土)ほ(火)…味あるわぁ。
土から分離してしまった都会人は、土に色があることすら忘れています。肥えた黒い土や痩せた黄褐の土、酸欠の青白い土など当然のように存在する(※6)のに、見る機会すら喪失しています。土の色を左右する要素のひとつが、鉄(Ferrum)です。特に赤鉄鉱(ヘマタイトHaematite)の主成分である酸化第二鉄は、代赭やベンガラの主であるだけでなく、太古とつながる「赤」の張本人なのですから。
私たちの星、地球の中心核はほとんど鉄(とニッケル)でできています。その(鉄の)重量割合34.63%も突出しています(出典:地球の元素組成の重量%;1966Mason推定値)。人体も血液ではヘモグロビン、筋肉ではミオグロビンなどのヘムタンパク質には、ポルフィリン環に必要不可欠の鉄です。その条痕赤褐色に因縁を感ずるのは、あまりにも当然過ぎることです。全地球の塊と比べれば、極端に薄い地球の皮膜のような大地にへばりつくように生きている人間の、最大構成成分が「鉄」なのです。その赤になにやら畏怖を感じ、その赤い土を神儀に多用し続けている…儀礼だ、祭祀だ、卜占だと。ご覧なさい、何と青く、美しい星、地球であることか(※7)!不思議なことです。
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▼ Rep-9国旗なのに、その色を厳密に規定しないでも、特段問題が起きないこの日本って、不思議です。日の丸の地:白色、日章:紅色とあるのみですからね。国旗国歌法(国旗国歌法:1999年8月13日制定)
JIS日本工業標準調査会の制定慣用色名に「紅色」の定義があることを知らなければ、勝手気侭な解釈の「紅色」日の丸が、日本中いえ、世界中に蔓延します。「JIS紅色」を理解しても、次の規定「マンセル値:3R 4/14」が立ちはだかるのです。
マンセルの勉強は学生時代に、日本色研の基本色表を使って受講したきりです。カラーシステムは「色彩表示の物差し」つまり、基礎教科書です。日本にも「JIS Z8721」(1964初版現在第8版:日本色彩研究所 製品案内の色票からどうぞ)という、三属性による色の表示法規格があり、マンセルシステムに準拠する正規標準2163色が規定されています。三属性とは、色相(色合い:赤/黄/緑/青/紫とその中間の10種類)と彩度(鮮やかさの割合:色合いが抜けて無彩白になるまでのステップ)、そして明度(明るさの割合:色合いから光が抜けて無彩黒になるまでのステップ)です。各色相は10等分割され、隣接する色相へ滑らかに移行して、「赤:Red」なら1R〜10R、中央5Rが「標準の赤」、そして「黄赤:YR」1YR〜へと、全部で100色相の虹色の環ができると定義されます。しかし一般に販売されている超高価セットは全て40色相限定(各色相2.5/5/7.5/10)です。「JIS 紅色=マンセル値:3R 4/14」は誰も目にすることはできません。
上図#1の日の丸が「JIS 紅色=マンセル値:3R 4/14」です。
「井上(S.INOUE)氏の表色系変換」を利用させていただいて、sRGB_Dec値/sRGB_Hex値を求めた上で作成。sRGB値からPhotoshop/Illustratorを使用して、印刷CMYK分解値:c11-25/m91-98/y51-72/k0_とおおよその解析可候。(DICインキ特性;プリンタ色域Japan Color 2001 Coated;apple Color Sync;Perceptual Matching)
JIS慣用色名(JIS-Z-8102:2001)によれば「金赤」は、「マンセル値:9R 5.5/14」。この色も市販色票に含まれておらず…(ため息)。再度印刷インキ配分を求めると「CMYK値=0-5/71-76/76-88/0」……これは一般印刷「金赤:m100/y100」ではありませんね。
左図#2が「JIS金赤=マンセル値:9R 5.5/14」。燃えるような陽のイメージです。
日の丸と金赤、どちらも薩摩藩島津斉彬が関係しています。日の丸は、開国を迫る外国船との区別を示す船印として斉彬から江戸幕府に提案され、1854(安政元)年に採用されます。また金赤は、薩摩切子(薩摩の紅ビードロ)の、紅ガラス発色方法で生まれた赤色(金を利用して製造)でした。先代島津斉興が薬ビンを造らせたことに始まり、斉彬が確立させています。規定の紅色の根っこは、この金赤にあるのではないかと思えます。印刷の金赤とは、基本が違っていますね。
JIS「金赤」は、CMYK=0/90/100/0(wiki「赤」参照)だとか。
DICカラー解析から「Dic-565」が相当します。マンセル値:7.9R 5.5/17.9」は「JIS 金赤」のそれと不一致です。Hexからの逆分析も、m90/y100に今一歩届きません。
左図#3が「Dic-565=マンセル値:7.9R 5.5/17.9」。印刷「金赤」に接近しました。これも日の丸として認められる色なんですよね?
色票スタンダードとはいえ、市販番外票が国旗の指定色とは解せません。各国の事情あるとはいえ、日本も代表汎用色票で規定してもよいのではないでしょうか? 学生時代にポスターの色指定をマンセルで書き込み、実際にD印刷社へ入校してしまいました。現場では面食らったことでしょう。申し訳ございませんでした。
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▼ Rep-10デザインは、私たちのくらしに寄り添うものです。2006年12月、バリアフリー新法「高齢者、障がい者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」が施行され、ドルトニズム※1(先天色覚異常:日本の医学用語は好きになれません)にもやっと、やっと救援の手です。
1969年、「青い車イスシンボル」が障がいを負ってしまったすべての人を代表して、不自由なく公共等の施設にアクセスできるようにと世界に訴え、国際規準化されました。1985年にはロナルド・メイス氏が、いやいや視点はすべての人が対象だと「ユニバーサルデザイン」を提唱し、くらしのあらゆるものに波及しました。2000年を前後して「カラーユニバーサルデザイン」という言葉も現われました。デザインには積み残される何かがあるかのようです。
人々のくらしの向上、それは本来、近代のデザインが生まれるために孕んだ基本の命題ではなかったかと、反芻し、迷い、戸惑うのです。上辺だけの話で終わるはずもないデザインです。カラーバリアフリーは、現実には人権にまで及んでいます。表面では私たちが組み立てる「言葉の塔」が、深層では社会に根深く蔓延る「障がい観」が、いびつに、超低周波で、摩擦振動しているのです。拙項「もじテナーニ」Rep-8の、アイソタイプに秘められた「International」に共通する何かを感じずにはいられません。
石原式の学校用検査表※2から、すでに91年もの時間が通り過ぎているのです。視覚障がいを知っていて、色覚障がいを知らなかったなどと、誰が言えるでしょう。カラーユニバーサルデザイン?カラーが、ずっとユニバーサルではなかったという衝撃に悩み、沈むのです。
昨年2011年の夏は暑かった。福島原子力事故の影響から、日本中が節電協力、家中の窓を開け、団扇をあおいぐこと当たり前。扇風機!家電量販店に注文殺到、どこへ行っても買えない浅ましさ。そんな暑い暑い夏のある日の朝日新聞comに載った記事-。
震災の記憶がくすぶるうちの配慮か、TV報道各局の大津波警報の色彩を、カラーバリアフリー鑑み「紫色 R200/G0/B255」付近に統一したとの発表です。策定者の解説を直接熟読しました。東京大学分子細胞生物学研究所 脳神経回路研究分野の伊藤啓氏の解説 (策定の画面は禁転載ご容赦)
3 紫は日本工業規格(JIS 安全色)で放射能の警告表示に使われているように、赤や黄色とは多少異なるものの、「危険」や「不気味」というイメージを持っています。3a そのため、警告に用いる有力な候補になります。(解説3:見分けやすい配色の策定 3a:3段階の警告の配色文中より)
選りにも選って、放射能の警告表示※3の件がどうして。
新しい大津波表示の「紫」には、そのイメージが滲む…原発事故を想起して、いたたまれまない。正直困りました…複雑で。色が恐ろしいのではなく、定義づけるひとの、言葉が恐ろしい。放射能に、色がついていたらなあ
※4……ジャーナリスト外岡秀俊氏の言葉を思い出します。透明であるが故の恐怖、放射能です。彼も、JIS 安全色※5を想像したでしょうか。
カラーバリアフリーのフィルターを通して合格・策定された「紫色」。今後気象庁による津波警報発表基準等の最終提言を背負うこの色は、日本の歴史上に現われた最初の色規範「冠位十二階の制」最高位大徳の「紫色」と対極する「紫」になりました、大袈裟ではなく。今回も闇の中の「紫」です。
放射能に、色がついていたらなあーーカフカ「城」
◎ドライバーが誤認しないLED信号機
◎色覚対応「地下鉄駅構内バリアフリー情報」
◎色覚に対応した色材指標セット
◎他の色覚者の目になる模擬体感ビュアー
色覚を意識する社会がやっと芽生え始めたようです。石原式の検査表は昔のままなのに、時間ばかりが空回りしています。カラーバリアは色そのものより、「危険」=「不気味」=「紫」と、色を言葉の型に嵌めて連呼する巷のデザイナーのモノマネに拠るところが大きいのです。色はもっと科学的に捉える心構えが必要です。カラーバリアが万華鏡のように時を忘れてくるくる現れるのは、デザイン設計者の無知が何より原因なのですから。
前述の「紫」色が、命に関わる緊急事態に誤認することなく、すべての人の目に届くとは、神がかりの視認性です。信号のように、色を基準化するにはあらゆる状況下での見え方を検証しなければなりません。しかし人は他人の目、先天性あるいは白内障や緑内障などによる後天性の人の目で、ものを見ることは叶いません。現在、UDingシミュレーターを利用した計算上の色覚タイプ別再現色を確認することは可能です。参考図示:左下▶︎色の見え方の違い(拡大します)
私たちは生まれてから、自分が見ている色を、隣の友人が見ているものと比べることなく成長していきます。自分の見ている物の色が人と違っている? 疑問すら抱きません、色に感動興奮して互いの話が最高潮に盛り上がった一瞬の、その妙な違和感に気づくまで。
色に感じる病気を身近に知っていて欲しい。日本全国の男性22人にひとり(推定280万人≒4.50%)、女性640人にひとり(推定10万人≒0.156%)が「先天赤緑色覚異常」※6と診断され、暖色:赤-橙-黄-緑(長中波長域)での色区別が困難なのです。図鑑の解説、ファッションの案内、街中の交通誘導、地図の凡例など、暮らしの指標に気苦労することになるのです。遺伝的に女性保因が約9%≒580万人潜在するとも。私たちは身近に色覚を学び、カラーバリアフリー設計をしなければなりません。現在の医学では治療できない、そう言われているのですから。
色覚分類 color sense | 色覚 | 光覚 | CUDO* | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
S | M | L | R | ||||
3色覚 | 一 般 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | C型 | |
先天性 | 1型 | ◯ | ◯ | ▽ | ◯ | P型-弱 | |
2型 | ◯ | ▽ | ◯ | ◯ | D型-弱 | ||
3型 | ▽ | ◯ | ◯ | ◯ | T型-弱 | ||
2色覚 | 先天性 | 1型 | ◯ | ◯ | × | ◯ | P型-強 |
2型 | ◯ | × | ◯ | ◯ | D型-強 | ||
3型 | × | ◯ | ◯ | ◯ | T型-強 | ||
1色覚 | 先天性 | 錐体 | どれか1つのみ | ◯ | A型 | ||
稈体 | × | × | × | ◯ |
図示:左上▶︎色の感受性の違いについて(拡大します)
図示:左中▶︎色覚と混同する色について(拡大します)