塩対応

体調不良には とりあえず塩水浴で様子見しちゃう?

淡水魚なのに塩水使うのっていう疑問。塩水といっても海のように濃くて塩っ辛いものではなく、血液中の塩分に合わせた薄い濃度のもの使います。塩水の主成分 塩化ナトリウムには病原菌を発育阻害させ繁殖低下や死滅させる殺菌効果や魚体皮膚の免疫機能の活性効果があり、市販の熱帯魚 治療薬にも含まれているように広く一般的なもの。

式根島
岩場海岸の温泉

私たちが 風邪気味で鼻の奥あたりに不調を感じたとき塩水の鼻うがいすると治まると聞いたことありますね。日ごろの疲れをとりたくて入りたくなる温泉。日本で一番多い温泉の種類はナトリウム塩化物泉、つまり塩泉になります。 このように知らず知らずのうちに私たちも塩の効能を使っています。雑にいえば塩水浴も同じような目的を狙った最もシンプルな治療法となります。

一般的な塩水浴の濃度は0.5%(水1Lに対して塩5g)で、金魚だと0.2~0.3%くらい 錦鯉で0.5~0.6%くらいの濃度を使用しているようです。まぁそれくらい。

病原菌への対策

塩水浴での一番の目的は、細菌・真菌・原生動物など病原菌と言われる単細胞類の発育阻害させ繁殖低下や死滅させることにあります。

生物の細胞膜は細胞内外で異なる濃度の溶液があるとき、水分は細胞膜を透過して濃度の低い方から高い方へ浸透し、お互いを平衡にする半透性の性質があります。 魚類などは皮膚やウロコ・体表面の粘液分泌などが体内濃度を一定にコントロールできるのに対し、病原菌は浸透圧がコントロールしきれず細胞内の水分が細胞外と均一化しようと奪われ続け、やがて脱水状態となって発育阻害や死滅を引き起こします。

病原菌は非常に種類が多く、海水魚に感染する細菌・ウイルスもいるといったツッコミどころは置いといて、淡水性の細菌や原生動物の体内塩分濃度は0.35%ほどなので、それ以上の濃度を用いれば有効となります。

病原菌の死滅目的だけであれば塩化ナトリウムが99%以上占める精製塩でも充分に効果を得ることができます。 どこのスーパーでも売ってる食塩は なかなかの優れもの。むしろ美味しく調味されたダシ塩は使用できません。ダシ部分が邪魔すぎる。

浸透圧コントロール機能の手助け

遥かなむかしの古生代、海水域で誕生した初期の魚類は生息地を大陸内部の淡水域にも広げ、そこでも生き抜けるよう体構造を進化させました。そのひとつに体内環境を一定に保てる生命維持に欠かせない腎臓の発達があります。 ほとんど塩分のない淡水域では、血液中の塩分濃度が高い体内へ飲水やエラからの浸透で大量の水が体内に次々に流入し、体内が水ぶくれの危険にさらされることになります。 そこで塩分・水分濃度をコントロールして余計なものは排泄する腎臓が発達がしました。

通常は外部からの浸透は皮膚やウロコ・粘液分泌で防ぎ、体内部は腎機能によって保たれます。 これが病原菌感染によって傷つき剥がれた体表粘膜や皮膚から水が浸透するようになると、体内の塩分濃度が下がり大きな負担がかかります。 そこで体内濃度に塩水浴濃度を近づけることで排泄の負担を軽減させ生理機能を安定させることで体力回復の手助けができます。

淡水魚も海水魚も血液中の塩分濃度は だいたい0.9%です。ほぼ等しい濃度でも負担になるおそれがあるため、低めの0.3~0.8%程度の塩分濃度が好ましく、0.5%が多く使用される数値になります。

エラ呼吸の促進

体表粘膜に覆われた皮膚と異なり水に直接触れているエラは、水中の酸素を取り込み体内の二酸化炭素を放出するガス交換、アンモニアなどの老廃物の排出、浸透圧調節の3つの役割があります。

エラの浸透圧調節も腎臓と似たような性質の機能をもち、そこに存在する塩類細胞によって塩分(NacCl)の吸収・排出の調節をしています。 淡水域では血液中の塩分濃度が周囲の水より高いため浸透で体外に流出するのを防ぐ必要があり、海水域では逆に体内流入を防ぐことが必要です。 塩類細胞の働きによって淡水魚も海水魚も体内塩分濃度は、海水塩分濃度の約1/3程度に保たれています。

塩類細胞の浸透圧調節は生命維持に必要なミネラルを摂取するために欠かせない機能で、微量の淡水域で生き抜ぬくためには必要不可欠となります。 そのため古生代の淡水域に生息し、そして滅び去った棘魚類・板皮類にも現生する硬骨魚類と同じように、すでにその時代から浸透圧調節機能が発達していたと考えられています。

話は反れたけど塩水浴でこの塩類細胞が膨張するため、エラ呼吸の促進、呼吸障害や体力回復を手助けし、体力の消耗を減らことができます。

塩に含まれるミネラル補給

海水域で誕生した生命にとってマグネシウムやカルシウムなどの主要ミネラルなどは欠かすことができません。 そこから進化した魚類や哺乳類 その他多くの生物も変わることなく必要としています。 淡水域では微量となるミネラルを補うことで体力回復に効果があります。 例えるならヒトが大量の汗をかいた時に体内の塩分濃度に近いスポーツドリンクを飲む感じ。 ミネラル補給まで考慮するなら製造方法やその過程によって異なるので精製塩はお勧めできません。 でも塩水浴でそこまで必要とするかどうかは各自の判断に委ねたい。

比較的必要量の多いミネラルと効能
ナトリウムNa 浸透圧調整、殺菌作用 など
主に血漿など細胞外に存在する細胞外液に含まれる。浸透圧の調整、消化液成分、他のミネラルの吸収を助け体液のpH値を調節、カリウムと一緒に働いて筋肉の収縮・神経の伝達に関与し身体の水分バランスを保ちます
カリウムK 浸透圧調整 など
主に細胞内液に含まれる。浸透圧の調整や酵素反応の調節、体液のpH値の調節、ナトリウムと一緒に働いて筋肉の収縮・神経の伝達弛緩を調整をします
マグネシウムMg 骨や歯の構成成分、酵素の活性化、カルシウムと競合して精神安定に関与 など
主に骨に含まれ 血液中のマグネシウムが不足すると骨から補填される。酵素反応による活性化した酵素に関与、タンパク質の合成を調節、筋肉の動きを調整、神経の鎮静化
カルシウムCa 骨や歯の形成
ミネラルの中で最も多く体内に存在し、カルシウムが不足すると骨から補填される。約1%ほどが 細胞分裂、神経の鎮静伝達、筋肉の収縮、血液凝固作用などに使われる。

デメリット

何でもいいことばっかとか ありえない。デメリットあります。

  • とりあえずポリプテルスは非塩耐性
  • 病原菌が死滅するなら濾材のバクテリアだって死滅
  • 残念だけどエロモナス病の菌は海水でも元気な好塩菌
  • 濾過不足でアンモニア毒性上昇
  • 水がアルカリ性に傾きやすい
  • 水換え必須
  • 時間とともに蒸発するため一定の塩分濃度にしにくい
  • 水草は薄味の漬物になる

細かく上げればきりがないけどスリ傷からの2次感染予防とか、事前に水草を取り出すとか、何らかの対策が必要となります。

小型のポリプテルスくらいなら塩水浴用タンクを用意できるだろうけど、大型だったりガーだったりしたら飼育水槽そのまま実行するしかない。 長期戦になればなるほど濾過不足に悩まされるので難しい判断。 水温を高めに設定すれば、高温に弱い病原菌を早く死滅させられるし、塩水浴が効きにくい卵期のある病原菌対策として病原菌の成長サイクルを早めて増殖時を狙う手段もあります。

まとめ

塩水浴では約0.5%の濃度にして使用(水量1Lに対して塩を5g)

調味付けされてない塩を使う