25 合掌造り集落(富山県) 東尋坊(福井県)


・平成28年2月8日(月) 富山

 東京駅6時16分発北陸新幹線「かがやき501号」に乗る。以前、長野新幹線で終点の長野駅まで乗ったことがあるが、北陸新幹線に乗るのは初めてだから、長野駅から先の車窓の風景が楽しみになる。

 長野駅を過ぎると、標高が高く、雪のために一層急峻に見える山々が車窓から見えてきた。

 8時26分、富山駅に着く。新幹線が開通するようになったからだろう。駅が改築され、初めての駅に降り立ったような気がした。
 観光案内所へ行き、立山連峰がよく見える場所を尋ねる。市内周遊のバスに乗ると、10分もかからないで行けるという「富岩運河環水(ふがんうんがかんすい)公園」を薦められる。それに、公園内には、世界一美しいと言われているスターバックス・コーヒーの店があるんですよ、と言う。それも見たくなったので、駅前のバスの乗り場を教えてもらう。

 晴れていい天気で、駅の周囲に雪は見えない。名店街も新しく建てられたビルの中に入り、明るくきれいになっている。 

 9時15分発のバスに乗る。乗客は私一人だった。若い女性が同乗していて、沿道の観光案内をしてくれる。
 「環水公園」は、元は富岸運河だったが、水場を中心にして整備し、「親水公園」とした。野鳥の観察もできるようになっている、と話してくれた。

 案内の女性もスターバックス・コーヒーの店が美しいと話し、たいへんな人気で、土曜、日曜には行列ができるんですよ、と言う。有名な建築家が設計したんですか、と尋ねると、それは分かりません、と言われた。 

 約7分で停留所「環水公園」に着く。立山連峰はよく見えるが、ビルなどの建物が大きく視界に入って来る。
 スターバックスは確かに美しい建物だった。
 水辺に向かって下る緩やかな芝生の斜面の途中に浮いたように建っている。軒を深く張り出して水平感を強調し、建物を軽やかに見せている。公園内の水辺の景色を見渡せるように、三方を総ガラス張りにして、テラス席を広くとっている。


スターバックス富山環水公園店


 後で調べたが、スターバックス富山環水公園店は、世界中のスターバックスの店舗の美しさを競うストアデザインコンテストで2008年に最優秀賞を受賞した。世界に約2万店舗あるスターバックスの中で、最も美しいという評価を受け、「世界一美しいスターバックス」と呼ばれるようになった、ということである。設計者は分からなかった。

 1時間後にバスが回って来た。案内の女性は同じ人だった。スターバックスの話をして、富山の観光の話を伺う。雄大な立山連峰がバスの窓からよく見える。20分程乗ってバスは富山駅前に着いた。お礼を言ってバスを降りる。

 名店街の中で昼食を摂る。富山に来たから寿司を食べようと思い、回転寿司の店に入る。店頭に書かれていた「朝とれ地物盛り11貫」を注文する。みんな新鮮でおいしかった。富山湾で獲れる白エビも入っていた。

 電車に乗る。約20分で高岡駅に着く。観光案内所に行き、明日と明後日に訪ねる富山県五箇山の合掌造り集落のパンフレットをいただく。
 チェックインの時間になったので、駅の近くのホテルニューオータニ高岡へ行く。2泊予約していた。


・同年2月9日(火) 合掌造り集落(富山県西赤尾)

 朝、起きると雪が降っていた。豪華でおいしい朝食を食べてホテルを出る。

 駅前のバスの停留所から8時10分発の「世界遺産バス」に乗る。15分後に、昨年、新しく造られた新高岡駅の駅前の停留所「新高岡駅前」に着く。高岡駅よりも新高岡駅から乗り込む人が多い。
 9時に停留所「城端(じょうはな)駅前」に着く。5分後にバスは発車する。バスは坂を上って行く。雪の降り方が激しくなってくる。長い五箇山トンネルと短い梨谷トンネルを通る。トンネルを抜けるたびに雪が深くなってくる。

 9時28分、停留所「相倉口」に着く。昨年の2月11日、合掌造り集落の相倉(あいのくら)を訪ねた(目次20参照)。相倉は23棟の合掌造りが現存する。

 9時49分、停留所「西赤尾」に着く。雪は吹雪に変わっていた。
 バスを降りて、岐阜県白川郷、富山県五箇山(ごかやま)を通じて最大の合掌造りの岩瀬家に入る。岩瀬家は約300年前に建てられた。総檜造り、釘を一本も使わず、縄と、マンサクを利用した結束材である「ねそ」で結び上げて造られている。間口26、4m、奥行き12、7m、高さ14、4mの準5階建ての建物である。昭和33年(1958年)、国指定重要文化財に指定された。
 (白川郷については、「奥の細道旅日記」目次23、平成16年9月26日参照)


岩瀬家


岩瀬家


 12年前の平成16年10月10日、五箇山に現存する四ヶ所の合掌造り集落をバスと徒歩で1日で回った(「奥の細道旅日記」目次23参照)。そのとき岩瀬家も見学した。しかし、時間に余裕がなかったため、説明してくださる方がいたのに説明を聞かないで出た。今日は説明を伺おうと思っている。 

 合掌造りは、大半が妻入(つまい)りの構造になっているが、岩瀬家は平入(ひらい)りである。玄関の土間を通って、「大居(おい)」と呼ばれる広い座敷に入る。大きな囲炉裏が切ってあり、天井の真上に当たる部分は、最上階まで隙間が設けられた、すのこ張りになっている。蚕に暖を与える為であり、また、煙は防虫の用を為していた。



大居(おい)


 囲炉裏端で、お茶をいただきながら、80歳前後と思われる岩瀬家の当主が語るお話を聞く。

 江戸時代、越中は加賀藩の領地であった。五箇山は山に取り囲まれた谷間にあり、平坦部はほとんどなく、農業には不向きな地形であった。そのため、火薬の原料となる塩硝(えんしょう)を作って、年貢として加賀藩に上納していた。また、養蚕、紙漉き、炭焼きを家業とした。
 現在の岩瀬家は、当時、加賀藩の塩硝を取りまとめ、納入する上煮役の藤井長右エ門が建てたものであるが、江戸時代末期、藤井家が絶えたため、以後、岩瀬家の所有となった。
 岩瀬家は、加賀藩の役人が塩硝の巡視に訪れた際の宿泊に供した書院造りの部屋がある。

 15分程、以上のことなどの説明があった。

 板戸も欅で造られ、「出居(でい)」と呼ばれる仕事部屋だった二十四畳敷の敷板も全て欅材が使われている。岩瀬家の格式の高さがうかがえる。


出居(でい)


 「かしら(家長の間)」に、竹の板を束ねた「ささら」が置かれている。
 五箇山に、簡素な楽器の音色に合わせた古式ゆかしい踊りが伝えられている。
演奏に合わせて、「マドのサンサはデデレコデン ハレのサンサもデデレコデン」と唄う民謡・こきりこ節に合わせて、直垂(ひたたれ)、括袴(くくりばかま)の衣装を着けて、笠を深く被り、「ささら」を打ち鳴らしながら踊る。



かしら(家長の間)


梯子段


 急な梯子段を上り、上の階を見学する。3階から5階は養蚕の作業場だった。

 12時発の「高岡駅前行き」のバスに乗る。1時45分、「高岡駅前」に着く。
 駅の構内で遅い昼食を摂る。かまぼこ屋さんの奥に、かまぼこ屋さんがやっている食堂がある。そこで食事する。うどんとおにぎり2個を注文する。うどんは、富山名産の白エビのかきあげ天ぷら、わかめ、魚のすり身2個が入っている。魚のすり身は、かまぼこ屋さんが作っているからおいしい。おにぎりは、黒こぶをまぶしたものと、とろろこぶで巻いたものである。海の幸のうどんとおにぎりだった。

 ホテルに戻る。雪は降り続いている。


・同年2月10日(水) 合掌造り集落(富山県菅沼)

 朝食後、ホテルを出て、昨日と同じ駅前のバスの停留所から8時10分発の「世界遺産バス」に乗る。雪は降っているが、昨日よりも小降りになっている。
 9時43分、停留所「菅沼」に着く。雪は止み、時おり薄日が射している。

 9棟の合掌造りが現存する菅沼(すがぬま)は、平成7年、富山県の相倉岐阜県の白川郷とともに「白川郷・五箇山の合掌造り集落」として、ユネスコの世界文化遺産に登録された


合掌造り集落



 バスを降りて、谷間の小さな集落の、雪をかぶって静かに眠っているような合掌造りの民家を見たとき、三好達治(1900~1964)の詩・「雪」を思い出した。


     太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ
     次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ


 菅沼の集落全域の4、4haが国重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。また、集落だけでなく、背後の山に存在するブナやトチなどの原生林は、雪崩から集落を守る雪持林(ゆきもちりん)として伐採が禁止され、屋根を葺く茅を栽培する茅場などの山林も国指定史跡になっている。集落全体が保存の対象になっている。

 


 12時6分発の「高岡駅前行き」のバスに乗る。13時45分に「高岡駅前」に着く。14時5分発金沢駅行の電車に乗る。14時43分、金沢駅に着く。
 5分間でホームを移動し、14時48分発北陸本線上り特急「しらさぎ12号」に乗り換える。15時35分、福井駅に着く。

 昨年の3月14日、北陸新幹線が開業するのに合わせて金沢駅が発着駅になった。そのため、高岡駅から福井駅までの直通の電車がなくなった。

 福井駅の周りは、新築の高層ビルが建ち、建築中のビルもある。以前とは雰囲気が変わっている。
 駅に近いユアーズホテルフクイにチェックインする。2泊予約していた。ユアーズホテルフクイは朝ご飯がおいしいので、福井を旅行するときはいつも宿泊する。


・同年2月11日(木) 東尋坊(福井県)

 ホテルでおいしい朝ご飯を食べる。
 ご飯は福井県産のコシヒカリ。福井県若狭の名産品・小鯛の笹漬け、鯖の味噌煮がある。ユアーズホテルフクイで鯖の味噌煮を食べるとき、鯖はこんなにおいしくなるのかといつも驚く。
 やはり若狭の名産品である「鯖のへしこ」があった。生の鯖を塩漬けにした後、長期間、糠に漬ける。「鯖のへしこ」を食べたのは初めてだった。濃厚な味に、これは酒の肴にいいだろうな、と思った。

 ホテルを出て、JR福井駅に隣接する、えちぜん鉄道福井駅へ行く。駅の建物が新しくなりホームも移動している。大規模な改築が行われている。
 今日は建国記念日の祝日である。土、日、祝日、年末年始(12月30日~1月3日)のみ発行される「一日フリーきっぷ」を買う。1、000円だった。これから三国芦原線の終点・三国港駅まで行く。片道で買うと770円であるから、往復で1、540円になる。540円得になる切符である。それに、「一日フリーきっぷ」で、えちぜん鉄道の勝山永平寺線、三国芦原線の全線が乗り降り自由になる。

 福井駅8時39分発の電車に乗る。沿線のどこにも雪は見えない。9時28分、三国港駅に着く。
 駅を出て道路を反対側へ渡り、バスに乗り換える。9時46分発のバスに乗り、9時54分、停留所「東尋坊」に着く。

 お土産屋さんが並ぶ通りを10分程歩く。海岸に出た。上空を鳶(とび)が、ピーヒョロロロロと鳴いて旋回している。

 国の名勝・天然記念物に指定されている東尋坊は、約25mの高さの豪快な岸壁が1キロに亘って続く。輝石安山岩の柱状節理が造り上げた断崖に日本海の荒波が打ち寄せる。 


東尋坊



柱状節理







 遊歩道を歩きながら断崖や美しい日本海を見ていたが寒くなってきた。日射しは暖かいが風は冷たい。バスの停留所に戻る。
 11時58分発のバスに乗る。12時3分に停留所「三国港」に着く。12時9分発の電車に乗る。1時に福井駅に着く。

 宿泊しているユアーズホテルフクイの3階、フレンチレストラン「ボヌール」のランチに間に合った。
 「シェフのおすすめランチ」を注文する。

     前  菜   牛肉のローティー
             冷製仕立てのローストビーフ
     スー プ   温かい蕪のスープ
     魚料理   真鯛のムニエル アサリ風味のソース
     肉料理   福井ポークのトマト煮込み 

 サラダ、フルーツ、デザートのケーキ、ゼリーなどはブッフェになっていた。


・同年2月12日(金) (帰京)

 朝ご飯をゆっくり食べてホテルを出る。
 福井駅9時2分発北陸本線下り特急「サンダーバード1号」に乗る。9時46分金沢駅に着く。金沢駅10時12分発北陸新幹線「かがやき508号」に乗る。12時44分、東京駅に着く。





TOPへ戻る

目次へ戻る

26へ進む

ご意見・ご感想をお待ちしております。