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 第3回進行協議の内容



 三鷹事件再審請求・第3回進行協議の内容について(要旨)

      報告者 三鷹事件再審弁護団・佃克彦弁護士


 1月11日に、弁護団の再審請求と証拠開示請求に対する検察官の応答が出された。30ページくらいの書面になる。その内容をひと言で言うと、「弁護人の再審請求には新規性や明白性がない」というものだ。「新規性」・「明白性」とは、再審請求が認められるための要件として法律で定められている概念である。再審請求は、無罪を言い渡すべき明らかな」証拠を「新たに」発見した場合に認められると法律は定めているのだ。
 書面における検察官の主張は、弁護人の再審請求は新規性も明白性もない証拠に基づくものだから、弁護人の求めている証拠の開示についても応じる必要がないというものだ。一言で言うと、弁護人の証拠開示請求に対するゼロ回答の書面だ。
 なお、その書面には、検察官が自発的に提出した証拠4点が添付されていた。
 1点目は「三鷹事件臨場記録」というタイトルのぶ厚い書類で、現在でいうところの実況見分調書だ。事故現場の状況の見取図があって、現場全体の写真、電車の写真、車内の写真など、その事故の後の惨状を写真で記録したものなどが束になっているもの。
 2点目が関係者1人の検察官に対して供述をした供述調書が1通。
 残りの二つの証拠は、当時のものではなくて、平成24年に改めて捜査機関が専門家に意見を聞いた証拠だ。弁護人の主張は、暴走した電車のパンタグラフは二つ上がっていたというものだが、有罪判決はパンタグラフは一つしか上っていないとなっている。検察官が出してきたのは、事件当時の状況からすると上がっていたパンタグラフは一つだけだという専門家の意見だ。
 つまり、こちらの開示請求とは関係なく、自分の主張を裏付ける証拠を出してきただけだ。
 以上が1月11日に検察官から提出された書面である。
 そして1月17日に3回目の三者協議が開かれた。1回目、2回目の三者協議は主任の川口政明判事が一人で応対していたが、1月17日は裁判長の小川正持判事も臨席した。私たちも高裁の新たな動きに期待した。
 まず、弁護人が、検察官からの今回の書面に対し、ゼロ回答であって不当であるということを言った。“これこれの証拠はこういう意味で必要だ”と言ったのに、何も検討されていないではないか。ぜひこれらの証拠を出してほしい。そういうことを言った。
 小川裁判長も川口判事も弁護人の話をきちんと聞いていた。その後、検察官に対して、「弁護人からそういう話が出たが、何か言いたいことはありますか」と尋ねたが、検察官の応答は「今のところは特に言うべきことはありません」というものだった。
 その後、裁判長が検察官に「検察官の主張はわかりますが、それはそれとして、弁護人が開示を求めている証拠について任意に出すつもりはありませんか」と水を向けた。裁判所とすると、検察官という立場としては理屈の上では言わなければならないことがあるのだろうが、証拠が現に存在することが見込まれてかつ再審請求の審理に資するのであれば、検察官にそれを出させる方向で手続きを進めていくのがよいと考えているということだろう。裁判所からのこの発言に対して検察官の応答はなかったが、裁判所はさらに一歩踏み込んで、「裁判所の方では、これから言うものについて開示をしたほうが良いと思っているので、よく考えて下さい」と言って、開示すべき証拠内容を具体的に示した。弁護人が開示を求めた証拠は大きく言って21項目あるが、そのうち、何番目と何番目は開示したほうがいい、とかなりの数の項目について具体的に開示を促した。
 裁判官が開示を促した証拠は、例えば、現場近くで竹内さんを目撃したという証言をした証人の捜査段階の調書だ。裁判長は、「今だったら類型証拠にあたるから開示したらいかがか」というようなことを言っていた。類型証拠とは現行法上の概念であり、例えば、検察官が公判で証人調べを請求した証人の調書などがこれにあたる。一定の類型に属する証拠については現行刑事訴訟法では証拠を開示しなければならないことになっている。このように、一つひとつについて裁判所としての考えを示しながら開示を促していた。
 もう一例。アリバイに関するもので、弁護団は、竹内さんを例えば風呂で見たという証拠があるはずなので、そういう証拠を出してほしいと言っている。検察側は竹内さんが犯人という立場に立つから、当然のことながら、竹内さんは風呂にいたはずがないとなる。そのように争点となっている事項に関して証拠開示請求がされた場合、現行法では証拠を開示しなさいとなっている。「今だったら開示をしなければならないのだから検察官は考えて下さい」というような示唆を裁判所はしていた。
 これに対して検察官は、「持ち帰って検討する」と応答した。そこまで踏み込んで裁判所から言われた以上、検討しなければならないだろう。
 そして、次回期日は3月15日と指定された。2ヵ月先だ。2ヵ月先というのは、支援者の皆さんからすると長いように感じられるかもしれないが、弁護団の経験からすると画期的に早いという感覚だ。
 役所は、裁判所も検察庁もそうだが、年度末に人事の異動がある。検察官は、異動があることを想定して、新たに異動してきた人が事件記録を読んで概要を把握した頃を次回期日としてほしいと考えたと思う。つまり5月とか6月とかそういう時期だ。しかし弁護人が、「異動が懸念されるのであれば異動の前に1回入れて下さい」と言ったところ、裁判所も「そうしましょう」となり、年度末前の3月15日に期日が指定されたのだ。
 この3月15日の三者協議がどういう内容になるかはわからないが、裁判所が検察官に開示を促したものに対して、少なくとも一部については検察官の応答があるはずだ。3月15日の後は、その応答の結果を皆さんにご報告できる。
 再審請求をしたのが2011年11月。第1回の三者協議は昨年の7月。そして今年の1月に裁判所は検察官に対し、部分的ではあるが一定の証拠の開示を促した。再審請求一般のテンポからすると、これはかなり早い。他の事件は、こんなに早いテンポで進行していないと思う。このような迅速な進行は、今の裁判所の姿勢を反映していると思う。弁護団の野嶋真人弁護士が次のようによく言っている。「再審請求は、刑事裁判官にとっては、通常の仕事以外の仕事だ。締切りに追われてコンスタントに期日を入れなければいけない事件以外の仕事なので、自覚的に意識的にその事件を進めようとして取り組まなければ進んでいかない。だから弁護士は裁判所を常に促していかなければならない」という。通常事件だけでも忙しい中、裁判所が三鷹事件についてこのように主体的に速いテンポで取り組んでくれているのは、私たちにとっては良い状況にあると思う。

 2013年1月18日 第3回進行協議報告集会にて

佃克彦弁護士
佃克彦弁護士

  三鷹事件再審
請求申立以降の経緯

2011年11月10日
 東京高裁に再審申立
2012年 2月 2日
 未提出証拠の開示を請求
2012年 7月13日
 第1回進行協議
2012年11月 6日
 第2回進行協議
2013年 1月17日
 第3回進行協議
2013年 3月15日
 第4回進行協議