<はじめに>
漢方薬の運用方法に「構造主義」というものがあります。
これは、日本漢方、中医学・・・などの垣根にとらわれず、処方の構成生薬や構成パターンにより薬効の特徴を捉えたものといえます。そして、この方法を運用するにあたっては、基本処方を熟知する必要があります。
そこで今回は構造主義の基本処方の一つとされる「桂枝湯」についてお話します。
「桂枝湯」は漢方三大古典の一つ「傷寒論」に収載されている処方です。
2千年も前から使われ、現代に残っているお薬と言われると驚きませんか。
そして、意識的なのか、偶然なのか、定かではありませんが、この処方を「ぱくった」もとい、「応用した」「参考にした」「オマージュした」処方がその後も結構見受けられます。
では、この「桂枝湯」を詳しく見ていきましょう。
<構成生薬とポイント>
「桂枝湯」は「桂枝」「芍薬」「大棗」「生姜」「甘草」の五種類の生薬で構成された漢方薬です。
「桂枝湯」をポイントに分けると、
1、主薬の「桂枝」
2、「芍薬甘草湯」を構成する「芍薬」「甘草」
3、薬味を調整する「大棗」「生姜」
の3つに分けることができます。
1の「桂枝」は書物を見ると数種類の薬効を持っていますが、中でも「自律神経の乱れを治す」作用が重要です。
2の「芍薬甘草湯」は「こむらがえり」「筋肉痛」に効果のある漢方薬です。
3の「大棗」「生姜」はいろいろな処方に使われており、各処方の薬味を調整し、かつ体調の回復に寄与する処方構成となっています。
以上を総合すると、
体や内臓が緊張又は硬縮し、自律神経にも影響が出てしまった症状に効果的なお薬、となります。
それでは、現代の「桂枝湯」の適応症と比較してみていきましょう。
某漢方メーカーさんによると、
体力の低下している時の「かぜの初期」・・・頭痛がしたり、のぼせたり、熱が出てゾクゾクしたり、汗が自然とにじみ出る、といった症状に使います。
これは効能と解説を合わせて書いていますが効能だけだと「かぜの初期」です。これだけで一般の方は使ってみようと思うでしょうか?疑問?
私のおすすめは、風邪で体がゾクゾクして、頭痛がしたり、腹痛がしたり、体温感覚が異常をきたした場合(寒がったり暑がったり)や、風邪でなくてもそれらの症状が主であった場合は使ってみて下さい。
では、一般の方がかぜの初期だと思っている頃合いに、喉が痛かったり、咳が出たりしていたらどうでしょう。「桂枝湯」は最適な処方でしょうか?
私の場合、答えは「NO」です。違う漢方薬又は風邪薬を使いましょう。
どうも「かぜの初期」だけでは判断できないようです。
ところで日本では、風邪と言えば「葛根湯」が有名です。
実は「葛根湯」の処方は「桂枝湯」に「麻黄」「葛根」が加わった構成で作られています。このため、結果的に「麻黄湯」と「桂枝湯」の中間的で幅広い風邪の症状に使うことができる優秀な処方となりました。
<関連処方>
それでは、「桂枝湯」を構成生薬としたり、関係性が深いと思われる処方をいくつかご紹介します。
「桂枝加芍薬湯」・・・
「桂枝湯」と全く同じ構成生薬で、「芍薬」の量を倍量使った処方です。「芍薬」を倍量にしたために、風邪薬と言うよりも胃腸症状を改善することに特化したお薬になりました。
「小建中湯」・・・
「桂枝加芍薬湯」に「膠飴」(飴糖)を加えた処方です。飴を加えることにより、より小児に飲みやすく、しかも虚弱体質の体力回復に効果を上げた処方構成となりました。もちろん、大人でも使います。
「当帰四逆加呉茱萸生姜湯」・・・
「桂枝湯」に「当帰」「木通」「細辛」「呉茱萸」を加えた処方構成をしています。
血行が悪く末梢の新陳代謝が悪い、特に手足の冷える方に効果的な漢方薬です。
「小青龍湯」・・・
「桂枝湯」から「大棗」を除き、「生姜」を「乾姜」に変え、「麻黄」「半夏」「細辛」「五味子」を加えた処方構成をしています。
「桂枝湯」に適用の症状を持ち、かつ「痰」や「鼻水」の量が多く出る人に効果的です。
因みに、構成生薬と言っても「桂枝湯」の5生薬すべてが入っているわけではないのに基本処方とするのは「ずるい」とする意見もごもっともかもしれませんが、適応の共通性もあるのでそこはあしからず。
また、漢方の構造主義では、処方を平面的に捉え、立体的な部分にはあまり言及していません。つまり、生薬の使用量が違ってもいいのです。要はそんなもんです。
<まとめ>
「桂枝湯」は日本で一般の方に認知されているとは言いにくい「漢方薬」の1つです。
効能がほぼ「かぜの初期」としか書かれていません。前述のとおり、風邪以外でも単独で又は他処方と併用して使うことができますが、適応症がこの通りなので専門家が使うのに限定されてしまった漢方処方となるかもしれません。
また、ここでもう一つ言いたいのは、漢方は一部の方々が風潮しているようなオカルトまがいなものではないということです。使い方をしっかり学べば非常に役に立つ、意味を持ったお薬です。どうか、この文書を読んでくさった皆さんも漢方薬のスペック(構成生薬)に注目してみてみるとより興味がわくのではないでしょうか。
<追記>
「桂枝湯」を語る上で避けて通れないのが、中医の「六経弁証」(傷寒論)です。
「桂枝湯」は太陽病風寒表虚証。
因みに「麻黄湯」は太陽病風寒表実証です。
実は漢方処方の構造をしっかり理解してからこの六経弁証を勉強すると、私の場合、結構納得できました。
風邪の時、汗が出る、出ない、なんて、実際ははっきり区別できないだろう〜と当初は思っていたものです。
六経弁証と「桂枝湯」については書籍を参考にしてください。