俺は今までの緊張感が抜けたことや、
昼間のがんばりすぎた水泳のおかげでどっと眠気が押し寄せてきた。
う〜ん、眠いなぁ…
「ファ〜……」
と、俺が欠伸をしかけたその瞬間…

「出ていけぇっ!」

んがぁっ!?な、何だ!?
「でも、お父さん・・・・」
「うるさいっ!毎日毎日こんなろくでなしを一緒に連れて見舞いに来おってぇ!」
「お父さん、僕は・・・」
「っっきぃぃぃぃぃ!ワシはお前のお父さんではないわっ!」
「ス、スイマセン」
「とにかくシズカッ!
 こんな奴を連れてくるならお前も見舞いになど来る必要はない!」

「・・・・フン、だ!タダシさん行きましょう!」
「え、そんな・・・・いいんですか?」
「いいのよっ!行くわよ!」
「じゃ、じゃあお父さん。また来ますから…」
「だからワシはキサマの父親ではない!」
「ス、スイマセン」
俺が病室に入るときにすれ違ったのが今言い争っていた二人だろう。
片方はいかにも負けん気が強うそうな女性で
「全く!お父さんたら頭が固いんだから……」
とかなんとかブツブツ言っている。
結構美人である。
もう一方はどこかおどおどして気の弱そうな年輩の男だった。
あまり、ろくでなしと言った感じではないのだが…。
病室に入ってまず待っていたのがさっき怒鳴っていたじーさんの挨拶だ。
「まったく!シズカも何であんなろくでなしを連れてくるんだか…。
 お?由美子さん、新しいお仲間かい? そうかい、そうかい。
 で?何で入院してきたんだい?ああ、足の骨折か。さっきの地震で?
 そいつぁ、災難だったなぁ。名前は?樋山 英一か。良い名前だな。
 ガハハハハハ……」
やかましいジジイである。
由美子と呼ばれた看護婦は俺を病室のベッドに乗せて去っていった。
俺はさっきも言ったが非常に眠りたかった。
だがさっきのジジイがやたらと話しかけてくる。
俺は一瞬無視しようかと思ったがこれから2〜3週間一緒の部屋にいなければならないわけだし、
仲を悪くしても何も良いことなど無いので、とりあえずちゃんと相手の話に受け答えすることにした。
「俺の名ぁ、安田 剛ってんだ。タクシードライバーやってる。
 ヨロシクな。で、そこにいるガキが山田 康輔」

康輔と呼ばれた少年はゲームボーイから一瞬だけ目を離して俺の方を見たが
またすぐに視線はディスプレイに戻った。
腕を見ると点滴をうっている。
「んでぇ、そこのグースカ寝てる野郎が蘇我 龍二」
指された方を向くとなるほど、そこにはグースカ寝ている男がいた。
しかし・・・・この剛っていうジジイはよくしゃべる。
まぁ、今までの同じ病室の患者はガキかいつも寝ている男かで、
まともな話し相手がいなかったためだろう。
結局俺は夕食までそのジジイの話を延々と聞かされる羽目になった。

夕食はあまり美味いものではなかったが、
それでもいろいろあって疲れていた俺は残さず食べた。

そういえば康輔ってガキは俺らが飯を食ってるとき、カーテンを閉めていた。
・・・・何故だろう?


§


9時
やっと消灯だ。
夕食が終わってからまたも俺はジジイの長話に付き合わされていてくたくただった。
俺は泥のように眠る・・・はずだったのだが・・・・。

俺はその夜、変な夢を見た。
さっきのグースカ寝てた蘇我龍二とかいうヤツが手に何か光る物を持って立っている。
それは先がとがっててそう、ちょうどナイフみたいなもの・・・・っておい!
俺はそこで飛び起きた。
が、そこには龍二ってヤツも誰もいない。
龍二ってヤツが寝ているかどうか確認をとりたかったが
カーテンで仕切られてしまっていて見えない。
真ん中の通路は見えるのだが・・・・。

・・・・疲れてんのかなぁ、俺?
こういう時は寝るのが一番だ。

俺は再び布団に潜り込み眠りについた・・・・。


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