ほすたるっ!(仮)

 


二十歳にして初めて入院というモノを経験した。
どんな事でも初めてというのは大抵の場合、
楽しい気持ちと不安な気持ちが半分半分という事が多い。
だが入院に関しては(少なくとも俺の場合は)不安な気持ちでいっぱいだった。
その心は・・・・「何をされるかわかったモンじゃない!」


§


そもそも健康そのものであった俺が何故入院などという事になってしまったのかというと、
これがまた"カミサマ"の意地悪以外の何ものでもない。
"カミサマ"はよほど俺のことが嫌いなのだろうか?

そもそも事の発端は俺の夏休みのも終わろうとしている日に親友である智広と賢治が
「海へ行こう」と誘ったのが始まりである。

「まだ暑いしさ、海へ行こうぜ。」
「何でこのクソ暑いのに男3人で海に行かなきゃ何ねぇんだよ!?
 俺はヤだね。疲れるだけだし。」

「そんなこと言わずにさぁ。」
「そうだぜ!男たるものこういう暑いときこそ身体を動かさなきゃ!」
・・・・どうせ女好きの賢治のことだ。
智宏に
『今なら浜辺には水着のネーチャンがたくさんいてナンパし放題だぞ!』
とでも言われて行く気になったに違いない。
顔こそ整っているが単純なヤツである。
「どうせ暇なんだろう?いいじゃないか。」
「なぁ、たのむよ。水着のネーチャンがさぁ・・・」
「行ったら楽しくなるって。」
「それでよ、一夏の恋とか言っちゃってよぉ!」
「だぁぁぁぁぁ、うるせぇ!暑い!近寄るな!
 ・・・・ち、しゃぁねぇなぁ。行ってやるよ!」

と、まあこんな感じで結局俺達は3人で海に行くことになった訳である。
だが今思えばこの時俺は何が何でもこの申し出を拒否しておきゃ良かったんだよなぁ・・・。


§


この暑い中当然海は混んでいた。
ハッキリ言って"人の海"である。
しかも家族連れが多く、賢治の望んだ"水着のネーチャン"よりも"水着のマダム"
が圧倒的に多かった。

「残念だったな、賢治。"水着のネーチャン"がいなくって。」
「フ、こんな事では僕は止められないのだぁ!」
賢治は人の海へと走っていった。
ふん、よーやる。
「よし!俺達も泳ぎに行こうぜ!」
「ああ・・・・。」
と、言うわけで俺達は午前中は泳ぎまくった。
最近、家で腐っているだけで身体を動かしていなかった俺は
もうそれだけで滅茶苦茶疲れてしまった。
「おい、そろそろ昼にしようぜ。」
「う〜んそうだな、そうするか。」
「賢治は?」
「どっかその辺にいるだろう。どうせ海の中には入ってないだろうからな。」
俺達は海からあがった。
身体がずっしりと重く感じられる。

賢治はすぐに見つかった。
何せ若いヤツが少ないからよく目立つ。
「どうだ?収穫はあったか?」

「う〜ん、ダメだなぁ。やっぱり人妻はガードが堅くって。」
「・・・・お前、ほんっとに見境無いな。」
「へ?どうして?"人妻"って響きにムラムラしてこない?」
「・・・・おい、飯食いに行くぞ。」
「そうだなぁ、腹減ってるとナンパの成功率は低くなるからなぁ。」
「・・・・ホントかよ、おい?」


§


「ぁ〜あ、いい匂いだ。」
「焼きモロコシか。いいな。」
「じゃ、ここにするか。」
俺達はその匂いに、そして"運命に"ひきつけられるように海の家へと入っていった。
海の家は人でごった返していた。
俺達は何とか座る席を見つけて先ほどからいい匂いをさせていた焼きトウモロコシを頼んだ。
その時だった。

「おい?何か揺れてねぇか?」
「あ、ホントだ。」
「ま、大丈夫だろう。」
俺達は無心で焼きトウモロコシにむさぼりついていた。
地震は大したことはなかった。
地震は。
せいぜい震度3と言ったところか。

ギィィィィ

俺達の耳に不審な音が入った。
「・・・なんか変な音が聞こえねぇか?」
「・・・俺も聞こえた。」
「・・・まさか家が崩れる音なんて事は・・・・無いよな。」

俺達は力無く笑った。
だが外から決定的な叫び声が聞こえてきた。

「キャァァァァ・・・・」
「海の家が傾いて行くぞ!」


「・・・おい。」
「・・・ああ。」
「・・・だな。」

俺達はよりによって海の家の一番奥にある席に座っていた。
俺は自慢じゃないが足は早いほうだ。
俺のスタートは二人よりも少し遅かったが、すぐに先頭になった。
だが・・・・

「ぬわぁっ!?」

すっころんだ。
どうやら昼間の水泳が原因らしい。
二人は俺の方を見もせずに走り去っていく。
「おいっ!一瞬でもいいから助けるそぶりぐらいしても・・・・。」
だが俺の声は崩れてきた海の家にかき消されたのであった。

後に聞いた話によるとこの時下手に走って手前で潰されるより
奥で家に潰された方が傷は軽くなったらしい。
とにかく俺は中途半端な位置にいたために足へもろに家の残骸が落ちてきた。
「!!!!!!!!」
俺はあまりの激痛に叫び声すら出せなかった。
家の倒壊はすぐに治まった。
「おいっ!大丈夫か!?」
「・・・・・・っ。」
「すいません!誰か救急車を・・・・」


§


救急車はすぐ来た。
と、言っても俺は痛みのために時間の感覚なんざほとんどなかったが・・・。
俺は応急処置を施され、担架に乗り、そのまま救急車へと入れられた。
智宏、賢治も<付き添い>として付いてきた。

救急車というのは面白いところだ。
一度ぐらいは乗る価値がある。
乗員は運転手と、助手席に一人、そして俺の側についているヤツの合わせて三人だ。
カーテンにさえぎられよく見えないが、時々無線が入り運転手か、助手席のヤツが受け答えしている。
周りには何に使うかよくわからない器具がたくさんおいてある。
とにかく何もかもが初めての光景なので、俺は痛みを忘れて興奮してしまった。
「おい、お前何ニヤニヤしてるんだ?」
「・・・・。」
ち、俺ってばポーカーフェイスできないんだよなぁ。
だから賭事とかも弱いし・・・・
何とか上手く表情をごまかせないもんかなぁ。



§


「あ〜こりゃヒドイ。」
俺の足を診た医師はさらに続けてこういった。
「こりゃ入院ですね。」
「にゅーいんっ!?」
ビックリしたね。
俺は
『あ〜このぐらい大したこと無いですよ、わっはっはっは・・・・。』とか言われて
すぐに返してくれると思っていた。
だから入院なんてこと微塵も考えていなかったのだ。
だが医師は俺が大ショックを受けているとも知らず、淡々と続ける。
だいたい医者なんてぇ生き物は心が無いからしゃあしゃあと人がショックを受けるようなことを
を言いやがる。(←かなり偏見)
「ええ。かなりひどい折れ方をしていますからねぇ。
 まぁ、入院といってもあなたは若いから2〜3週間で治るでしょう。」

俺の心に沸々と不安感がわいてきた。
(ここでやっと冒頭の部分につながったってわけだ。)
ホントに何をされるんだろう・・・・。


§


ガラガラガラガラガラガラ・・・・・

俺を乗せたベッドが廊下を行く。
智宏、賢治はまたお見舞いに来るからと言って帰っていった。
それにしても、こうやって見ると病院の廊下は結構狭い。
いや、元々は広いのだろうが、看護婦が急がしそうに通ったり、
ヨレヨレの患者が点滴をしながら歩いてきたり、
俺と同じように骨折して松葉杖をついている人がいたり etc.......
とにかく俺はベッドの角が誰かに当たるんじゃないかとヒヤヒヤする。
長い廊下の次はエレベーターだ。
これがまた同じように窮屈に感じられる。
しかもそれを俺ともう一人の看護婦だけで
占領しているのだから始末が悪い。

チーン

やっと目的の階に着き再び永遠に続くのかと思われるような長い廊下のその先に俺の病室はあった。
個室ではない、いわゆる大部屋というヤツである。
ま、何でもいいや。


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