その3-7 ヘッドフォンアンプ製作のコツ
まず全回路図を図1へ示します。
(2013/02/23 回路図を一部変更しました。)
さて、最初に基板サイズを決めますが、それにはどんなケースに入れるのかを初めに決めます。 私は、今回はタカチ「MX3-11-12」を選択しました (ちょうどいいサイズなんですよねぇ・・・結構お気に入りだったりします)。 このとき、電源コネクタ、イヤホンジャック、スイッチ類の配置も考えておきましょう。
慣れている方はいきなり作ってもいいのですが、今回の場合のように基板サイズが決まっている場合、 製作中にスペースが足りなくなる場合があります。 小さいコンデンサや、抵抗程度であれば基板の裏に取りつけることもできますが、 大きな電解コンデンサや、パワートランジスタなどの大型の部品は 基板裏にはちょっと厳しいので、しっかりと配置を確認しましょう。
また、今回のようにケースが薄型の場合は、部品の高さも重要な要素です。 電解コンデンサやパワートランジスタは案外背が高いので、 そのままではケースにぶつかってしまうかもしれません。 よくわからないときは、実際に基盤につけて確認してみるとよいでしょう。
この段階で配線も一緒に書き込んでおきます。 このとき、回路図通りに配線するのはもちろんですが以下の配慮が必要です。
・アースの配線方法。 後述しますが、アースは特に重要です。 まず、アース線をどのように、どこに引くかを考えます。 これによって、だいたいの各回路の配置が決まります。
・信号がスムーズに流れるような部品配置をしましょう。 部品の配置が悪く配線が長くなったり、回路同士が無駄に離れたりしているようであれば、 部品配置を見直しましょう。
・ノイズに弱い部分をノイズ源から離す。 弱い信号線を強い信号線のそばに這わせるなどはNGです。
私の場合、図2のようになりました。 アースを挟んでLRが対象になるように配置されています。 この段階で、製作は半分程度終了しているといっても過言ではありません。 十分検討を行うようにしてください。
アースはすべての電位の基準となる大事なポイントです。
理想的なアースは「抵抗値が 0 である」ことです。 アースに抵抗値が存在した場合、アースに電流が流れることでアース内に電位差が生じます。 これがさまざまな問題を引き起こします。
たとえば音声入力の GND と差動回路の+入力の GND 電位が違えば音声は正確にアンプに入力されません。 差動入力の+、- の GND 電位が違うとこれもやっぱり正確に増幅できません。 出力と負帰還のGND(差動入力-)の電位が違うとしつこいようですが正確に増幅されません。
入力がずれるくらいならいいのですが、たとえばノイズ電流がアースに流れた場合は同でしょうか? 当然ノイズ電圧が発生し、それが入力や負帰還部分に発生すればノイズが増幅され出力されます。 増幅回路を構成する要所要所で GND 電位が変わるとさまざまな問題が生じるのです。
そこで、「1点アース」という考え方があります。GND を1点にすればアースの抵抗値は限りなく 0 に近づきます。 しかし、現実的に1点アースが可能な場合と可能でない場合があります。 何十本もの GND 線をアースに一点接続するのは現実的に難しいでしょうし、 無理矢理1点アースするためにアース線が延びてしまったら本末転倒です。
で、実際には母線式アースを使用することが多くなると思います。 太い電線でアースを1本張り、それを母線として GND を落としていく方法です。 電線の抵抗は太ければ低くなりますので理想的状態に近づきます。
皆さん知らず知らずのうちに母線式アースを実行していると思います。 ただ、「めったやたら GND を落としてはいけません」最悪ですw
アースを考える上で大切なことは、「ループを作らない」は絶対です。 「ループは最悪です。絶対に避けましょう!」 なぜかというと、ループにしたアースがアンテナとして機能してしまうためです。 こうしてしまうと、アースはノイズをわざわざ受信してしまうノイズ源にしかなりません。
次に、「アースは、なるべく太い線で短く配線」が鉄則ですが、 それと同様に重要と私が考えるのは「信号の経路」です。
入力された信号は、必ずリターン線から戻ってきます。ここで、その戻る経路に注目します。 まずいケースは、戻る経路が図5 のように他の入力信号の電流と混じり合ってしまうことです。
では、具体的にどのようにするのか? それぞれ分けてみてみましょう。
入力の電流の経路は 図6 のようになります。前回説明しましたがトランジスタを使用しているので、 入力電流は差動回路を通過し反対側の入力に流れていきます。 ですから、入力の電流を全て回収できるポイントは入力トランジスタの抵抗 R2 となります。 ここが、入力のアースです。
出力部分についてみてみましょう。出力はヘッドフォンに出力されるのが支配的ですね。それ以外に負帰還部分にも流れます。 これをまとめると 図7 のようになります。
電源部分は、図8 に示すように大部分は出力に流れます。 よって、この経路を最短にと考えると出力の GND にまとめるのが自然ですね。 なんせ、一番電流が流れるのは出力部分なのですから。
まとめてみましょう。
・ 入力部分のアースは、トランジスタの入力から速やかに戻します。
これは、入力された電流を最短経路で入力元に返すためです。
音声入力はトランジスタを駆動してもらったらもう用はないので速やかに退場願いますw
・ 出力部分は一番電流が流れる部分です。ここを大元のアースとすることで大電流の経路を最短化した方がいいでしょう。 また、出力部分、電源部分の GND が固まっているため、各くチャンネル内で無理なく1点アース可能です (ここは、一点アースの考え方ですね)。 で、チャンネルごとにまとめたアースを母線アースに落とします。
・ 負帰還部分は、「入力のアース?」、「出力のアース?」入力、出力どちらにしたらいいのか悩むポイントです。 両方の電流が流れますので、ここはなるべく短く入力、出力のアースへ接続される様にします(真ん中位で接続する)。
このようにすると主要部分のリターン電流は混じり合いをほぼ回避できます。これがアースの基本と思います (この考えでハムノイズなど載ったことはないですし、正解だと思うのですが・・・w)。
というわけで、実装した際のアースは図11 のようになります。 また、各信号の流れは図12 のようになります。 ヘッドフォンは元から GND が共通なので GND 線は1本のみ引きそれを母線とします。 そこに先ほどまでの考えを適用すると自ずと図のようになるわけです。
この構成で言えば、 「アースは短く!」とばかり考えていては、ヘッドホンの GND を入力のアースからとりたくなるところですがそれはいけません。 大きな電流が母線に流れてしまい、入力の電流が迷子になります。必ず出力のアースからとりましょう。 あと、不必要に太い線は必要ありません。普段皆さんが使っている普通の線を使ってOKです。 太い電線よりも電流の経路を考えることが大切です。
コンデンサの位置は図13の位置が最適でしょう。 この回路は 33[Ω] の抵抗が電源ラインに挿入されていますので電源ラインのインピーダンスが非常に高いです。 なぜ、わざわざインピーダンスを上げているか?ですが、この抵抗には大切な役割があり L、R チャンネルの電源を分離しています (Lチャンネルの変動を、R チャンネルへ影響させない役割があります)。 ですが電源のインピーダンスはもちろん低いのが理想ですので、それなりの電解コンデンサが必要になります。 というわけで、このコンデンサはまさに電池代わりです。
そう考えると、出力が一番電流を必要とするので、出力よりに配置するのが理にかなっています。 私の場合は、ちょうどコンデンサが増幅段と出力段の真ん中になるように配置しました。
コンデンサの容量は 470[uF] 推奨です。 前述のように、電源ラインのインピーダンスが高いのでこのコンデンサでヘッドホンを駆動していると思ってください。 よって、ある程度大きな容量が必要ですが、といってもアホ見たいな大容量は必要ありません。 どうしても気になる方は 1000[uF] くらい盛ってみたら?程度ですねぇ・・・w
図14 はテスターで測定した、主要ポイントの電位です。 動作チェックなどに利用してください(仮想GND 基準の電位です)。 多少の違いはあるでしょうが、だいたいこの程度になるはずです。数ボルト単位で違うようであれば回路を見直してください。
まあ、ここまでの記事を読んでいる皆さんはは回路をおおむね理解していると思いますので、 この程度の電圧になるのが理解できると思います。
① VR3 を調整してバイアス電流を調整します。FETの金属部分がちょうどソースになっていますので、 S2K213、S2J76 の金属部分をテスターで測定してください。1 + 1 = 2[Ω] ですので、 たとえば 20[mA] 流すのであれば 40[mV] にすればOKですね(お好みですが必ず 15[mA] 以上は流すようにします)。
② VR2 を調整して出力のオフセット電圧を 1[mV] 以下に調整します(目標 0.1[mV]以下)。 もちろん入力を短絡した状態で調整してください。 さすが差動回路!びたっと調整できるはずです。 ここでうまく調整できない場合は回路を間違えているか、外れのトランジスタを引いたかですw
③ しばらく温度が上昇して安定するのを待ちます。で、①、②を再確認します。 こんな感じで微調整です。
④ 30[Ω]以上のダミー抵抗か、壊れてもいいヘッドホンを接続します。 この状態でもう一度、各部位の電圧をチェックしてください。 特に異常がなければ動作しているはずです。 音を入れてみましょう!
さてさて、どうですか?
ディスクリートヘッドフォンアンプを作りたくなってきましたか?w
オペアンプのとっかえひっかえも悪くないですが、こういうのを一回作ってしまうと
「やっぱ、ディスクリートはアンプの王道!」と感じれるはずですw
部品も秋月、マルツで手に入るものばかりですし、ペアトランジスタはイーエレさんでお買い得な価格で購入できます。
是非ともチャレンジしていただきたいです。
きっとはまって、「次は JFET 入力で作るぞ!」とか思ってきますよw
まあとりあえずこれで子ネタを終えます。思ったより長かったなぁ・・・w
WaveSpectra しか知らなかったのですが、こんなのあるんですね・・・
テストを自動でやってくれるので便利です。
・ 無負荷での特性です。
詳細はこちら・・・
Frequency response (from 40 Hz to 15 kHz), dB | +0.02, -0.15 |
Very good |
Noise level, dB (A) | -97.3 |
Excellent |
Dynamic range, dB (A) | 97.1 |
Excellent |
THD, % | 0.0015 |
Excellent |
THD + Noise, dB (A) | -89.8 |
Good |
IMD + Noise, % | 0.0043 |
Excellent |
Stereo crosstalk, dB | -86.3 |
Excellent |
IMD at 10 kHz, % | 0.0037 |
Excellent |
General performance | Very good |
・ 33[Ω]負荷での特性です。
詳細はこちら・・・
Frequency response (from 40 Hz to 15 kHz), dB | +0.03, -0.17 |
Very good |
Noise level, dB (A) | -94.9 |
Very good |
Dynamic range, dB (A) | 94.3 |
Very good |
THD, % | 0.0016 |
Excellent |
THD + Noise, dB (A) | -88.4 |
Good |
IMD + Noise, % | 0.0048 |
Excellent |
Stereo crosstalk, dB | -64.1 |
Average |
IMD at 10 kHz, % | 0.0043 |
Excellent |
General performance | Very good |
無負荷の特性は申し分ないですね。というか、無負荷なんていくら良くてもしょうが無いので33[Ω]負荷での性能が大切ですねw
・ 左右で少しボリュームずれていますが、これはボリュームのせいなのでどうしようもないかな。
・ クロストークが若干悪いですな、仮想GNDの影響ですかねぇ?まあ、-60[dB]程度はあるので問題ないレベルと判断します。
(考えてみると GND 共通なのでどうしようもないんでしょうなぁ・・・)
まあ、それ以外は特に問題が無いようです。
あと、無負荷、33[Ω]で特性にあまり差が無いというのが CMoy に代表されるオペアンプを使用したアンプとの大きな差ではないでしょうか?
無負荷でオペアンプに軍配が上がるのは当然ですが、ディスクリートの良さは負荷駆動時の安定性だと思っています
(よくある無負荷での特性評価はあまり意味がありません)。
また、RMAA では見えませんが歪み率は各周波数で素直にそろっているというのもディスクリートならではの特性で、
オペアンプにはなかなか真似できない所です(歪み率に暴れがありません)。
まあ、負荷駆動時の性能だけ見たら高性能ヘッドホンアンプにも引けを取らないかなと・・・自画自賛w
しっかし、こんな簡単な回路でここまで性能が出るとは・・・
自作アンプはやっぱりやめられませんね!w
2013/02/03 : 12[V]1[A] から DC分配器(12[V]2[A]) へ電源変更後。特性が微妙に上がってる・・・やっぱ電源は大事だなぁ。(書き忘れましたが33[Ω]負荷です)
Frequency response (from 40 Hz to 15 kHz), dB | +0.06, -0.22 |
Very good |
Noise level, dB (A) | -98.7 |
Excellent |
Dynamic range, dB (A) | 99.5 |
Excellent |
THD, % | 0.0013 |
Excellent |
THD + Noise, dB (A) | -89.2 |
Good |
IMD + Noise, % | 0.0053 |
Excellent |
Stereo crosstalk, dB | -63.8 |
Average |
IMD at 10 kHz, % | 0.0038 |
Excellent |
General performance | Very good |