その3-6 ヘッドフォンアンプの完成
前回までで、心臓部はできあがりました。
さあ、今回からヘッドホンアンプとして仕上げていきましょう。
まず、仕上がりゲインを 6[dB](2倍)とします。
差動増幅器の仕上がりゲイン Av は非反転増幅回路では、
ですね。
R11 = R12 であれば、仕上がりゲイン 2[倍] ですが、適当に決めてもいいのでしょうか?
まあ、結論は後で述べるとして入力部分を作りましょう。
図1 は入力、出力だけに注目しオペアンプの図記号で今までの回路を置き換えたものです (補償回路等省いていきます。あと、もう回路の中身はいじりませんのでこっちの方がわかりやすいと思います)。
まず、入力 Vi に抵抗 R13 を挿入します。
これは、無信号時に入力を GND に固定するのと同時に、トランジスタの動作に必要なベース電流を供給します。
ちなみに、このとき流れる電流を「バイアス電流」といいます。
さて、この回路のバイアス電流はどのくらいなんでしょうか?
差動回路には均衡した状態で左右に 1[mA] が流れます。
hfe = 100 とすると、必要なバイアス電流(ベース電流)は
バイアス電流は 10[uA] となります。 ということは、ベースに接続されている抵抗 R13 には、何も入力していない状態で 10[uA] 流れると言うことです。
たかが 10[uA] と思うなかれ・・・
図2 のような構成にしてみましょう。オペアンプの+端子の電圧 Vp は、
仕上がりゲインは 100 / 100 + 1 = 2[倍] ですので、
なんと -2[V] の電圧が出力されます! (正確にはマイナス入力のバイアス電流がありますので若干小さくなりますが、100[Ω] ≪ 100[kΩ] ですので省略しました。)
この -2[V] を入力が 0[V] にも関わらず、「ずれ(オフセット)」として出力される電圧、「オフセット電圧」と呼びます。
理想オペアンプは入力インピーダンスが ∞ なのでバイアス電流は 0[A] です。
よって、このような現象は発生しません。
ですが、実際に動作する回路を組んでいく上では理想オペアンプばかりを考えていてはいけないわけですね。
では、どうすればオフセット電圧を 0[V] にできるのでしょうか?
オフセット電圧が生じる理由を考えてみましょう。
オフセット電圧を 0[V] にする方法を考えてみましょう。
図3 のような回路を考えます。オペアンプの両端子に Ib のバイアス電流が流れていますので、
+端子の電圧を Vp、-端子の電圧を Vn としますと、
です。オペアンプの出力電圧 Vo は、
ですね。オフセット電圧を 0[V] にすると言うことは Vo = 0 にすればいいので、
よって、R1 と R2 が等しければいいわけです。
では、負帰還がかかっているような回路、たとえば 図4 はどうなるのでしょうか? この場合も同様に計算できますが裏技として R3 を GND へ移動します。
計算は省略しますが、
となるのは明らかです。よって、ゲインを決めている抵抗の合成抵抗 R2 // R3 と R1 を等しくすればいいわけです。
というわけで、ゲインが決まればどんな抵抗値を使ってもいいわけではないのです。
では、でのくらいが適切なのでしょうか?
入力インピーダンスは高い方がいいのですから、R1 を大きくしたいところです。
すると、帰還部分の抵抗 R2 // R3 も必然的に高い抵抗値になってしまいます。
しかし、帰還部分の抵抗はあまり大きくできません。熱雑音やノイズを拾いやすくなるためです。
・ 熱雑音とは、抵抗が発生するノイズで、温度、抵抗値が高いほど大きくなります(詳しくはググってほしい)。
・ 抵抗値が高くなると小さなノイズ電流 In でも、
Vn = In * R のオームの法則からわかるように大きなノイズ電圧 Vn にしてしまいますのでよろしくありません。
経験則ですが、せいぜい 100[kΩ] が限界ではないではないでしょうか?
しかしながら通常は 10[kΩ] 程度にすべきです(オーディオ用途ならばもうちょっと低くてもいい位です)。
まあ、私の経験則を信じていただくとして、R2 = R3 = 10[kΩ] と決めます。そうすると R1 は、
R1 は 5[kΩ] となります。実際には切りがよいところということで 5.1[kΩ] にします。
電源周り R15、C5、C6・・・、ボリューム VR2 、DCカット用のカップリングコンデンサ C5 、
だめ押しの入力保護の抵抗 R14 をつけて完成した回路図が図5 です。
電源は±6[V]の両電源を使用します。これについては以前小ネタで紹介した仮想グランドを使用することにします。
(オペアンプはちょっといいやつ OPA134 にしておきましたw)。
また、ちなみにぺるけ氏の LR の電源分離がすばらしかったのでまねをして R15、R16 33[Ω] でデカップリングしています。
あと、カップリングコンデンサ C5 は省略しないでください。
音が変わるとか以前の問題で、動作的にオフセット電圧で説明したとおり Q1 のベース電位は 0[V] ではありません。
よってDCカットのための C5 が必要です(Q1 のベース電位はバイアス電流の分だけ GND より若干低い電位になります)。
さて、実測した歪み率(wave spectra を使用しました)は図6、周波数特性は図7 のようになります。 THD+N は 0.01[%] を切っておりこの規模の回路としてはそこそこといえますし、周波数特性も問題ありません。
図8 はステップ応答です。リンキングは発生しておらずいい感じです。また、図9 は 0.1[uF] を負荷にした場合ですが、 リンキングがあるものの発振には至っていません。
図10 は製作した回路の外観写真です。きちんとケースに入れて 図11 のようにニキシー管VUメーターの下に設置して常用しています。
さすが自分の子はかわいいというプラシーボ効果が発動しています。すげぇーいい音しますよ!!!w
(ほんとに自作の楽しみはこれが一番!w)
さて、次回は製作するためのコツなんかを載せてこの小ネタを終了したいと思います。
差動増幅回路の入力インピーダンスについて説明します。
図14 は入力インピーダンスの計算に関わる部分を小信号等価回路で置き換えたものです。
ちょっとややこしいのですが、次のルールを採用します。
・ ro は他の抵抗と比較して非常に大きいので ∞ と見なす。
・ 電流源のインピーダンスは ∞ とする。
・ ソースフォロアの出力インピーダンスは小さいので 0[Ω] とする(よって GND に短絡)。
すると、電流源、ro は ∞ としましたので、それより先は考えなくてよくなり回路は図13 のように簡単になります
(解析はこういう省略が大事です)。
さて、トランジスタの入力抵抗 ri1、 ri2 は hfe = 100 として前回の説明通りです。
r2 も同様です。図15 から R13 を除いた 合成抵抗 Zi を計算しましょう。
これがこのアンプの入力インピーダンスとなります。
せいぜい 10[kΩ] 程度しかないわけです。
仮に入力インピーダンスを大きくしたいからといって R13 に 100[kΩ] を接続したところで
無意味だというのがおわかりいただけるかと思います。
最終的な入力インピーダンスは、10.2[kΩ] // 5.1[kΩ] = 3.4[kΩ] ですね。
ちょっと低いかな?と思うかもしれませんが、私的には問題ない範囲と判断します(高けりゃいいってわけではありません)。
ちなみに、10[kΩ] は理想オペアンプの ∞ と比べるとけして高くないので、
普通のオペアンプは入力をダーリントン接続として hef を大きくし入力インピーダンス ri を大きくするのが一般的です
(トランジスタ2個分の hfe で ri はぐんと上がります)。
また、FET入力の場合、等価モデルでは ri = ∞ です。実際でもバイアス電流は [nA]~[pA] オーダーとなりますので、
入力インピーダンスが非常高く [MΩ] 以上あるのが普通です。まあ、そのへん人気があるのもうなずけるかなと思います。
が、ノイズ対策が重要なのを忘れずに・・・。