由布院ワイナリー
〜思い付きが生んだ、新興ワイナリー〜
外観

高原の町、由布院町といえば何といっても温泉が有名です。町のあちこちに見える「温泉」の看板を見ると、つくづくそのことを実感することができます。

そんな温泉地から少し離れた郊外に赤いレンガの土台に薄茶色の壁の建築物がそびえています。広い駐車場を持つその建築物には”由布院ワイナリー”の文字がはっきりと刻まれていることを確認できるでしょう。
ワイナリーの後には小川が流れ、その小川のすぐ側では垣根式で育てられたブドウの姿も見ることができます。
歴史
公式ホームページにその成り立ちの詳細が記述されていますのでそちらを参照してください。
非常に簡略に書くと、ホテル経営を行っている由布院ワイナリーの現オーナーが、試しにシャルドネの樹を植えてみると意外に良い結果が出たのでワイン造りを初めることを思い立った、ということになります。
当初はこじんまりと営業する予定だったのですが、由布院町からも協力が行われることとなったためにだんだんと話が大きくなっていき、オープンしてみると立派な建物と6.5ヘクタールの畑を持つ、中堅を十分名乗れる規模のワイナリーとなりました。
ただいかんせん、オープンが早くなったために自社畑のブドウが成長していない中の出発でした。さらに、隣の安心院町と違ってこちらは一村一品運動で栽培されているのがブルーベリーであるために、地元の原料にまったく頼ることができないという点でも恵まれていませんでした。そこで、とりあえずはオーストラリアとカルフォルニアからの果汁や凍結した房を輸入してワイン醸造を行っています。ただし、ワインの品質を確保するため輸入する原料は高価格・高品質のブドウを輸入しています。
日本のワイナリーとしては少数派になるのですが、ボトルはゴミを減らすという目的も兼ねて750mlのフランジュボトルのみを使用し、ブショネといった保存状態でのワインの劣化を防ぐために合成コルクが使用されています。このあたりの合理的な選択を含め、ツアーの項で後述する醸造方法など全体にニューワールド、特にカルフォルニアのワイン醸造の影響を受けています。

総生産量は約10万本。2004年時点では自社畑のワインは少ないので、ほとんどが輸入原料によるワインです。
地元が葡萄栽培の歴史を持たず、栽培の経験を持つ農家がまったくいないという、重度のハンデを背負っているために栽培面においてもかなり苦労があるようです。このあたりが生食用とはいえブドウ農家が大勢いる安心院町の安心院ワイナリーと異なる点で、良くも悪くもこの二つのワイナリーの運営形態の差となって現れています。
施設の概略
ワイナリー内は自由に見学できます。
さすがに経営者がホテルのオーナーだけあり、販売所の内装はセンスが良くとても落ち着いたものです。販売所内にはワイン関連の有無を問わずいろいろなお土産ものが置かれており、時にはそのお土産を買う団体の観光客の姿も見えます。中にはワイン石鹸といったような変わった商品も陳列されていて、目を楽しませてくれます。

ワイナリーの醸造施設を見学する場合にはツアーの予約が必要となります(ツアーの項参照)。ただし、申し込まなくてもその一部を窓越しには見ることはできます。


葡萄畑
自社畑の一部はワイナリー敷地内にあり、自由に見学できます。他にも由布院町の何箇所かに自社畑がありますが、分散しているうえにやや遠い場所もあるので見学するにはワイナリーの方に相談する必要があります。
全て垣根栽培が行われており、主力はシャルドネ、メルロー、山ソーヴィニヨンとカベルネ・ソーヴィニヨンなどになります。
他に変わった品種としてはイタリアの葡萄であるサンジョヴェーゼが植えられていること。かのキアンティを産み出すことで有名な葡萄ですが、ここ湯布院ワイナリーでは新酒祭り用の樽出しワインとして使用されています。瓶詰めしないので、このワインを味わうためには新酒祭りの日を狙って行く必要があります。
他に原料を輸入して醸造している葡萄の中でもゲヴェルツトラミナーとジンファンデルを自社で栽培したいそうですが、検疫検査に合格していないためにこの2品種は日本に輸入できず、今のところその夢はかなっていません。

気候でみると由布院町は日本では高原であるために気温が低いという特徴があります。このことは一概に良い悪いをいえないのですが、困ったことに霜が降りやすいそうです。霜の降りる時期によっては、最悪のケースだと葡萄が枯れてしまうこともありますからまさに大敵です。
ただ高原だからといって悪いことばかりではなく、山々に囲まれている関係で日本では降水量は少なめと葡萄栽培には適した環境なので今後の発展が期待できます。
銘柄: ゲヴェルツトラミナー アンウッディド
生産元: 由布院ワイナリー
価格: 2625円
使用品種: ゲヴェルツトラミナー(カルフォルニア産)
備考 カルフォリニア産の葡萄を使用したワインで、ノンヴィンテージ。
香りは強く華やかでマスカット、ライチを主体として、ライムのような香りも少しあります。やや辛口程度のワインで、あまり酸味は強くはありません。少し苦味があり、含み香はライチとマスカットの香りがいっぱいに広がります。余韻は短く、酸味の味わいがわりに長く舌に残ります。
味わいは食中酒にも向いている気がしますが、香りが強いので食事と合わせるのはちょっと大変そうです。
飲んだ日: 2004年9月26日
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ツアー
ツアーは有料で200円。
予約は不要ですが、時間が決まっています。だいたい毎日10:00から約1時間ごとに行われるので、希望する人は由布院ワイナリーでツアーを申込みして、時間まで適当に売店などを見学しているとよいと思います。
ツアーは主に醸造施設を解説してもらいながら、工場内を巡るタイプになります。


醸造施設はなかなかの規模で、温度調節の付いた最新のステンレスタンクが並んでいます。しかしぱっと見て目を引くのは圧搾機の位置です。圧搾機そのものはよくある空気圧により中の袋を膨らませて圧搾するタイプ(ウイルメスタイプ)なのですが、ステンレスタンクの頂点より一段高いところに置いてあります。こう書いてピンときた人はアメリカワイン好きか、醸造法に興味がある人でしょう。いわゆるグラヴィティシステムです(※1)。諸事情によりアメリカのカレラのように徹底はしていませんが、ポンプによる圧力を極力避けて葡萄果汁にストレスを与えないようにする方式はグラヴィティシステムの思想を受け継いだものです。上記の理由によりステンレスタンクは全て上部が開放でき、赤の醸しの工程では人力でのパンチダウン(ピシャージュ)が行われています。さらにタンク熟成行ったワインはステンレスタンクから移されることなく、そのまま冷却して酒石酸除去などの処理が行われ、極力ポンプを使用しない工夫が実施されています。
また、自社畑の葡萄は取れた畑ごとに別々に醸造してその畑の個性を発現する方針がとられています。

自動瓶詰機の説明もあり、ここではかなり衛生に気を使っています。日本のワイナリーは世界的に見ても衛生管理に気を使うことで有名ですが湯布院も例外ではありません。工場長の東氏によると「ここで失敗すると今までの努力が消えてしまいますから」とのこと。
セラーに案内されるとはたくさんの樽が山積みにされています。ここには市販されていない自社畑のワインが入った樽や瓶なども保管されており(残念ながら2004年前半時点では購入できませんでした)、。

最後にテイスティングルームに戻り、合成コルクの打栓の仕方などの説明を受けてツアーは終了となります。

※1 カルフォルニアのワイン会社カレラの行っている醸造方法として有名。果汁を移動させる際にポンプで圧力を加えることは果汁にストレスを与え、ワインの品質に影響を及ぼすという考えを基本としています。カレラではビルのような醸造施設を作り、上から醸造工程順に施設を作りポンプを使わずに下の階へと果汁やワインを移動させ、最後の階で樽貯蔵されるように設計されています。


テイスティング

販売されているワインには無料と有料の試飲があります。2000円以上のものからは有料試飲が多くなります。
ここで簡単に飲んだワインのテイスティングコメントを紹介します。参孝程度にご覧下さい。
その前にワイン名の解説をすると湯布院ワイナリーの場合は基本的に「品種 醸造法」という名称です。”アンウッディド”はステンレスタンク熟成、”バレル”は樽熟成となります。湯布院では樽が上位ワインでステンレスタンクは下位ワインということでなく、”タイプの異なるスタイルのワインであり、そこに上下はない”という考え方です。また、カルフォルニア(北半球)とオーストラリア(南半球)から原料を輸入しているので秋と春に仕込みが行われ、それぞれ別のワインとして販売されています。同じ銘柄名でも秋であればカルフォルニア産、春であればオーストラリア産になります。

湯布院 ゲヴェルツトラミナー アンウッディド:値段は2625円。詳細は管理人のワイン記録に譲ります。フルーティーで品種特性の良く出たワインになっています。。

メルロー アンウッディド 2002(秋):キノコや木という、メルローらしい香りが樽香がないのではっきりと感じられます。タンニンはミディアム程度ですが、若いためか少し味わいのバランスが悪い印象を受けました。

メルロー バレル 2001(秋):価格は3150円。香りは樽香と果実実のバランスがよく、味わいもよく果実味がでており整っています。ボディはややライトよりのミディアムボディ。ただ、値段を考えるともう少し味わいに高級感があってほしいかなと思うところです。

城ヶ岳 メルロー
(仮名):なぜに仮名かというと、これは非売品の自社畑ワインのため。名称はその地域で収穫されたワインであるため仮称として記述しています。このワインは数が少ないため一部の地元旅館などでのみ販売されています。また、通常は試飲もできません(我々はたまたま前日にVIPが来て開けたワインがあったので御相伴にあずかりました)。
樽熟成のメルローで、果実香よりも樽の香りが強めにでており、また樽由来と思われるバター香を感じました。味わいのほうは果実味豊かで健全な味わいです。パワフルさはありませんが、酸味やタンニンがちょうどよいバランスでまとまっている繊細なワインです。

塚原高原 シャルドネ(仮名):上記と同じく非売品です。ビールのような穀物系の香りが第一印象に残ります。味わいは酸味・糖度のバランスがしっかりしており、繊細ながらも複雑味があるワインです。メルローと同じく、将来にかなり期待できるワインです。

ワインは大半が輸入原料を使用したものですが、本格ワインの名に恥じないきちんとしたものです。ただ、安い銘柄があまり多くなく、気軽に買いづらいの部分がありました。
また、ラベルのセンスはなかなか独特で面白いのですが、残念ながら葡萄原産地が記述されていません。このあたりは修正してほしいところです。
購入方法 
ワイナリーから直接購入、または由布院ワイナリーのホームページからの注文を受付けています。

ワイナリーアクセス
由布院ワイナリーの公式ホームページにアクセスマップが掲載されていますから、そちらを参照してください。
なお、すぐ向かい側にブルーベリーリキュールを生産している観光施設がありますが、こちらはまったく由布院ワイナリーとは関係ないのでご注意ください。

総論
温泉の町にできた由布院ワイナリーは色々な意味で変わったワイナリーであるといえます。小さい町のワイナリーながらも雰囲気は垢抜けており、都会的です。
いかんせん自社畑のワインが充分に生産されていないので、品質云々について論じるのは早すぎる状態ですが、試飲させて頂いた自社ワインは日本ワインらしい繊細さを持ちながら複雑味のあるワインとなっていたので期待できます。
批判的なことを言わせてもらうと、やはりラベルや公式ホームページ上で自社ワインにはどこの葡萄を使用したかといった情報を自社畑以外でもきちんと記述するべきです(法律上は問題ないとしても)。また輸入原料のワインは確かにおいしく、醸造による由布院ワイナリーの個性もあるのでしょうが、やや割高感があり、同じ値段を出すならそのままカルフォルニアで醸造された輸入ワインを買いにいったほうがいいのではないだろうか?という疑問を個人的には抱いてしまう部分もあります。

もともとの設立の動機からしてそれほど観光客を重要視しているわけではないのですが、観光地として訪れるには充分な設備と見た目を備えています。湯布院に行ったのなら温泉だけでなく、ワイナリーにも寄ってみるのもよいのではないでしょうか。また社員の方の説明は丁寧で、醸造方法などは個性的なので技術的なことに興味がある方には特におすすめです。

ともあれまだ充分には自社畑のワインがないので、その実力に関しては未知数。それでも、私たちが訪問させていただいたあとにカベルネ・ソーヴィニヨンと山ソーヴィニヨンのワインも発売されており(価格は1500円程度)、湯布院の風土を反映したワインがそろい始めています。
近い将来、由布院の風土を反映したワインを多く生産し、"九州のワイン産地に由布院あり"と知らしめて欲しいところです。
外観  歴史  施設の概略  葡萄畑 ツアー テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
ワイナリー敷地内の自社畑。由布院の中では高度の低い場所です。
商品の陳列も品が良く、洗練されています。撮るのに失敗して写真だとわかりにくいのですが・・・
社名  (有)由布院ワイナリー
住所 大分県大分郡湯布院町大字中川1140-5 電話番号 0977-85-5458
取寄せ オンラインショッピングあり HP http://www.yufuin-winery.com/
自社畑あり ツアー等 あり(予約不要  有料)
テイスティング可(無料・有料)
栽培品種 メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネ、山ソーヴィニヨン、サンジョヴェーゼ、他 営業日 営業日は公式ホームページ参照 
営業時間(9:00〜17:30)
★  未訪問
備考:カルフォルニア・オーストラリアの輸入果汁・葡萄を主に醸造