安心院葡萄酒工房
〜一村一品の地で新生、三和酒類ワイン部門〜
外観

大分県随一の葡萄産地である安心院の小高い丘のうえに、レンガ造りの小さな門とその向こうに林のような風景を見ることができます。入り口は簡素で整然として、どこかミニワイナリーを思わせる雰囲気です。
しかし、この安心院葡萄酒工房は経営母体からみるとミニワイナリーどころではありません。
案の定、中に入ると見事に管理された洋風の庭園が広がっています。屋外には景観用も兼ねているであろう木製の椅子や、落ち着いた色合いの日よけのパラソルなどがおかれ、じっくりと木々を見ながら休むことができます。
ワイナリーというよりは、ホテルの庭園のような見事な景観を備えています。
歴史
親会社は三和酒類です。三和酒類の名は知らなくても、”下町のナポレオン”を銘打った焼酎の革命児である麦焼酎「いいちこ」を見たこともないという人はこのホームページをご覧になっている方には少ないでしょう(※1)。
もともと三和酒類は日本酒の会社でしたが、事業展開として1974年からワイン部門が設立されました。意外にも顔である焼酎部門はワイン事業の後に造られた新しい部門です。
ワイン製造は当初は安心院の葡萄や輸入ワインを使用して新酒だけを醸造して販売する方針であったために、あまり質的には目立っていませんでした。新酒の季節である11月の前後が終わると作業があまりない状態であったといいますから、話半分にしても積極的に存在をアピールする事業ではなかったのでしょう。
しかし、三和酒類の経営に余裕がでてきたところで折り良く安心院町からワイナリー誘致の話が持ち合ったため、ほとんど新事業として2001年に現在の場所に安心院葡萄酒工房を建設(旧製造場は別の場所にありました)。
こんどは観光や地域との連携を重視した本格ワインとして恥じない品質を目指すワイナリーとして新生しました。オープンにあたって、長い期間を使いスタッフのカルフォリニアでの研修、周辺農家との契約等の準備を万端に整えており、三和酒類がワイン製造に本腰を入れていることがよくわかります。
そのコンセプトは、「杜の百年ワイナリー」。これは100年先のワイン事業を見越した経営というだけでなく、安心院にワイン文化を育てることをも目標とした遠大なものです。

さて安心院葡萄酒工房の基盤となる安心院町ですが、ここはいわゆる『一村一品』運動において葡萄生産を推進した町で、岡山県からの技術協力をもとに1965年ごろからデラウェアやマスカット・ベリーAといった品種の栽培がさかんです。安心院葡萄酒工房でもこれらの原料を主体とした醸造が行われています。それだけでなく地元農家にメルローやシャルドネといったワイン用品種の契約栽培するように依頼しており、ヨーロッパ品種によるワインも商品化されています。
こういった原料調達先の有無が、お隣といえどまったく葡萄栽培の歴史がない由布院町と異なる点で、ほぼ同時期に設立された由布院ワイナリーと事業内容にかなりの違いを生じさせています。

総生産量は約30万本。最低価格のワイン「卑弥呼」などはメルシャンに原料・醸造ともに委託していますが、それ以上のランクのワインは安心院町の葡萄を使用した純国産ワインとなります。
また、ここ安心院 でも農家の高齢化などにより葡萄の栽培面積は徐々に縮小しており、農家の収入もあまり芳しくない状態です。こういった農家に新たな方向を示すという意味合いでも、安心院葡萄酒工房は極めて重要な存在となっています。
現在の課題は、生食用の栽培しかしていない農家にワイン用葡萄の栽培をお願いし、また生食用とは異なる栽培を実施してもらうこと。農家の方々は長年生食用の栽培しかしていなかったために、雨が降らないと収穫前に潅水するといった、ワイン用には不向きな栽培を行うといったことがあるようです。さらに、安心院の地は河川が多く、地質・地形ともに複雑なために、地域ごとの栽培法の確立なども必要とされています。

こうした問題に対してワイナリーでは、安心院の農協や農家との連携してワイン造りの意義を説き、また自社畑での栽培実験などにより優れた原料を確保するための努力が行われています。

※1 といってみたものの焼酎を飲まない方のために補足を。2004年時点では本格焼酎は、右肩上がりの消費街道を爆進していますが、その立役者の一つがこの「いいちこ」です。もともと本格焼酎はその個性ゆえに敬遠され、地元以外では全然売れない酒だったのですが、減圧蒸留という香りを押さえた蒸留方法により作られた「いいちこ」「二階堂」などが”飲みやすい本格焼酎”として大ヒットし、今の焼酎ブームの火付け役となりました。
施設の概略
安心院葡萄酒工房は基本方針として観光客誘致といった営業活動は行ってはいません。しかし、見事に整えられた施設や敷地内の景観はどこへ紹介しても恥ずかしくないもので、実際、旅行会社などに依頼していないにも関わらず多くの観光客がやってくる安心院町屈指の観光スポットとなっています。

外観のところでも説明しましたが、見事な庭園は自由に見学することが可能です。この庭園は見た目以外に、ワイン醸造時に発生する炭酸ガスを減少させる目的も含まれています。常緑樹の比率が多いのもそのためのようです。

ツアーの項で詳細は説明しますが、醸造施設や自社畑も見学可能です。

販売所内ではワインはもちろんですが、オリジナルのワイングッズが多いことに驚かされます。販売されているグラスにも安心院葡萄酒のオリジナルグラスがあります。

最後に特筆すべきことが一つ。安心院葡萄酒工房の施設はお年よりや子供でも不自由なく移動ができるバリアフリーを考慮したものになっています。体が多少不自由な方と一緒に行けるワイナリーとして、記憶に留めておいたほうがよいでしょう。

葡萄畑
ワイナリー敷地内にあり、自由に見学できます。ツアーのコースにも入っているのでツアーを頼んでおけば、案内と説明を行ってくれます。まだ2004年は、植えてから2年程度しか経っていないために収穫ができる状態ではありませんでした。
なにしろ葡萄を守る防風林すら育っている最中なのですから推して知るべしです(^-^)。もう数年するとここから自社ワインと、栽培の研究成果が育まれていくのでしょう。除草剤の使用を制限するなどして減農薬による栽培も試みていくようです。
畑はレインカットを使用したコルドン式の垣根栽培が行われています。栽培品種はシャルドネ、メルローなどのほか、日本では少ないヴィオニエなども植えられています。
なお、安心院は台風の直撃を受けやすいというハンデはありますが、雨量は1600mm〜1700mm程度と九州では少ない点では葡萄栽培には有利な環境です。

また、この自社畑の目的は葡萄を栽培することだけでなく、安心院の地に適した栽培方法と品種を確立することも含まれています。安心院葡萄酒工房はこうした研究成果を地元農家に伝えることにより、地域全体でのワイン用葡萄の増産と品質の向上を目指しています。

直営レストラン
レストラン「朝霧の庄」がワイナリーの真向かいにあります。
食事以外にもソフトクリームなどの販売もあり、もちろん安心院葡萄酒工房製造のワインも売っています。
※レストランには行っていないので詳細については記述できないことをお詫び致します。
銘柄: 樽熟成マスカットベリーA 2002
生産元: 安心院葡萄酒工房(三和酒類)
価格: 1890円
使用品種: マスカットベリーA
備考 その名のとおり、樽熟成を行ったマスカットベリーAのワインです。
黒みがかった深い赤。少しだけくすんだ茶色の色合いも見受けられます。カシスと樽の木香とロースト香、わずかに狐臭を感じます。アタックは刺激的ではなく、含み香には樽とイチゴの香り。タンニンは少なくライトボディで、酸味は中程度でまろやかです。味わいのバランスは取れています。
余韻には狐香がはっきりあり、また少しだけレモンパイのような香りも感じます。
食事にあわせるならば鳥の照り焼きや、ソテーなどが合いそうです。
飲んだ日: 2004年8月7日
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ツアー
ツアーは無料ですが前日までに予約が必要。社員の方が丁寧に説明してくれるツアーなので時間は30分以上を想定してください。

まずは瓶詰め機を前にしてビデオによる醸造工程の説明が行われます。この瓶詰め機は、全自動式のものですが、作業効率だけでなく衛生的な問題も含めて全自動式にしているとのことで、大手だけあり衛生には非常に心を砕いています。また、この瓶詰めの工程の最後には3人の人間によるチェックが行われており、わずかなロットの異常も見逃さないように細心の気配りがなされています。

次には1階にある醸造設備を2偕から見学できます。歴史の項で触れたようにカルフォルニアのワイン醸造方法の影響を強く受けているワイナリーなので、醸造器具もやはりアメリカ製のものが多い傾向があります。面白いのは上の写真の連続式蒸留器とマセラシオンカルボニーク用の醸造タンク。連続式蒸留器はブランデーを醸造する際に使用されるものですが、日本のブランデーの多くはポットスティルのような単式蒸留器によって造られているなかで連続式蒸留器を使用しているのは珍しいといえます。もちろんやたらに精製能力が高い連続式蒸留器を使うと純度が高すぎてブランデーでもなんでもないただのアルコールと化してしまうので、この蒸留器はあえて精製能力を低くした半連続式蒸留器ともいうべきものです。マセラシオンカルボニーク用のタンクは澱引きが簡単にできるように特殊な機構を備えたタンクで、こちらも所有しているワイナリーは極めて少数です。

ツアーのルート上には古い醸造器具も展示されていますが、どう考えてもこの若いワイナリーには似つかわしくないものばかり。実はそのほとんどは展示用に集めた海外の古い器具で、安心院で使っていたものではありません。九州はワイン醸造の歴史が日本でもかなり浅い地域なので、そもそも古い醸造器具はあまりないのです。

セラーに案内されると、かなりの量の樽が保管されているのが確認できます。主にトロンセのフランス・オーク、ネバダ州のアメリカン・オークを使用。説明によると醸造するワインの新樽比率が高く、50%以上とのこと。実際、安心院葡萄酒工房の樽熟成のワインはしっかりとした樽香が付いている傾向があります。

最後に畑に案内され栽培方法などの説明を受けたあとにテイスティングルームに行き、ツアーは終了となります。

テイスティング

販売されているほとんどのワインを無料で試飲することが可能です。テイスティンググラスに注がれて提供されるので、じっくりと味を確かめることができます

安心院葡萄酒工房 シャルドネ :値段は2425円。安心院町産のシャルドネを使用したワインで、安心院葡萄酒工房では高価格帯の商品の一つに入ります。樽香とトロピカルフルーツのような香りが主体。味わいは非常にクリーミーで酸味のバランスもなかなかで、アフターには少し苦味があります。

安心院ワイン ベリーA:値段は約1150円。マセラシオンカルボニークを行った新酒用のマスカットベリーAと通常の醸造を行ったマスカットベリーAのブレンドワインです。香りはストロベリーの香りを主体としたフルーティーな感じ。ライトボディながらも意外にタンニンを感じるのが印象に残りました。少し香りと味わいのバランスが悪い感じもありましたが、値段と比べると充分な品質です。

安心院葡萄酒工房 樽熟成マスカットベリーA :オーク樽で熟成したマスカットベリーAのワイン。詳細は管理人のワイン記録に譲りますが、本格ワインを名乗るのに申し分ないワインです。

ザビエル:フォーティファイドワインで、原料はマスカットベリーAとデラウェア。発酵したところにブランデーを添加し、さらに果汁を加えて甘味を調整したものです。シェリーやポートというよりは、フランスのラングドックのヴァン・ド・ナチュレールに近い製法です。色は透明感のある美しい赤で、シェリー樽を使用した熟成によりどこかシェリーに似た香りがあります。味わい・香りともに複雑味があり、また最後にラスティ(錆のよう)な印象を受けます。上品な甘口ワインで色も美しいので、自分用だけでなくワインを飲みなれない、またはフォーティファイドワインが好きな方へのお土産に最適です。

他、我々は飲んでませんが「フランシスコ デラウェア 2002」(500mlで1901円)というデラウェアを冷凍により果汁濃縮したワインがあり、これはデラウェアでありながら2004年のJapan wine challrenge(用語辞典参照)で見事銅賞を取得という快挙を成し遂げました。

全体に低〜中価格帯のワインが多く、気軽に買うことができるので助かります。契約栽培と農協からの購入による原料のワインが主体となります。

また、ワインのラベルに注目。いくつかのワインのラベルには、使用した原料などだけでなく、そのワインの糖度や酸度のを示すデータが記載されています。日本酒などではこのタイプのデータを記述することが多いのですが、ワインではあまり見ない表記です。もちろんデータで酸味が多いから必ずしも飲んで酸味の厚いワインとは限らないでしょうが、購入するにあたり有効な目安になることは確かです。

購入方法 
ワイナリーから直接購入、または三和酒類のホームページからの注文を受付けています。また、地元の大分県のデパートや酒販店などでも販売されています。

ワイナリーアクセス
安心院葡萄酒工房の公式ホームページにアクセスマップが掲載されていますから、そちらを参照してください。


総論
安心院ワイナリーは設備はほぼ完成されたワイナリーであるといえます。売店で売られている商品のラインナップ、見事な庭園など、文句を付けるほうが大変です。
ワインに関してはまだ模索しているところがあるようですが、値段と品質は見合うものを出しており、2000円前後のワインなどは他の優良日本ワインと比べても見劣りするものではありません。特にシャルドネとベリーAはなかなかのものが出ています。
ラインナップは薄っぺらい甘口ワインのような商品より、きちんとした味わいを持つワインに重きをおいているので、「ワイン通」を自称する人でも行ってみる価値は充分にあります。特に甘口ワインながら「ザビエル」は、日本では数少ないフォーティファイドワインとして、また複雑味のあるワインとしても個人的にはおすすめです。

総合的にみて大分県に行ったならぜひ立ち寄ってみることをお奨めしたいワイナリー。温泉どころの別府からも近いので、そのあたりに観光に来ていれば「ちょっと足を伸ばして」という気軽な気持ちで行くことができます。
訪問する際には社員の方々の丁寧な説明が聞けるので、できればツアーを予約しておくとよいでしょう。また、庭で安心院のワインを片手にのんびりとお弁当を食べながらくつろぐといった時間の過ごし方も悪くありません。

本領発揮はまだまだこれからでしょうが、しっかりとした後ろ盾と高い志を持つワイナリーだけに、その将来を期待せずにはいられません。
外観  歴史  施設の概略  葡萄畑  直営レストラン  ツアー テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
自社畑。少し雑草が多いですが、5月は恐るべき勢いで雑草が伸びるため、なかなか刈っても追いつかないのです。
かなり珍しいタイプの連続式蒸留器。蒸留精度をあえて下げたもので、原料の個性を残して蒸留することができます。
社名  三和酒類(株) 安心院葡萄酒工房
住所 大分県宇佐郡安心院町茅場798 電話番号 0978-34-2210
取寄せ オンラインショッピングあり HP http://www.sanwa-shurui.co.jp/ajimu/
自社畑あり、契約栽培畑あり ツアー等 あり(無料・要予約)
テイスティング可(無料)
栽培品種 デラウェア、マスカットベリ−A、シャルドネ、メルロー、他 営業日 定休日:火曜日(祝日は営業) 
営業時間:(9:00〜16:00)
★  2004年5月15日訪問
備考:直営レストラン「朝霧の庄」経営、ブランデー生産、フォーティファイドワイン生産