丸藤葡萄酒工業
〜群雄割拠の勝沼に「丸藤」あり〜
外観

山本 博氏の「日本のワイン」において勝沼のワイナリーはここを外しては語れないと書かれている二つのワイナリーの一つ。それが丸藤葡萄酒工業です。
勝沼のワイナリーが居並ぶ中心地からは少し外れた坂道の途中にある、白い外壁の建物がj醸造所、兼販売所です。
一見、日本酒造の蔵のような印象を受ける外観ですが、壁には丸藤の銘柄「ルバイアート」に表記されている「R」の文字があります。
建物自体も少し奥まったところにあるので見落としやすいのが難点ですが、向かい側にも駐車場もあり車で行くことも可能です。
歴史
創業なんと110年と、勝沼でも屈指の老舗。歴史あるワイナリーの多くは途中で経営者が変わってしまったり事実上廃業した後に復活したような会社が多いので、個人経営で始まり今なおその命脈が続いているという丸藤葡萄酒は日本のワイナリーの中でも名門中の名門、と断言してよいでしょう。
ちなみに村の共同醸造事業に4度協力し、そのことごとくが不発に終わったために”村の共同事業に手を出すな”という、変わった家訓があるそうです。

醸造家で知らない人はいないほど有名な大村春夫社長を中心とし、勝沼のワイナリーの中でも最も早い時機からヨーロッパ葡萄品種の栽培を行うなど、その方針は常に他社の一歩先をいくもの。その先進性は栽培だけにとどまらず1990年後半から白ワインにわずかに炭酸を残して品質を安定させたり、甲州の熟成についても試行錯誤を繰り返すなどその研究意欲と行動力は尽きるということを知りません。
輸入ワインや輸入原料を使用することは中小ワイナリーにおいてはむしろ自らの首をしめる行為だと考え、早期に国産の原料のみからの醸造を切り替えた英断なども有名。驚くべきはその量で国産の原料のみを使用して年産約15万本の生産量を誇っており、純国産ワインの生産量において勝沼でもトップクラスのワイナリー。全量国産葡萄で一定以上の品質を保ちながら、これだけの生産量をたたき出すのには尋常ならざる努力があります。丸藤は醸造施設がそれほど巨大なわけではなく社員も並び称されることが多い中央葡萄酒・勝沼醸造と比べてかなり少人数、さらに葡萄は季節限定の果実で日持ちもしません。そこで葡萄ごとの収穫期の違いを利用して次から次へと圧搾しては発酵させて熟成タンクに移すの繰り返しを余儀なくされていまです。2003年は赤ワインを大量に仕込んだために次に醸造する甲州の発酵タンクを空けれるかどうか危ないところだったいうのですからハードスケジュールぶりは想像に難くありません。

こういったワイン造りの姿勢とは別に丸藤葡萄酒工業にはユニークな側面がまだあります。それは他社ワイナリーからの研修を受け入れ、仕事を通じて醸造技術とワイン造りの精神を未来の醸造家に伝授していること。新進気鋭の若手醸造家は多くいますが、その中で注目されている山梨県のシャトレーゼ勝沼ワイナリーの戸澤一幸氏、島根県の奥出雲葡萄園の安部紀夫氏は丸藤葡萄酒で1年間の研修を経ています。二つのワイナリーと丸藤の共通点はやはり、「全量国産葡萄を使用」「辛口本格ワイン主体(新酒は除く)」といった骨太の方針、そして中〜上級銘柄は年月にも耐えうるというよりも年月を経ないとなかなか真価がでてこないものが散見されるという面でも、「師」と同一といえるでしょう。

他、契約農家が栽培しやすいように棚栽培によるヨーロッパ葡萄の栽培方法に取り組んだり、「勝沼ワイナリークラブ」やその他の振興会に積極的に参加するなど勝沼全体の酒質の向上にも心を傾けています。
施設の概略
敷地内にワインセラーと醸造所、丸藤の歴史を伝える資料も展示されています。
資料館や、実際に使用しているセラーもあり自由に見学可能です。
脈々とその歴史を伝えてきた丸藤にふさわしく、戦前の自社ワインのラベルなども展示されています。
このなかで個人的には「甘味ブドー酒」とかかれたラベルと「Table Wine」と書かれたラベルがあったことに注目。戦前は「赤玉ポートワイン(現在は赤玉スイートワイン)」に代表される甘味料などを添加した甘味葡萄酒が全盛で、現在のような本格ワインは非常に受けが悪くあまり醸造されていませんでした。しかし「Table wine」という表記はこの時代の本格ワインに使用されいたもので、丸藤が昔から本格ワインも醸造していたことを示唆しています。実際、山梨県のワインをよく知る人は現在の日本ワインの隆盛が起こる前で勝沼で良い醸造所といえば「丸藤葡萄酒工業」がまず頭に浮かんだというのですから、名門醸造所というの評価は伊達ではありません。

また、醸造設備の中に眼を引くものが一つ。それはコンクリート製の発酵槽で、非常に古いものです。もちろん中はコーティングされて修復もなされていますが、今でも現役でコンクリート発酵槽が使われているのは丸藤とルミエールだけでしょう。地形の段差を利用して作られており、上からピシャージュ(パンチダウン)が行える形になっています。
発酵の材質によるワインへの違いは専門家ではないのでわかりませんが、ある醸造家の方曰く「丸藤さんのコンクリート槽で作れらたワインには、暖かみがある」と評していました。

葡萄畑
ワイナリーから少し離れた所にありますが、徒歩による移動で見学するのが可能な距離です。当初は自社畑は棚栽培でヨーロッパ品種を栽培していたのですが、思った品質が出せないために棚は甲州を除いてあきらめて垣根栽培に切り替えました。
色々な区画ごとに栽培品種が異なっています。特に試験園と名づけられた畑では数多くの品種が栽培されています。なお自社畑は、北傾斜が多いというのは著名ワイナリーでは少数派。
以下に「翔べ!日本ワイン」(山本 博・大塚 謙一 編  料理王国社 刊)に大村氏が記した内容と、私がうかがった話をもとに栽培している品種と現在の動向を簡単にまとめてみました。

カベルネ・ソーヴィニヨン:房枯れ症という病気が毎年発生してなかなか健全果を得られずにおり、収穫の度に厳しい選果・選粒作業を行っています。

メルロー:粒が大きくなり、やや色と味わいにかけているそうです。私見ですが、大村氏のワイン作りには妥協がないので、厳しい自己基準をもとにそう言っているともの思われます。メルローのワインが低品質などということはありません。また勝沼のものは塩尻の契約栽培のものと比べると、エレガントなスタイルになるようです・

シャルドネ:粒が大きくなりすぎて病気や玉割れを起こしやすいのが難点。今までは思うようなワインが作れなかったのですが、2002年からはシャルドネの力強さがあるワインになりました。国産コンクールでも入賞の常連。

プティ・ヴェルドー:自社では試験園と名づけられた畑で栽培されています。健全果を得られやすく、品質も良好。プティ・ヴェルドーのみのワインも実はご〜く少数だけ生産しています。

ソーヴィニヨン・ブラン:青い茎、若葉のようなソーヴィニヨン・ブランの魅力に向け奮闘中です。

甲州:現在も試行錯誤しながらワイン用の栽培方法を研究しています。山梨県でも自社の甲州の畑の広さは折り紙つきで、丸藤の甲州ワインの質の高さを支える一端となっています。この品種もなかなか思うほど品質が向上せずに苦心されているようですが、「甲州はもっとよくなると思う」とこの品種の研究にも熱心です。

現在も、栽培する土地に合うクローンや台木の組み合わせなどの研究が繰り返されています。
契約栽培ももちろんあり、特にプティ=ヴェルドーは一文字短梢栽培の大家である小川孝郎氏のもの。他、長野県塩尻市メルローを契約農家から買っていますが、大手以外の山梨県のワイナリーでは意外と長野県の葡萄を使っていないので珍しい例といえます。
銘柄: 甲州シュール・リー 2002
生産元: 丸藤葡萄酒工業
価格: 1510円
使用品種: 甲州
備考 普段ワインをあまり褒めないワイン評論家の山本 博氏がその品質を認めた銘柄です。
色はほぼ無色で、うっすらとした山吹色。香りはかなり華やかな洋梨や白い花の香りがあります。飲むと口の中に果実香と穏やかな旨味が広がり、それを飲んだ後にくる刺激的な酸味がまとめ、薄いニュアンスはありません。
酸の味わいが飲んだ後にしっかりしておりかなり辛口に分類されます。何にしても数ある甲州シュール・リーのワインでも上位クラスのワインであることは疑いがありません。
飲んだ日: 2004年6月23日
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銘柄: ルバイヤート ルージュ 2002
生産元: 丸藤葡萄酒工業
価格: 1510円
使用品種: マスカットべリーA、メルロー
備考 色は薄いルビー色で、だいぶ紫がかった色もあります。
香りは豊かなカシスとイチゴの香り。ファーストアタックは刺激が強く、爽やかな酸味があります。タンニンはあまり感じず、ライト〜ミディアム程度のボディです。余韻はやや長く、キイチゴの甘い香りが残ります。樽香はほぼありません。
ファーストアタックがしっかりしているので、スパイスの利いた鶏肉料理などに相性がいいような気がします。
飲んだ日: 2004年1月10日
テイスティング
カウンターで社員の方に頼めば試飲を行えます。以下に試飲させていただいたワインの感想を手短にまとめておきます。参孝程度に呼んでください。

ルバイアート 白:1000円ともっとも安い甲州主体のスタンダードワインです。あまり香りはなく、また火入れ(パスツリゼーション)を行ったとおぼしき、独特の味わいがあります。かなり辛口なワインで食中酒向きですが、果実味がほとんどないのは残念。500円上の甲州シュール=リーとは品質に差がありすぎのような・・・。

ルバイアート 赤:1000円ともっとも安い赤ワイン。ベリーAやブラッククイーンなどを使用しています。やはり白と同じく火入れをしたとおぼしきニュアンスがあり、フランボワーズと狐臭の混じった香りがあります。非常にくせのあるワインなので、好みが分かれるところでしょう。こちらも500円上のルバイアートルージュとは値段以上に差があるように思えます。

甲州シュール・リー 2005:価格は約1500円。国内のワインコンクールである「Japan wine conpetion2006」にて銀賞を受賞。明瞭な洋梨や白い花の香り漂う華やかなワインで、味わいは若いがゆえに酸味などが鋭角的に感じられますが、そんなものはちょっと飲むのを待てばいいだけのこと。日本最高峰の甲州シュール=リーであることに異論はないはずです。

甲州 樽貯蔵2004:値段は2200円。樽の香りは良くついていますが、甲州の味わいもしっかりあり、さらに熟成の味わいも。高いレベルでバランスがとれており樽甲州のワインとしては文句なしトップクラス!

ルバイアート・ルージュ 2003:値段は約1500円。ハーブやカシス、少し根菜のような香りのある赤ワインで、柔らかい酸味とほどほどのタンニンをもった軽やかなスタイルのワイン。メルローとマスカットベリーA、わずかにベーリーアリカントAをブレンドしています。
自社畑の甲州畑。もちろんワイン醸造用に栽培が行われています。
1500円以上の価格帯のワインの品質はかなりのもので、特に甲州シュール=リーは間違いなく日本でトップクラス。また、辛口ワインが数あるラインナップのほとんど全てを構成しているのも大きな特徴です。例外的に新酒のデラウェアに限っては極甘口の仕立てのものがあるだけです。もっとも大村氏ご本人は辛口好きですが甘口スタイルのワインにけして否定的なわけではありません。
3000円クラスの限定ワインは、挑戦的な姿勢を反映してヴィンテージごとの違いがかなりあります。また、ドメーヌ・ルバイアートと名づけられた特醸のワインはほとんどが自社畑産のワインで、高価格でも納得できる素晴らしいワインが多数。さらに細かくみるとシャルドネはなかなかの内容なのですが、他社の追随を容易には許さないレベルに達しているのはどちらかというメルローを主体とした赤ワインで、最大手の高級赤ワインに迫るほどの品質に達しているのは驚きです。
なおテイスティングの時、大村春夫氏がカウンターにいたらラッキー。独特のダンディズムを感じる魅力的な方なので販売所が暇そうな日を狙って訪れるのもよいでしょう。時間があれば栽培の苦労や大村氏のワイン醸造の理念を聞くことができるかもしれません。


購入方法
 

ワインの販売はワイナリー内の販売店と、公式ホームページからの通販、全国の酒販店などで行われています。”購入”ではありませんが東京の神楽坂にあるワインバー「ルバイヤート」でも飲むことができます。またホームページには力を入れない方針なので、掲載されていない銘柄もあります。これらはワイナリーに行った時のお楽しみです。

ワイナリーアクセス
・勝沼ぶどう卿駅からから車で15分
アクセスに関しては丸藤葡萄酒工業の公式ホームページに詳しく説明されているのでそちらを御参照下さい。 人気ワイナリーだけあり、休日は混み合っています。販売所そのものがちょっと狭いので、3連休の時などは外したほうがいいかもしれません。

総論
丸藤葡萄酒工業は、ワインにおいて山梨でもトップを争う実力派です。きちんとした選果や、試行錯誤を繰り返している栽培・醸造など、ワイン造りにかける姿勢は真摯なもので丸藤が高い評価を受けている理由がわかります。
銘柄の比率でみると山梨ワイナリーの双璧の一つといわれる中央葡萄酒がどちらかというと甲州寄りなのに対して、ややヨーロッパ品種を重視したワイン造りを行っています。メルローを主体とした赤ワインは自社・契約栽培の双方ともに優良で、価格は高いものの飲んでおきたいところ。さらにセニエの抜いた部分で作ったメルローのロゼや新酒のベリーAも侮れない品質と、意外なところにも優良銘柄が隠れています。甲州に関しては文句なしに日本最高峰の品質を誇る会社の一角なので、なにをかいわんや。
唯一の欠点らしい欠点は、最安値のルバイアート赤・白と500円ぐらいしか違わない甲州シュール=リーやルバイアート・ルージュ各銘柄の品質の差が、おそろしく開いているということぐらいでしょうか。シャルドネもよいのですが、甲州やメルロー主体の赤ワインが他社と比べて突出しているのでちょっと目立っていません。
とはいえ、ユニークな古酒スタイルの甲州も結構あったりと単にスタンダードなおいしいワインを造るだけでない奥の深さもここの魅力といえるでしょう。

これだけのワインを造るだけあって社長の大村氏の自社ワインに対する評価は厳しく、妥協のない葡萄栽培とワイン醸造の研究に余念がありません。この大村社長に実際に出逢うとそのワイン造りの厳しさに違わない威厳に圧倒されるかもしれませんが、会話上手で、テイスティング用のワインの状態を確かめるために自分も飲んで、赤い顔で接客していることもあったりするユーモラスな面も(^_^)。一度は会っておきたい日本の醸造家をあげろと言われたら、この人を推す方は私を含め結構多いと思います。

ワインに惚れたにせよ、大村社長の人物に惹かれたにせよ、今後ともかなりの成長が期待されるワイナリーとして一度といわずに何度でも訪れるべきでしょう。

滝の前農場。ワイナリーに近いこともあって、管理はさすが。最上級銘柄のドメーヌ・ルバイアートにもこの農場の葡萄が使われています。
外観  歴史  施設の概略  葡萄畑 テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
セラーに詰まれた樽。外観からはそう見えませんが生産量が多いのでかなりの量があります。
社名 丸藤葡萄酒工業 / ルバイアート
住所 山梨県東山梨郡勝沼町藤井780
電話番号 0553−44−0043 
取寄せ オンラインショッピング有り HP http://www.rubaiyat.jp/
自社畑あり 契約栽培畑あり ツアー等 訪問自由
テイスティング可(無料)
栽培品種 プチ・ヴェルドー、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネ、甲州、他 営業日 年中無休
営業時間:午前8:30〜午後4:30
★訪問日 2003年12月29日、2005年2月24日、2006年10月8日
備考:国産葡萄のみ使用(山梨県・長野県)、創業より100年以上の老舗、山本博『日本のワイン』に特記
旧屋敷と名づけられた畑では、シャルドネがレインカットを使用して栽培されています。栽培を始めてから10年が過ぎています。