奥出雲葡萄園
〜自然と共に生きるワイン造り〜
外観
島根県の東部、雲南地方の中心に位置している島根県木次町の山上の「食の杜」に通じる道を上がっていくと、いきなりレインカット栽培の葡萄畑に出くわします。
豆腐製造工場、パン工場などが立ち並ぶこの場所のもっとも高い場所に建つ白い壁の木造建築が、中国地方でもっとも注目されている醸造所、奥出雲葡萄園です。パッとみると、ワイナリーというよりは喫茶店のようなシックで洗練された外観です。
派手な看板や、ポスターも見当たらず、周りの山々の風景と見事に調和した味わいのある建物は、たどり着く者の心をほっとさせるものがあります。
歴史
奥出雲葡萄園は、母体は木次町の乳製品会社である木次乳業の子会社として1990年に設立されました。
木木次乳業は島根県の酪農家によって1962年に創設された会社で、日本では初めてパスチャライズ牛乳を売り出した会社としても知られています。企業としては有機農法を重視した牛乳や加工品を発売することを念頭にした会社で、その姿勢は葡萄園の栽培方針に強い影響を与えることになりました。
1983年に木次町で、もともと栽培していた巨峰やデラウェアでなく山葡萄交配品種の有機栽培を試みる農家が現れます。しかし生食用葡萄と異なり、山葡萄交配品種はワインなどに加工しないと商品価値が無いため、その加工用の醸造所として誕生したのが奥出雲葡萄園です。
設立当初は現在とは異なる場所にありましたが、「食の杜」が新たに出来たことから、1999年に現住所に移転しました(※1)。
ワイナリー設立時は従業員は二人しかおらず山葡萄交配品種のみの醸造でしたが、やはりヨーロッパ品種によるワイン造りを行わないとその存在を国内で認めさせるのは難しいという考えににより1995年からシャルドネを中心としたヨーロッパ品種の栽培も行っています。
この奥出雲葡萄園のワイナリー長である安部紀夫氏は、木次乳業に入社後、国税庁醸造試験場と山梨県の丸藤葡萄酒工業で研修を行い、奥出雲葡萄園の立ち上げ時から一貫して醸造に携わってる人物です。
もともと有機栽培による食品造りのために木次乳業に入社しただけあり、「ワイナリー経営存続の力となるのは、栽培や造りに対してまやかしのない真摯な姿勢」と、濃縮などの醸造技術や最新の施設とは距離をおいた、基本に忠実なワイン造りを旨としています。
興味深いことに、ヨーロッパ品種を栽培したからといって山葡萄交配品種を軽視することはなく、むしろ山葡萄交配品種の「小公子」といった品種でさらなる減農薬栽培を試みるなど、有機栽培への挑戦は衰えるどころかさらに積極的になっています。
現在の生産量は約4万本。極少ではないもののけして多くはない生産量ですが、使用される原料葡萄は全て島根県産か隣県産の葡萄です。その設立経緯の関係から、現在もスタンダード商品は有機栽培の山葡萄交配品種によるワインです。ヨーロッパ品種によるワインの方は生産比率は少ないものの、その品質は国内の名ワイナリーに引けを取るものではありません。
現在も、ヨーロッパ品種・山葡萄交配品種によるさらなる高品質かつ低農薬のワイン造りへの挑戦が続けられています。
※1 「食の杜」とは、島根県雲南市の山間に理想の農場作りをしようと集まった人々がかやぶきの家を移築したことから始まった自然と共生しながら暮らしてゆくスローライフ、スローフードの活動の総称です。"自然に逆らわず、安心して食べてもらえるものを作りたい"を目標とする、有機野菜農園、豆腐工房、パン屋など様々な会社が一箇所に集まり、事業を展開しています。
施設の概略
奥出雲葡萄園にはレストランと販売所以外にユニークな施設があります。
ギャラリー:地下のセラーの隣にある空間で、町の方々などが色々な用途に使えるように設けられています。絵画の展示や、ライブ、洋服の展示などその使われ方は多岐に及びます。第三セクターのワイナリー以外でこういった特に事業と関係の無いスペースがあるというのはまれで、地元に愛されるワイナリーを目指す奥出雲葡萄園ならではの施設であるといえます。
地下セラー:樽の置かれているセラーですぐ隣にはゲストルームとして使えるような部屋もあります。地下という空間のせいか、どこか厳かな雰囲気の漂うゲストルームは、正装でワインを楽しむと似合いそうな場所(我々は正装どころか短パンによごれたTシャツでしたが)。
セラーにはテイスティンググラスが常備されており、場合によっては樽で寝ているワインを試飲させてもらえるかもしれません。なお、ヨーロッパ品種は全て樽熟成されており、山葡萄交配品種も一部が同じく樽熟成されています。
販売所:ワインの試飲・販売の他、地元のお土産なども販売されています。木造建築の味わいが落ち着いた雰囲気を醸し出しています。
醸造施設は原則見学不可です。
しかし、ご好意により中を見せていただいたのでそのレポートを記載します。

葡萄畑
醸造所へいたる道が葡萄畑の中なので探す必要すらありません。
栽培されている品種は主にレインカット栽培によるシャルドネとカベルネ・ソーヴィニヨン。山葡萄交配品種も一部が垣根で栽培されてます。実際に行けばわかりますが、畑は高地にあるので寒暖差が大きく、葡萄栽培に適した環境です。
もともとが有機農法を志している木次乳業が親会社だけあって、頑健な山葡萄交配品種を中心に化学肥料や農薬の使用を可能な限り控える努力が続けられています。ただ高温多湿なので完全無農薬はなかなか難しく、むしろ減農薬・有機栽培に挑戦することによって充分な量の健全果が得られにくくなっているという栽培状況です。奥出雲葡萄園においては天候以前に病気や害虫の被害が少ない時がグッドヴィンテージ、とのことですからその厳しさは想像できます。
本当に健全な葡萄とは「農薬を使った健全な葡萄」なのか「農薬を使わない劣化した葡萄」なのか。この難問に常に問われている葡萄畑です。
自社畑以外では地元農家に、ホワイトペガール、ブラックペガール、ワイングランド、といった山ブドウ交配品種の他、鳥取県でメルローの栽培も依頼しています。山ブドウ交配品種は棚栽培ではなく、改良マンソン式という仕立て方式で、こちらも雨を避けるためにビニールによる雨除けが行われています。
なお、全て契約栽培、または自社畑の葡萄が使われており農協経由の原料は使用されていません。
追記:シャルドネの収穫期には収穫のお手伝いや収穫祭といったイベントもこの自社畑で行われています。詳しくは公式ホームページを参照してください。
直営レストラン
奥出雲葡萄園の中にあるゲストルームでは、ワインに合う料理をテーマに旬の食材を使ったランチコース2100円(要予約)や、木次乳業のチーズと天然酵母パンを作ったピザトーストなどがあります。とても静かな環境なので、落ち着いた昼食や軽食が楽しめます。
※ 時間が無くて食べれなかったので詳細についてはコメントできないことをお詫びします。
テイスティング
2000円以下の銘柄は無料で、それ以上の銘柄は有料で試飲することができます。
以下に試飲した銘柄の簡単なテイスティングコメントを記述します。参孝程度に読んでください。
きすきのさくら :価格は1575円。イチゴの果実香がとても豊か。果実味と酸もしっかりしており、フルーティーで楽しめるワインです。個人的にはおすすめです。ただ、季節商品なのでいつもあるわけではありません。
奥出雲ワイン 白やや甘口:価格は1837円。セイベル9110主体で、新鮮なグレープや、白い花の香り。フレッシュ&フルーティーなワイン。やや甘口とありますが、甘さよりも糖度によってコクや重量感が増している感じを受けます。酸味が強いので甘口嫌いの人でも問題なく飲めるでしょう。
奥出雲ワイン 白中口:価格は1837円。ホワイトペガール(山葡萄交配品種)主体。香りはあまり強くはありませんが、酸味がしっかりしてワインにある程度骨格があるので食中酒として通用します。フレッシュな味わいも魅力。
奥出雲ワイン 赤:価格は1837円。奥出雲ワインの白と異なり、こしょうやチーズといったスパイシーな香り主体。ブラックペガールの品種特性なのか、だいぶ個性的な味わいのワインです。やはり酸はしっかりしています。
奥出雲 カベルネ・ソーヴィニヨン 2002:価格は2940円。やや青臭く、ピーマン香が強く感じられ、カシスや黒コショウのような香りは控えめです。味わいはシンプルで、タンニンはライト〜ミディアム。含み香にも樽香のほかに完熟していないカベルネ特有のししとうのような香りがあります。聞いたところこのヴィンテージはカベルネ・ソーヴィニヨンがうどんこ病にやられたものが多く、充分な品質のものが確保できなかったとのことでした。
奥出雲 シャルドネ 2001:奥出雲葡萄園を代表する銘柄の一つ。詳細は管理人のワイン記録にて。
奥出雲 シャルドネ 2002:価格は3150円。豊かなパイナップル香と2001と比べると樽香が感じられます。厚みのある味わいに加え酸味は爽やか、味わいに渋みが強めなのはこの銘柄に共通しています。余韻は長く、樽のヴァニラ香が主体です。
選ぶことが可能なら少し樽の強めのタイプが好きな人は2002を、そうでない人は2001の方をおすすめします。
有名なシャルドネは噂に違わないレベルのワインで買って損はありません。その複雑で豊かな香りに、他の日本ワイナリーとは異なる個性が確立されていることを感じます。
スタンダード商品である山葡萄交配品種のワインは、はつらつとした酸味があり、フレッシュです。品種が一般に知られているものとは異なりますが、「ヨーロッパ品種以外はダメだ」という偏屈な方でなければ、ヨーロッパ品種でも完成度が低いワインなどよりもはるかに健全な味わいの楽しめるワインです。唯一、財布の乏しいことに由来する私の「スタンダードワインは1500円以下」というコンセプトからするとやや高いかなという部分はあります。
総合的にみると「ハズレ」にあたる銘柄が少なく、特に白ワイン好きな人はとりあえず何か購入してみることをおすすめします。
購入方法
ワインの販売はワイナリー内の販売店と、公式ホームページからの通販で行われています。また県内の酒販店などでも販売されています。
ワイナリーアクセス
アクセスに関しては奥出雲葡萄園の公式ホームページに詳しく説明されているのでそちらを御参照下さい。
総論
もし、ワイン好きな人に「中国地方のワイナリーでおすすめの場所は?」と聞かれたなら、私なら迷わず「奥出雲葡萄園」と答えます。
中国地方はワイナリー自体の数が少ないこともありますが、その品質は山葡萄系ワインを含めてこの地域でトップクラスといっても過言ではないでしょう。
ワインは完全に食中酒としてのワイン造りに徹しており、ほとんどの銘柄が酸味の効いた辛口ワインで、一部ある甘口も食事と合わせやすいようにしたタイプです。甘口ワインを馬鹿にする気は更々ないのですが、いわゆる「観光客受け」を狙ったワインはまったくなく、減農薬栽培の方針を含めその造りには妥協がありません。
山葡萄交配品種のワインは品種特性として酸味が強く価格も1000円代のものが多いので、食事と楽しむのに良いワインです。奥出雲葡萄園の名を知らしめたシャルドネは、香りに気品があり素晴らしいのですが我々一般人にはいささか高いので何かの記念などに開けたいところ。このヨーロッパ品種による3000円台のワインに値段相応の価値を認めるかは人それぞれとは思いますが、少なくとも購入して失望するような品質でないのは確かです。
ただ、どうしてもワイン誌などではシャルドネが有名になりますが、個人的には山葡萄交配品種のワインの価値についてもう少し掘り下げて言及してくれるところがあっていい気がします。確かに国内・国際コンテストに出品して高順位の獲得は難しいワインかもしれませんが、奥出雲葡萄園のコンセプトを栽培・品質で体現しているのはむしろこちらのように思えます。
醸造に妥協はありませんがワイナリーはそんな堅苦しい場所ではなく、とてものどかで従業員の方々も大変に親切です。また「食の杜」では豆腐やパンなどが製造されており、これも安心・安全というだけでなく大豆や小麦本来の味を堪能できる品質です。古い一軒家を移築した宿泊施設もあり、比較的安い値段での宿泊も可能と設備は充実しています(我々も泊まりました)。
景観もよく、都会の喧騒に疲れた人には素晴らしい静養の場所となることは間違いありません。
深い山々と、澄んだ空気。この素晴らしい環境で生まれ育ったワインを、ぜひ景色と共に楽しみたいものです。
銘柄: |
奥出雲シャルドネ 2001 |
生産元: |
奥出雲葡萄園 |
価格: |
3150円(税込) |
使用品種: |
シャルドネ(島根県産100%使用) |
備考 |
国産ワインコンクールの「Japan Wine Competition 2003」で銅賞を獲得した銘柄です。
高品質を予感させる美しいレモンイエローが印象的。香りはパイナップル、樽の木香とバニラ香、バター香のほか、少しどんぐりのような香りも感じとれました。
酸味はワインに骨格を与える程度にあり、またアクセントととも取れるやや強めの苦味も感じます。味わいにはなかなか厚みがありますが、全体には繊細で上品な優しいワインという感想です。
余韻は樽の香り主体。批判的にみればやや樽香が強いかな?という部分はあります。
少なくとも、上級ワインの要素を備えたシャルドネであることには疑いの余地はありません。
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飲んだ日: |
2004年10月14日 |
社名 |
(有)奥出雲葡萄園 /奥出雲ワイン |
住所 |
島根県大原郡木次町寺領689-1 |
電話番号 |
0854-42-3480 |
取寄せ |
メール、電話、Faxによる注文可 |
HP |
http://www.okuizumo.com |
畑 |
自社畑あり 契約栽培畑あり |
ツアー等 |
訪問自由、セラー見学可
テイスティング可(無料・有料) |
栽培品種 |
シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、ワイングランド、ブラックぺガール、セイベル9110、小公子、他 |
営業日 |
定休日:火曜日
営業日(AM10:00〜PM5:00) |
★ 訪問日 2004年6月4日 |
備考:国産葡萄のみ使用(島根県・鳥取県)、「シンボル農園 食の杜」敷地内、ランチあり(要予約)、
親会社「木次乳業」 |
醸造所内には発酵タンク等が置かれており、全体に中程度の大きさでそれほど数が多いわけではありません。しかし、奥出雲葡萄園では全ての赤ワインには人力でピシャージュ(パンチダウン)を行っているということですから、管理が大変です。
酒石酸除去用の冷却装置もあることはありますが、これはほとんど使っておらず新酒の発売の時だけ稼動させています。それ以外のワインではこの装置が使われることはありません。
他に、ワイナリーで使用されるものとは似て非なる機材があります。
これらは木次乳業で使用されているポンプや道具を転用したものなので、確かに普通のワイナリーにはないはずです。こういった機材はタンクの冷却などに有効利用されています。
そしてミニワイナリーではお定まりですが、自動瓶詰機はありません。変わりに、というわけではありませんが使用した瓶をシールを剥がして再利用可能にする洗瓶機が置かれています。これにより、ボトルを回収すれば再び瓶詰めができるようになるという、環境重視のワイナリーらしい設備です。
が、実はリサイクルするほうが新しい瓶を仕入れるよりも高くつくので、「環境に優しく、経営に優しくない設備」だそうです(^_^;
こちらは整然と並んだシャルドネ。丁寧に剪定されています。自社畑は広く、ワイナリーから見下ろすとまた格別です。
地下セラー。もちろん本物のワインが熟成されています。かなり清潔に保たれているのが印象的です。
整然と並んだ発酵タンク。たくさんあるように見えますが、写真に移っている分でほとんど全部です。