錦城葡萄酒
〜地元農家の造るこだわりワイン〜
外観

小佐手地区は勝沼の中心地に近い扇状地で、あたりには棚栽培の葡萄畑が目立ちます。
「ぶどう狩り」のノボリが数多く立ち並ぶ道路沿いに、明らかに場違いともいえるレインカットを使用した垣根栽培の葡萄畑が見えれば錦城葡萄酒はすぐそこです。

看板も目立っていないので探していても思わず通りすぎてしまう、倉庫のような醸造所なのですが、この畑を見ると侮れないワイナリーであることが瞬時に理解できるでしょう。
歴史

山梨県に現存する、株主農家による共同経営のワイナリーの一つがこの錦城葡萄酒。もともとは勝沼町小佐手地区の農家による共同醸造所でしたが、戦後しばらくすると税務署が共同醸造所を法人化する方針を定めたため、会社となることを余儀なくされました。そこで17の小佐手地区の農家が株主となって現在の錦城葡萄酒が誕生したのです。
もっとも会社になってもしばらくは外販もなく、専ら葡萄を納入する農家にだけワインを販売する醸造所でした。できあがったラベルも何もない一升瓶ワインを受け取る農家の方々が、酒税や手数料を払い、酒税法に違反しないよう自分でラベルを貼って持ち帰る、といった光景が見られる醸造所であったそうです。
しかし1980年代に古くなった工場の建替えと共に顧客が株主農家専門の醸造所をやめ、一般販売も行うように方針を変更、現在に至っています。


この錦城葡萄酒、社員構成がかなり変わっているのが特徴の一つ。勝沼の農家が株主で年間生産本数が多いワイナリーは岩崎醸造大泉葡萄酒、錦城葡萄酒の3社ですが、このなかで社長の高埜一明氏から社員まで全員が農業従事者というのが錦城です(他の醸造所は経理・醸造専門の正社員がいます)。地元農家が大株主のワイナリーの中では生産本数は5万本と上位2社の約半分とはいえ、この生産量と同等かそれ以下の醸造所は県内外問わずかなり存在することを考えれば、醸造・経理専門の社員がいないというのは異例。
しかし「勝沼ワイナリークラブ」に加入し甲州の品質向上のために勉強を行い、社長の高埜氏自身も桃と生食葡萄の栽培の傍らでレインカット方式によってカベルネ・ソーヴィニヨンを栽培と、我々が想像する以上に熱意ある醸造所でもあります。もちろんワインは株主農家の栽培した葡萄による100%勝沼産のもの。

実際、地元農家でもその評価は高く、特にベリーAのワインについてはもっとも人気の高いワイナリーの一つとなっています。
施設の概略
施設としては、ワインのセラーと醸造所があります。見学は予約推奨のようなので出来れば連絡しておきましょう。また、社員全員が果樹農家であるため6月〜10月は葡萄栽培が忙しい季節に突入しているので、この時期の見学は控えた方が良いかもしれません。

工場内は私たちが行った時には醸造の季節を過ぎて作業を行っていないためか、色々なものが落ちていて雑然とした印象を受けました。さらに猛暑で知られる甲府盆地なのにおよそ暑さ対策があるように見えない屋根、かなり古びた醸造施設と、最新の設備を誇るワイナリーばかり見ていると面食らってしまうでしょう。
タンクは年季が入っており、ホーローまたは金属製。外側には税務署が計測した容量が書かれていますが、その計測年代が30年前以上のものも。発酵は全て上面開放タンクを使用しており、醸造方法も昔ながらのものです。
前述のように屋根が薄いように見えるのでこれで低温長期発酵できるのだろうか、と思いますが白の甲州はやはり周りを冷却用のジャッキを巻いて温度を下げているそうです。甲州自体も10月前後の収穫なので、その頃にはだいぶ甲府盆地の気温も落ちつくことを考えれば確かに問題ないのでしょう。

注意点として観光客を想定した工場ではないので門外漢のための案内板などはまったくないことがまず一つ。また排水溝が口を開けていたりするのででつまずいて転ばないように気をつけましょう。

追記ですが、セラーでは一升瓶・720mlのワインがきちんと温度管理されて保管してあるのであしからず。


葡萄畑
極論すれば、株主の農家の畑が全部自社畑といえなくもありません。もちろんみなさん生食用葡萄の栽培も行っていますが、原料としては甲州とベリーA、巨峰、最低価格の一升瓶ワインに混ぜられる少量のデラウェア、そして後述のカベルネが使用されます。
この醸造所に参画している農家の畑が傾斜地の下から上にかけてあるので、熟する時期が高度が下がるほど早くなる傾向があるのが特徴の一つ。作業性を考えれば多少の誤差は我慢してまとめて醸造するほうが短期間に醸造できますが、錦城葡萄酒では完熟した葡萄だけをワインにするため、特にベリーAはそれぞれ完熟した順番に収穫しては醸造するという手間をかけています。

実際にすぐ見学できるのはワイナリーの隣にある高埜社長のカベルネ・ソーヴィニヨンのレインカット方式による垣根畑。このカベルネは勝沼でもかなり早くから植えられたものでその樹齢はだいたい15年と、山梨県のヨーロッパ品種としてはかなり年季の入ったもの。他のワイナリーに葡萄を売却していた時期もあったようですが現在では自社での醸造が行われています。
このカベルネは日照はけして悪くないわりには着色が充分ではないのが悩みの種とのこと。
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高埜社長のカベルネの畑。ワイナリーの隣にあるのですぐ見学できます。樹齢が長いだけあり幹が太い!
外観  歴史  施設の概略  葡萄畑  テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
テイスティング
ほとんどの銘柄がテイスティング可能で、好きな銘柄を自分で選んで数種類試飲する方式。販売所といえるほどの施設はなく、工場の内で試飲となるので、あまり寒い時期にいく時は厚着を推奨します。

錦城 白 ゴールド:錦城葡萄酒を代表する銘柄の一つ。詳しくは管理人のワイン記録を。

錦城 赤 ゴールド:一升瓶で2100円、720mlで1260円のベリーAのワイン。香りはキャンディ、甘いベリー、少し龍角散といったもので、味わいはアタックはすっきりしているもののブラックベリーやチェリーの果実の香り豊かな含み香が印象的。味わいはシンプルですが、細やかなタンニンに加えてなかなか果実の香りによるボディがあるので飲んで充実感が残ります。ベリーAの魅力を味わうのに最適の銘柄の一つ。
ゴールドシリーズは他にベリーAと甲州ブレンドのロゼがあります。

BROCADE 甲州勝沼ボトル:勝沼ワイナリークラブのボトルに入った1575円の甲州ワイン。華やかな洋ナシとミネラルの香り、口に含むと少し甘い印象を受けるものの辛口に仕上げられており、含み香にもしっかり洋ナシの香りがあります。やや苦味が強いワインなので、食中酒向きといえるでしょう。
錦城葡萄酒の甲州ではもっともクリーンな味わい。

他、一升瓶で1040円の甲州とデラウェアの「混醸」、同じく一升瓶で1300円の「シルバー」(シルバーは甲州による白のみ)のようにカタログに紹介されていない超低価格の銘柄もあります。
銘柄は全体的に辛口仕上げが多く、甲州によるワインがその大半を占めます。私が絶賛しているベリーAのワインは実質的には一銘柄だけと錦城では少数派。
甲州の白は、上位価格のものになるほどに洗練されていき、特に勝沼ワイナリーボトル入りの「BROCADE甲州」はより設備的に優れた醸造所で生産されている同価格の甲州ワインに劣らない内容。ただ、甲州ワイン全体の傾向としてプレスランの果汁が多いのか、味わいにコクがあるものの、少し苦味が目立つ傾向があります。
ベリーA、カベルネは樽を使用していないこともあって果実味のよくでたワインで、飲みあきしないスタイル。
注目すべきことに価格は一升瓶を含めて「錦城カベルネ」の2100円がトップ、720mlでは1575以下のワインばかりと安価なのはありがたいかぎりです。
購入方法 
ワイナリーの販売所から直接購入、メールなどによる注文を受付けています。ぶどうの丘でも販売されていますが、他の取り扱い店はほとんどありません。大半は地元で消費されています。

ワイナリーアクセス
公式ホームページに記載がありますのでそちらを参照してください。

総論
まだそれほど醸造所を巡っていなかったころ、ぶどうの丘の試飲所で「この錦城葡萄酒とかいう醸造所のベリーA、やけにうまいなあ」と感心したのを今でも覚えています。
それからしばらくしてから、ある勝沼の葡萄農家の方が「甲州は大泉、ベリーAなら錦城」とおっしゃっていたのを聞いて自分の感想がそんなに的外れではなかった、と思ったこともありました。
がしかし、実際の訪問はそれから一年以上後であったりするのは、まあ・・・ご愛嬌ということで(^^)

その品質はまず甲州ですが全銘柄共通に「勝沼ワイナリークラブ」の中では・・・、という感想をもちました。けして悪いワインではないのですが、やや洗練されていない香りがあること、また上級銘柄でも苦味が気になる点。「勝沼ワイナリークラブ」の甲州を造っているワイナリーはコンクール常連のハイレベルな醸造所が多いので、その中ではあまり目立っていないように思います。もっとも、食中酒として地元の料理と合わせるとなるとむしろ相性が良さそうなので、これはワイン単体で飲んだ際の評価と考えてください。個人的には一番高価格の1500円の勝沼ワイナリークラブボトルのものがおすすめ。
赤ワインに関しては、ベリーA特有の甘い香りが嫌いなのでなければ飲む価値あり。山梨のベリーAのワインは往々にしてキャンディ系の香りが強く味わいは軽くシンプルすぎるきらいがあるのですが、錦城のものは豊かな果実香もよくでているうえにシンプルながらも味わいがあり、飲んで満足感を得られます。狐臭がするワインは・・・などといわずに飲んでみましょう。
全銘柄が安く、買ってみて好みに合わなくてもダメージの少ない金額なので冒険してみる価値は充分にあります。

訪問はある程度色々な醸造所に行ったことがある人向け。醸造器具や醸造に関する知識がある程度ないと見て回っても充分には楽しめないかもしれません。ただし、カベルネ・ソーヴィニヨンのように直接行かないと出会え無い銘柄もあるようなので、ぶどうの丘でここのワインが気に入ったなら距離も近いのでぜひ訪れてみてください。
また、地元消費用のワインを生産する醸造所の中でも品質はなかなかのレベルに達しているので、日本ワイン好きであれば訪れて損はしません。専業の醸造家もおらず、設備も充分とはいい難い中で、しっかりした品質のワインを造るその姿勢には学ぶことは少ないはずです。
工場内の発酵タンクの様子。年季の入ったタンクが歴史を感じさせます。
銘柄: 錦城ワイン ゴールド 白 
生産元: 錦城葡萄酒
価格: 1200円(一升瓶:2000円)
使用品種: 甲州
備考 淡いレモンイエロー。香りは、きゅうり、洋梨、などの果実香が主体ですが、あまり強くはありません。
含み香はまず若干ながら、酸化香とも沢庵ともとれる香りがあり、ついで洋梨、白い花といった香りを感じます。アタックはやさしめでシンプルな味わい。糖度の残しておりやや辛口といった味わいで、酸は少なめながらワインに骨格を与えるレベルはあり、アフターには苦味が感じ取れます。
余韻はほとんどありません。

軽やかなワインなので、あまり味付けの濃くない和食や生春巻きのような料理がおいしそうです。
飲んだ日: 2006年1月30日
銘柄: 錦城カベルネ Light 2002
生産元: 錦城葡萄酒
価格: 2000円
使用品種: カベルネ・ソーヴィニヨン(勝沼産100%)
備考 カタログにもホームページにも掲載されていない、自社畑のカベルネ・ソーヴィニヨンをタンクで発酵させた赤ワイン。錦城葡萄酒でただ一つのヴィンテージ記載銘柄です
Lightの名のとおり色はカベルネのワインとしては淡く、透明感のあるガーネット。
杉の葉、ローズマリー、月桂樹といったスパイスな香りの中に、フランボワーズやチェリーのような果実の香りがあります。
アタックはしっかりしており、香辛料のような含み香がぐっと口の中にきますが、アフターにかけてはやや軽めでこの品種としては少なめの繊細なタンニンの味わいが残ります。余韻はやや短めで、やはりローズマリーの香り。

樽を使用していないこともあってインパクトに欠けるもののなかなか面白いワイン。複雑性もまずまずあり、飲み飽きないワインといえます。ただ、海外のワインと比較した場合、少し値段が高いかも。
飲んだ日: 2006年2月13日
社名 錦城葡萄酒(株)
住所 山梨県甲州市勝沼町小佐手1833
電話番号 0553-44-1567
取寄せ オンラインショッピング有り HP http://www.home.cs.puon.net/kinjyo-wine/
自社畑あり(本文参照) ツアー等 工場見学可(予約推奨)
テイスティング可(無料)
栽培品種 甲州、デラウェア、カベルネ・ソーヴィニヨン、
巨峰、マスカットベリーA
営業日 営業日:月〜金曜日、土曜日(午前のみ)
営業時間:9:00〜17:00(平日)
祝日休業
★  2005年2月24日訪問、2006年2月16日訪問
備考:勝沼産葡萄のみ使用、勝沼ワイナリークラブ所属、農家による共同経営型ワイナリー
これが一升瓶約1000円の「混醸」のラベル。飲んではいませんが、もはや味がどうこういう価格ではない激安純国産ワイン。