スズラン酒造工業
〜かつての日本酒造、適地適作に挑む〜
外観

スズラン酒造工業はけして小さい会社ではありません。広大な畑、大きな醸造施設をもつ、中規模といって差し支えないワイナリーであり、生産量も純国産葡萄のみを使用するワイナリーとしては誇れる量です。
それなのに、何でこんな狭い道の先にあるの?というほどに狭い強制的な一方通行、ともいうべき車道を通らねばこのワイナリーには辿りつけません。向かいから車がきたら譲り合いの心をフル回転させてバックで戻ることが必要です。
このほそい道を運良くぐりぬけると、目的のスズラン酒造の正面玄関の石垣と外に置かれたタンクが見えてきます。
敷地内に入るとパラソルと椅子、外に置かれた冷蔵庫に並ぶワイン、事務所らしき建物、そして醸造施設が確認できることでしょう。
歴史

公式ホームページに歴史が書かれているのでそちらを参照してください。

スズラン酒造工業は1905年に法人として設立されました。その社名が示すとおり、もとをたどれば1818年(文政元年)に設立された酒造にまでさかのぼることができる大変に歴史のある醸造所で、戦前は関東中部でも屈指の石高(生産量)を誇る日本酒造。そのかたわらでアジロンダックなどの品種による葡萄酒の醸造も行われていたのですが営業の中心にはなっていなかったようです。
このように長年日本酒の生産に携わっていたスズラン酒造も、戦時中の米不足により日本酒の生産を中止。皮肉なことにサイドビジネスの葡萄酒醸造が、レーダー用の酒石酸を得る目的で保護されます。戦後以降、スズラン酒造は缶詰や果汁といった食品生産の会社という形で存続しますが、県下でも有数の酒造であった面影は古い文庫蔵を除いて見出せません。

しかし1970年代から『果樹王国』山梨県という立地を活かし、現社長である小池律男氏はワインを中心とした会社への転換を図ります。山梨県での適性の高い品種を研究、山梨県産葡萄のみを原料とするなど、国産ブランドによるワインへと舵を切りました。また小池社長の栽培への情熱は並ならぬものがあり、2004年には自社を農業生産法人とし自社畑の拡大と育成に努めています。
今日のスズラン酒造工業は従来どおりに食品関連事業も行っていますが、同時に日本酒ではなくワインの醸造所として名を馳せる道を歩みだした、といえるでしょう。

現在の生産量は約10万本と山梨県産葡萄のみを使用する醸造所としては、中堅クラス。前述のように全て山梨県産の葡萄を使用しており、そのうち全銘柄の約10%が自社畑産の原料となります(自社畑については後述)。
現社長である小池氏や家族の方を含め、従業員は約20人と生産量に比べやや多いのですが、これは葡萄果汁の製造も行っていることに関連しています(こちらの売上はワインより多いか同程度)。また、静岡県の伊豆ワイナリーの栽培指導に参画しており、その技術が隣県にも影響を与えているのですがこれはあまり知られていない一面。さらに、適地適作の一環として自社畑では交配による新たな品種の研究までも行ったりと、その情熱は止まるところをしりません。
施設の概略
工場の見学に関しては可能な限り前もって予約しておいたほうがよいでしょう。専門の解説従業員がいるわけではないので、先方の都合を聞いてから行った方が確実です。

まずかなり古い、現役であることに不安を感じるほどに老朽化したボイラーを右手に見ながら中に入っていくことになります。
醸造所としては歴史がある方なので施設全体は目新しさよりは、使い込まれている雰囲気が漂っているということが第一印象に残るでしょう。
見上げる高さのホーロー、ステンレスの様々な貯蔵タンクや発酵タンクが工場内に詰め込まれ、生産量の高さをうかがわせます。

樽の貯蔵施設もありますが、これは空調をつけブルーシートで周りを覆った部屋に樽を保管したやや簡易なもの。普通、樽の貯蔵は立派な設備を備えた区画で行われているか、逆に醸造施設の隣にちょこんと置かれているのかどちらかなので、そのどちらにも属さないこの光景はあまり見かけないものです。

最後に見ることになる瓶詰施設は、ワインの生産本数と比べてもいささか面積が多くラインも長大です。最新鋭の醸造所と比べれば醸造設備が充実しているようには見受けられないスズランの中でこれは逆に過剰投資ではないかと思えてしまいますが、さにあらず。スズランでは売上の半分近くをワイン以外の果汁生産などが占めており、こちらにも瓶詰めラインを振り向けねばなりません。実際、お中元・お歳暮の季節などは山積みになったダンボールに社員の方々が次々と葡萄ジュースやワインを詰め込んで出荷する光景が見られるそうです。

醸造施設は、ある種の適当さと真剣さが入り混じった相当個性的な施設であるといえるでしょう。
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外観  歴史  施設の概略  自社畑  テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
葡萄畑
明野村に4ヘクタール、一宮町に1ヘクタール、さらにピノノワール用に富士河口湖に0.5ヘクタール(ここに自社畑を持つワイナリーは大変に珍しいです)、清里に4ヘクタール、山梨大学の甲府市の試験圃場1.5ヘクタール(この詳細は後述)、合計11ヘクタールという広い面積の畑を所有。

立地からわかるとおり気軽に見学できるのは一宮町の畑で、車でなら10分足らずのところに2つの区画の畑があります。このうち我々が案内して頂いたのはプティ・ヴェルドーとシャルドネの畑。
ここでは棚栽培のプティ・ヴェルドー、垣根栽培ではシャルドネを栽培。プティヴェルドーは面積が多くとられており、もちろんワイン用ということで棚栽培とはいえかなり収量を少なくしています。シャルドネは山梨県では割に見かけるギュイヨ・サンプル式の垣根栽培で、雨避けの設備はつけない手法がとられていました。さらにこの畑には交配などによる新品種を作るための研究用区画があり、そこで実生などから新たなワイン用品種を生み出す努力が行われています。こういった新品種の製造にまで挑戦する会社は大手を除くと、極めて少数。
なお、もう片方の一宮町の畑にはシラーが栽培されています。

見学に関しては、特に案内をお願いしたい場合にはワイナリーと要相談となります。しかし、スズランに来て畑を見ないのは大変にもったいないので比較的暇な時期を狙って頼んでみてはどうでしょうか。

また厳密にいうと自社畑ではないのですが、上記のように山梨大学の試験圃場も提携によりスズラン酒造が管理・運営しています。これは山梨大学が民間企業と連携して土壌や気候に適した品種探しや栽培方法の改良に取り組むもので、ワイン醸造のための民間との連携研究は今回がはじめて。ここで造られている葡萄全てがそのままワインとしてリリースされるわけではないでしょうが、長い目でみればこうした研究成果がスズラン酒造、ひいては日本のワインの品質向上に貢献していくことでしょう。
この詳細についてはスズラン酒造の公式HP、またはhttp://www.nikkei.co.jp/news/retto/20060404c3b0403x04.htmlに記載があるので参照ください。なお、上記二つのページは当ページとは関連がないのでご注意を。


テイスティング
事務所にある冷蔵庫に試飲用ワインが置かれていますが、きちんとした試飲体制はとられていません。その時々によって試飲できるものが違い量も多くはないので、「たっぷり試飲して何を買うか決めるぞ!」など考えてはいけません。
私もあまりテイスティングしていないのであしからず。

甲州シュール・リー :1575円。香りはおとなしめのパン粉や洋ナシ。味わいはあまりコクがなくすっきりとした味わい。


ピノノワール:河口湖で収穫された自社畑のピノノアール。色はやや薄めのレンガ色。香りは弱めながらイチゴ、チェリーの果実香の他、若干酸化香が感じ取れました。飲むとまだまだ樹齢が若いためか、青い香りが多くやや薄い味わいという印象を受けます。また醸造工程によるものなのか明らかに酸化香があります。
※これはリリース前に無理をいって飲ませて頂いたワイン。

赤に関しては最後のテイスティングコメントに詳細を記述しますが、充実した内容。これに対して甲州はそもそも試飲銘柄が少ないこともありますがあまりインパクトに残りませんでした。シュール=リーは成分的にあまり濃くなくシンプルな味わいというのがその第一要因ですが、いま少し香りとフレッシュ感が足りないように感じます。

ワインの品質とは別ですがスズランのラベルは、パッと見ると抽象的なデザインが描かれているように見えます。しかし、よくよくみると畑で収穫をしている社長の奥様などの写真をラベルにしてあるという、シンプルなもの。色合いと程よく何が描かれているのかわからないために最初のような印象を受けるのですが、何はともあれなかなか良いラベル(に見える)というのは確か(^^)。
購入方法 
購入はオンラインショッピングの他、山梨県内の酒販店などでも取り扱われています。ただし、県外の販売は行っていないので確実な入手方法はワイナリーへ直接足を運ぶ、またはオンラインショッピングといえます。

ワイナリーアクセス
公式ホームページにアクセスマップがあります。一宮町でも中心地にあるのですが外観にあるようにどこからどういっても狭い一本道を通る必要があるというのが最大の難点。もし選択肢としてありえるなら自動車以外の手段がよいでしょう。

総論
開店休業状態のワイン造りを復活させただけあり、大変に真面目にワインを造っているというのが第一印象。「適地適作を目指す」、と言うは易しですが実際にこれを実行するとなると大変な費用と労力、そして時間がかかります。これを有言実行し、数箇所の畑を使ってシラーやプティベルドーといったヨーロッパ品種を植えるというのがその証左といえるでしょう。

ワインの品質ですが、白に関しては甲州しか飲んでいないので多くは語れませんが、悪くはないのですが辛口の甲州ワインとしてやや単純な味わいでフレッシュ感が無くあまり明確な特徴を感じませんでした。ただし私個人は低温長期発酵による華やかな香りのある甲州をよく飲んでいることもあって、上立香・含み香が抑え目な甲州ワインに、評価が低くなりがちなので参考にする際にはご注意を。
国内コンクールで受賞するだけありこと赤ワインに関しては「外れ」はありません。ここはカベルネなどのメジャー品種以外のワインを造っていますが、物珍しいだけのワインではけしてないことは飲めばたちまち理解できます。全体に濃縮感とボディがあり、そのボディと比べると品種の問題でもありますが総じてシンプルな味わいという傾向があるように思えます。

ワインは飲んだ限りでは赤の方がインパクトがあり面白いものが多いので、「日本の赤は味が薄い」というあまり国産赤との出会いに恵まれていないような方ならば驚かされること請け合いです。

醸造施設もさることながら畑は、ワイン好きで栽培に興味がある方ならぜひ見に行きたいところ。醸造所から徒歩圏内でないのが残念ではありますが、もし頼めるなら案内をお願いしましょう。一宮町の畑で行われている棚栽培のプティ・ヴェルドーなどなかなか見れるものではありませんし、スズラン酒造が畑に情熱を傾けているという事実を感じるにはやはり畑を見るのが一番といえるでしょう。

訪問はやはりある程度、色々ななワイナリーに訪れた方におすすめ。畑の特徴や醸造施設としての個性は、やはり一定程度の知識がないと充分に楽しめないように思えます。試飲体制も充実しているとは言い難く、人生で最初に行くワイナリーとしてはおすすめできません。
しかし裏を返せばある程度知識がある人にとってはこれほど興味深いワイナリーも少ないでしょう。
まだまだ品質などの面でも向上できそうなことを予感させる、まさに個性派醸造所。行く価値があるのは明らかです。
銘柄: 甲斐ノワール 2004
生産元: スズラン酒造
価格: 1575円
使用品種: 甲斐ノワール(一宮町産)
備考 2005年Japan wine competition【 国内改良品種 赤】部門の銅賞ワイン。
色は少し透明感のあるガーネット。上立香は、甲斐ノワールによく見られる強力な杉の葉の香りはなく、胡椒、カシス、その後に隠れた感じで杉の葉や杉の木のような香りが確認できます。
含み香はやや杉の葉のニュアンスが強くなりますが、味わいはなめらかでアルコール度数が明らかに13度〜15度はあるねっとりとした濃縮感、また果実味も凝縮された感じです。味わいはコクはあるものの、香りともに複雑性はあまりありません。
味キレはよく、甲斐ノワールのワインとしては珍しく余韻がほとんど確認できません。
濃縮感のある甲斐ノワール、という基準でみるならコストパフォーマンスからみても文句無しトップといっていい銘柄といえるでしょう。
飲んだ日: 2006年8月7日
数多くの貯蔵タンクが並ぶ工場内。ホーロータンクの比率が多め。
社名 スズラン酒造工業(有)
住所 山梨県笛吹市一宮町上矢作866
電話番号 0553-47-0221
取寄せ オンラインショッピングあり HP http://www.suzuran-w.co.jp/
自社畑あり、契約栽培畑あり ツアー等 工場見学可(予約推奨)
テイスティング可(無料)
栽培品種 甲州、シャルドネ、マスカット・ベリーA、
甲斐ノワール、プティ・ヴェルドー、
カベルネ・ソーヴィニヨン、他
営業日 年中無休
見学時間:10:00〜17:00
★  2005年12月14日 2006年4月16日
備考:山梨県産葡萄のみ使用
銘柄: 小城プティベルド 2005
生産元: スズラン酒造
価格: 2100円(1.8リットル)
使用品種: プティ・ヴェルドー(一宮町産)
備考 ボディのあるワインで口に含むと高いアルコール度数と濃縮感に驚かされますが、舌ざわりはとてもなめらかでタンニンもしっかりありながら細やかで上品。味わいはこれほどのボディをもつにしてはシンプルというのはこの品種の特徴といえるでしょう。濃厚さとあいまってチェリーブランデーのような味というのが、率直な感想です。
含み香にはほんのりと樽の香りがあり、余韻にもカシスのような香りとともにそれが残ります。

多少好みが分かれるワインかもしれませんが、ワイン好きならとにかく一度は飲むべき。2005年Japan wine competition【 欧州系品種 赤部門】の銅賞は、伊達ではありません。
飲んだ日: 2006年7月15日
銘柄: 赤葡萄酒 1995年収穫
生産元: スズラン酒造
価格: 2625円
使用品種: マスカットベリーA・カベルネソーヴィニヨン(国産)
備考 スズランの一升瓶ワイン。純国産を100%使用した赤ワインですが、いささかヴィンテージが古すぎやしない?というほどの年代のもの。
色はやや透明感のあるガーネットにレンガ色のニュアンスがあり、確かに古いワインであることがわかります。香りはブルーベリー、ダークチェリー、黒胡椒といった感じ。一升瓶に入っていることにより酸化が遅れているのか味わいはとても10年経っているとは思えないほどにフレッシュな果実味があり、ほどほどのコクとベリーAに由来するとおぼしきベリーの香りが含み香にあります。アタックは弱めですが酸味もワインを引き締めるのに充分なレベル、果皮の浸漬の時間が長かったのか後味にタンニンの苦さがあるのが特徴。
コストパフォーマンスでいってもなかなかのもので、純国産のおいしい赤を、安く量を飲みたいなどという無理難題を希望する人はぜひ購入してもらいたい銘柄です。私的には純国産一升瓶の赤としてトップ5に入るおすすめの一品。
飲んだ日: 2006年8月30日
樽の貯蔵庫。写真中央の上部にブルーシートで覆われた壁が確認できます。
垣根栽培によるシャルドネ。冬場なので逆に剪定の丁寧さがよくわかります。