風の伝承をたずねて

2023年7月25日 2024年4月25日

全国各地で記録した風の伝承を紹介しています

はじめに 調査の概要 地域別の伝承 風位名検索


 北西風位の全国呼称分布図(聞きとりによる) 


風の伝承について

【風をよむ】
 風は、さまざまな気象にかかわる基本的な現象です。心地よい薫風から暴風に至るまで、 私たちの暮らしは常に風とともにあります。生業においても風の影響力は絶大で、特に動力 船が普及するまでの漁業では、「風をよむ」ことが重要な資質となっていたのです。これは、 いわゆる日和見の第一歩であり、現状の風向きや強さ、性質などを認識するとともに、今後 の風の状態を予測する重要な仕事でした。そのためには、雲の発生や動き、大気の状態、潮 の状況、海鳴りなどを観察する必要があります。さらに、夜間であれば月の色や雲のかかり 方、星の光り具合(瞬き)にも注意を払っていたことが知られています。この星の瞬きと風 の関係については、全国各地に伝承がみられます。
 さて、観天望気としての風を捉えるには、風に関する種々の情報を識別して共有化を図ら なければなりません。その基盤となるのが風位呼称です。一般には、特定の風位によって呼 び分けを行いますが、同じ呼称であっても地域によって風位は異なり、極端な例では同一漁 港の漁師の間でも異なる場合があります。また、特定の風位によらず、ある程度の許容範囲 を設けた捉え方や時間とともに風位が移動する場合の呼称、あるいは特定の季節に限って発 生する風など、かなり複雑な事例も散見されます。

【伝承に学ぶ】
 全国各地で星名が体系化されていたように、風位呼称にも地域固有の体系がみられます。 これらは、沿岸域を主体に長い間継承され、しかも、星名体系の崩壊とは対照的に、多くの 地域で現在も利用されているのです。急速にデジタル化が進展した漁業の領域においても、 引き続き人の五感による判断が求められているのかもしれません。
 風位呼称を個別にみると、全国的に標準化された呼称からある一定の分布域を有するもの、 あるいはローカルな地域限定の呼称など、さまざまな特性があります。同じ風位に複数の呼 称が存在するのは、星名でもみられるようにいろいろな見方があったということでしょう。 したがって、記録が豊富な地域の体系は多様な構成となり、記録が少ない地域では単調な構 成となっています。
 風位名とともに重要な伝承として、風にまつわる俚諺や俗信・迷信などがあります。こち らも地域による特性がみられる一方で、ある程度広範な地域における普遍的な事例が確認さ れています。人の移動や交流などに伴う伝播・定着の可能性が考えられ、分布の背景にはそ うした要因が隠されていることも考慮すべきでしょう。
 なお、沿岸域や大きな湖沼を有しない内陸部の県については、一部で農業や林産業にかか わる風の伝承があるものの、体系的な利用は確認できていません。いずれにしても、風の民 俗という観点では、風をめぐる信仰や習俗なども重要な対象ですが、ここでは伝承を主体と した紹介に限定しておきます。各地の風位呼称や俚諺などを通して、自然と共生する暮らし や生業の在り方を再考したいものです。

《主な参考文献》
○風位考資料(増補),柳田國男(編),明星堂,1942
○風位考,柳田國男,柳田國男全集(ちくま文庫),筑摩書房,1990
○風の事典,関口武,原書房,1985
○アイの風は生きている,風間ミツ,考古堂書店,1988
○風の名前風の四季,半藤一利・荒川博,平凡社,2001

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調査の概要

【 地域と方法 】
 風の伝承に関する調査は、当初から対象項目に含まれていたわけではありません。星の民 俗の話を記録するなかで、ときおり耳にした風位呼称などを書き留めていた程度でした。そ の後、星と風にかかわる伝承が各地に存在することを知り、2008年の調査再開以降は本格的 な調査対象として取り組むようになった経緯があります。
 ただし、調査地域は暫らく関東を中心とした範囲に止まり、2011年以降にようやく全国展 開することになりました。したがって、ここに公開するデータの大半は2011年以降の記録に よるものです。
 調査は、任意の地域を訪ねて伝承者を捜し、その場で聞きとりを実施するのが基本です。 多くの場合、それぞれの土地に伝わる風位呼称を中心に質問を行い、それに対する回答を記 録することになります。また、付随する伝承等も併せて記録しました。

【 集計について 】
 記録された呼称は、一部を除いて風位毎に整理し、北から時計回りに8種類の方位区分で 示してありますが、地域によってはさらに細かい区分も併用しています。また、伝承地域は 47都道府県の市町村レベルで体系化し、基本的に複数の記録において最も多様な事例(伝承 者単位)をその地域の代表として採用しました。そのため、ここではすべての記録を掲載し ていません。ただし、体系的な事例が少ない地域については、複数の事例を統合して示した ケースがあります。その他地域特有の呼称等については、代表する体系にかかわりなく個別 に紹介しています。
 呼称の表記はカタカナを基本とし、一般的な風位の記述については「北風」や「南東の風」 等のように漢字表記としました。なお、同一の意味を有する呼称として、微妙に転訛した事 例が少なからずみられますが、グループ化はせずそのまま掲載してあります。

 

 16区分の風位図 

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各地の風の伝承

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