北 海 道 2023/07/25

【地域特性】
 北海道では、留萌・後志・檜山・渡島の各地方で調査を行いました。このうち、留萌・後 志地方は1975年から1976年にかけて、また檜山・渡島地方では2017年の実施となっています。 確認された風位名の体系は10方位に及び、北方からの風は、北北東や北北西を含めてアイノ カゼが主体で、一部にシモカゼが伝わっています。東方から南東にかけてのヤマセ、南風の シカダあるいはヒカダ、西風のニシについては、ほぼ共有化された呼称といえるでしょう。 また、北西からの風をタマカゼあるいはタバカゼと称する地域があります。
 なお、北斗市のヨイチという呼称は、秋口になると吹くヤマセの1種で、特別な風と捉え られています。これは夕方から吹き始める強風のことで、やがて津軽方面から黒雲が来ると 風向きは次第に西から北へとまわり、海上は大荒れとなったようです。

【伝承事例】
◇クダリが急にアイノカゼに変化することを「風がかわせる」という〈積丹町入舸〉
◇月の暮れ時に風が吹かなければ、決まって半日位は海が凪ぐ〈小樽市塩谷〉
◇島に雲がかかれば、ヤマセが吹く〈松前町原口〉
◇ヤマセが吹くと波が高くなり、海が荒れる〈函館市川汲〉
◇曇り空で東方の水平線だけが明るく見えたらシモカゼの前兆で、波のあとから突然に吹き 出す〈函館市元村町〉

北海道の風位呼称

風 位 積丹郡積丹町 松前郡松前町 北 斗 市 函 館 市
 北 シモカゼ シモカゼ アイ アイ
 北北東 アイノカゼ アイシモカゼ
 北東 シモカゼ
 東 ヤマセ ヤマセ ヒガシ ヤマセ
 南東 ヤマセ シモヤマセ
 南 クダリ クダリ ヤマセ クダリ
 南西 シカダ ヒカダ シカダ
 西 ニシ ニシ ニシ ニシ
 北西 タマカゼ ホクセイ タバカゼ
 北北西 アイ
 その他 ヨイチ

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青 森 県 2023/12/25

【地域特性】
 青森県は、太平洋から津軽海峡、そして日本海に及ぶ多様な海域に接しています。かつて はイカ釣り漁の盛んな時代があり、津軽半島や下北半島周辺では多くのイカ釣り船が点す漁 火(集魚灯)が見られました。
 調査は、1976年に下北半島沿岸と八戸市で実施したほか、2015年と2016年に三陸沿岸北部 や津軽半島沿岸域で聞きとりを行いました。風位体系は10方位を数え、基本の8方位に西南 西および北北西を加えた構成となっています。風位名の特性は、北風がキタおよびアイ系を 主体とし、東から南東にかけてはヤマセ、南の風がミナミおよびクダリ、西風がニシでほぼ 共有化されています。また、南西から西の風位に対するシカタ系も特性の一つです。

【伝承事例】
◇シモカゼは長く吹くことはないが、大波となって海が荒れる〈外ヶ浜町三厩〉
◇シカダは、海を荒らす恐ろしい風である〈外ヶ浜町三厩〉
◇春にニシ風が吹くと天気が荒れて大風となり、秋にクダり(南の風)が吹けばやはり天気 が荒れる〈鰺ヶ沢町小夜〉
◇昔は「風切りの鎌」といって、大風を鎮めるために玄関と裏玄関の2ヵ所に、鎌を取り付 けた棒(長さ約5mで杉の若木)を立てた〈鰺ヶ沢町小夜〉
◇ヤマセ(南東の風)が吹くと、魚が獲れなくなる〈鰺ヶ沢町本町〉
◇シカダ(南西の風)が吹くと、魚がさわぐ〈鰺ヶ沢町本町〉
◇アラシが吹くと、天気がよくなる〈深浦町深浦〉
◇ヤマセは、やがて北西へと風向きが変化する〈深浦町深浦〉
◇シカダは台風の季節になると吹く恐ろしい風である〈大澗町〉
◇ヤマセやオキノカゼは海上からくる風で、浜でも波が高くなる〈八戸市鮫町〉
◇ホクセイの風が吹くと、翌日は天気がよくなる〈階上町大蛇〉

青森県の風位呼称

風 位 東津軽郡外ヶ浜町 西津軽郡深浦町 下北郡大間町 八 戸 市
 北 アイカゼ キタ キタ
 北東 シモカゼ
 東 ヤマセ ヤマセ・アラシ オキノカゼ
 南東 ヤマセ ヤマセ
 南 ミナミ クダリ
 南西 クダリ シカタ クダリ シカタ
 西南西 シカダ シカダ
 西 ニシ ニシ ニシ
 北西 タマカゼ サガニシ
 北北西 アイノカゼ

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宮 城 県 2023/11/25

【地域特性】
 宮城県では2014年から2018年にかけて、中部から北部沿岸域を中心に調査を実施しました。 風位名の構成は、基本的な8方位で体系化されています。ただし、風位別にみると呼称が 共有される度合いは弱く、比較的緩やかな捉え方が認められます。特にナレェ(ナライ)や コチ、ヤマセなどについては、対象となる風位が複数に及び、地域的な特性が表れています。 それでも、北方ではキタやナレェが、さらに東方のコチ、南東のイナサ、南方のミナミ、西 方のニシについては、ある程度の共有化がみられます。
 なお、南三陸町ではハマゾイとモウギ(北東の風)が記録されていますが、これらは岩手 県南部の沿岸域と同じ分布圏を形成しており、星名における特性とよく似た状況を示してい ます。その他の風位名としては、塩竈市の浦戸桂島にテマドリサンという西風の呼称があり ます。テマドリとは、朝から始めて夕方に終了する手間取り仕事を指し、昼間どれだけ吹い ても夕方には凪いでしまう西風の特性を「手間取り」に譬えたものです。

【伝承事例】
◇コチが吹くと海が荒れる〈気仙沼市本吉町〉
◇ヤマが鳴るとナレェが吹く ※浜の近くにナリを聞く場所があり、ヤマの方からナリが聞 こえるときはナレェの強い風が吹く前兆である〈南三陸町歌津〉
◇雨三粒に風千石 ※南の風が、急に北西の大風(ナレェ)となって荒れることを表現して おり、雨が三粒も落ちぬ間に嵐になるという譬え〈南三陸町歌津〉
◇ミナミの風が吹くと沖が荒れるので、急いで網を揚げる〈東松島市宮戸〉

宮城県の風位呼称

風 位 気仙沼市 本吉郡南三陸町 東松島市 塩 竈 市
 北 ナレェ・キタ キタ ナレェ ヤマカゼ
 北東 モウギ ヤマセ・キタコチ
 東 コチ ヤマセ・コチ コチカゼ ヒガシ
 南東 イナサ イナサ
 南 ミナミ ミナミ・マエカゼ ミナミ ミナミ
 南西 ハマゾイ
 西 ニシ・ヤマセ ニシ ニシ ナラセ
 北西 ナレェ・ヤマカゼ ナレェ
 その他 テマドリサン

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秋 田 県 2023/09/25

【地域特性】
 秋田県では、2012年に男鹿市からにかほ市にかけての沿岸域で調査を行っています。この うち、男鹿半島一帯や南部の象潟周辺で比較的多様な伝承が記録されました。
 風位名の体系は全体として9方位で構成され、北の風位はアイノカゼやキタを主体とし、 南西の風はヒカタあるいはシカタが、そして東風のヤマセ、西風のニシ、北西風のタバカゼ が共有化された呼称となっています。その一方でダシに関しては、地域によって東風・南東 風・南風と風位が分散しており、各々が立地する地形の特性が影響を及ぼしているものと推 察されます。
 その他の風としてナガセがあり、特定の時節を象徴する存在です。

【伝承事例】
◇シカタは、クダリとともに海を荒らす風である〈男鹿市船川〉
◇北西の風が吹くと海が時化る〈男鹿市北浦〉
◇ダシは南東からの風が鳥海山にあたり、それが強い東風となって吹きつけるもので、風向 きはヤマセと同じだが性質は全く異なる〈にかほ市象潟町〉
◇ナガセ(南〜南西の風)は3月頃に吹く春の到来を告げる風で、日中は海が白く波立ほど 吹くが、夕方になるとピタリと止む〈にかほ市象潟町〉
◇ヒカタやタバカゼは、いずれも海を荒らす風である〈にかほ市金浦〉

秋田県の風位呼称

風 位 男鹿市A 男鹿市B 由利本荘市 にかほ市
 北 アイノカゼ アイノカゼ キタ シモカゼ・キタ
 北東 ヤマセ ウチカゼ キタアラセ シモヤマセ
 東 ヒガシ ヤマセ・ダシ ヤマセ・アラセ ヤマセ・ダシ
 南東 アラク ダシ ナントウ ダシ・ナントウ
 南 ダシ クダリ・オキカゼ ミナミ ミナミ
 南西 ヒカタ シカタ クダリ ヒカタ
 西南西 ニシシカタ
 西 ニシ ニシ・シモカゼ ニシ ニシ
 北西 タバカゼ タバカゼ タバカゼ
 その他 ナガゼ

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山 形 県 2024/04/25

【地域特性】
 日本海北部沿岸域の一部を形成する山形県では、1974年の飛島における調査を出発点とし、 その後2011年から2018年にかけて、沿岸域や内陸部の調査を行いました。
 風位名は基本的な8方位による体系ですが、その構成をみると同じ呼称が複数の方位にわ たって伝承されており、特に北東から南東にかけてはヤマセとダシに対する認識に地域的な 特性が表れています。それ以外では、シモカゼ(北風)、クダリあるいはシカタ(南西風)、 ニシ(西風)、タマカゼ(北西風)などで呼称の共有化が認められます。
 山形県といえば鳥海山や飛島などがよく知られていますが、各地の伝承でもこれらが風の 予測に重要な存在となっていることが分かります。

【伝承事例】
◇ヤマセ(北東の風)は吹いてもよいが、ナンセイの風は最もよくない風である〈遊佐町吹 浦〉
◇飛島がバケる(大きくはっきり見える)と大風の前兆〈遊佐町吹浦〉
◇鳥海山の雪がキラキラ光ると風が吹く〈酒田市山居町〉
◇鳥海山の手前を南から北へ雲が飛ぶと、早めに風がくる〈酒田市山居町〉
◇ヤマセは鳥海山から吹いてくる〈酒田市山居町〉
◇シモカゼ(北西の風)は飛島の方角から吹く〈鶴岡市小波渡〉
◇ダシノカゼ(北東の風)は酒田のほうから吹く〈鶴岡市温海〉
◇ヒガシの風が吹くと海が荒れるので、漁を休む〈鶴岡市温海〉
◇粟島の方角(南西)からクダリが吹き始めると、海は大シケとなる〈鶴岡市大岩川〉
◇ダシは、東から南にかけての方角から海に吹き出していく風をいう〈鶴岡市大岩川〉

山形県の風位呼称

風 位 飽海郡遊佐町 酒 田 市 鶴岡市A(北部) 鶴岡市B(南部)
 北 キタ シモカゼ ヤマセ・シモカゼ シモカゼ・アイノカゼ
 北東 ヤマセ ヤマセ ダシノカゼ
 東 ヤマセ・ダシ ヤマセ・ダシ ヤマセ・ヤマシ
 南東 ダシ ダシ ダシ
 南 クダリ ミナミ ミナミ クダリ・ダシ
 南西 クダリ・ナンセイ シカタ クダリ シカタ・クダリ
 西 ニシ ニシ ニシ ニシ
 北西 タマカゼ・アイノカゼ タマカゼ・シモニシ シモカゼ・シタカゼ タマカゼ・ホクセイ
 その他 ダシ

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茨 城 県 2024/03/25

【地域特性】
 茨城県では、利根川河口から北へ、鹿島灘を経て勿来に至る沿岸に漁港が点在しています。 また、霞ヶ浦や北浦などの内水面における漁業も盛んに行われてきました。調査は、1992年 から2019年にかけて内陸部と沿岸部で合わせて30回以上実施し、一部内水面漁業の従事者か らも伝承を記録しています。
 確認された風位名の体系は11方位と多様性が認められ、このうち6方位についてはほぼ共 有化が図られています。北の風がキタゲと呼ばれるほか、北東から東の風はコチあるいはコ ヂ、コヂゲなどで、南東風がイナサ、西の風はそのままニシとなります。南の風については、 北部沿岸域で南東風と同じイナサですが、南部沿岸域ではヤマゼが主体です。北西の風もマ カダを主体に、北部の一部地域ではナライが伝承されていました。内水面を有する小美玉市 でも、ナライは北西風のことです。
 なお、その他の風としてひたちなか市にナダゲが、大洗町にはタカノカゼがあります。い ずれも海風・陸風を指した呼称です。

【伝承事例】
◇ニシ風は日いっぱい ※日中は強い西風が吹いていても、日が沈むと静かになるという意 味〈北茨城市大津町〉
◇寒い時期にコヂゲが吹くと雪になることがあり、視界が急にわるくなる〈北茨城市大津町〉
◇ニシの大風、ムジナの風〈北茨城市平潟〉
◇こいのキタ風、いなせのイナサ、人情知らずのニシの風〈北茨城市平潟〉
◇11月から2月頃にかけて吹く強い風をナライという〈日立市川尻町〉
◇春のイナサはクロガネ(鋼)通す ※春先の強く冷たい風のことで、通常は南東からの風 をイナサと呼ぶ〈日立市河原子町〉
◇ニシ風と手間取りは日いっぱい〈日立市久慈町〉
◇親の三番、ヤマセの三日 ※博打で親になると有利に三番勝負ができることから、一度ヤ マセが吹くと三日は続くので、決して甘く見てはいけないという戒めの意味が込められてい る〈ひたちなか市平磯〉
◇夏の間は、午後になるとイナサ風が吹いて涼しくなる〈ひたちなか市平磯〉
◇コヂは風向が変化しないので、安心して漁に出られる〈ひたちなか市平磯〉
◇ナダ(海)から吹く風を総称してナダゲと呼ぶ〈ひたちなか市平磯〉
◇ナライはナダ(海)から吹く〈ひたちなか市和田町〉
◇タカノカゼは、陸から海に向かって吹く風をいう〈大洗町緑町〉
◇雨あがりや台風の吹き返しとなる西風をナレェという〈大洗町緑町〉
◇イナサ(南東の風)は恐ろしい風で、かつては利根川河口で船が転覆する事故が何度もあ った〈神栖市波崎町〉
◇雲足が速くなったら風が吹いてくる〈神栖市波崎町〉
◇ナレイ風(北西風)が吹くと、ワカサギが網に入る〈小美玉市高崎〉

茨城県の風位呼称

風 位 北茨城市 日 立 市 ひたちなか市 東茨城郡大洗町
 北 キタゲ・キタマカダ キタゲ キタゲ・ナライ
 北北東 マカダ キタマカダ
 北東 コチ コヂ コヂ コチゲ
 東 コヂゲ コヂ・ヒガシ コヂゲ コチゲ
 南東 イナサ イナサ イナサ イナサ
 南 イナサ イナサ・ミナミ ヤマゼ ヤマゼ
 南西 ニシ
 西 ニシ ニシ ヤマセ ニシ
 西北西 ニシナレェ
 北西 ナライ ナライ・マカダ マカダ
 北北西 ナレェ
 その他 ナダゲ タカノカゼ

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千 葉 県 2023/09/25

【地域特性】
 千葉県の沿岸域は、太平洋に面した外房地域と東京湾に面した内房地域に二分されます。 南部の館山市や南房総市では、いずれの海域にも接していますが、中部から北部にかけては 外洋あるいは内湾域という異なる海洋環境の対比が際立っています。ただし、風の伝承に関 しては最東端の銚子市を除いて、風位呼称の体系に大きな変化は認められません。
 調査は、沿岸部のほぼ全域に亘る漁港で2008年から2018年にかけて断続的に実施され、全 体として11方位に及ぶ体系とともに、多くの伝承記録を得ています。したがって、ここでは 基本的な8風位について、県内の特性を整理してみましょう。
@ 北の風
 内房の沿岸一帯から外房の九十九里以南の沿岸にかけて、ナライあるいはその転訛形であ るナレェがほぼ共有化された呼称となっています。また一部の地域でキタの記録がみられま す。ただし、銚子市においては茨城県以北に連なるマカダやキタマカダの系統が主流です。
A 北東の風
 北風系のナライや東風系のコチと同様に認識されている事例が目立ちます。内房では、ナ ライの他にシモサやヂダシがあり、外房ではコチがやや優占する傾向がみられ、一部でキタ ゴチやオキゴチが伝わっています。
B 東の風
 沿岸の全域において共有化されているのは、コチです。また、内房の一部でヒガシモンが、 外房の一部でオキモノあるいはオキモンが記録されています。
C 南東の風
 コチとともに全域での共有化がみられ、イナサがその主役です。地域によってはイナサモ ンやオキモンと呼ばれ、銚子市にはイナサゴヂ(東南東の風)があります。
D 南の風
 銚子市を除く各地でミナミと呼ばれるものの、伝承がない地域も目立ちます。総じて、南 方からの風に対しては関心が低かったものと推察されます。なお、銚子市ではヤマセあるい はヤマゼと呼ばれます。
E 南西の風
 一般的な呼称はナンセイで、一部西風系のニシと捉えている事例がみられます。全体とし て、伝承のない地域が目立ちます。
F 西の風
 外房・内房ともに、ニシの呼称で共有化されています。一部で北西風系のサガやサニシが みられ、他にマニシやオオニシなどの記録があります。
G 北西の風
 銚子市を除く沿岸域全体を通じて、サガ・サガニシ・サニシを主体とした呼称が伝承され ています。一方、銚子市においては北風系と同じマカダやキタマカダと呼ばれ、ほぼ同じ領 域として認識されているようです。他にオヤマカゼやカラッカゼ(木更津市)、ニシバイテ (鋸南町)などの記録があります。なお、サガに関してはサガメ・サガッポ・サガンマイ・ サガモンなど多様な転訛形が確認されました。
H その他の風
 館山市のヒガンジケ、南房総市のヤマオロシ・アメナレエ・サガナレェ、鋸南町のアマハ ラシ、市川市のシオテカンダチ・ニッコウカンダチなどがあります。これらの詳細は、以下 の「伝承事例」に記しました。

【伝承事例】
@ 俚 諺
◇宵イナサの朝マダカは凪 ※夕方に南東の風が吹いて、翌朝北風が吹くようであれば凪に なるという意味〈銚子市黒生〉
◇ヒヨウトリの西風も日が沈むと凪 ※ヒヨウトリは日雇いのことで、日中にどれだけ西風 が吹いても太陽が沈めば凪になるという意味〈旭市下永井〉
◇寒い風だよナライの風は、人を殺すはコチの風 ※ナライは身を切るような冷たい風で、 コチが吹けば海が荒れて漁に出られないことを「人を殺す」と表現したもの〈いすみ市大原〉
◇寒中は雨一粒に波千石 ※寒中に雨が降ると、風もないのに波が高くなり、海が荒れると いう意味〈勝浦市吉尾〉
◇沖が暗いのイナサか雨か〈南房総市富浦町〉
◇オオニシ(西風)のからっ風、サガの八日ぶり ※かつては冬型の気圧配置が強まると、 強い西風が8日間も続くことがあった〈鋸南町勝山〉
◇お山にサンガイ(雪を被った富士山に棚引く雲)、筑波にチョウチョ(筑波山にかかる蝶 々雲)、東にドテつきゃ(東の低空に土手のような雲が湧くこと)、ナライのもと〈木更津 市吾妻〉
◇サニシの八日ぶり ※サニシ(北西の風)は1〜2月に強く吹く風で、一度吹き始めると なかなか治まらないことを表現している〈袖ケ浦市奈良輪〉
A 風位名の伝承
◇それまで吹いていた風が、朝方コヂに変わることをアサガエシという〈銚子市黒生〉
◇3〜5月の朝には必ず東風が吹き、ヒトコイコチあるいはヒソコイコチという〈勝浦市浜行川〉
◇ハヤテは波殺しの風なので、海はあまり荒れることがない〈勝浦市吉尾〉
◇背後の山から吹き下ろす風をヤマオロシという〈南房総市日倉町〉
◇コチは冷たい風で海は時化となって雨が降り、イナサも時化風なので出漁できなくなる〈館山市 洲崎〉
◇春の彼岸頃に吹く強い南風(春一番)をヒガンジケという〈館山市伊戸〉
◇サガは富士山から吹き下ろしてくる風で、オヤマカゼともいう〈館山市波左間〉
◇東京湾の上空が黒くなると、ナレェが吹く〈館山市波左間〉
◇お天道さまの左右にコヒ(幻日)が現れると、1日か2日のうちにアメナレェ(北東の風) が吹いて雨が降り、海が荒れた〈南房総市富浦町〉
◇サガナレェ(北西の風)が吹くと天気は回復する〈南房総市富浦町〉
◇ナライ(北東の風)の風にのってくる雨をシムイタといい、ナンセイの風が運んでくる雨 をドウゴシという〈南房総市富浦町〉
◇雨あがりに吹く南西の風をアマハラシと呼ぶ〈鋸南町保田〉
◇明鐘にカンムリ(雲)がかかると強い南風が吹く ※明鐘は鋸山の尾根のことで、かつて はこの南風が75日間も続いたことがあった〈鋸南町保田〉
◇凪の海で、海面の一部が黒くなっては消え再び黒くなっては消えるのを繰り返していると、 急に大風が吹いて海が荒れることがあり、これをカザコと呼ぶ〈富津市小久保〉
◇北東や東の風が吹くと天気は下り坂になるが、サガモン(北西の風)は晴れる〈木更津市 吾妻町〉
◇空に黒い雲が出て、急に吹く突風をシュウテという〈木更津市中島〉
◇夏の土用の最中にナレェが吹くと、そろそろ秋になるのでアキカゼともいう〈木更津市 牛込〉
◇ヒガシモン(東風)が吹くと、翌日は雨になる〈袖ケ浦市奈良輪〉
◇冬期に吹くナレェやサニシは、ときに雷を伴った突風となり、カンダチと呼ばれる。西か ら吹くのはシオテカンダチで、北からはニッコウカンダチが吹く〈市川市塩浜〉
◇イナサ(南東風)が吹くと、海が荒れる〈勝浦市・鴨川市・南房総市・館山市・鋸南町〉
B その他の伝承
◇ちぎれ雲が飛ぶようになったら、じきに風が出るので「蝶々が飛んだ」といい、利根川に 白波が立つと風が出るので「ウサギが飛んでる」という〈銚子市本城町〉
◇沖合低く雲が横に広がった状態を「ドテがつく」といい、これが現れると風が出る〈旭市 下永井〉
◇水平線に黒い雲が出ると、風が強くなる〈いすみ市大原〉
◇朝に海からナリが聞こえると、その日は西風が強く吹く〈いすみ市岩船〉
◇曇り空から、やがて西あるいは南が晴れ上がると、その方角から風が吹く〈勝浦市松部〉
◇大島が照れば(よく見えると)風が吹く〈南房総市白浜町〉
◇富士山がはっきり見えると風が出る〈南房総市富浦町〉
◇鋸山に靄がかかれば南風が吹く〈鋸南町勝山〉
◇富士山の西側に雲がかかれば北風が吹き、東側に雲がかかると西風が吹く〈鋸南町勝山〉
◇大島に雲がかかると下風が吹く〈富津市金谷〉
◇イタメゾラ(木目模様の空)になると、風が吹く〈木更津市潮見〉
◇西からちぎれ雲が上ってくると、その方角から突風が吹く〈船橋市湊町〉

千葉県の風位呼称(外房沿岸)

風 位 銚 子 市 いすみ市 勝 浦 市 南房総市
 北 キタマカダ・マキタ キタ ナライ ナライ・キタ
 北東 オキゴチ コチ キタゴチ コチ
 東 ゴチ オキモノ コチ・オキモン コチ
 東南東 イナサゴヂ ヤマデ
 南東 イナサ イナサ イナサ イナサ
 南 ヤマゼ・ヤマセ ミナミ ミナミ ミナミ
 南西 ニシヤマ ナンセイ ナンセイ ヤマオロシ
 西 ニシ サガ・サガニシ ニシ
 西北西 サガメ
 北西 マカダ ナライ ハヤテ・サガメ サガニシ・サガ
 その他 ハヤテノカゼ ヂダシ

千葉県の風位呼称(内房沿岸)

風 位 館 山 市 富 津 市 木更津市 船 橋 市
 北 ナライ・ナレェ ナライ・ナレェ ナライ・ナレェ キタ
 北東 コチ シモサ シモウサ ホクトウ
 東 ヒガシモン・コチ コチ ヒガシモン・コチ コチ
 南東 イナサ イナサ イナサ ヤマゼ
 南 ミナミ ミナミ ミナミ ミナミ
 南西 ナンセイ ナンセイ ナンセイ サガ
 西南西 サニシ
 西 ニシ ニシ ニシモン ニシ
 北西 サガ・オヤマカゼ サガ・サニシ サガ・サニシ ナライ・ナレェ
 その他 ヒガンジケ カザコ アキカゼ・シュウテ

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神奈川県 2023/12/25

【地域特性】
 神奈川県の沿岸域は、三浦半島を介して東側が東京湾に面し、西側は相模湾の一部を形成 しています。横須賀市や三浦市は双方の海域に接しており、特に漁業の盛んな地域として知 られています。
 調査は、一部の漁港を除いて2008年から2018年にかけて断続的に行われ、半島南部を中心 に多くの伝承が記録されました。風位体系は、全体として11方位あり、基本的な風位呼称は 千葉県などと共有する事例が多くみられます。以下に、標準となる8風位の特性を示します。
@ 北の風
 東京湾および相模湾ともに、ナライあるいはその転訛形であるナレェがほぼ共通の呼称で す。一部でキタの記録があるほか、西部の二宮町においては真北の風を特別にヤマジと称し ていました。
A 北東の風
 伝承記録のない地域もありますが、千葉県と同じようにコチあるいはシモウサ系の呼称が みられます。コチは、東風に対しても使われています。
B 東の風
 コチが沿岸全域で標準化されており、一部でヒガシモンも併用されています。これは、千 葉県の東京湾沿岸地域から連なる特性といえます。
C 南東の風
 どの沿岸域もイナサで共有化が図られ、東北の宮城県から西は静岡県の沼津あたりまで広 範囲に分布します。南東風の代表的な呼称の一つといえるでしょう。なお。横浜市金沢区の 一部ではシモウサ系の呼称がみられます。
D 南の風
 通常は重要な風位ですが、神奈川県の場合は総体的に関心が低いと感じられます。東京湾 沿岸ではミナミあるいはシタヨウキが伝承され、相模湾沿岸でも表に掲載されていない横須 賀市荒崎や茅ヶ崎市、大磯町などでミナミの記録があります。
E 南西の風
 この風については、いずれの沿岸域でも風位名の共有化はみられず、サガ、ナンセイ、ナカ ニシなど変化に富んでいます。ナカニシは、愛知県や三重県で主に北西の風に対する呼称とし て知られ、それが湘南地域に伝わった可能性があります。ちなみに、三重県紀北町では南西の 風をナカマニシと呼んでいます。
F 西の風
 総体的に、ニシあるいはニシモンの呼称で共有化が図られています。千葉県と同じように、 一部で北西風が主体のサガを伝承している地域があります。
G 北西の風
 東京湾の千葉県側で主要なサガ系の呼称は、さらに相模湾沿岸一帯から駿河湾の沼津や静岡 辺りまで分布しています。ただし、一部の地域にはナライ系やダシ系呼称があり、前者には横 須賀市でアカンボナライと呼ばれる事例があります。
H その他の風
 台風通過後の吹き返しの強風はベットウと呼ばれ、藤沢市ではニシベットウと称しています。 二宮町のアテカゼあるいはオトシカゼも、前線の通過に伴う特別な風として恐れられた風です。 具体的な伝承内容は、以下の「伝承事例」に記載しています。

【伝承事例】
T.東京湾沿岸地域
◇南の空が傘のようになることをカサゾラといい、南西の強い風が吹く〈横浜市金沢区〉
◇サニシは、富士山から吹き下ろしてくる風をいう〈横須賀市安浦町〉
◇イナサ(南東の風)が吹くと海が荒れるので漁には出ないが、この風は二百十日頃が吹き 始めで、その前の8月24日頃の一番風は「盂蘭盆の荒れ」といい、8月27〜28日頃の二番風 を「諏訪の荒れ」と呼ぶ〈横須賀市走水〉
◇アカンボナライは、空を赤く染めて吹く北西からの強風をいう〈横須賀市鴨居〉
◇ちぎれ雲が飛ぶと、西風が吹く〈横須賀市久比里〉
◇コチ(東の風)が吹くと、海が時化る〈三浦市上宮田〉
◇サガ(北西の風)が吹くと、暫くして雨が降り魚がいなくなる〈三浦市上宮田〉
◇ナライ(北の風)が吹くと、海が荒れる〈三浦市金田〉
◇ヒガシの風が吹くと、うねりが高くなる〈三浦市金田〉
◇ニシの風が吹くと海が時化るといい、手漕ぎ船の時代には漁に出てこの風に遭うと漁港に 帰れず、金田へ避難した〈三浦市松輪〉
U.相模湾沿岸地域
◇富士山の左側に雲がかかると「お山がナレェ(北の風)になる」という〈三浦市城ケ島〉
◇富士の内側に雲がかかると、風が吹く〈三浦市城ケ島〉
◇コチは陽気がいいと吹く風で、海は凪になる〈三浦市城ケ島〉
◇イナサは恐ろしい風で、沖から大波がくる〈三浦市城ケ島〉
◇朝方、港内の海水面から蒸気が立ち上がると、これをカワケといって南西の風が吹く〈三 浦市三崎町〉
◇イナサ(南東の風)は裏の高台の林から吹き下ろす風で、港内は穏やかだが外海は波が高 くなる〈三浦市諸磯〉
◇サガは冬の間、前(海)から吹きつける風である〈三浦市諸磯〉
◇ヒガシモン(東の風)が吹くと、天気はよくない〈三浦市諸磯〉
◇沖から風が吹いて降るにわか雨をデエナン時雨といい、大山方面から吹く風で降る雨をオ オヤマ時雨と呼ぶ〈横須賀市荒崎〉
◇南方の海でウミナリがあると、その方角から風が吹く〈横須賀市荒崎〉
◇春先には、雨が降った後に風が強くなる〈横須賀市荒崎〉
◇サガッポ(北西の風)よりも弱い風をニシナライという〈横須賀市荒崎〉
◇ヒガシモン(東の風)が吹くと、天気がわるくなる〈横須賀市荒崎〉
◇台風が通過するとイナサ(南東の風)が次第に西へ回り、最後に吹き返しで強く吹く北北 西の風をベットウという〈横須賀市長井〉
◇対岸の伊豆の山々に雲がかかると、風が出る〈横須賀市長井〉
◇イナサが吹くと、陽気がわるくなる〈横須賀市長井〉
◇サガニシ(北西の風)が吹くと、北国は大雪となる〈横須賀市佐島〉
◇ヒガシモン(東の風)が吹くと、陽気がわるくなる〈横須賀市佐島〉
◇ベットウというのは、台風が通過した後に北西から吹く強い吹き返しの風である〈横須賀 市秋谷〉
◇台風の通過によって発生する吹き返しの強風をベットウという〈葉山町堀内〉
◇稀に太陽の脇に虹を切ったようなコビが現れると、ニシ風が吹いてニシ時化となり、これ が北に出た場合はナライ時化になる〈鎌倉市腰越〉
◇サガは正月頃を中心に箱根から吹き下ろす強風で、これが吹くと海が荒れる〈鎌倉市腰越〉
◇コチは特に春先に吹く風で、シモウサモンともいう〈鎌倉市腰越〉
◇ニシベットウは寒冷前線が通過するときなどに吹く突風で、通常は上から吹き下ろす北あ るいは西寄りの風をいう〈藤沢市片瀬〉
◇サガというのはサカ(逆さ)の意味で、風向きが逆になることから出た呼称である〈藤沢 市片瀬〉
◇サガニシ(北西の風)が吹くと、富士山がよく見える〈藤沢市江の島〉
◇冬から春先にかけて、寒冷前線に向かって吹き込む北寄りの風をアテカゼあるいはオトシ カゼと呼び、やがて西風へと変化する。もし海上でアテがきたら、漁を中断してすぐに逃げ 帰った〈二宮町梅沢〉
◇イナサは海から吹いてくる強風で、天気が大荒れになるとイナサジケといって危険である 〈二宮町梅沢〉
◇寒明け頃に吹く強い真北の風をヤマジという〈二宮町梅沢〉
◇ちぎれ雲が出ると、風が強くなる〈湯河原町福浦〉
◇コチが吹くと、海が荒れる〈湯河原町福浦〉

神奈川県の風位呼称(東京湾沿岸)

風 位 横 浜 市 横須賀市A 横須賀市B 三 浦 市
 北 キタ ナライ・オオナライ ナライ ナライ・ナレェ
 北北東 ヒガシナライ
 北東 コチ シモウサナライ
 東 コチ ヒガシモン コチ コチ・ヒガシモン
 南東 イナサ・シモサ イナサ イナサ イナサ
 南 ミナミ シタヨウキ ミナミ
 南西 サガ ナンセイ シタ
 西 ニシ ニシモン ニシ ニシ
 西北西 サニシ
 北西 ナレェ アカンボナライ・ダシカゼ サガ・サガッポ
 北北西 ニシナライ
 その他 ベットウ イナセ

神奈川県の風位呼称(相模湾沿岸)

風 位 三浦郡葉山町 鎌 倉 市 藤 沢 市 中郡二宮町
 北 ナライ ナライ ナライ ナライ・ヤマジ
 北東 コチ・シモウサモン ヤマセ
 東 ヒガシモン コチ コチ コチ
 南東 イナサ イナサ イナサ イナサ
 南
 南西 ナカニシ ナンセイ
 西 ニシモン ニシ・サガ ニシ ニシ
 北西 サガナレェ・ベットウ サガ・ダシノカゼ サガニシ サガ
 その他 ニシベットウ アテカゼ・オトシカゼ

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新 潟 県 2024/01/25

【地域特性】
 新潟県では、1976年に佐渡島北部で聞きとりを実施したあと、30年以上の空白を経て2012 年から2015年にかけて新たな調査を行いました。したがって、島嶼以外の沿岸域では全て近 年の記録となります。
 風位体系は標準的な8方位で構成されていますが、個々の風位呼称では北風や南風を中心 に多様性がみられます。風位別の地域特性で共有化が図られているのはほぼ西風に限られ、 それ以外の風位では同じ呼称が異なる風向を示す事例が多く認められます。これらは、カミ カゼ、クダリ、シモカゼ、ダシ、ヤマセなどによく表れています。たとえばダシを例にとる と、東風が村上市、南東風が出雲崎町、南風が出雲崎町および柏崎市・糸魚川市、西風が村 上市という具合に、同じ市内にあっても正反対の風向に利用されていることが分かります。 また、日本海沿岸を代表するアイノカゼについてみると、北風を示すのが村上市と出雲崎町 で、糸魚川市では北風と東風を対象としています。このうち、村上市の場合は古い世代の呼 称とされているのが特徴です。
 その他の風位名では、村上市で台風に関係した呼称としてフキカエシがあり、出雲崎町に は本来の南西風だけでなく、5月という期間限定の西風を対象とする2種類のクダリが伝承 されています。

【伝承事例】
◇海上から、鳥海山がはっきり見えるときはシモカゼが吹き、佐渡島がはっきり見えるとき はカミカゼが吹く〈村上市寝屋〉
◇フキカエシというのは、台風の通過によって風向きが変わり、最後に吹く強風をいう〈村 上市寝屋〉
◇同じ東風でも、アラシは天気がよいがダシの場合は荒れる〈村上市桑川〉
◇シモニシでは海が一日中穏やかだが、ヤマセが吹くと時化る〈相川町姫津〉
◇カミゲは西からの強風で海を荒らすが、5月の場合は「クダリの夕凪」といって夕方にな ると凪ぐ〈出雲崎町住吉町〉
◇オキカゼは、佐渡の方角から吹く風である〈出雲崎町住吉町〉
◇アイノカゼは、北西から東にかけてアイノ国(東北6県)で広く吹く〈出雲崎町尼瀬〉
◇マウチは南東の風だが、3〜6月にかけて吹くのはダシという〈出雲崎町尼瀬〉
◇アラセはダシとも呼び、南に山があるので強く吹いても沖は荒れることがない〈糸魚川市 市振〉

新潟県の風位呼称

風 位 村 上 市 佐渡郡相川町 三島郡出雲崎町 糸魚川市
 北 ヤマセ・シモカゼ アイノカゼ・シモゲ タカカゼ・オキゲ
 北東 シモヤマセ
 東 ダシ・アラシ ヤマセ ヤマセ シモカゼ
 南東 アラシ ヤスクダリ マウチ・ダシ
 南 カミカゼ・クダリ マクダリ ダシ・ミナミ ダシ・アラセ・アラシ
 南西 ナンセイ カミタカゼ クダリ
 西 ニシ ニシ ニシ・カミゲ ニシ・カミカゼ
 北西 ホクセイ シモニシ オキカゼ
 その他 フキカエシ・アエノカゼ クダリ アイノカゼ

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富 山 県 2023/07/25

【地域特性】
 富山県の沿岸域については、2012年から2013年にかけて概ね調査を実施し、このうち4ヵ 所ほどの自治体で体系的な風の伝承を記録できました。その構成は、9方位によって示され ます。
 まず、北方からの風は北北東や北東も含めて、アイノカゼが主体です。東風はシモカゼ・ ウチアイ・ヤマセ、南東風はヤスイ・ヤスモン・クダリ、南風もダシ・アラセ・ヒカタなど、 南西風も含めて多様な呼称があり、地域(漁港)によって対象となる方位が入れ替わるとい う特性がみられます。また、西風についてはニシを主体にカミカゼなどがあり、北西風は西 部の沿岸域でタバカゼあるいはタカカゼと呼ばれています。
 なお、氷見市では山(ヘタ)側から海へ吹く風をヘタカゼ、反対に海(オキ)側から陸へ 吹く風をオキカゼと称しています。いずれにしても、アイノカゼ以外は漁港の位置や地形な どの違いによって、同一呼称であっても風位が異なる実態がみられるようです。

【伝承事例】
◇ダシ(南の風)は山の上から吹き出すので、沖合までは荒れない〈朝日町宮崎〉
◇アイのこば吹きゃ雨となる ※夕方になってアイノカゼがそよそよ吹くと、やがて雨が降 ってくるという意味〈朝日町宮崎〉
◇婆さまたちの長いお喋りとアイの長吹きゃ雨のもと ※年寄が集まると、その果てないお 喋りで涙を誘われ、アイノカゼが長く吹けば雨降りのもとになるという意味〈朝日町宮崎〉
◇魚津で最も怖いのはアイノカゼだが、昔のイカ釣り船はこの風を帆いっぱいに受けて四方 沖へ出漁し、帰りはアラセを受けて港へもどってきた〈魚津市火の宮町〉
◇アイノカゼがそよそよ吹くときは、天気が安定している〈射水市港町〉
◇ダシ(西の風)が吹いたら、必ず吹き返しの風が吹く〈氷見市中波〉

富山県の風位呼称

風 位 下新川郡朝日町 魚 津 市 射 水 市 氷 見 市
 北 アイノカゼ アイノカゼ アイノカゼ
 北北東 アイノカゼ アイノカゼ
 北東 ホクトウ アイノカゼ ヤマセ アイノカゼ
 東 シモカゼ・ウチアイ ヤマセ
 南東 ヤスイ・ヤスモン クダリ
 南 ダシ アラセ ヒカタ
 南西 クダリ ヤスカゼ
 西 クダリ・カミカゼ ニシ ニシ ダシ
 北西 タカカゼ タバカゼ
 その他 ヘタカゼ・オキカゼ

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福 井 県 2023/11/25

【地域特性】
 福井県の調査は、2013年から2018にかけて3回実施しています。主体は若狭地方ですが、 越前地方も3ヵ所ほど歩くことができました。風位体系の構成は11方位に及び、呼び分けの 多様さがみられます。特に美浜町において、西北西(ニシマカゼ)、北西(マカゼ)、北北 西(アイマカゼ)の各風位について具体的な目標物を設定していたことは、微妙な風位の変 化を捉える必要があったからに相違ありません。
 風位別の構成をみると、北の風はアイノカゼが主体で、南の風ではダシあるいはミナミが、 西風はニシという具合に共有化が認められるものの、他の風位に関しては比較的多様な呼称 が伝承されています。たとえば、高浜町においては南風をヘタカゼあるいはヘタノカゼと呼 び、これより東に寄るとヒガシノヘタ、また西に寄るとニシノヘタと呼び分けています。ヘ タカゼは、富山県氷見市にも伝承されており、北陸地方特有の呼称と考えられます。なお、 ヘタカゼに対応する北方(沖合)からの風がオキカゼとなります。
 その他の風位名では、越前町にオオクダリがあり、カミカゼ(南風)の特に強い場合に使 われます。また、美浜町のアラシカゼは3月中旬から12月中旬にかけて朝方(4時から8時 頃)に吹く南の風で、アサアラシとも呼ばれます。

【伝承事例】
◇クダリ(南の風)は、カミ(南)からシモ(北)へ向かって吹く風〈三国町安島〉
◇ウラニシが吹くと海が荒れる〈越前町厨〉
◇ヤマセは、山から吹き下ろす風をいう〈越前町厨〉
◇タバカゼは北寄りの突風のことをさす〈小浜市西津〉
◇風がダシからニシに変わり、さらに北西へと変化すると海は大荒れとなる〈高浜町塩上〉
◇ヤマセが強く吹くと、海が荒れる〈高浜町和田〉

福井県の風位呼称

風 位 丹生郡越前町 美方郡美浜町 小 浜 市 大飯郡高浜町
 北 アイノカゼ・キタカゼ アイノカゼ タバカゼ・キタ アイノカゼ・オキカゼ
 北東 ヤマセ アイノカゼ
 東 ヤマセ コチ・アイノカゼ ヤマセ
 南東 ヒガシノヘタ
 南 カミカゼ・ダシ ミナミ ダシ・ミナミ ダシ・ミナミ
 南西 ウラニシ ニシノヘタ・ダシ
 西南西 シラニシ
 西 ニシ ニシ ニシ
 西北西 ニシマカゼ
 北西 タバカゼ マカゼ マカゼ・ホクセイ
 北北西 アイマカゼ
 その他 オオクダリ アラシカゼ・アサアラシ ヘタノカゼ

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愛 知 県 2023/10/25

【地域特性】
 愛知県の調査は、2012年から2019年にかけて3回実施しました。知多・渥美の両半島に囲 まれた内湾域と伊勢湾を中心に、一部の島嶼を含む漁業地が対象です。風の伝承では、知多 半島の沿岸域で多様性が認められます。
 風位を構成する体系は、複数の方位を示すベットウゴチ(東北東中心)を含めると12方位 に及び、漁師らの風に対する関心の高さが窺われます。各地域に共通するのは、キタッポ (北風)、ベットウあるいはナライ(北東風)、コチ(東風)、ヤマゼあるいはイナサ(南 東風)、マゼ(南風)、ニシあるいはマニシ(西風)、ナカニシ(北西風)です。南西風に ついては、常滑市にコウヤマやヒカタ(ヤマゼともいう)があり、前者がそよそよと吹く風 に対し、後者をシケ風とする呼び分けがみられます。他にシタブキ(東南東風)、オオマニ シ・スズカオロシ(西南西風)、アマゴチ(東風)、イブキオロシ(北西風)などが知多半 島で伝承されていました。

【伝承事例】
◇朝キタ 夕マゼ ※朝船を出すときは北寄りの風が吹き、日中はマゼに変わることをいう 〈田原市中山〉
◇ヤマゼが強く吹くと海が荒れて出漁できない〈田原市中山〉
◇ヤマゼよりヒトナミが怖い ※海が大荒れとなるヤマゼの風よりも、人の噂のほうがもっ と怖いという意味〈西尾市西幡豆〉
◇アマゴチは東から吹くコチ風で、雨を呼ぶ風〈常滑市蒲池町〉
◇オオマニシは少し南寄りの西風で、1年に数度吹く強風〈常滑市蒲池町〉
◇イブキオロシは秋から3月頃にかけて吹く季節風で、伊吹山に積もった雪の影響で冷たく 寒い〈常滑市蒲池町〉
◇伊勢のコウヤマに吉田のナライ、尾張のキタ吹きゃいつも吹く〈常滑市蒲池町〉
◇シタブキは日間賀島と篠島の間から吹く風で、海が大荒れとなるため最も注意する〈知多 郡南知多町師崎〉

愛知県の風位呼称

風 位 田 原 市 西 尾 市 常 滑 市 知多郡南知多町
 北 キタッポ キタッポ キタッポ キタッポ・キタ
 北北東 ベットウ
 北東 ベットウ ナライ・ベットウ ナライ ナライ・ベットウ
 東 コチ コチ コチ・アマゴチ コチ・コチブキ
 東南東 シタブキ
 南東 ヤマゼ イナサ ヤマゼ・ヤナセ イナサ・ヤマゼ
 南 マゼ マゼ・ヤマゼ マゼ マゼ・ヒヨリマゼ
 南西 コウヤマ・ヒカタ・ヤマゼ ヤマゼ
 西南西 オオマニシ オオマニシ
 西 マニシ ニシ・マニシ ニシ・マニシ ニシ・マニシ
 北西 ナカニシ ホクセイ ナカニシ・イブキオロシ ナカニシ・ホクセイ
 その他 ベットウゴチ スズカオロシ

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