『歴史評論』第606号(2002年10月号)に掲載された「特集 視覚史料と歴史学」の「特集にあたって」は、「歴史学が新たな史料学を模索している今日……文献史料以外の諸資料・史料に対する、歴史学の立場からの分析方法を提起していくことが問われている」という現状認識を示しました。それから二〇年あまり、現在の歴史学においては、視覚的な情報を主とするビジュアル資料をもちいた研究はさまざまな分野で定着してきており、多くの成果が蓄積されています。
本特集では、多様な時代と対象をとりあげ、ビジュアル資料を用いた歴史研究の現在地を確認したいと考えます。文字で記録された文献資料とは異なる性格を持つビジュアル資料の分析によって、どのような歴史像が提示されているのか、これまでに蓄積された成果を確認するとともに、現時点で展望されているビジュアル資料の新たな可能性もご紹介します。
ビジュアル資料は、描かれた時代によって特性が異なります。本特集の論考のうち、必ずしも写実を重視しない前近代の資料を扱った論考では、絵画的表現を通じた制作者の主張や意図を踏まえつつ、描かれた内容について分析されます。一方、近現代の資料を扱った論考では、描き手が直面した災害(人災)や戦争、政治闘争といった生々しい経験をいかに読み取るかが重視されています。
本特集を通じて、ビジュアル資料によって描き出される歴史を実感していただければと思います。(編集委員会)
* | 特集にあたって | 編集委員会 |
論 文 | 中世荘園絵図研究の軌跡と展望 The Trajectory and Future Prospects of Research on "Shoen ezu" |
井上聡 INOUE Satoshi |
論 文 | 戦国合戦図屛風研究の論点 Issues in Historical Study of “Sengoku Battle Screen Paintings” |
高橋修 TAKAHASHI Osamu |
論 文 | ひざまずく髭面のペルリ ―黒船かわら版におけるアメリカ人像の検討― Non-Japanese elements in portraits PERURI (Commodore Perry):Examining the image of Americans in Woodprints Kawaraban |
田中葉子 TANAKA Yoko |
論 文 | 「描いて記録した朝鮮人虐殺」から見えてきたもの ―関東大震災の記録画に光をあてて― What Emerged from "Genocide of Koreans Recorded with Painting": Shedding Light on Painted Records of Great Kanto Earthquake |
新井勝紘 ARAI Katsuhiro |
論 文 | すみだの東京空襲体験画研究の試み Study of Tokyo Air Raid Paintings by Survivors at Sumida Heritage Museum |
石橋星志 ISHIBASHI Seishi |
論 文 | 韓国の民衆美術―記憶闘争の視覚化 Korean Minjung( People's )Art : Visualizing the Memory Struggle |
古川美佳 FURUKAWA Mika |
* | 《第57回大会報告を聞いて》 〈いま・ここ〉とはどこで、〈パブリック〉とは誰なのか?―大会報告(初日)コメント |
長志珠絵 |
* | 《第57回大会報告を聞いて》 大会報告一日目 「歴史学の現在と理論的課題」を聞いて |
廣木尚 |
歴史のひろば | 方向性の喪失?―民主化後三〇年、南アフリカ歴史学の現在― |
上林朋広 |
科学運動通信 | 大山古墳限定公開 参加記 |
阿部大誠 |
紹 介 | 森公章校訂『参天台五臺山記』全二巻 |
手島崇裕 |
* | 二・一一集会―各地の記録 |
七海雅人 宮崎智武 堀田慎一郎 北泊謙太郎 杉田義 |
* | お詫び |
編集委員会 |