『歴史評論』2024年5月号(第889)/ Historical Journal(REKISHI HYŌRON) May 2024 vol.889

特集/「ポスト・トゥルース」時代のドイツ現代史研究 “Studies on German Modern History in the Age of“Post- Truth” ”

定価 1,045円  


 昨年(2023年)はナチによる政権掌握から九〇年という節目の年でした。ナチが「良いこともした」という「神話」を検証する本がベストセラーになったことは記憶に新しいでしょう。ここ数年、ナチやファシズムに関する書籍が出版されていますが、その背景には右派ポピュリズムの伸張や紛争の多発など社会不安の蔓延から、ヴァイマル共和国末期との類似を指摘する議論もあります。しかし、社会からの注目に反して学界での関心はそれほど高くありませんでした。それはドイツも同じで、ルール地方占領やハイパーインフレがあった一九二三年のほうがどちらかと言えば注目されているようです。ドイツ現代史研究はナチ体制やその政策についての研究も目覚ましく発展しています。例えば、ナチの支配については、人びとの支持、協力、黙認を得て政権を維持できたという「賛同による独裁」論が主流となっています。また、戦時性暴力に加え、近年では女性の体制協力も注目されるようになりました。このような研究の進展とは裏腹に、戦争遂行と民族共同体の維持という背景を捨象したナチ支配の矮小化や無害化を図る言説がSNSを中心にあふれています。
 本特集では、こうしたナチに関する「神話」や、ナチが行った政策、またナチ支配に人びとがどう向き合ったのかなどについて、五名の方にご検討いただきます。一般に流布するイメージと研究成果のギャップ、体制馴化や人びとと権力との関係性、ジェンダーの問題など、提示される論点は多岐におよびます。各論考から、ドイツ現代史研究の現在地に加え、一見「正論」であるかのように錯覚してしまう俗説の危険性とその起源、そして歴史学に携わる者としてそれらにどう向き合うのか問われていることが明らかになるでしょう。本特集を通じて、ナチをめぐる「神話」をただし、歴史をどう語るのか、考えていきたいと思います。(編集委員会)

   *  特集にあたって 編集委員会
論   文 ヴァイマル共和国研究の現在 ―「1923」「1933」のアクチュアリティ―
Current Scholarship on the Weimar Republic 
小野寺拓也
ONODERA Takuya
論   文 激動の二〇世紀を「よき教師」として生きる ―ヒルデガルド・フォン・ギールケの場合―
Living in Tumultuous 20th Century as a ‘Good Teacher’: The Case of Hildegard von Gierke
小玉亮子
KODAMA Ryoko
論   文 ナチ時代のドイツ女性を再考する
Rethinking German Women in the Nazi Era
井上茂子
INOUE Shigeko
論   文 抵抗と再建のはざまで ―「ドイツ零時」における社会運動―
Between Resistance and Reconstruction: Social Movements in ’Stunde Null’ in Germany  
土肥有理
DOHI Yuri
論   文 「ナチスの発明」の起源 ―源泉徴収をめぐる俗説と「1940年体制」論―
The Origin of the "Nazi Invention"
田野大輔
TANO Daisuke
論   文 天保期の福井藩用水改革と地域社会
Fukui Domain’s Irrigation Water Reform and Local Communities in the Tenpo Era
黒滝香奈
KUROTAKI Kana
書   評 遠藤廣昭著『中世曹洞宗の地域展開と輪住制』
小西洋子
書   評 松本俊郎編『「満洲国」以後』
菅野智博
紹   介 鎌倉佐保・木村茂光・高木徳郎編著『荘園研究の論点と展望』
貴田潔
紹   介 大橋幸泰編『近世日本のキリシタンと異文化交流』
伊藤静香
紹   介 マイケル・ブロンスキー著/兼子歩・坂下史子・宮内悠貴・土屋和代訳『クィアなアメリカ史』
箕輪理美
紹   介 小嶋茂稔著『光武帝』
濱川栄
紹   介 山家悠平著『生き延びるための女性史』
河原千春
 

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