ムスリム地域を対象とする歴史研究は、しばしば法に特別な関心を向けます。イスラームの教義体系の中核が法(シャリーア)であり、豊富に残される法廷文書などを史料として利用すれば、歴史的社会の様相にミクロなレベルで迫ることができるためです。社会経済史から推進力を得た法制度や法運用の研究はいま、社会史、家族史へ、あるいは女性史、ジェンダー史へと展開しています。法廷文書には女性による法律行為が記録されており、それらが史料となるのです。また、とくに近現代史研究では、ムスリム諸国における西欧からの近代法の継受が大きな焦点の一つです。現代のムスリム諸国の法体系は、ほとんどの場合西欧法に倣って整備されたものですが、そこには法の近代化にともないイスラーム法の適用範囲の限定を進めた、多様な改革の歴史があります。そもそも立憲制の導入過程に、イスラーム信仰およびイスラーム法との調整を含む、様々に異なる歴史があります。
本特集は、そうした研究状況のスケッチを試みます。オスマン帝国、ロシア支配下の南東コーカサス、イランにおけるイスラーム法運用の研究からは、家族や地域社会の具体相、能動的な女性の姿を捉えることができます。「アジア初の憲法」であるオスマン憲法、またイランやエジプトの憲法をめぐる議論は、近代法の継受が帝国主義やオリエンタリズムを内包する問題も浮上させます。現代法をイスラーム法に由来する規範に応じたものにし、弱者を保護する事例も取り上げます。(編集委員会)
| * | 特集にあたって | 編集委員会 |
| 論 文 | オスマン帝国における婚約の破棄 Annulment of Engagements in the Ottoman Empire |
秋葉淳 AKIBA Jun |
| 論 文 | 近代南東コーカサスのシャリーア法廷 ―原告が消えた婚姻事件裁判―
A Matrimonial Case of a Vanished Plaintiff before a Sharīʿa Court in the Modern Southeastern Caucasus |
塩野﨑信也 SHIONOZAKI Shinya |
| 論 文 | 二〇世紀初頭イランの女性土地所有者 A Landowning Lady in Early Twentieth-Century Iran |
阿部尚史 ABE Naofumi |
| 論 文 | 独裁・神権政・人種 ―日本人法学者とオスマン立憲政―
Dictatorship, Theocracy, and Racism |
藤波伸嘉 FUJINAMI Nobuyoshi |
| 論 文 | イラン近代法整備とイスラーム法「遵守」 ―一九二〇年代の基本法補則第二条解釈―
“Obedience” to Islamic Law within the Development of the Modern Iranian Legal System |
徳永佳晃 TOKUNAGA Yoshiaki |
| 論 文 | 近代エジプトの立憲主義とイスラーム Islam and Constitutionalism in Modern Egypt |
佐藤友紀 SATO Tomonori |
| 論 文 | 現代法とイスラーム法の交錯 ―エジプトのフルウ離婚の事例と判決から―
The Intersection of Modern Law and Islamic Law in Egyptian Khulʿ Divorce Cases |
竹村和朗 TAKEMURA Kazuaki |
| 論 文 | 天明・寛政期における庄内藩藩政改革と松平定信 ―「心附」に注目してー
Political Reform in the Shōnai Domain during the Tenmei and Kansei Eras in Relation to MATSUDAIRA Sadanobu |
高橋直大 TAKAHASHI Naohiro |
| 科学運動通信 | 塚穴古墳(来目皇子墓)立会調査 参加記
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阿部大誠 |
| 書 評 | 松谷昇 蔵著『近代日本官僚制と文部省』
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藤野真挙 |
| 書 評 | 菅野智博著『満洲の農村社会』
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朴敬玉 |
| 紹 介 | 佐々木真・原田敬一・松本彰編著『戦争を展示する』
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一ノ瀬俊也 |
| * | 〈会告〉二〇二七年度会費納入のお願い
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