毎年八月になると戦争やその被害を取り上げるメディアの風潮に、違和感を覚える方もいるのではないでしょうか。それでも本特集を組んだのは、八一年前に「日本人」が負けた戦争として平板化されつつある「あの戦争」の多層性に今一度光をあて、固定化されつつある「日本人」の「被害者としての語り」を攪乱したいがためです。本特集は特に次の二点を念頭に論考を集めました。
一つ目は、想起される戦争の空間的・時間的範囲を広げることです。サイパンやフィリピンなど日本「外」での日本の戦争に目を凝らし、地上戦の中で交錯する敵・味方関係を確認したいと思います。さらに、日本が降伏したのち、人々がどのように「あの戦争」と向き合い(損ね)続けてきたかについて、個人の経験や証言を手掛かりとして分け入ります。
二つ目は、加害の重層性と、加害を成立させる構造を浮かび上がらせることです。普通の人々が加害する兵士にされていく現実、日常生活が戦争化していくプロセスは、加害/被害という凝り固まった認識を揺さぶります。被害者が加害者にもなり、また武器を持たずとも加害者となる構造に気づくとき、「安全」な現在から戦争を眺める私たちがその構造から自由である保証はありません。
戦争の体験や記憶の完全な継承は不可能でしょう。本特集が垣間見せる戦争の一端が、私たちの想像力を耕し直し、過去と現在をつなぐものになることを願います。
| * | 特集にあたって | 編集委員会 |
| 論 文 | 沖縄戦の日本兵を問う ―生活という視点から― Rethinking Japanese Soldiers in the Battle of Okinawa |
北村毅 KITAMURA Tsuyoshi |
| 論 文 | 地域の女性たちが捉え直した戦争 ―軍都旭川の戦時体験に向き合う― The War Reconsidered by Local Women |
山村淑子 YAMAMURA Yoshiko |
| 論 文 | サイパン戦を学びなおす ―「玉砕島史観」を乗り越えるための試論― Rethinking the Battle of Saipan |
森亜紀子 MORI Akiko |
| 論 文 | 裴奉奇さんの「告発」と在日朝鮮人運動 ―日本軍性奴隷制と朝鮮半島分断の克服― Bae Bong-gi’s ‘Accusation’ and the Korean Residents' Movement in Japan |
金李イスル Kim Lee ISeul 李玲実 RI Ryongsil 韓梨恵 HAN Rihye |
| 論 文 | 日本人ファーストの教会でいいのか Is “Japanese First” relevant for Church? |
小塩海平 KOSHIO Kaihei |
| 歴史の眼 | ドイツ統一三五年と終わらない「東ドイツ論争」 35 Years of German Reunification: The Continuing Debate over East Germany |
河合信晴 KAWAI Nobuharu |
| 科学運動通信 | 鳥屋ミサンザイ古墳(宣化天皇陵)立会調査見学参加記 |
中村聡 |
| 書 評 | 伊藤大貴『室町期山名氏の研究』 |
藤井崇 |
| 書 評 | 杉本弘幸『ヨイトマケとニコヨンの社会史』 |
高野昭雄 |
| 書 評 | 三品英憲『中国革命の方法』 |
加島潤 |
| * | お詫びと訂正 |