『歴史評論』2024年10月号(第894)/ Historical Journal(REKISHI HYŌRON) October 2024 vol.894

特集/近世日本における宗教の規律化と自律性 “Disciplining and Autonomy of Religion in Early Modern Japan”

定価 1,045円  


 明治維新は日本の宗教に決定的な転換をもたらしました。明治政府は天皇権威を高めるため、その祖先神の優位性を確保しようと、長い間の神仏習合状態を解消して神仏分離をはかり、神道の国教化を目論んだのです。廃仏毀釈が起こった地域では、多くの仏教寺院や仏像が破壊されました。結果的に神道の国教化は失敗しましたが、強引に進められた神仏分離はその後、日本列島に暮らす人々の宗教感覚に大きな影響を与えました。こうした事実は、前近代には近現代とは異なる宗教世界が存在したことを示すものです。前近代では基本的に、神仏習合のもと神道は単独で成立し得ず、仏教が優位を保ちつつ多様な宗教活動が存在していたのです。それはこれまでの宗教史研究が実証しています。
 一方、日本の近世をEarly Modernと英訳することが定着し、明治維新の画期性はあまり顧みられなくなりました。前近代の豊かな宗教活動に注目すれば、近世と近代の連続性ばかりを強調せず、その転換の意味を改めて考える必要性を感じます。
 近世日本の宗教をめぐる問題を考えるとき、宗教を束ねる治者の存在を無視することはできません。しかし、それでもなお宗教を担う人々が自律的に活動していたことも事実です。本特集は、近世日本の治者による規律化と、自律的な宗教活動の実相を検討することにより、当該期に生きた人々の秩序意識をあぶり出すとともに、近世という時代の固有性について考えたいと思います。(編集委員会)

  *  特集にあたって 編集委員会
論   文 近世日本の政治文化とキリシタン禁制
Political Culture and Prohibition against Christianity in Early Modern Japan
大橋幸泰
OHASHI Yukihiro
論   文 統一政権の形成と戦国仏教
The Formation of the Central Government and Sengoku Buddhism
河内将芳
KAWAUCHI Masayoshi
論   文 近世前期の寺院相論と幕藩領主 ―防長地域の曹洞宗の事例から―  
Disputes between temples in the early modern period and the involvement of political powers
林晃弘
HAYASHI Akihiro
論   文 近世真宗と地域社会
Early Modern Shin Buddhism and Local Communities
松金直美
MATSUKANE Naomi
論   文 民衆宗教の登場と既存宗教
Considering the Emergence of Popular Religions in Relation to Existing Religions
石原和
ISHIHARA Yamato
歴史のひろば 在銘刀剣と国家の形成
関根淳
歴史のひろば ドイツにおけるユダヤ人救援活動とその研究動向 
岡典子
歴史の眼 朝鮮人虐殺一〇〇年以後の課題 ―≪In-Mates≫上映禁止から考える―
外村大
科学運動通信 陵墓懇談会(東京・宮内庁書陵部)参加記
森田喜久男
科学運動通信 塚穴古墳(来目皇子埴生崗上墓)の見学 参加記
阿部大誠
書   評 中澤克昭著『狩猟と権力』 
永松敦
紹   介 若林正丈・家永真幸編『台湾研究入門』  
松葉隼
  * 〈会告〉2025年度会費納入のお願い 

 

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