その3-1 差動アンプ
さあ、アンプの王道「差動増幅回路」に行きましょう!
図1のような回路を差動増幅回路といいます。 どの辺が差動増幅なのかについては、入出力電圧の関係を見たほうが早いです。
入力の差を Av 倍して出力する・・・なんか聞いたことありますよね? そうなんです。差動増幅回路とはOPアンプのことです。 これから作る回路はオペアンプそのものです。自分でオペアンプを設計、製作できるなんてすごいと思いませんか?
さて、動作をざっくり説明すると・・・
なんとなく、入力電圧の差が増幅されそうなイメージが沸きませんか? 詳しくは以上の関係をトランジスタの Ic と Vbe の以下の関係式(ショックレーのダイオード方程式)
を使用してしこしこ計算する必要がありますが、めんどくさいので他のホームページで補完してくださいw
(わからない方は、高校生くらいの数学でできますのでチャレンジですよ!)
というのもあれなので、計算の指針だけは示しておきます・・・
ゲインは簡単に計算でき、
となります。
・・・では寂しいので、図1の回路のゲインを具体的に計算してみましょう。
R2 = 2.2[kΩ] として計算すると、
となります。
42倍と聞くとちょっとゲインが低いと思われるかもしれませんが、これでもオペアンプとして動作します。 また、この回路に細工していくことによってゲインをもっと大きくしていきます。
まあ、このように回路構成、動作自体はさほど難しくない回路なのですが注意点があります。
この回路に使用する二つのトランジスタQ1、Q2は、
入力電圧の差を電流の比に変換する回路が差動増幅回路だと説明しました。 トランジスタの入力電圧といえば Vbe でしょうし、電流といえば Ic ですから、 同じ Vbe のときに、同じ Ic が流れるトランジスタをペアで使用しなければなりません。 そうでなければ正確な電流比を出力できないためです。
a. 特性バラツキ
残念ながら特性はトランジスタごとにかなりばらつくのです。
図2は 2SC1815 の特性表ですが、ほとんどの特性値に Min,Typ,Max と幅を持っています。 たとえば hfe だけを見ても同ランク GR で「200~400」と、こんなにもばらつくのです。 よって、同じ型番のトランジスタを使用しても同じ特性になるとは限りらないということです。
b. 温度による特性の変化
図はおなじみの「Vbe - Ic」特性ですが、このチャートを見ただけでも温度が変わると Vbe に対する Ic の変化が変わるのがわかります。
つまり、一方だけ温度が変化した場合、入力(つまり Vbe)が変化しなくとも Ic が変化してしまいます。
よって、温度差は厳禁だということがわかると思います。
また、たとえ温度差がなくてもこの Vbe - Ic 特性のカーブが一致しないとそもそも誤差の原因となることがわかります。
というわけで、何でもいいからトランジスタ2つ買ってきて、それで差動回路を組もうとしても大概うまくいきません。 特性の差を補正することはもちろん可能で実際の回路にも何らかの補正回路を設けますが、 補正を行うと「ゲインの減少、歪の増加」などの副作用があるため、大きな特性の差を補正回路で補正するのは好ましくありません。 よって、できる限りペア特性を揃え、それでも発生する誤差を補正する程度の補正回路が望ましいわけです。
ではどうするのか?
トランジスタの「Vbe、hfe」を測定し、値の近いものをペアとして熱結合したものを使用します。 これで、「だいたい同じ特性」、「だいたい同じ温度」になるペアトランジスタが出来上がります。 この作業を「ペア取り」といい、個別のトランジスタ、FETから差動回路などペア特性が 重要な箇所に使用するペアを作りたい場合に必須の作業となります。
ですが、ペア取りはめんどくさいし選別するためにはそれなりの数の素子が必要になりますのでお金も掛かります。
ペア取りは大変です。
初めからペアのトランジスタとかはないのでしょうか?
というわけで、図4、図5のような2個入りのトランジスタを「デュアル・トランジスタ」といいます。 さらに特性の整合が取れているものを「マッチド・ペア・トランジスタ」といいます。(FETもあるよ!)
これは、差動増幅回路、カレントミラーなどに使用する専用トランジスタで、2つトランジスタの特性が非常に揃っているのが特徴です。 また、同じシリコン基板上に近接していますので温度差も出にくいと至れり尽くせりのトランジスタです。 私としては、とくに使用するトランジスタの種類にこだわりがないならば、マッチド・ペア・トランジスタを使用したほうがいいと思います。
「はじめからこれを紹介しろ!」といわれそうですが、罠があるんですよw
次回は デュアル・トランジスタについてです。