アンプを作ろうか?


その2-2 シングルFETアンプの特性は?

さあ、前回いろいろとケチをつけたシングルFETアンプですが、いったいどの程度の性能なのでしょうか?

(1) まずは、最終的な回路図


図1 シングル FET ヘッドホンアンプ

というわけで、これが試作した回路です。オリジナルと違う点は、リレーを追加したことです。 このリレーは、「ポップ音」防止のためにあります。 ポップ音防止回路の動作は以下のようなものです。

・ 電源投入時、リレーは OFF なので、カップリングコンデンサ C2 へ R4 を通して充電します。
・ ある程度遅れてリレーを ON させることで、R4 を切り離しヘッドフォン側に接続します

というわけでリレーを遅延させてONさせる必要があります。たとえば以下のような回路です。


図2 遅延回路の例

コンデンサ C1 の電荷は電源投入時に 0 ですから、FET Q1 のゲート電圧は 0[V] なので OFF です。よって、リレーも ON しません。 徐々に VR1 を通して C1 に電荷がたまっていき、C1 の電圧が FET が ON する電圧になったときにリレーが ON するわけです。

補足 : ポップ音とは、電源投入時に鳴る「ボッ!」って音です。聴いたことありますよね? オリジナルは、さぞ壮大なポップ音がすることでしょう・・・w

・ ポップ音はカップリングコンデンサに電荷がたまっていない(電圧が上がりきっていない)状態でヘッドホンを接続すると発生します。 もし何も対策しないと、電源投入時はコンデンサの電荷が 0 なので、ポップ音が発生します。

・ カップリングコンデンサに電荷がたまった状態になったら、ヘッドホンに接続します。R4 はヘッドホンの身代わりということですね。
・ コンデンサは「Q = C * V」の関係式がありますから、コンデンサの両端の電圧 V は「V = Q / C」 電荷 Q に比例します。

・ Q1 は 2N7000 を使用していますが、200[mA]程度流せる MOS-FET ならば何でも使用可能です。
ただし、FET がONする電圧 Vth がある程度高い FET がいいでしょう。(2N7000はVth = 2.1[V]程度)

(2) さあ、気になる歪み率は?

WaveSpectra を使用して測定してみました。


図3 歪み率

はい、何とも微妙な特性です。歪み率 1[%] 以下といった感じでしょうか?
前回の弱点で説明しているとおり、出力が上がる(電流が上がる)と歪みが増加しています。

この、特性をどう見るか?私的には・・・

・ 歪み率は出力が大きくなると素直に増加する。
・ 小出力(音が小さいとき)は、さほど歪み率は悪くない。
・ 各周波数(100、1k、10kHz)で歪み率にほとんど差がない。

ある意味、クセがない音と言えるのかもしれません。特性を見ると「さぞかし音が悪い!」ように思えますが案外聴けますw
不思議ですw

(3) もうちょっと何とかなりません?

そうですね・・・。特性を改善させる方法としては・・・

・ 負帰還をかける。
負帰還をかける場合は、前段にOPアンプを置くのが簡単ですが、もうシングルの意味がなく本末転倒ですねぇ・・・
・ カップリングコンデンサをやめてトランス結合する。
おもしろいと思いますが、そこまでやるならプッシュプルで普通に・・・ゲフンゲフンw
・ 図1 R3 のソース負荷を改善する。
ソース側の負荷の改善としては、トランジスタを使用した能動負荷にする手が考えられます。
具体的にはソース側の負荷を定電流回路にすることによって FET の電流変化を低く押さえることができます。

ちなみに能動負荷(定電流回路)によって前回に説明した弱点。

・ 電流が流れると歪む。
・ カップリングコンデンサの電荷を引き抜けず歪む。

これらの弱点を定電流回路が FET を補助することで緩和することができます。

 

図4 能動負荷にした回路図

図4の破線部分が能動負荷です。

「もうシングルじゃねーし、回路が複雑すぎるわ!」
そうなんですw
これも、シングルじゃないですよね・・・トランジスタを追加した割に特性も劇的には改善しませんしw

能動負荷の歪み率は図6です。


図5 抵抗負荷の場合

図6 能動負荷の場合

どうでしょう?改善されていますよね?

(4) まとめ

能動負荷の方が「FET の電流変化 = ヘッドホンの電流変」になりますので、FET の音を聞く(笑)という意味ではいいのかもしれませんが、 能動負荷の場合より抵抗負荷の方がおすすめですねぇ・・・お手軽さがこの回路の売りなんですし。 まあ、この辺の判断は個人次第でしょう。

とりあえず、いろいろさんざんな特性なこの回路ですが、「歪み率≠音質」を体感してみてくださいw OPアンプでヘッドフォンを鳴らすのもいいですが、たまにはこんな回路も悪くないものです。

※ この回路の注意点

ヘッドホンのインピーダンスが高い場合、音が小さいかもしれません。 通常のヘッドホンは30Ω~50Ωなんですが、100Ω以上のヘッドホンもありますので注意です。 その場合、前段にゲインを稼ぐためにOPアンプ、またはソース接地回路を入れて対処することもできます。

※ 2012/12/11 追記! 作る人いないと思うけど心配なので追加w

FET(図1 Q1)は(能動負荷の場合はトランジスタ 図4 Q3 も)かなり発熱します! 「絶対ヒートシンクにつけてください!!!」

どのくらい発熱するかと言えばだいたい

6[V] * 0.2[A] = 1.2[W]
1.2[W]をなめてはいけませんw あっという間に触れない位に熱くなります。
それ以外のFET(たとえばリレー駆動用の図2 Q1)とかは大丈夫です!


さて、次回は王道の「差動増幅回路」といきたいですねぇ・・・