完璧
-かんぺき-
I think; therefore I am!


サイト内検索

本文(白文・書き下し文)
趙恵文王、嘗得楚和氏璧。
秦昭王、請以十五城易之。
欲不与畏秦強、
欲与恐見欺。
藺相如願奉璧往。
「城不入則臣請、完璧而帰。」
既至秦。
王無意償城。
相如乃欺取璧、怒髪指冠、却立柱下曰、
「臣頭与璧倶砕。」
遣従者懐璧間行先帰、身待命於秦。
秦昭王賢而帰之。
趙の恵文王、嘗て楚の和氏の璧を得たり。
秦の昭王、十五城を以て之に易へんと請ふ。
与へざらんと欲せば秦の強きを畏れ、
与へんと欲せば欺かるるを恐る。
藺相如、璧を奉じて往かんことを願ふ。
「城入らずんば則ち臣請ふ、璧を完うして帰らん。」と。
既に秦に至る。
王に城を償ふ意無し。
相如乃ち欺きて璧を取り、怒髪冠を指し、却き柱下に立ちて曰はく、
「臣が頭は璧と倶に砕けん。」
従者をして璧を懐きて間行し先づ帰らしめ、身は命を秦に待つ。
秦の昭王、賢として之を帰す。
参考文献:十八史略 明徳出版社

現代語訳/日本語訳

趙の恵文王は、かつて稀代の名玉、和氏の璧を手に入れた。
秦の昭王は、十五の城と和氏の壁を交換しようと申し出た。
秦の強大さが恐ろしくて断れず、また欺かれるのも恐ろしく、承諾するのもどうかと思われた。
そのとき、藺相如という者が和氏の璧を持って秦に行きたいと願い出た。
「城が手に入らなかったら、私にこう命じられよ、和氏の璧を完全な状態で持ち帰れ、と。」

藺相如は秦に到着した。
秦の昭王には城を与える意思は無かった。
そこで、藺相如は欺いて和氏の璧を奪い返した。
その瞬間に髪は怒りで逆立ち、冠を突き上げた。
彼は後ずさりして柱の下に立ち、こう言った、
「私の頭をこの壁にぶつけ、もろとも砕いてやる。」
後に、従者に璧を懐に抱いて抜け道を通り、気づかれないように帰るようにさせて、
自身は秦の処分を待った。
秦の昭王はこれを賢いとして藺相如を趙に返した。

解説

趙恵文王、嘗得楚和氏璧。秦昭王、請以十五城易之。
ちょうのけいぶんおう、かつてそのかしのへきをえたり。しんのしょうおう、じゅうじょじょうをもってかへんとこれにかへんとこふ。

「易(かフ)」は"交換する"。

趙の恵文王は、粛侯の孫。
和氏の璧」にはその成立についての話が残っている。
楚の卞和(べんか)という人が、楚山で巨大な原玉を発見し、これを楚王に献じようとしたが、
二代の王にわたってそれを偽りとされ、片方ずつ二回にわたり脚を切断された。
初めに献じた王から数えて三代目の王は、泣き悲しむ彼を哀れんで再鑑定させた。
その結果、稀代の名玉とわかった。
こういう話である。
十五城というのは、すなわち15県であり、
楽毅が斉を攻撃したときに奪ったのが七十余城で、
残ったのが陿と即墨の2城であったことから考えると、(参考 先づ隗より始めよ)
十五城というのは相当広大な領土である。


欲不与畏秦強、欲与恐見欺。
あたへざらんとほっせばしんのつよきをおそれ、あたへんとほっせばあざむかるるをおそる。

「見(る・らル)」は受身を表す。


藺相如願奉璧往。「城不入則臣請、完璧而帰。」
りんそうじょへきをほうじてゆかんことをねがふ。「しろいらずんばすなはちしんこふ、へきをまったうしてかえさん。」と。

藺相如は趙の宦者令(宦官の取り締まり)たる繆賢(びゅうけん)の舎人だった。

「奉ず」は"賜る"。
「全(まったウス)」は"完全な状態を保つ"。



既至秦。王無意償城。相如乃欺取璧、怒髪指冠、却立柱下曰、「臣頭与璧倶砕。」
すでにしんにいたる。おうにしろをつぐなふいなし。しょうじょすなはちあざむきてへきをとり、どはつかんをさし、しりぞきてちゅうかにたちていはく、
「しんがこうべはへきとともにくだけん。」と。

「償」は"報酬として与える"。
「怒髪」は"怒りで逆立った髪"。


遣従者懐璧間行先帰、身待命於秦。秦昭王賢而帰之。
じゅうしゃをしてへきをいだきてかんこうしまづかえらしめ、みはめいをしんにまつ。

「遣」は使役。
「懐(いだ-ク)」は"胸にもつ"。
「間行」は"抜け道を通って気づかれないように行く"。


総括
現代でも非常によく用いられる言葉「完璧」はこの話の基づく。
それにしても藺相如はまさしく名士である。
平原君の食客、毛遂に似た雰囲気を感じさせる



戻る
Top