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第八書・第一章

ヘロデの迫害。神はマリアがエフェゾに
滞在することを知らそうとされる

 西暦四十年一月五日、聖ヨハネは聖母にエフエゾヘの出発の準備ができたことを告げます。聖母は直ちに跪き、高間とエルサレムを去る許可を主に願います。家の持ち主や住人たちに別れを告げると人々は心から悲しみ、全員お供したがるのですが、そういう訳にもいかず、聖母が早くお帰りになることを望みます。

 聖母は我々の救いのための聖所を訪れる許可を聖ヨハネに願います。主がおられ、御血を流された場所の数々へ二人で行き、主を崇拝します。聖母を守護する天使たちも同伴していますので、聖母は天使たちに、これらの聖なる地点をルシフェルたちやユダヤ人たちの手から守るように頼みます。

 出発にあたり、聖母は聖ヨハネに祝福を願います。このように謙ることは続けられます。主の愛すべき弟子であり主の代理者である聖ヨハネに対し、従順と謙遜を示すことは聖母にとって当然のことのようです。多くの信者たちがお金、宝石、乗り物などを寄付しましたが、聖母は全部断り、海岸までは荷物運搬用のロバに乗られます。以前、御子や聖ヨゼフと共にした旅を思い出されます。港に着くとすぐに他の乗客たちと共に乗船されます。この船旅は聖母にとって初めての船旅です。聖母は、地中海の大きさ、深さ、中の洞穴や隠れたくぼみ、海の砂、潮の満ち干、海の中に棲息している鯨、大小の魚、不思議な生物を明瞭に見ることができます。この偉大なパノラマを見て、創造主の偉大さ、全智全能を表現しているとお思いになった聖母は、いと高き御方に賞賛と感謝の祈りを捧げます。海が荒れて来た時、海の怒りに身を任せざるをえない舶客や乗組員のことを同情して、聖母は全能者に保護を願いました。聖母の御名を呼び取次を瞭う者、聖母のメダイか絵などを所持する者、海の星なる聖母に救いを願う者、全てに主は恩寵を与えられます。もしもカトリック信者が航海中、危険に遭い、死ぬならば、天使たちの女王である聖母から恩恵が得られることを無視したり、荒れ狂う嵐の中で聖母を思い出さなかったり、または信仰や信心を持って祈らなかったためです。主の御約束や聖母の愛が、海で遭難している人を見殺しにはなさらないからです。

 上陸された時、聖母は病人や悪魔憑きの者たちを癒しました。エフエゾには、エルサレムから来たキリスト教信者が少数いました。聖母の到着の知らせを聞いて集まって来て、自分たちの住居や持ち物を提供しました。聖母は、隠居している貧しい女性が二、三人住んでいる家を選びました。女性たちは天使の助けにより、家を聖母のために立派にしました。とても奥まった部屋が聖母の部屋になり、聖ヨハネも一室借りることになります。聖母は家の所有者たちに感謝し、自分の部屋に行き、平伏し、いつものように祈ります、「全能の神なる主よ、無限の御身は天地を充満しておられます(エレミヤ23I24)。御身の卑しい召し使いなる私は、御身の聖なる聖旨をいつどこでも、どのような場合でも実行したいと思います。御身は私の善なる神であり、私の存在と生命であられ、聖旨の方に私の考え、言葉、行いの全てが向かいます。」 聖母は教会のために祈り、全信者を助けるための御計画を作ります。聖母は天使たちを呼び、悪魔たちや不信心者により起こされた迫害に苦しむ使徒たちや弟子たちに天使たちを送られました。当時、聖パウロはユダヤ人たちから攻撃される前に、かごに乗り、ダマスコの城壁に沿って城壁の下に降ろされました。エルサレムへ向かう途中でも聖パウロは天使たちに守護されました。聖パウロに対する地獄の怒り方は、他の使徒たちに対するよりも桁違いに酷かったのです。

 聖パウロの記述によると(ガラ1・18)、エルサレムに行ったのは三年後であるとなっていますが、「改心後四年」が正しいと私は考えます。と言うのは、聖パウロはエルサレムで聖母や聖ヨハネに会っていないからですげエルサレムで会えたのは聖ペトロ、聖ヤコボや他の弟子たちです。望パウロを信用できない彼らに取り入ってくれたのは聖パルナバです。聖パウロはキリストの代理者の足許に平伏し、接吻し、自分の過ちと罪を詫び、仲間として主の信奉者として入れてくれるように乞います。使徒たちは聖パウロの気持ちが長続きするかどうか危ぶみますが、やっとのことで受入れます。全員、謙って神に感謝の祈りを捧げます。聖パウロがエルサレムで説教を始めます。火の矢のように人々の心を突き刺すと、人々は以前のサウロを知っていたので、驚き、恐ろしくなります。二日間で、聖パウロはエルサレム市全体に知れ洩ります。ルシフェルと手下たちは聖パウロの到来により最も苦しみ、もっと無力になり、動けません。しかし、彼らの誇りと悪意は永遠に消えないようです。彼らが聖パウロに神の徳があると認めるやいなや、ルシフェルはかんかんに怒り、悪魔の大軍を召喚し、聖パウロを完全に滅ばすように、そしてエルサレムと世界中の建物を破壊するように勧告します。悪魔たちはヘロデやユダヤ人たちを扇動し、聖パウロを敵と考えさせ、彼の熱烈な説教に警戒させます。

 聖母はエフエゾに引きこもられながら、神の御知恵のお陰で、また天使たちの報告により、聖パウロの身の上に起こっていることが判りました。エルサレムから離れているため、直接に使徒たちを助けられないことを残念に思い、祈りと願いをもっと増やし、絶え間なく涙を流し、嘆息をつき、天使たちに使徒たちを援助するようにお願いします。主は聖母の祈祷中に御出現になり、聖母の祈願を受入れ、聖パウロの命を守ることを確言なさいました。また主は、神殿で祈っている聖パウロを恍惚状態に高め、直ちにエルサレムから逃げるように命令されました。エルサレムについて十五白のうちにエルサレムを出ることになります。幻視のことを聖パウロは聖ペトロに告げ、承諾を受け、カイザリアとタルソに密かに行きます。

 聖パウロの脱出について知らされた後、聖母は聖ヤコボの命乞いをされます。聖ヤコボは聖母の従兄弟にあたり、とても親しくされました。サラゴサにいた聖ヤコボは、派遺されてきた天使たちによって、聖母がエフエゾにおられることを知りました。スペインのサラゴサの教会がだいたい建設されてから、司牧を弟子たちに任せ、サラゴサを発ち、諸地方を巡回説教しながらカタロニアに着き、イタリアを通ってアジアに向かい、エフェゾに来ます。聖母の足許に平伏し、涙を流し、主の大いなる御恵みを感謝します。聖母は彼を床から起こし、申されます、「私の主よ、御身は主により聖別された方で、主の牧者であること、私は卑しい塵であることを思い出して下さい。」 すぐに跪き、聖ヤコボの祝福を願います。聖ヤコボは自分の兄弟である聖ヨハネにも会い、三人で高潔な会話をします。

 その後、聖ヤコボは、エルサレムでヒレトスとヘルモゲネを改宗させ、ユダヤ人たちの怒りを買います。そのため、ユダヤ人たちはローマ軍百夫長二人、デモクリトスとリジアスを買収し、聖ヤコボを逮捕させることにします。その年の大祭司アピアトルと同心の祭司艮ヨジアスが計画を練ります。聖ヤコボが救世の神秘について昔の書物から引用して素晴らしい説明をして聴衆を感動させ、悔い改めの涙にむせさせた時、祭司たちは怒り心頭に発し、大騒ぎを引き起こします。時を移さずヨジアスは聖ヤコボに投げ縄を投げ、首に絡ませ、聖ヤコボが騒ぎを起こした魂本人であり、ロトマ帝国に新宗教を勝手に作ったと宣言します。二人の隊長は兵士たちと共に駆け寄り、聖ヤコボを縛り上げ、ヘロデ王の所へ引き立てます。ヘロデはアルケラスの息子で、ルシフェルによって憎しみを抱き、悪意と憎悪のユダヤ人たちにより動かされていました。自分の兵士たちを送り、聖ヤコボを苦しませ、牢に入れさせます。聖ヤコボは主のように捕らえられ、縛られて、聖母の予告通り、殉教によって現世から永遠の生命に移る所へ引き立てられることを予見し、嬉しくて仕方がありません。主への感謝と信仰を会衆に公表します。聖母が自分の死の時に付き添って下さるという御約束を思い出し、聖母に心から呼びかけます。エフエゾの家の祈祷董におられる聖母は、愛すべき使徒である従兄弟の祈りを聞きます。聖ヤコボの身の上に起こっていることすべてを知っておられましたし、彼のための嘆願もなさってこられました。お祈りしておられると、天から全階級の天使の大軍が降りてきて、一部の天使たちは刑場に向かう聖ヤコボの周囲に集まり、残りはエフェゾの聖母の所へ来るのが聖母には見えます。一位の天使が聖母に挨拶します、「天の元后、私たちの貴婦人よ、いと高き主なる神が御身にエルサレムに駆けつけ、聖ヤコボを勇気づけ、死に直面するのを助け、聖なる希望を叶えさせるように望まれます。」 聖母は感謝し、いと高き御方の御慈悲を信頼し、御手に命を任せる者を保護して下さることを讃美します。聖ヤコボが刑場に向かう途中、集まってきた病人や悪魔憑きを治します。この人たちは聖ヤコボの最後の司牧を心から希望したのです。その間、天使たちは最も輝く玉座に聖母をお乗せし、聖ヤコボの刑場にお連れします。聖ヤコボは跪き、いと高き御方に自分の命を献げ、目を天に挙げると心の中で祈り、訴えていた聖母がそばの空中におられるのが見えます。歓喜に満ち、神の御母である全創造の女主人に対する崇敬宣言を言おうとしますと、大天使に控えるように言われます、「ヤコボ、われらの創造主の僕よ、この尊い気持ちを心の中に抑え、私たちの女王の御臨在と御助けをユダヤ人に知らせないで下さい。ユダヤ人たちは女王を知る価値も能力もなく、女王を尊敬する代わりに憎しみの心を固めるだけでしょう。」 聖ヤコボは天の女王に心の中で話しかけます、「私の主イエズス・キリストの御母、私の女主人である保護者よ、御身は困る者を慰められ、苦しむ者の避難所となられ、今私に祝福を与えて下さいます。御身の御子なる救世主に私の命を捧げて下さい。主の御名と御光栄のため、はん祭の犠牲となりたいのです。御身の御手が私のいけにえの祭壇になり、私のために十字架上で御死去になった主への献げ物としてふさわしくなりますように。御身の御手に、そして御手を通して創造主の御手に私の魂をお任せします。」 言い終わり、聖母を見つめながら、聖ヤコボは斬首されました。聖母は処刑された使徒の霊魂を受け取り、即座に御自分の隣に置かれ、最高天に昇り、御子に捧げます。いと高き神は聖ヤコボの霊魂を受け取り、主の民の王たちの仲間入りをさせます。聖母は全能者の玉座の御前に平伏し、使徒たちの中で最初の殉教者のため、讃美と感謝の歌を歌います。聖三位一体の神は、聖母と聖母が一生懸命準備なさった教会に祝福を賜ります。全聖人も同様に聖母を祝福した後、天使たちは聖母をエフエゾの聖母の祈祷室にお送りします。

 聖ヤコボの弟子たちは次の夜、遺体を確保し、密かにヤツファに運び、オペインのガリシアに行きます。聖母はそのため、天使を案内役として送ります。スペインは、聖ヤコボと彼を助けて下さった聖母のお陰で信仰を得たのです。聖母のお陰で聖ヤコボの遺体を持ち帰れました。聖ヤコボの御逝去の日付は西暦四一年三月二五日で、彼のスペイン宣教開始後、五年七ヶ月になります。

 聖ヤコボの殉教は、ユダヤ人たちの最も不敬な残虐行為をますます盛んにするきっかけとなりました。ルシフェルと手下たちは、ユダヤ人たちに聖ペトロを補まえるように唆します。聖ペトロはたくさんの鎖に巻かれ、地下牢に入れられ、過ぎ越し祭の後に処刑されることを待ちます。エルサレムに起きていることをよくご存知の聖母は、聖ペトロの釈放を主にお願いされます。熱心にお願いし、嘆息をつき、平伏し、血の汗をお流しになります。主は聖母の所に出現され、御顔が土にまみれている聖母を引き起こされ、申されます、「私の御母、御身の悲しみを和げて下さい。お望みになることは何でもおっしゃって下さい。私は何でも叶えましょー)。お望みの通り御身がなさいますように。私が御身に差し上げた力をお使い下さい。私の教会のために必要なことは何でもなさって下さい。悪魔たちの怒りがすべて御身に向けられることは確かです。 」 聖母は感謝して申しあげます、「いと高き主よ、私の霊魂の希望と生命よ、御身の血と生命により買い戻された霊魂のため、働くように、御身の召し使いの心と魂は準備してあります。私は役立たずの塵填に過ぎませんが、御身は無限の力と智恵を備えておられます。御身の御助けにより、私は地獄の龍を怖れません。御身は教会のために私が行うことを御望みになりますので、私は今、教会を悩ますルシフェルと悪の執行者たちが地獄に行くこと、御身が許可されるまで地上に帰って来ないことを命令します。」 エフェゾにおられる世界の女王のこの命令は、大変強力でしたから、この瞬間、エルサレムにいる悪魔全員は地獄に落ちました。ルシフェルと仲間たちは、この罰が聖母により命ぜられることがわかりましたが、混乱し、落胆し、次の機会を狙います。

 聖母は主にお願い申し上げます、「私の御子なる主よ、もし聖旨ならば、御身の天使たちの内の一位を聖ペトロのいる牢屋に遭わし、聖ペトロを釈放して下さい。」

 命を奉じる天使は急いで穴牢に行くと、入口には大勢の兵士たちがいて、牢の中では聖ペトロが二本の鎖に巻かれ、二人の兵士に見張られています。過ぎ越しの祭りは既に終わり、翌朝は処刑と決まっているその前夜でした。聖ペトロは何の心配もなく眠っています。天使は彼を揺さぶり、目を覚まさせて話しかけます、「早く起きなさい。帯を締め、靴を履き、外套をかけ、私の後をついてきなさい。」 聖ペトロは鎖が外されているのに気付き、何が何だかわからないまま天使について行きます。天使は町の通りを案内してから、全能者が聖母の御取次に答えてあなたを牢から救い出したことを伝えます。やっと我に帰った聖ペトロは主に感謝します。聖ペトロは逃げる前に、聖小ヤコボや信者たちの所に行き、自分の救助について報告することにします。ヨハネ、別名マルコの母マリアの家に急ぎます。その家は高間の家で、大勢の弟子たちが滞在しています。聖ペトロは通りから呼びます。ロデと言う女召し使いが降りて行き、誰が外にいるのか見に行きます。聖ペトロの声だとわかると、戸を明けもしないで弟子たちの所へ飛んで行きます。弟子たちは信用しません。ロデがしつこく言い張るので、聖ペトロの守護の天使に違いないと考えます℡弟子たちがあれこれ考え、話し合っている間、聖ペトロは外に立ち通しです。やっと戸を開けて弟子たちは聖ペトロに会い、大喜びします。聖ペトロは、天使が助け出してくれたことを皆に報告し、聖ヤコボや他の兄弟たちに密かに知らせるように言います。ヘロデが厳しく探索していることを考え、聖ペトロは夜中にエルサレムを抜け出すことを全員一致で決めます。聖ペトロは無事に逃げ、ヘロデの探索は無駄に終わります。ヘロデは番兵たちを罰し、弟子たちをますます憎みます。

 聖母は祈りと涙にくれ、守護の天使たちの中で最高位の天使に言います、「いと高き御方に仕える者よ、いと高き御方の玉座の所に昇り、私の困難を伝えて下さい。私が主の忠実な僕たちの代わりに苦しむ許可を得て下さい。ヘロデが教会を破壊する企みを実行することをお許しにならないよう、私の名により主に頼んで下さい。」 すぐさま天使は天に昇り、聖母の願いを伝えます。聖母が祈り続けておられると、天使は戻ってきて報告します、「天の女王様、万軍の主は御身が教会の御母、女主人、そして女監督であること、そして御身は地上に於て主の御力を所有することを宣言され、天の女王としての御名がヘロデに刑の宣告を下すことをお望みになります。」

 最も謙遜な御母はこの報告に戸惑い、愛徳により質問をされます、「主の御姿に像られて造られた人間に対し、私は死刑を宣告すべきでしようか? 私としましては可能な限り、人々の救いを願い、罰を急いでお願いしたことはありません。天使よ、主の許に戻り、私の法廷も権力も主よりも低級で、主に依存しますから、私の主に相談せず、死刑宣告できません。もし、ヘロデを救いの道に連れて来られるならば、ヘロデの霊魂が滅びないため、御摂理に従い、私はこの世のあらゆる苦労を忍びたいと思います。」 天使は直ちに天に昇り、聖母の第二のメッセージを伝えます。聖母の所に戻り、主の御答えを申します、私たちの女主人なる女王様、いと高き御方は仰せになりました、「ヘロデは悪意に凝り固まっているので、警告も教訓もはねつけるでしょうし、どんな助力者とも協力せず、救いの効果を得ようともせず、諸聖人の取次も御身の努力さえも受けつけないでしょう。」

 聖母は三度目の伝言を天使に託します、「もし、教会を迫害するのを止めるのはヘロデが死ぬことであるなら、ああ、天使よ、全能者が私に取次を願う者は誰でも人類の避難所、弁護人、そして仲介者になる権利を与えて下さいました。あらゆる人々が私の御子の御名により、赦しの保証を得るようにとの御配慮からでございます。もし、私が人々の愛すべき御母であるべきならば、主の御手による被造物となり、主の御命と御血に値する者とは誰でしょうか? その内の一人に対してどのようにして私は厳しい裁判官になれるのでしょうか? 私は審判を任されたことはなく、いつも慈悲を行うように命令されて参りました。愛と厳しい審判に対する従順の対立によって私は混乱しております。ああ、天使よ、私の混乱と心配を主にお伝えし、ヘロデが私の審判なしに死ぬことが聖旨に叶うかどうかよく質問して下さい。」

 天使は三度目に天に昇り、聖三位にお伝えします。聖母の慈悲を喜ばれる聖三位のお返事を天使は聖母に伝えます、「私たちの女王、私たちの創造主の御母、私の貴婦人、全能なる神は申されます、『御身の慈悲は、御身の強力な取次を願う者たちに与えられるべきであって、ヘロデのように御身の取次を嫌悪する者にはふさわしくない。御身は神の御力全部を備えた教会の女王であり、その力を適宜に使うべきです。ヘロデは死ぬべきです。ヘロデの死を御身が宣告し、命令しなければなりません。』」聖母は答えられます、「主は正義にして公平であられます。もしもヘロデが自分の自由意志により慈悲に値しない者とならず、身の破滅を選ばないならば、私は彼の霊魂を救うために何度でも死の苦しみを受けたいと思います。ヘロデは、主の御姿に似せて造られたいと高き御方の作品であり、世の罪を除く小羊の血によって救われました。しかし、私はこのこと全てを除外します。ヘロデが神に対する頑固な敵となり、神の永遠の友情に値しないことだけを考え、神の最も公平な正義により、彼がこれ以上教会を苦しめないように、死を宣告します。」

 神の御母の光栄のため、御母を御子と同じ君主として最高権力を全被造物に対して行使する女主人として任命したことの証拠として、主はこの不思議をなさったのです。この神秘は聖ヨハネの第五章によく書かれています、「御父のされないことを御子はできません。御父が御子を愛されるが故、御子は御父と同じことをなさいます。御父が死者を蘇らすならば、御子もそうされます。御父は御子に全ての人々を審判する権利を御与えになりました。全ての人々が御父を誉め讃えるため、御子を賞賛します。御子を誉めないで御父を誉めることはできません。」 そして直ちに付け加えます。御父は御子に審判権を御与えになりました。御子が人の子であられ、聖母を通して人の子となられました。御子が御母に似ておられるので、審判権に関して、御子と御母の関係は御子と御父の関係と同じです。御母は御自身により頼むアダムの子孫全員に対して慈悲と寛大の御母です。それと同時に、御母があらゆる人々を審判する全権を保有し、人々が御子なる真の神を讃えるように御母を讃えるべきことを人々が知るように望まれました。主は聖母が主の御母として、単なる被造物として、御母にふさわしい程度と割合に於て、主と同じ権力を御母に御与えになりました。この権力を行使し、聖母は、天使を神の刑の執行者としてカイザリアに行かせ、そこにいるヘロデを殺すことを命じました。福音史家聖ルカが述べたように、主の使いはへロデを打ち、ヘロデの体は虫に食い尽くされ、この不幸な男は現世と永遠の死を遂げます。この打撃は内的なものであり、この内面的打撃から腐敗と虫がヘロデの体に湧き出て、惨めな死に成り果てたのです。ヘロデのそれまでの行動を説明しましょう。聖ヤコボを斬首し、聖ペトロには逃げられた後、ヘロデはカイザリアに行きました。自分とシドンとティロの住民たちの食い違いを是正するためです。二、三日してヘロデは主として紫の着物を着て玉座に座り、威張って話しました。人々はお世辞たらたらに彼を勝利者として神として讃えます。虚栄心のかたまりであるヘロデは、人々のへつらいに満足します。神に光栄を帰する代わりに自分を神としたため、主の天使が彼を打ったのです。これが最後の犯罪でしたが、その他数多くの犯罪を過去に犯してきました。使徒たちを迫害したり、私たちの救世主をあざけったり、洗者聖ヨハネを斬首したり、自分の義妹に当たるヘロデアと姦通したりしました。

 天使はエフエゾに戻り、聖母に刑の執行について報告しました。聖母はヘロデの滅亡を泣き、悲しまれた後、主の裁定を讃え、教会がこの処罰により得た恩恵のために感謝しました。聖ルカの記すように(使徒1Z・24)、教会は御言葉により成長し、増大しました。迫害者がいなくなった後のガリラヤやユデアだけではなく、聖ヨハネと聖母によりエフエゾの教会も根付きました。祝されたこの使徒の智恵はケルビムの智恵のように完全で、使徒の愛はセラフィムのように燃えていましたし、使徒は智恵と恩寵の女主人である彼の御母兼、先生と一緒だったのです。お陰で恩寵の律法の基礎作りという大事業は、エフエゾやアジアの近隣地域や西洋の境界地帯まで進展しました。エフエゾで活動し始めたころ、当地の異邦人たちの間に多数のギリシャ哲学者が輩出していましたが、所詮、人間の学問で、多くの間違いの混合物でした。聖ヨハネは人々に本当の智恵を教え、キリスト教の確実性を説き、奇跡も示しました。彼は聖い教えの宣教者を聖母に送りました。聖母は人々の心中を察し、心に呼びかけ、天の光で満たしてあげたのです。不幸な人たちのために奇跡を行い、悪魔憑きや病人を治し、困窮者を助け、病院にいる病者を見舞い、看護しました。臨終に当たって大勢を助け、最後のあがきにある霊魂を救い、悪魔の攻撃から守り、創造主の所に安全に連れて行きました。非常に多数の霊魂を真理と永遠の生命への道に連れて行き、大変多くの不思議を行ったので、何冊の書物を書こうとも書き尽くせません。

元后の御言葉

 全ての人々は天にまします永遠の御父の子供たちであり、兄弟姉妹たちを世話する義務があります。この義務は教会の子供たちに課せられています。キリストの信仰により養われ、全能者の御手から恩恵を頂く者たちに、もっと直接に課せられています。キリストの律法により現世的特権にあずかり、肉への奉仕と喜びのため、特権を濫用する者たちは、礪い者であるがゆえ、もっと強力に苦しめられることになっています。司牧者や、主の家の監督者が安楽な生活を求め、真面目な労働をしないならば、キリストの群れが殺されたり、地獄の狼共に食い荒らされたりすることになり、その責任を問われることになります。悪い司牧者のため、信者たちはどれほど苦労するでしょうか? 司牧者はカトリックの真理を知っていたし、良心の警告を聞いていたのですから、正義の裁判官の前で弁解することができません。

 教会が御子により建てられ、御子の御血により栄養を受けた後、不幸な時代が訪れています。主御自身が預言者たちを通して語っておられます、「ガザムが残したものは、いなごが食った。いなごが食い残したものは、エレクが食った。エレクが食い残したものは、ハジルが食った」(ヨエル1・4)。葡萄の収穫の後、主は葡萄園を歩き回られ、少しでも葡萄を集められます。まだ干からびておらず、悪魔たちに持って行かれなかった残りの葡萄を主は探しておられます(イザヤ、24・13)。

 私の娘よ、あなたが御子と私に対して本当の愛を持っているなち、御子が御血によってお救いになり、私が血の涙で求めた霊魂が失われるのを黙って見ていることができますか?

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