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第三書・第一章

御託身前のノベナ

 隣近所の人たちには聖ヨゼフが会っていましたから、聖マリアを知る人は少なく、その中でも少数の人たちが聖マリアと話しました。聖マリアと話せた幸せな人々は、聖マリアの神々しさに満たされ、聖マリアから来る光が自分たちを照らすことを表現しようとしました。聖マリアはそのことに気づいており、そのような光を照らさないように主に願いました。人々から忘れられ、蔑まれることを願いました。結婚してから御言葉の御受肉までの六か月間と十七日の間、聖マリアの愛徳、謙遜と信心や施しの忙しい生活は、いと高き御方の御目に叶ったのです。人間の言葉で表現すると、神は大喜びで、聖マリアに駆け寄り、両手を差し出し、世界開びゃく以来の最大の奇跡を行なうことになります。すなわち、御父の御独り子がこの婦人の汚れなき胎の中で受肉されるという奇跡です。そのため、その前九日間、神は聖マリアに準備させました。神の川が激流となってこの神の国の中に流れ込みました。私はこの奇跡を目のあたりにして、人間には到底書き表せないと考えます。

 この聖なる第一日目、天の王女マリアは少し休んだあと真夜中に起き、いと高き御方の御前に平伏し、定められた祈りを唱えました。この幻視で王女マリアは神の秘密、特に創造の秘密を習いました。天地が神の善と寛大さの御陰で造られたが、神を補足しないこと、神は天地創造の前、永遠から永遠に栄えていることを知りました。たくさんの秘密が私たちの女王に明かされましたが、我々は知り得ないことです。女王はあらゆる自然(空気、水、土、金属)がその中心に引きつけられるという衝撃を感じていました。神の愛の中に引き込まれながら、御独り子をこの世に送り、人類を救って下さるように熱願しました。この熱願は神と聖マリアを結ぶ真紅のレースとなりました。御独り子が宿る神殿を準備するため、全能者の全ての御業について、この選ばれた御母に教えました。第一日目は、創世記に記された第一日目の創造について教えました。目撃以上に明瞭に聖マリアは理解したのです。主が天空と地球を最初に造られ、どれだけ離れているか、どれだけの空間があるか、奈落の表面を暗黒がどのように覆っているか、主が水の上へ乗られたり、光が造られ、暗黒が分けられ、夜と呼ばれ、第一日目が終わった様子が聖マリアに示されました。聖マリアは地球の大きさ、経度、緯度、深度、穴、地獄、リンボ(古聖所)、煉獄、それぞれの場所の住人たち、諸国、気候、世界の分割、諸国の住民たちを知ったのです。同じ明瞭さで聖マリアは、下の天、高い天、天使たちが第一日目に造られたこと、天使たちの性質、状態、多様性、階級、義務、能力や徳も知りました。悪天使たち、彼らの墜落、その状況と原因について聖マリアは知りましたが、自分のことは何も知らされませんでした。第一日目の最後に主は、聖マリアも地球の土から造られ、土に戻る人たちと同じ性質があることを教えましたが、聖マリアが土に戻るとは言いませんでした。この深遠な知識を与えられ、無の深い底にまで聖マリアは自分を低め、あらゆる惨めさを背負うアダムの子孫たちよりももっと自分を低めました。聖マリアの心の中に深い溝ができ、この溝が建物の基礎になるのです。この建物は神性が人性に降臨する所になります。神の母の威厳が限りないので、聖マリアの謙遜も相応して限りないことになります。徳の頂上に達しながらも、聖マリアは自分をそれほど遜らせたので、主はお喜びになり、おっしゃいました、「我が浄配なる鳩よ、人類を罪より救うという我が希望は強い。我が救済の降臨の時は待ち遠しい。この希望の成就のため、絶えず我に祈れ。平伏し、汝の熱願を中止するな。御父の御独り子の御受肉を我に願え。」 天の王女は答えました、「主、永遠の神、御身の力と知恵に適う者は誰もいません(エステル13・9)。ああ、私の愛する御方、御身の測るべからざる恩恵が全人類に下ることを、もしも私が邪魔するようであれば、私を亡ぼして下さい。御身の祝福は人間の功徳のためではありません。人類の罪は増え、人類は御身にますます反抗しています。私たちは恵みを頂く資格がありません。御身の無限の慈悲だけが恵みのもとになります。預言者、祖先たちや諸聖人が嘆き、罪人たち全員が叫びます。私は塵で恩知らずですが、御身に心の底からお願いします。速く御身の救世がなされ、御身の光栄になりますように。」

 この祈りの後、天の王女は自然の状態に戻り、一日中、同じ嘆願を続けました。地に平伏し、十字架の形をとる日課を繰り返しました。この姿勢は聖霊から教わったのです。

 第二日目、真夜中、聖マリアは神に会いました。幻視により神は御自身を示し、創造第二日目の様子を見せました。どのようにして水が分かれ、大空ができ、その上に天の水と呼ばれる水晶ができたかを聖マリアは見ました。たちまち神の最も透き通った光が聖マリアを満たし、神の善と力を讃嘆するように心を燃やしました。神のような素晴らしさに変容し、諸徳を英雄的に実行したので、神は聖マリアを全能の業に参加させ、天、惑星や自然を従わせる力を聖マリアに与えました。

 第三日目、聖マリアは創造第三日目の様子を勉強しました。天の下に水があり、一か所に流れ集まり、乾いた土地が出てきました。地が新鮮な薬草や果物の木を種子から産み出しました。海の広さ、深さや流れも聖マリアは理解しました。どのようにしてこれら全てが人間の役に立つかも判りました。聖マリアの理解はアダムやソロモンの理解よりももっと明瞭です。医学の最高専門家も、聖マリアと比べると無知に等しいのです。至聖なるマリアは、見えないもの全てを知ったからです(智恵7・21)

 第三日目に聖マリアは、神が人類を助けて悲惨な状態から救い出すために来たいということを知りました。その目的のため、神は神自身の属性の、ある種のものを聖マリアに与えました。この属性により、将来聖マリアが御母として罪人の弁護者として神に取り次ぐことになります。神の愛に参加することは、聖マリアの希望でありますが、この希望があまりにも強力なので、聖マリアには神の御助けなくしては耐えきれなかったでしょう。この愛のため、聖マリアは自分自身を焼き殺されたり、切り殺されたり、拷問のために殺されたり、何回も何回も苦しみ殺されたいと思いました。このような恐ろしい殺され方は、聖マリアが罪人の身代わりになるためでした。そのような死は、人類が始まって以来の苦しみに比べれば、取るに足りないと聖マリアは考えたのです。この日から聖マリアは、親切と慈悲の御母になりました。人類に御自分の恩寵を分け与え、御独り子の御母に将来なるため、聖マリアは全身全霊で慈悲、親切、敬虔と寛容になったことを特筆しておきます。類は類を呼ぶというように、この御母にしてこの御子ありと言えます。御母の人性は御子に受け継がれました。

 この日の幻視により、いと高き御方は救世主が設立する恩寵の法律、恩寵の秘跡、そのための新しい教会、人類への賜物と全ての人間が救われて欲しいという希望を聖マリアに伝えました。このことは聖マリアの深遠広大な勉強となり、詳述すれば何冊かの本になるでしょう。

 聖マリアはいと高き御方が全人類に恩寵の宝を与え、全人類が永遠に恩寵にあずかるように望んでおられることを知りました。反面、人々が盲目になり、神性にあずかるのをやめ、地獄に落ちるのを見ました。誰も地獄に落ちないように、聖マリアは祈願、犠牲、謙遜、愛徳を英雄的に実行しました。

 第四日目、天の王女は、太陽と月が昼と夜を分け、季節、月日、年数を示すことを知りました。第八天の星は夜を照らし、昼夜に影響を及ぼすことを見ました。輝く天体の実体、形、大きさ、性状、運行や惑星の類似と相違、星の数、星が地上の生物や無生物に与える影響も全部知りました。

 第五日目、以前と同様、神の神秘のベールは次々と落ち、聖マリアは新しい秘密を発見しました。聖寵のもっと強い光が聖マリアの霊魂に入り、この天の聖マリアを、もっともっと神の似姿らしくしました。この日、罪人たちが永遠の御言葉の御来臨を遅らせていることを知り、王なる主に言いました、「私の主、無限の神、人間の悪業は測り知れないことを私に教えて下さいました。この人たちは御身の宝と愛を棄てることができますか? いいえ、人間の悪意は御身の慈悲をコントロールできません。天地は消えても御身の御言葉は存続します(イザヤ51・6)。預言者を通して御身は救世主を送るという約束を何回もされました。御身の約束が成就するように、私も誰も何もできません。御身だけが約束を実行できます。御身が人となられるのも御身次第です。人類創造の理由も御身だけが知っています。私たちには罪の贖いをする資格も功徳も全くありません。」

 いと高き御方は答えられました、「その通りである。私が人となり、人と共に住むという約束は私の善意から出た。どの人間の功徳によるものでもない。しかし、人々の忘恩はあまりにも酷いので、約束は反古になってしまった。」

 聖マリアは、全人類の過去、現在、未来にわたる所業と各人の最後を神から見せて頂きました。とても堪えられない幻視でしたが、神の永遠の愛に参加し、取り次ぎを続けました。「主、永遠なる神、私は御身の正義を宣言し、御業を讃えます。私が御身の人々への賜物と、人々の御身に対する忘恩を見る時、私の胸がつぶれそうになります。御身は全員が永遠の生命を得ることを望むのに、少数の者たちしか、推定できないほどの恩恵に感謝せず、大勢が悪意により亡びます。御身は人々の罪や悪意を予見したように、御独り子が無限の価値の業をなすことを最初から御存知です。御子の御業は罪よりもはるかに強力です。」

 神は聖マリアの謙遜な愛すべき熱願に感動し、答えられました、「私の最も愛すべき浄配、選ばれた鳩よ、汝の願うことは大きい。汝へ与えられた祝福がこれらの不適格者たちに与えられるべきか?私の友よ、悪者たちが当然の報いを受けることは私に委せなさい。」 私たちの強力で親切な弁護者は返答しました、「いいえ、私の主、私は引き下がりません。御身は慈悲深く、力強く、約束を違えません。私の祖先ダビデは御身について言いました、『主は誓った、そして後悔しない。御身はメルキゼデクのような永遠の祭司です』(詩篇110・4)。その祭司が来ますように、そして私たちを助けるため犠牲となりますように。御身は約束を後悔しません、約束する時、全てを御存知ですから。」

 この討論の時、私たちの女王は何という名前かと尋ねられました。聖マリアは言いました、「私はアダムの娘です。そこらの塵から御手により造られました。」 いと高き御方は答えられました、「これより汝は『御独り子の御母に選ばれた』と呼ばれるであろう。」 しかし、『選ばれた』というところしか聖マリアの耳に入りませんでした。神が人となる永遠の御言葉を送るという明瞭な約束は、聖マリアに伝えました。この約束を聞き、大喜びした聖マリアは、いと高き御方の祝福を願い、頂きました。ヤコブが神と討論して勝った時よりも、もっと大きな勝利を聖マリアは獲得しました。神は聖マリアを愛するため、御胎内に入り、人間の弱さを身につけることになるのです。御自分の死により私たちに生命を与えるため、神性を変装で隠されたのです。人間が救われたのは、第一は聖マリアの御子のお陰、第二は聖マリアのお陰です。

 この幻視の時、私たちの偉大なる女王は創造の第五日目を見ました。天の下に水が造られ、地上には不完全な爬虫類が這いずり、翼のついた動物が飛び、ひれのある動物が水中をすいすいと泳いでいるのを見ました。あらゆる動物の起源、格好、生活状態、習性なども見て、諸動物がどのような目的を持ち、生を終えるかも判りました。王なる神は、聖マリアに全動物を支配する権力を与えました。

 この幻視の後すぐに創造の第六日目を聖マリアは見ました。地から動物が産まれ出てきました。魚や鳥よりももっと完全な動物で、重要な特性に従って名前がつきました。ある動物たちは家畜となり、他は野生のままでした。全ての動物に対する支配権を聖マリアは頂きました。

 理性のない被造物の創造を見た後、聖マリアは、「我々の姿に似せて人間を造ろう」(創世1・26)と神がおっしゃって、土から私たちの最初の親を造った様子を知りました。人間の身体と霊魂や諸機能の調和、霊魂の創造と人体内への注入と両者の密接な結合が判りました。人体の諸部分、例えば骨、静脈、動脈、神経や関節の数、食物の機能、成長や動作も理解し、調和の崩れが病気を起こすことと病気の治し方も習いました。全てこれらを少しの誤りもなく理解したのは、世界の諸専門家より以上で、天使たちさえも及ばないほどです。

 主は最初の両親アダムとエワの最初の正義に於ける幸福な状態を聖マリアに示しました。二人がずるい蛇によってどのように誘惑されたか(創世3・1)も判りました。二人の罪の結果がどうであったか、人類に対する悪魔の憎悪はどれほど激しいかも知りました。恩知らずの人祖アダムとエワの娘として自分が産まれたことも判りました。原罪を自分の責任と考え、泣きました。この涙は主の御目に大変貴重ですし、私たちの救いを確かなものにしましたから、原罪は幸せな過失といえるかもしれません。

 聖マリアの準備の第七日目、天の王女は天使たちにより最高天に運ばれました。そこで玉座から声がかかりました、「我らの浄配、選ばれた鳩、何千人もの人たちの間から選ばれた我らの花嫁として汝を新たに迎えたい。我らの計画にふさわしい者として汝を飾り、美しくしたい。」

 謙遜な者たちの中で最も謙遜な者である聖マリアは、いと高き御方の御前で人間にはとても考えられないほど自分を無にしました、「ああ、主よ、御身の足下に、塵であり、御身の卑しい碑は御身に捧げられました。ああ、永遠なる善よ、御身のこの取るに足りない器を御旨のままにお使い下さい。」 いと高き御方に命ぜられるままに、二位のセラフィムがこの天の乙女にはべっています。他の天使たちと一緒に見える姿となっています。聖マリアは天使たちよりももっと神の愛に燃えています。聖マリアの優しい愛と望みに感動した神は、聖マリアの純潔な胎に入り、五千年間以上も延期された救いを成就すると宣言しそうになりましたが、御告げはもう少しの準備がなされた後に執り行われます。その準備は、天の王女が受肉される御言葉の御母であると同時に、御言葉の御来臨のための最も強い仲介者となり、エステルがイスラエルの救い手であった(エステル7・8)以上に人間の救い手となるための準備です。

 いと高き御方は御自身の傑作である聖マリアを見て有頂天になったかのようにおっしゃいます、「私の浄配、私の最も完全で最も愛らしい鳩、我らの所に来なさい。汝は人間から産まれたから私は人間を創造したことを喜びとする。汝を我が浄配、全被造物の女王として選んだ理由が天使たちも良く判るであろう。我が独り子の光栄の母体となる我が花嫁が私の喜びであることを良く判るであろう。地球の最初の女王エワを不従順の理由で私が罰したのと反対に、至純な謙遜と自己卑下の聖マリアに最高の威厳を与えることも良く判るであろう。」

 至聖なるマリアの準備の最終段階は、新しい性質、習慣と品格に於て、神の生ける姿に近くし、永遠なる御父と本質的に同じ永遠なる御言葉が入る鋳型となるためです。従って、至聖なるマリアという神殿はソロモンの神殿よりももっと美しく、純金で覆われ、神からのものに輝いています。御子の御母は可能な限り御父に似ています。私が全く驚嘆するのは、この天の御方の謙遜であり、この謙遜と神の御力の間の競争です。聖マリアは、神によりますます高く揚げられ、神の次の高みに達すると、自分をますます卑下し、最も下級の被造物の下に自分を置きます。全能者が聖マリアの謙遜に注目し(ルカ1・48)、全人類が「めでたし聖マリア」を唱えるべきです。

元后の御言葉

 私の娘よ、わがままで奴隷根性の愛しかない人たちは、いと高き御方の浄配になる価値がありません。給料のために働くものではありません。汝の浄配なる神はどんなに気前よいかを考えなさい。神に仕える人々の役に立つため、神は色々なものを創造しました。神の偉大なる甘美さのために、たくさんの宝物を用意していることを考えなさい。神の全ての宝を一人一人に用意してあるのです(詩篇31・20)。人々が神の愛に注目しないのは弁解できませんし、人々の忘恩も許されません。

 私の親愛なる者よ、汝は主の所帯の一員であり、キリストの浄配です。汝の花婿の全ての財宝は汝のものです。主が全ての恩恵を汝だけのため、取っておいたのです。汝自身のため、汝の燐人のために主を愛し、敬いなさい。全能者が私に下さった驚くべき恩恵を思い、主を誉め奉って下さい。

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