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第二書・第七章

聖ヨゼフとの素晴らしい婚約

 神が聖マリアに現れ、聖ヨゼフと結婚するように言われた時、終生乙女の誓願を何回も繰り返していた聖マリアにとって意外中の意外でしたが、自分の判断を棄てました。望みのない時に望み(ロマ4・18)、主に答えました、「永遠の神、理解を越える王、天地の創造主、風も海も全ての被造物を支配する主よ、御身の卑しい婢をお使い下さい。私には御身に従う義務しかありません。御旨ならば、結婚という苦境から解放して下さい。」 この答えには少しの気がかりがうかがえますが、聖アブラハムが神により、息子イサクをいけにえにするようにと言われた時、聖アブラハムが示したためらいよりはずっとましです。聖マリアは悲しみましたが、もっとも英雄的従順を発揮しました。自己を放棄し、主に委せました。王なる主は答えられました、「マリアよ、心配するな。自己放棄した汝を引き受けよう。私の力は律法に縛られない。汝にとり最善のことを私は行なう。」

 聖マリアは神の命令に従う気持ちで一杯でした。愛、確信、信仰、謙遜、従順、純潔、その他数え切れない諸徳はますます増えました。そうしているうちに神は、祭司長聖シメオンの夢の中に現れ、ナザレトのヨアキムとアンナの娘、聖マリアの婚姻を準備するように言いました。聖なる祭司は、どなたが聖マリアの夫になりますかと尋ねました。主は、他の祭司たちや学者たちに説明するようにと答えました。つまり、この乙女は今、孤児になっており、今まで結婚しないつもりでいたが、長女は結婚するまで神殿にいるのが習慣であるから、この乙女も適当な人と結婚すべきであると。

 最も思慮深く謙遜な聖マリアは祭司に申し上げました、「私の気持ちだけ申し上げるなら、神に御恩を返すため、生涯この神殿で私を捧げたいと思いました。結婚のことは夢にも考えませんでした。私の御主人様、あなたは神の代理者でいらっしやいます。どうぞ神の御旨をお聞かせ下さい。」 祭司は答えました、「私の娘よ、汝の聖なる願いは主のお喜びになるところである。しかし、救世主来臨の預言がある以上、イスラエルのあらゆる娘たちは結婚しなければならない。我が国民の中で子供を産む全ての者たちは幸せであり祝福されている。婚姻に於て汝は神に本当に仕えるのである。汝の希望を叶える将来の夫は、神のお喜びになる人であり、ダビデ家の血統を引かなければならない。汝も我々も、汝の夫が見つかるように祈ろう。」

 その後九日間、聖マリアは泣きどうし、祈りどうしで、主の御旨が成就されることだけしか頭にありませんでした。主は聖マリアに現れ言われました、「我が浄配、我が鳩よ、汝の心を騒がせないように。私は汝の心からの望みの面倒を見よう。祭司にも知らせよう。汝の聖なる希望に添い、汝が繁栄すべき夫を我が僕たちの中から選ばう。我々は汝をいつもどこでも保護しよう。」

 至聖なるマリアは答えました、「私の霊魂の最高善と愛の御方、御身は私の誕生の時から私の胸に与えた希望を御存知です。私が御身のため御身により願います。我が主、我が神よ、私は役立たずの小さな婢です。弱くて嫌悪すべき者です。もしも私が婚姻に於ける徳からはずれると、御身と私自身をがっかりさせることになります。私を護り、私の不徳を大目に見て下さい。私は無用の塵です(創世18・27)が御身の偉大さに頼り、御身の限りない慈悲を信頼します。」

 私たちの王女マリアが十五歳になった時、ユダ族でダビデ家の血統にあたる男たちでエルサレムにいた者たちは神殿に集合しました。女王もダビデ家の子孫でした。ナザレト出身のヨゼフも神殿に集まった男たちの一人でした。三十三歳で男前も良く、快活で謙遜、重厚さがありました。考えも行動も大変貞潔であり、あらゆる点で聖人でした。十二歳の時から純潔の誓願を始めました。

 神殿に集まった独身者全員は、祭司たちと共に聖霊の御導きを祈願しました。いと高き御方の御声に従い、祭司長は一人一人の手に乾いた杖を置き、聖マリアの配偶者に選ばれるよう、王なる神に願うよう申し渡しました。聖マリアの聖徳と高貴の香り、美しさ、謙遜などは全員に知れ渡っており、全員心から憧れました。ただ一人、謙遜実直なヨゼフはそのような祝福を受けるに値しないと考え、自分の純潔の誓願を思い出し、全てを神の御旨に委せ、同時に、最も高貴なマリアを崇めることに於て誰にも負けませんでした。

 皆が祈りに耽っていると、ヨゼフの手中にある棒から芽が出て、真っ白で輝く鳩が降りてきて聖ヨゼフの頭にとまりました。神が彼の心の中に語りました、「ヨゼフ、私の僕よ、マリアを汝の妻とすべし、マリアを尊敬して受入れ、何事もマリアの言う通りにしなさい。」 天のこの印を見て、祭司たちは聖ヨゼフが乙女マリアの夫として神から選ばれたと宣言しました。呼び出され、聖マリアは皆の前に現れました。天使たちよりも美しく、高貴と優雅に溢れていました。祭司たちは婚姻の式を執り行いました。

 天の王女は天空の星よりも清く、涙を流し、悲しそうでしたが、女王としての威厳があり、最も謙遜でした。祭司たち、先生や少女たちの祝福を受け、赦しを乞いました。神殿生活の間に親切にして下さったことを感謝しました。短い重みのある言葉でした。こうして神殿を立ち去ることは聖マリアにとって悲しいことでした。神殿奉仕者の代表たちと一緒に、夫の聖ヨゼフに付き添い、ナザレトに行くことになりました。

 ナザレトに着き、天の王女は両親の残した財産や不動産を相続し、両人の友だちや親戚から歓迎されました。この聖なる二人は人々から解放され、二人きりになり、しきたりに従い、二、三日の間、お互いをよく知り、お互いを助けるよう相談しました。聖ヨゼフは聖マリアに言いました、「私の妻、貴婦人よ、私はあなたのそばにいるに値しませんが、主が私にあなたの夫とする恩恵を下さいました。主の恩恵に報いるため、私を助けて下さい。あなたの僕として私を側に置いて下さい。私の本当の愛情によりお願いします。私の欠点を補い、私が身の周りの世話をしてあなたを喜ばせられますように。」 天の妻は傾聴し、すがすがしい面持ちで答えました、「私の御主人様、いと高き御方があなたを私の夫に選び、私があなたに仕えるべしという御旨を知らせて下さったので幸せです。」けだかいマリアの言葉を聞き、聖ヨゼフは神の愛をますます燃やして言いました、「何でもおっしゃって下さい。あなたの僕はお言葉を待っています。」 この時、千位の天使たちが聖マリアを守護していました。しかし、聖マリアにしか見えませんでした。男の人と二人きりでいるというのは、祭司長と偶然に一緒だった以外、今までなかったので、聖マリアには恥じらいと怖さが当然ありました。天使たちに取り囲まれ、聖マリアは言いました、「私の御主人様、神なる創造主を誉め奉ることは正しいことです。神の善は無限で、神の審判は悟り得ません。哀れな私たちに対し、神は偉大さと慈悲をお示しになり、私たちを召し使いとして選んで下さいました。全被造物の中で一番、全被造物の頂いたもの全部よりももっと私に下さいました。私には受ける資格がありませんから、私の贈り物は全被造物への贈り物よりも多いのです。幼い時、このことやこの世の物のごまかしを神から教えて頂き、私の霊魂と身体の童貞の終生誓願をたて、私自身を神に捧げました。私は神のもの、神は私の浄配で主です。御主人様、私は生きている限りあなたの召し使いです。どうぞ私の誓願を全うできるようお願い申し上げます。私の決心を認め、あなたも同じ決心をされ、お互いを私たちの永遠なる神にいけにえとして捧げましょう。」

 最も貞潔な夫、聖ヨゼフは心から喜び、聖マリアに答えました、「私の女主人様、あなたのお言葉で私は深く感動しました。私の考えを初めて打ち明けます。私も他の男たちよりもっと主の御恩を頂きました。主は、私が実直な心で主を愛するよう啓示されました。十二歳の時、私は終生童貞でいと高き御方に仕えるという約束をしました。あなたの誓願を助けるために、私の誓いを新たにします。あなたが心から主に仕え、主を愛するのをお手伝いいたします。主の恩寵により、私はあなたの最も忠実な召し使いになります。あなたが私の童貞としての愛を受入れ、私をあなたの兄と思うようにお願いします。神が第一で、その次が私です。」 神は聖ヨゼフの純潔の徳を更新しました。聖マリアは自分の賢慮に従い、聖ヨゼフの心を更に豊かにしました。至聖・至純なるこの夫婦の喜びは何も比ベるものがありません。聖ヨゼフの心には肉欲的欲望の一かけらもなく、妻の聖マリアに仕えることだけしかありませんでした。二人は聖マリアの両親から相続した遺産を三分し、神殿と貧者に寄付した後、残ったものを生活にあて、聖ヨゼフが管理しました。私たちの女王は聖ヨゼフに仕え、家事に従事しました。

 聖ヨゼフは大工で貧乏でした。同じ職業を続けて生計を立て、貧乏な人たちに施しをしてもよいかどうか聖マリアに尋ねたところ、承諾してもらいました。二人はお互いを主人にする競争を始めましたが、聖マリアが勝ちました。男が一家の主(あるじ)ですから、聖マリアは全てに於て聖ヨゼフに伺いを立てました。貧者に施し物をするのも、まず聖ヨゼフに許可を請いました。聖ヨゼフは喜んで承知しました。聖ヨゼフは、聖マリアの賢慮、謙遜、清純、その他の諸徳が自分の予想以上に素晴らしいことを知り、いつも感嘆し、聖マリアのそばにいる光栄を神に感謝しました。聖マリアは神と密接に交流していますから、お顔の輝きはシナイ山で神に会ったモーゼの顔の輝き(出エジプト24・30)よりももっと素晴らしく、もっと威厳に満ちています。

元后の御言葉

 私の娘よ、神に信仰と希望を持つものは不可能がありません。私は夫の家に住みながら、神殿にいるのと同じように完徳を実行しました。夫の世話をしても、神への奉仕を怠らないよう神に頼みました。神は私の願いを聞き届けられました。結婚している人全員に神は恩寵を下さいます。虚栄心や不要な心配をし、主の甘美さを忘れ、我意を通そうとする気持ちが完徳に進むのを妨げます。

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