Uramaturi7+10 #12 SPOIL



バスケ馬鹿
Basketball Freak

SPOIL *****
台無しにする。(人の)性格をダメにする。 (機嫌をとって)甘やかす。増長させる。(〜をしたくて)たまらない。むずむずする。…の意(笑)







「桜木………頼む!
 何も言わずオレと一緒に住んでくれ!!」




仙道彰。花道の敵。
高校時代は陵南のエースで、その後も日本バスケット界一の天才と謳われるムカつく二枚目――。
断っておくが、花道は奴のことを「カッコイイ」なんてコレッポッチも思っていない。
が、仕方ないではないか! 世間の評価がそうなんだから!(逆ギレ)。


その奴が、顔を真っ青にさせて息を切らして花道の小汚いアパート(六畳一間。家賃48000円。)の安普請なドアを乱暴に開け放ったのがつい先ほど。
その剣幕に押されわけもわからぬまま部屋に上げても、焼けた畳の上、正座にかたまったまましばらくヤツは口を開かなかった。
そんなヤツの、開口一番、土下座をともなう台詞が冒頭のアレである。


花道のメンチ切りまくりの疑惑の視線にさらされる仙道。
「だってオレ…だってオレ…」
膝の上に置かれた拳が震えている。



「…水道代払えねぇんだ!!!!」



花道は雷にでも打たれたような衝撃に立ち尽くした。


***



「水が出ない」


それがどれほど悲惨なことか、ド貧乏の辛酸を舐めた者にしかわからない。
電気やガスは容赦なく止められたとしても、「水道」だけはほんのちょびっとだけ待ってくれるハズなのだ。 だってヒトは水がないと死んじゃうから。

その最後の砦も守れなくなったセンドー。
なまじ「ビンボー」を知っている花道に、そんな哀れな相手を突き放すことなど到底できることではなかった。

しかし、そんなこんなでいきなり始まったふたりの共同生活は、思ったよりもずっと楽しく順調なもの、だった………………?


***



「センドー、買ってきたぞー」
「おかえり桜木」

スーパーのビニール袋をがさがさ言わせながら帰ってきた花道を、犬のように嬉しげに出迎える仙道。


***



「んだよ…くっつくなよ…」
「だって寒いんだもん」


季節は冬。
窓の外は雪。
水道代も払えない哀れな大男仙道彰独身。

コタツに足を突っ込みながら鍋をつつくという、この上ない暖かい風景を演出しているはずなのだが、 この貧しい淋しい男の心は癒せないのか…。

浪花節のワカル男、桜木花道はぐっと拳で涙をぬぐうとそれ以上何も言わず鍋をつつき続けた。 そして仙道は、そんな花道にずうずうしく寄り添い続けた(…)。


***



「なんでそんなさわんだよっ!」
「マッサージだよ」


ついに我慢できなくなって口にしたものの、仙道にアッサリそう言われると 「…ソウなのか?」とつい思ってしまう、 今時珍しい純粋培養のヤンキー青年、桜木花道こちらも独身。
勢いをそがれた花道は難しい顔で「ぐむ」と口をつぐむが、そのまますかさず
「桜木クン、こってますね〜」
などとおちゃらけながら肩を揉まれたりすると、
「チョット触り方がイヤラシイのではないか?」とか
「ナニかイカガワシイ何かを孕んでいるのではないか?」
と思った自分の考え過ぎ(?)の方が恥ずかしい気までしてきてしまう。


確かにオレもコイツもバスケット選手だ。
確かにマッサージは必要だ。
確かにこいつはマッサージがうまい。


何か引っかかるものを感じながらも、桜木花道は、ニコニコと自分の肩を揉む居候にそれ以上の追求をできぬまま、 難しい顔で胡坐をかいていた。


***



妙な囁き合いが繰り返された。


「なんでそんなコト…あっ…」
「こーされるとバスケうまくなるんだよ」
「ナヌ?!」


そうして仙道のソレは、どんどんどんどんエスカレートしてゆき…


***



「テメェ! オレをだましたな!? 「バスケうまくなる」なんて言って、ホ、ホントはオンナのヒトとやることだったんじゃねぇかよ!!」

ばしいっっと仙道の顔面にプレイ●ーイ誌が投げつけられた。


花道が、軍団のむさくるしい集会所でからかうように見せ付けられたそのいかがわしい頁に、仙道と花道が 寝る間も惜しんで励んだ(…)営みの全貌が明らかにされていた。
雑誌を持つ仙道の手がブルブルブルブル震えている。
食い入るようにそのカラミを凝視する仙道。
ようやく顔を上げたヤツは、花道以上に衝撃に打ちひしがれた表情でつぶやいた。


「そ…そうなのか?」
「え?」


「ウソだ…オレ、ホントに「バスケうまくなる」って…………だってオレにさんざしたヒトがみんなそー言って…」

ぶつぶつ言ったかと思うと、ワナワナワナワナ震えている。
がばっと花道の両肩を掴むとボロボロ泣きながら必死に訴えた。
「ほんとに…! なんてことしてたんだろうオレ…! 知らなかったんだ桜木…! ゴメン! オレ本当に…!」
まさかこんなことで仙道が泣き出すと思わなかった花道は、毒気を抜かれ逆にオロオロと口ごもる。


「……な…泣くなよ。も…いーよ、別に。オレぁてっきりテメェがオレをだましてって…」


もはやずうずうしく花道にすがりついた仙道の嗚咽がさらに激しくなる。
対抗するように花道の慰めの言葉も勢いづいて大きくなった。
「し、仕方ねーじゃんかよ、テメーも知んねかったんならよ! いーっつってんだろ別に。むしろ気持ちよかったし!」


「……………は?」
「…え?」


すがりついたまま顔を上げた仙道と見下ろした花道の視線がぶつかった。

「…キモチ…よかっ…た?」
「な…ウルセーな。たりめーだろ。オトコなんだからよ」
ほんのり赤らめた顔を背けると、いまいましげに吐き捨てる花道。


「じゃ…またしてもいい?」


思いもよらない提案に花道がはじかれたようにヤツを凝視する。
「なっ…だからバスケうまくなんかなんねって…」
「ちがくて。そんなんいいから。オレも…その…メチャクチャよかったから………したいんだけど…ダメかな? イヤ?」


語尾になるほど小さな声音で、
おずおずと… 本当におずおずとそう聞かれ……………


固まったままの花道の、瞳だけが定まらぬように泳ぎはじめる。


***



こうしてふたりは末永くしあわせに暮らせ……………るといいね(特に仙道が)(苦)。




つづく









バスケ馬鹿 2




「センドー! てめーちゃんと金あんじゃねぇかナニが水道代だ!! オレをだましたなー!!」



「金!?」

振り返った仙道のすさまじい勢い。
花道が突きつけた通帳をひったくるように奪い取った。

「桜木! おまえ、こんなのドコで見つけたんだ!」




「てめぇの引き出しだ、コラァ!」

「スゲェ!! ウソ!! これオレの!? マジかよ! これ全部オレの貯金かよ! 桜木、もう心配いらねぇぞ! オレが何でも買ってやるからな!!」
がばぁっと花道を抱きしめ、転げまわるように喜ぶ仙道。



「………………………おめぇ…テメェの貯金も知らなかったのかよ…」



花道の力ないつぶやきは、壊れたように狂喜乱舞する仙道には届かない。
振り回され続ける花道はすでにがっくりとうなだれていた。


***



「……ゴメン。オレ、バスケバカでさ……桜木にはメーワクかけちまったけど…でもオレ、こんな金、知らなくてよかったな。 だってオレ、こんなのあったらおまえと暮らせなかったじゃん…」


照れ隠しのように、自嘲するように、笑いながらヤツはつぶやいた。
興奮がようやくおさまり、むっつりと押し黙ったままの花道にやっと気づいたのだ。
「…桜木? なあ、黙ってんなよ。なあ…」
うつむいた花道は、実は黙ったまま「ゴゴゴゴゴゴゴ…」と重低音を伴ってワナワナ震えていたのだ。


(バカだ…ホントにバカだコイツ……………)


「出てけーーーーーーーーーーーーー!!」

「え?」

「出てけよ、もう金あんだから!! 水道代も部屋代も、十分払える金があんじゃねぇか!! ああ!?」
「桜木!! 待ってくれよ、桜木! 桜木!!」
そのまま、裸足のまま、安普請なドアの外に追い出される仙道。



こうしてふたりの破局は唐突に訪れたのだった…。


***



数日後…


今度は昔どこかで見たようなコゾウが、通りを闊歩する花道に息せき切って駆け寄り一気にまくし立てた。

「桜木!! アイツ有り金全部パチンコでスッて、その上消費者金融にまで手ェ出して今ヤクザに追われてるって伝えてくれって仙道が!」



固まったまま花道はそのコゾウを細目で30秒ほど凝視し続けた。
が、くるっと向きを変えるときっぱり無視してすたすたと歩き出した。


(冗談じゃねぇ。 やってられるかあのバスケバカ!)


もう絶対に、あんなバカヤロウとは関わらないと、心に堅く誓った花道なのである。
が、花道の「心の誓い」などというものは、大抵全うされずに終わるのだ。
そういう星の下にいる自分のサガを、もちろん花道は知らずにいた。



そしてもっと恐ろしい事実…



ここまで手を変え品を変え、全身全霊スベテを賭けて花道に迫っているアイツが、今更諦めることなど決してナイということを…


***



アイツは200%「バスケ馬鹿」なんてカワイイものでは決してナイ。
それは全国津々浦々、「仙道彰」を知るすべての人間にとって周知の事実であった。


桜木花道を除くすべての人間にとって…。










2005.7.24


ご覧の通りのギャグです。コレ、ほんとは漫画描こうとしてたんで、ネームからの小説ですが…(なので他の2本とまるで違う成法なんですが…)どうなることやら。
どう転んでも、生暖かく見守ってくだされ。(by Z様)












back












SPOIL          
***バスケ馬鹿番外編***


 
*この作品は成人向です。
18歳未満の方の閲覧を固くお断りします。




18歳未満です。帰ります。


18歳以上ですが帰ります。


18歳以上です。読みます。