「病気の子どもと医療・教育」掲載主要論文・講演録アブストラクト

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要旨を掲載している論文・講演録のデータベースです

収録 No12 - No18

TI

病弱教育の現状と課題

AU

鈴木 茂

IN

全国病弱教育研究会

JN

12−13. 3−13

YR

1999

AB

1930年代のわが国の病弱教育は、一部の限られた地域でのみ行われてきました。戦後の病弱教育は障害児教育の一分野として位置づけられ、「病弱養護学校」あるいは「病弱学級」が対象児の教育にあたってきました。しかし、全都道府県に病弱養護学校が設置されたのは1983年で、盲学校・ろう学校が義務設置されてから36年も経ってからというように、病弱児への学校教育はたいへん遅れたと言わざるを得ません。さまざまな理由で要求運動の遅れたことも一因ですが、病院に入院していたり、自宅療養中の病弱児の実態を正確に把握しなかった行政の責任は免れないと考えられます。また、医療の側も病児の医療にのみ集中し、子どもの生活にはあまり関心を寄せていなかったこともあると思います。

病気療養児の医療は教育が関わることによって、その効果を高めることが先達の方々の努力で明らかになってきたり、学習空白をなくすという、子どもの学習権の保障の問題としての意識が定着し始めて、近年ようやく病弱学級設置の急増へと進んできたものと思います。しかし、毎年、就学免除・猶予の児童生徒がいます。また、長期欠席者のうち病気を理由としている者も8万人を超えています。これらのことを考えると病弱児童生徒の教育については問題が山積しています。可能な限りの手段を講じて一刻も早く病気療養児の教育が進展することを願ってやみません。

KW

病弱教育、特別な教育的ニーズ

Copyright ;全国病弱教育研究会


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TI

病気の子どもを囲む世界に求められるもの

AU

小林 登

IN

甲南女子大学子ども学研究センター

JN

12−13.21−35

YR

1999

AB

子どもが病気になれば、それを早く治して、健康な子どもと同じような生活に戻してあげなければならない。しかし、小児科学が進歩した現在では、難病の子ども達にとって、病気が完全に治るまでに何回も入退院を繰り返したり、さらには完治せず、病気と闘いながら生活していかなければならない場合が増えている。そういう子ども達を囲む世界にとって病弱教育は必須である。

演者は、病弱教育には2つの重要な点があると考えている。第1は、病弱教育と「癒しの力」の関係をどう捉えるかである。胎児や新生児の行動発達をみると、子どもは心と体のプログラムを持って生まれるといえる。とくに、病気の子どもでは、そのタイプによって、どちらかのプログラムに支障がある場合が多い。しかし、生活している以上、そこには機能しているプログラムもあるのである。この場合、「やさしさ」に代表される人間らしい対応によって、心のプログラムが円滑に作動すれば、体のプログラムもよく機能し、「癒しの力」も強化されるとみるべきである。それは、心と体のプログラムは相互作用するからである。この関係は情緒剥奪症候群や病気の事例で明らかにされている。したがって、患児がやさしい病弱教育によって、「学ぶ喜び」さらには「生きる喜び」いっぱいになることは重要である。

第2は、約800年前に人権という考え方が芽生えたが、それが子どもの権利にいたるまでは、長い年月がかかり、また多くの人々の努力があった。それによって、1989年にやっと、国連で子どもの権利条約が締結されたのである。子どもの権利の中で、教育を受ける権利は重要なひとつであることは周知のとおりである。この立場からも病弱教育は捉えられなければならない。

KW

心と体のプログラム 癒しの力 やさしさ 病弱教育 子どもの権利

Copyright ;全国病弱教育研究会


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TI

大阪における小児医療と学校教育の課題

AU

豊島協一郎

IN

大阪府立羽曳野病院

JN

No14. 1-8

YR

2000

AB

長らく小児科医として難治性喘息児の総合治療を実践してきて、小児医療と小児の教育はこどもの成長発達を共通の目標とし、車の両輪でなければならないことを強く認識しているが、現実には相互の連携が無視されていることが多い。慢性疾患治療と教育の両立が治療効果の向上に如何に重要であるかを喘息の総合治療をモデルに解説し、病弱児の教育の現状を、筆者の知る大阪の現状、日本小児科学会学校保健委員会の報告から提示し、医師の立場から病児の教育への要望と提言を述べた。

「財政危機」を理由に効率、生産性、市場原理を至上とする社会風潮の下で医療も教育も縮小を強制されることが多い。病児教育は弱者への社会的恩恵ではなく、病児教育の実践こそが教育の原点であり、教育に活力を賦与するものであることを強調した。

KW

病弱児教育、気管支喘息総合治療、養護教諭、在宅医療、医療と教育の連携

Copyright ;全国病弱教育研究会


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TI

大阪における周産期医療とトータルケアの課題

AU

二木康之

IN

大阪府立母子保健総合医療センター

JN

No14. 9-19

YR

2000

AB

大阪における周産期医療とトータルケアの課題について、府立母子保健総合医療センターに開設当初から小児神経科医として勤務してきた立場から述べた。当センターは大阪府における母子保健の諸問題を解決するために、設立以前より明確な理念を持った施設として構想されてきた。

しかし、その設立経過は紆余曲折を経ており、センターの機能は必ずしも当初計画通りには実現していない。当初計画のうち実現されていない部分がそのまま現在の大阪の母子保健医療、トータルケアの課題として残されている。その意味で当初構想の先見性が改めて見直されるべき時である。また、当センターの活動と治療成績の一端を紹介し、併せて大阪における乳幼児健診の問題点について述べた。さらに早期療育システムの問題点にも言及した。

KW

周産期医療、発達障害、療育システム

Copyright ;全国病弱教育研究会


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入院中の児童の図画工作における教材・教具の工夫について

AU

門司 美鶴

IN

介護老人保健施設 木の葉の里

JN

Vol.8 No.2 18-29

YR

2000

AB

院内学級での授業は普通学級での授業の補完という意味の他に,児童によっては生きる楽しみになっている場合もある.特に図画工作は,児童にとって楽しみの要素が比較的豊富である.病院という条件下での教材,教具の工夫という点から図画工作の入院児に対する意義を検討した.病気と治療が指導計画に与える影響として,経験の不足や偏り,学習空白による図画工作の技能の未習熟と未獲得,活動の制限,授業時数の制約がある.入院に伴う心理社会的問題も図画工作の表現活動に影響を与えると考えられる.

本研究は,院内学級では個々の実態を図画工作の授業にどう反映させているかを把握するため,院内学級の教師を対象にアンケート調査を実施した.調査の結果,図画工作について以下の点が指摘できた.

1.教科の中でもカリキュラム上重視されている. 2.教科だが,入院児が直面している苦悩に対して心理的支援の役割を果たしている. 3.授業が授業後の入院生活と結び付くような配慮がなされている. 4.教材選択の要件は短期間に,少人数で,全学年合同で制作できることである. 5.外的環境の整備として,院内学級用の設備や備品・教具の充実,教材や教具の保管場所の確保,防音やゴミの処理に配慮した設備があげられる. 6.院内学級の教師間での情報の交流を促進する必要がある.

KW

院内学級 図画工作 教材、教具

Copyright ;全国病弱教育研究会


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TI

入院を必要としない病気の子どもの教育の現状と課題

AU

新井 英靖

IN

茨城大学

JN

Vol.9 No.1 4-11

YR

2001

AB

本稿は、入院を必要としない病気の子どもの教育の現状と課題について概観した。近年、病気による長期欠席児童生徒は増加の傾向にある。また、病気による長期欠席児童生徒は病気に対するケアのみならず、学校での人間関係や家庭事情、学力不足など複数の要因に対して特別な対応・配慮を必要としている。こうした何らかの理由で地域の学校に通えないでいる病気の子どもへの教育的対応は、入院日数の短期化やそれに伴った病弱養護学校への通学生の増加とも関連して緊急の課題となってきている。病弱教育は病気による長期欠席児童生徒の教育機会を保障する観点から、制度的には学校教育法施行令などの病弱教育の対象規定の問題を改善し、病弱養護学校がさまざまな病気の子どもに対して教育を保障していくことができるようになることが求められる。すなわち、病弱教育は現行の病弱養護学校や病弱学級といった特別な「場」に規定されたものではなく、通常学級に在籍する病気の子どもに対して病弱教育から特別な対応を展開できるシステム、あるいは何らかの理由で地域の学校に通学できないでいる病気の子どもや短期の入退院を繰り返す子どもに対し、自宅からの通学制度や家庭へ訪問指導する制度の確立が望まれる。

KW

入院を必要としない病気の子ども 病気による長期欠席児童生徒 学校教育法施行令 通常学級に在籍する病弱児

Copyright ;全国病弱教育研究会


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内分泌疾患小児に対する教育と保健の課題

AU

稲田 浩

IN

大阪市立大学大学院医学研究科 発達小児医学

JN

Vol.9 No.2 64-74

YR

2001

AB

内分泌疾患は、小児の慢性疾患の一分野として、よりよき医療と教育現場におけるその実践を考える際のモデルになるだけではなく、医療と教育の界面に生じる様々な社会的問題をも提示してくれる。中でも身長に関する問題や肥満は、喘息などのアレルギー疾患と並んで、学校保健の守備範囲で最も扱う機会の多いものである。この小論では、内分泌疾患の各々の医学的特性について概説するとともに、医療や教育の関係者に、上記の問題に関心を高めていただくことを目的とした。総論では小児内分泌疾患の分類、成長曲線を中心に症候の評価の方法について述べた。更に、学校生活における注意点やさまざまな社会的問題点について考えた。本論考では、病児教育の問題は、単に“病児”に対する教育の問題ではなく、一般の教育を考える上で、大仰にいえば社会のありかたを考える上でも重要との視点を大事にしたつもりである。しかしながら、筆者自身考えをまとめきれていない部分もあり、そのような不調法についてはお許しいただきたい。一方、各論では各疾患の医学的解説を中心に述べる。参考文献はできるだけ一般に入手できるものを選んだ。医学的詳細については小児科学、小児保健、及び内分泌学の各教科書を参考にされたい。また、筆者に直接お尋ねくださってもできるだけお答えするつもりである(inadah@med.osaka-cu.ac.jp)。

KW

小児保健 低身長 糖尿病 肥満 内分泌疾患

Copyright ;全国病弱教育研究会


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TI

通常教育における子どもの健康・保健問題と特別な教育的配慮の現状−都内公立小・中・高校の養護教諭調査から−

AU

猪狩恵美子 高橋 智

IN

東京都立光明養護学校 東京学芸大学

JN

Vol.9 No.2 75-85

YR

2001

AB

病弱教育システムの全体的向上を図る上で、通常教育における学校保健制度は不十分さを多く残しており、その改善は病気療養児の学校生活を支える上で不可欠である。当面、養護教諭を複数配置し、養護教諭を中心に医療機関と学校、保護者の理解・協力を円滑にすることが求められている。近年の子どもの疾病・治療をめぐる急速な変化は、通常学校における健康・保健問題への対応の改善を求めており、これまでの学校保健の蓄積を生かしつつ、病気療養児のニーズへの特別な教育的配慮の拡充が強く要請されている。また今日の保健室利用、保健室登校、病気による長期欠席の子どもの実態からは、疾病や健康への理解・援助だけでなく、子どもの心理的理解や学習・生活支援、家族支援などの総合的なケア・サポートを必要としていることが多くみられる。それゆえに学校保健の整備にとどまらず、全校における子どもの健康・保健問題への共通理解と特別な教育的配慮の実践、必要に応じて学校外の医療・教育相談・児童福祉機関とも連携・協同した支援体制が必要である。教育上の多様な困難をかかえる子どもが多数在籍する今日の通常学校では、子どもの特別ニーズに応じた援助を、権利として保障するシステムを確立することが早急の課題である。病気療養児の教育保障の問題も同様であり、通常教育における特別ニーズ教育の理念とシステムの具体化は当面する重点課題である。

KW

学校保健、養護教諭、健康・保健問題、特別な教育的配慮、特別ニーズ教育、保健室登校、長期欠席

Copyright ;全国病弱教育研究会


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TI

内分泌疾患小児に対する教育と保健の課題 〜 各論

AU

稲田 浩

IN

大阪市立大学大学院医学研究科 発達小児医学

JN

Vol.10 No.1 3-10

YR

2002

AB

前回の総論に引き続き、小児の内分泌疾患のそれぞれについて、疾患の概要をのべ、学校の現場において、各疾患とどう相対すべきかについて考えたい。疾患分類は総論で述べた概念に従い、以下のものについて記載した。なるだけ総論と重複する内容は避けたので、あわせて参覧いただけると幸いである。

T 狭義の内分泌疾患

  1 T型糖尿病 2 甲状腺疾患 3 下垂体疾患 4 副腎疾患 

  5 性腺機能低下 6 思春期早発症

  7 性分化障害 8 ターナー症候群

U 生活習慣病

V 軽微の身体的偏倚

  1 低身長(傾向) 2 思春期発来時期の軽度の早発と遅延 

  3 やせ(ダイエット)願望

KW

小児保健 低身長 糖尿病 肥満 内分泌疾患

Copyright ;全国病弱教育研究会


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TI

院内学級開設後の現状と課題―担任教諭および養護教諭への医療と教育の連携に関する調査―

AU

宮アつた子1),杉本陽子1),前田貴彦1),堀 浩樹2),駒田美弘2)

IN

1)三重大学医学部看護学科 2)三重大学医学部小児科

JN

Vol.11 No.1 1-9

YR

2004

AB

三重大学医学部付属病院に院内学級が開設されてから5年が経過したことを機に、医療と教育の連携に関する現状と課題、および患児の原籍学校復帰後の問題を明らかにすることを目的に、平成8年度〜平成12年度に在籍した患児の原籍学校担任教諭38名と養護教諭34名に質問紙調査を行い、検討した。

患児の病気・病状に関しては、担任教諭、養護教諭共に、ほぼ全員が理解しており、その連絡窓口は、担任教諭では保護者であり、養護教諭では保護者および担任教諭であった。原籍学校からの病院側への要望として、担任教諭は学校生活で注意する留意事項や、その内容が把握できる「管理指導表」を通じた、病状・経過・見通しなどの定期的な連絡や学校と病院の密な連絡を希望しており、養護教諭はそれに加えて病気や治療に関する専門的な説明を希望していた。

患児の学校生活の状況では、復学直後はその後よりもクラスへのとけ込みがたさや学習の遅れが問題になっていた。

今後は、退院後から復学までの学習空白への対応や学校生活管理に必要な情報の病院側からの提供など、入院中から医療従事者と教育関係者の連携や患児の個別的な対応の必要性が示唆された。

KW

院内学級 病教連携 小児がん患児 担任教諭 養護教諭

Copyright ;全国病弱教育研究会


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