ことみ

 やられました。涼元さん最高!

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 ことみの第一印象。ずっと後に述べますが、立ち絵がダメです。画面から圧迫感を受けました。慣れれば大したことはないんですが。
 終了後印象。舞に近い萌えさせ方。あゆと真琴に近い子供っぽさ。美凪に近いボケ。そして名雪に近い塞ぎ方。
 これはKeyでは少なくないですが、そして私は好きですが、キャラの作り方が属性と行動法則の組み換え。そしてこの組み合わせは成功でしょう。
 これはKeyでは少なくないですが、というかKanonであまりに印象深く使われていたのでKanonの代名詞と言っても過言ではない設定。そのルーツは澪シナリオにあり、AIRもある意味でここに分類可能。Key以外でもいろいろな所で見かけます。そして今回も、今までの傑作シナリオ何れにも負けず劣らず有効打になった定番かつ最強の設定。

「実は過去に出会いがあった」

 さて、レビューではなくベタ褒めになると確信していますが、お付き合い下さい。
 テンポが素晴らしい。他のシナリオとゲーム中の体感時間※を比較して決して長くない。というかメインシナリオ5つで最も短い。実質プレイ時間にも、ゲーム中の時間にも差はないはずなのに。テキストの読みやすさと一日一日のノリとメリハリ、早々に分岐してからエンディングまで一直線にされていた速い流れ、そして杏、椋、渚を加えた会話中心の立て板水なテキスト。笑いも十二分。どこからどうやってKeyに持ち込むのか読ませない平坦な時間を、バスの交通事故から急転高落※させる美しさ。傾きは10、高さも9と言え、Key最高と思っているあゆ+名雪栞・真琴・SUMMERの何れにも並ぶ力。「実は過去にも出会いがあった」と、張りやすい設定ではあるが、事故から崖下に落とされてからさらに発動し足をすくわれる優秀な伏線の数々。大きいものが張ってあるのは概ね崖の途中ですが。そしてテキスト全体でツッコミが思いつくのが『なぜだか気になった。』の一文のみ。

 内なる辞書
 ※体感時間…ONEの一週間を6日間、栞シナリオ(1/6〜2/1)を27日間と数える時間の考え方。そもそものテキスト量以外にエフェクト、選択肢の数、挿入された日常、プレイヤーのテンション等によって長さが変動。そしてテキストの持つ力によって読み手を引き込み、力次第で非常に短くさせ得るもの。私が個人的に使っている考え方。日付が変わった時に「ああ、進んだな」と感じるタイプなので。ちなみに既知の範囲で最も短かったのはまじかる☆アンティーク(当たり前)で、最も長かったのは月姫(初日長すぎ)。
 ※急転高落…あゆシナリオで最高に効果を発揮したKeyの基本。起承転結の転。分かりにくい例えだが、なだらかに続いている平地の端に高い崖があり、そこからシナリオの核心まで落とすようなイメージ。崖の傾きと高さでその上手さを表現できて、傾きが大きいほど話の展開が急で読み手の心を捕まえ易く、高さが高いほど心を強く握れる。話の先が読みにくい(平地がなだらかで崖の存在を感じさせない)とき感覚的に(私は)高く感じる。個人的に高さの方を重視。そして読まれないよう上手く張られた伏線が崖下で明らかになったとき、心を鷲掴みにされた気がする。平地がだらだらと長く、しかも少し傾いでいてなだらかに下っていき、先に崖の存在を感じさせるとき、又は伏線が見えてしまって崖の位置がある程度分かってしまうとき、崖の効果がヘタレになってしまう。急過ぎると読み手を置いてきぼりにしてしまい、高過ぎてお話を結の高さまで持ち上げられないこともある。その話が提示されたメディアによって落下の際の重力の大きさも変わる。この種のビジュアルノベルの重力は最高。ちなみに、悲しい場所は崖が終わったところ、感動する場所は崖を上っている途中、エピローグは再び上り切って辿り着いた平地。悲しいお話は同じ高さまで戻っていないもの。

 ちなみにKanonで例示。1〜10を目安。10が急で高い。高過ぎたらマイナス。

シナリオ 傾き 高さ 備考
名雪 10 転落は大きく早く、高い。
なだらかに高く落とす。
13 だらだらと核心までが長く、結局元の高さに戻れなかった感じ。
真琴 10 転落は急ではなかったものの、高落し強く捕らえられる。
あゆ 10 読ませない非常に効果的な伏線といきなり現れる先の見えない崖の入り口(「…嘘…だよ…」あゆが、震えるような声で、呟く。「…どうして…」「…ボク…どうして…」あゆは、明らかに何かに怯えていた。「…ここ…知ってる…」)。そこから伏線に足をすくわれて高く落とされる。

 崖下。ことみが塞ぎ込んでから。ことみの両親の悲しい過去に出会って、朋也がその時のことを思い出す。普通はここから崖を上っていくのですが、この先に落とし穴のように存在する崖。例のヴァイオリンが壊れてしまうこと。崖の二重構造で高さを稼いでいるが、さりとてその高さを上り切れないこともなく、綺麗なハッピーエンドに仕上げているのが素晴らしいです。
 最後、崖を上り切ったところ。ことみシナリオの肝。泣かせるのはこの一点。そして泣かせるの一点。泣きの深さの一点突破。アフターを考慮しなきゃ最高のシナリオ。
 自分達の人生の結晶である論文より子供のことを優先したこと。
 一点。

 ことみシナリオのCLANNADは「両親」ですね。

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