金井醸造場
〜天才か鬼才か 山梨のニューエイジ!〜
外観

ワイナリー、それもブティックワイナリーと評される小さなワイナリーといえば大通りから外れた人気の少ないところにあるのが定番。
が、金井醸造場は完璧なまでにブティックワイナリーの条件を満たしていながら山梨市の大通りの国道に面した(従って交通量の多い)、とても目立つところに建っています。よって、小さなワイナリーの中では例外的に見つけやすい醸造所。

『キャネーワイン』と書かれたレンガ風の建物、「蔵元直売」とある看板を見つければもう間違うことはありません。
さっそく扉をくぐり、このワイナリーの息吹に触れてみましょう。
歴史

金井醸造所は1962年より醸造を開始。現在の醸造所のオーナーである金井一郎氏の父親である和彦氏が造ったワイナリーで、親子二代にわたり葡萄栽培とワイン醸造、そして酒屋を生業としていました。現在は、このなかでワイン醸造が主体となります。
先代は昔ながらのワイン造りでしたが、ゼネコンを辞めマンズワインでの研修が終わった金井一郎氏が家業を継ぐとその方向性は一変。輸入ワインブレンドの取止め、垣根栽培によるワイン用葡萄の栽培、火入れ処理を使用しない瓶詰めなど現代的な醸造所への転換が図られます。
しかしそれだけにとどまらず、活き活きとした健全な葡萄を育てること、そして地元である万力の個性を持ったワインを造るために自然派ワインの手法を取り入れた栽培・醸造を始めたことで、金井醸造所は他のワイナリーとはベクトルの違う道を歩むことになります。


年間の生産本数は約1万5千本で、原料に関しては全ての葡萄を山梨市の自社畑と県内の葡萄で確保。一種の委託醸造に近いことも行っており、醸造免許を持たない人が栽培したワイン用葡萄も醸造することもあります。
とかく”ビオワイン”、”自然派ワイン”というイメージを持たれ、特に2005年の国内で開かれたビオワインのワイン会に名だたる世界の生産者とともに出展してからは完全にそれが定着しました。金井氏本人はこれを快く思っておらず、自社のワインは絶対にビオディナミの手法を使用しなければならない、とは考えていません。実際、ビオディナミの手法を多く取り入れてはいますが、醸造においては天然酵母ばかりでなく純粋培養酵母も使っています。金井氏によると、あくまでより良い品質のワインを造ろうとした結果、この方向にいったとのこと。確かに何度かご本人にお会いしていますがワインとは直接は関係のない環境問題を指向する言葉は金井氏の口からほとんど出たことがありませんし、有機栽培の表記などを自社ワインにすることも否定しています。「自然に優しい畑」からこそ求める葡萄が得られるという信念であって、「自然に優しい畑」を造ることそのものは目的ではない、ということでしょう。
とはいえ、日本ではおそらくもっともビオディナミの手法を取り入れたワイナリーというのも事実で、極度の減農薬栽培(防虫等も含む)、少ない亜硫酸使用量(銘柄によっては瓶詰め時には添加しないことも)、月齢で剪定や瓶詰めの日取りを決めるといった方法は、他の日本ワイナリーとは一線を画します。

ワインは白は甲州とデラウェア、シャルドネ。赤はメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン。他、県内の農家の生産したベリーAを使用したワインも醸造します。納得がいかない品質のワインは下のランクに落したり、悪い年はその銘柄を造らなかったり(※)と、品質に関しての自己基準は厳しいもの。
公式ホームページでは最新の醸造・栽培状況を書いて、現状を伝えるようにしているなど情報の公開にも熱心です。これについては百聞は一見にしかずで公式HPを見た方が早いですが、専門的な内容なので理解するにはある程度の醸造・栽培の知識が必要となる点には留意を。

この他、甲州を赤ワインと同じように醸した、意欲的というか冒険的な銘柄をリリースするなど、その大胆な発想力と度胸、何よりもワインにかける情熱は他の醸造家や愛好家を称賛とともに驚かせています。

※ 一例として2005年、2006年はシャルドネが充分な出来ではなかったために単一品種を謳った銘柄は販売されません。
施設の概略
基本的には一人で全てを取り仕切っているワイナリーなので、アポなしでいくのは礼儀の面でも推奨できません。ご本人の都合の良い時間や日取りをあらかじめ聞いておくのがよいでしょう。

販売所に醸造設備が隣接しているので見学は金井氏の都合さえ合えば容易です。
コンクリート床や壁などは使い込まれていますが、置かれたステンレスタンクは大きくはないものの素人目に見ても清潔に管理され、不潔感はまったくありません。中規模以上のワイナリーと比べるとタンク数などは少なく、生産規模の小さいワイナリーであることも見て取れます。
醸造施設の衛生という面は細心の注意が払われています。火入れを行わない生詰め処理を行うには、瓶詰め機を含めた機材を清潔に保つのが不可欠で、丁寧な洗浄を行い雑菌に汚染されないように注意せねばなりません。この作業はいちいち機材を解体して洗浄殺菌するという、手間がかかる工程なのですが、火入れを行わないワイナリーはだいたい同じように衛生面に注意しているとのこと(※)。

醸造施設に隣接して樽の貯蔵庫があり、こちらは温度管理された大きく立派な施設なので、実際にみるとこじんまりした感のある醸造区画とだいぶ印象が違うように思えるでしょう。広めのスペースを全て使いきっているわけではありませんが、新旧の樽、さらには地下にはビンの貯蔵庫(こちらは見学不可)もあったりと2万本未満の生産量のワイナリーとは思えない貯蔵施設でした。

※・・・ビンに詰めにも大変な苦労があることを思い知らされます。


葡萄畑
畑は大きく分けて4ヶ所(ただし甲州畑は区画整理により一時的に無くなるので、しばらくは3ヶ所)。
最もワイナリーに近いのはシャルドネの畑で国道に近い平地にある垣根栽培の葡萄畑がそれです。かなりの本数が植えられていますが、収量制限などを厳しくするためにそれほど生産本数は多くありません。また、この畑ではシャルドネを完熟させるのが難しいため、少し早めに収穫をするので、ワインも酸味の強めのスタイルになりやすいようです。

次に近いのは棚栽培のデラウェアの畑。もちろんワイン用なのでジベレリン処理(種無し葡萄を作るホルモン操作)は行いません。種ありだと少し完熟が遅くなるのですがそれでも元が早生葡萄なので収穫は早め。未熟なデラウェアを収穫して醸造するいわゆる青デラのワインは造らないため、完熟を待っての収穫となります。
自社畑でワイン用にデラウェアを栽培するワイナリーは超少数派ですが、「この葡萄は本当に丈夫」と金井氏は耐病性の高さと頑健さを評価していました。

そして何と言ってもご自慢の『畑万力山路圃場』は、フルーツ公園の途中にあるカベルネとメルローの畑。高度の高い南の斜面に位置し、西側に大きな山脈がせまるために午後の温度が下がりやすいという理想的な環境で、かのニコラ=ジョリーが素晴らしい畑と太鼓判を押したというほど。
ここから生まれ出る赤ワインは、濃縮感を持つ全国でも稀有なものとなります。

畑の管理は歴史の項でも記述したとおり、自社畑では除草剤などはもちろん、ほとんど農薬などは使用されません。このため時期によっては畑内には多くの葡萄以外の植物やそれに付随する昆虫などを見かけるでしょう。
そして農薬の代わりというわけではありませんが、ビオディナミ(バイオダイナミクス)の特徴的な手法である牛糞や水晶の散布、月齢に基づく作業といった農法が状況に応じて行われています。

見学は自由なのでご本人がお忙しいなら場所だけ聞いて自力で行きましょう。畑に金井本人がいることも多く、なにより葡萄畑に興味があるならば必見!
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外観  歴史  施設の概略  葡萄畑  テイスティング  購入方法  アクセス  管理人のワイン記録 
テイスティング
酒屋のカウンター風のテイスティングルーム兼販売所があり、きちんと椅子なども設置されています。金井醸造所の高ランクの銘柄は試飲できないことが多いですが、ホームページなどに掲載されていないような銘柄もあるので、テイスティングする楽しみには事欠きません。
もちろんテイスティンググラスを使用したテイスティングとなりますのであしからず。

キャネー甲州 万力獅子岩 2005:価格は1520円。金井醸造場で”万力”と表示されるのは天然酵母によるワインとなります。この甲州も天然酵母による発酵ですが、ちゃんと洋ナシとミネラルの香りのする香り豊かなワインなので逆に意外。ポテンシャルがなかなか高い葡萄を使っているのか厚みがあり、果実の香り、柔らかな酸のあるバランスに優れたワインです。

万力甲州 朝焼け 2005:
リリース前に飲ませてもらった脅威のワイン。皮ごと醸しているので、ロゼのような色になっている”甲州”。果実の香り豊かで、チェリーっぽい香りもします。味わいはアタックが強く、酸もしっかりしていた自己主張が強いところもあるのですが、生の甲州を味わった時に近いワインを造るという目標どおり、フレッシュな甲州に近い部分が。リリース前だったのでタンニン(甲州ワインで普通出てこない用語です)が荒いのですが、瓶詰め時に亜硫酸を入れていないためか少し余韻に酸化香が感じられます。

シャトーキャネー シャルドネ2003:
詳細は管理人のワイン記録に記述。

キャネー カベルネソーヴィニヨン 2002:自社畑100%の原料により醸造。3500円ですが既に入手困難な銘柄。杉の葉、トースト、ヴァニラ、そこにベリーの香りのする風味豊かな赤ワイン。飲むとファーストアタックから、余韻まで濃縮感と大変な力強さを感じます。余韻も長く、またなめらかな舌触りで「国産の小さい醸造所」と言われても容易には信じられません。これを飲んだ時に「ここはとんでもない醸造所だ!」と確信した思い出深い銘柄なので、あえて掲載いたしました。メルローもカベルネに匹敵する大変に内容のあるワインなので余裕があれば購入を。

キャネー ロゼ :価格は1500円。詳細は管理人のワイン記録に記述。造り手がロゼが好きということもあり、国産の辛口ロゼとしてはトップクラスのワインです。

葡萄の濃縮された味わいと、硫黄臭、熟成香や酸化香が多少感じられる銘柄がいくつか散見されるのがここの醸造所の特徴の一つ。特に白ワインはそういった部分がでやすいうえにそもそも個性的なので、気になる人にはあまりおすすめできません。もちろんそうでない銘柄もありますが、現在のところ年ごとに醸造方法を変えることが多く、しかもグラスの中でどんどん香りや品質が変化するようなものまであるのでなかなか「これ」というようにおすすめできないのです。強いていうならば毎年ロゼは安定した品質で、そんなに選り好みがでるようなものではありません。
天然酵母を使った「万力」シリーズは不思議なことにヴィンテージに関わらず、かなり若い段階でも柔らかな味わいでおいしく飲める傾向があるようです。ただこのシリーズは人気なのですぐ売り切れるのが、かえすがえすも残念。
購入方法 
ワイナリーでの直接購入、メール等による注文を受付けています。が、契約している酒販店やレストランがリリースするとすぐに買いまくり、残ったわずかなワインも醸造所をよく知る人たちが買い尽くすので、すぐに売り切れてしまうのが最大の難点。特にカベルネとメルローの入手は困難です。

ワイナリーアクセス
公式ホームページに地図が掲載されていますので、そちらをご参照ください。国道だけに道路状況もよいので車もOK。ただし、飲酒運転にはご注意を。

総論
何度か行っているわりには全然書かなかったワイナリー。なぜ書かなかったのかというと、書くことが多すぎてまとまらなかったためです。
それはさておき、この醸造所は日本ワインマニアの間では最も人気のある醸造所の一つで、造られているワインもその人気にまったく恥じることのない品質。さらにその内容にふさわしいか、よりリーズナブルとさえ感じる値段で販売されているのがやはりこの醸造所の人気を高めている理由といえるでしょう。

ワインについては多少テイスティングの項でも書きましたが、人を選ぶタイプのものが多いのが良くも悪くも特徴。抜栓したてはいわゆるビオ臭(硫黄などの臭い)がする銘柄も少なくなく、この状態の風味に抵抗を覚える人がいるというのはまったく不思議ではありません。こういった香りはそのうち無くなるといった知識があるか、元々あまり抵抗がないような人でないとここのワインを逆に嫌いになってしまう可能性すらあります。また、最近はないですが「シェリーか!?」というほど酸化香があるワインもあったりと、違う意味でとんでもないワインに遭遇することも以前はありえました。
しかし、ある程度個性的なワインを受け入れる人ならばこの醸造所の品質に目を見張るでしょう。共通している点として自社畑の銘柄は特にですが凝縮感があること。甲州やデラウェアですらこの傾向がありますが、顕著なのはカベルネとメルロー。この自社畑の赤を飲んだ時には、その濃縮感と複雑な味わい、そして香りに衝撃を受けたのを今でも覚えています。安いワインではありませんが、品質に比べれば価格はけして高いものではない、と一言そえておきましょう。

訪問は「求む、おいしワイン!」というある意味節操のない方におすすめ。特に色々なワインを飲み、ストライクゾーンはかなり広い、と自負している人ならば行くべき。逆に無難な(という言い方も変ですが)輸入ワインを飲んでいて、評価できるスタイルがかなり固定化されていような場合には訪問は一考の余地あり。実際、金井醸造場のワインは人によってはかなり酷評されているので、好みのところに当たらない可能性は常に考慮しておいた方がよいかも。

総括すると私自身は金井醸造場の個性が好みということもあって、素晴らしい醸造所と考えています。データをきちんと記録し温度管理も行う繊細な造りをしているわりに、赤ワインと同様に甲州や白葡萄を皮ごと発酵させたり、亜硫酸を瓶詰め時に添加しなかったりといった無茶を堂々とやってしまう金井氏は尋常ではありません。その農法や醸造法の是非は素人の悲しさでまったくわからないのですが、少なくとも濃縮感や果実味のしっかりした素晴らしいワインは、金井氏の足しげく畑に通う情熱や葡萄の状態を観察する感性、日々の研究に支えられているのは確かです。
すでに醸造の時期は過ぎていたので、片付けられている設備もあります醸造所内部の光景。ステンレスタンクが目立ちます。
銘柄: シャトーキャネー2003
生産元: 金井醸造場
価格: 2100円
使用品種: シャルドネ
備考 自社畑のシャルドネを使用。色は蜂蜜を溶かしたような濃い目の黄色。香りはまずパイナップルやパッションフルーツの強い香り、ケーキのような小麦粉の香りもします。
含み香にはまず樽に由来する樽のヴァニラ香が印象に残りますがすぐにパイナップルのような甘い香りへと変化します。濃縮感があるものの、味わいとしてはやや軽めというか複雑さはあまりありません。また、酸がしっかりしており飲んだ後にはその刺激的な酸味が印象に残ります。そのわりにはのど越しはなめらかと、なかなか面白いワイン。
このワインは、亜硫酸使用量が少ないうえにやや古いヴィンテージであることが原因か、熟成香だけでなく酸化香もある程度見られます。ワインの質を落すようなレベルではありませんが、嫌いな人には抵抗があるかもしれません。
パイナップル香のするボディのしっかりしたシャルドネが好きならば、買いの一本。
飲んだ日: 2006年9月9日
社名 金井醸造場 /キャネーワイン
住所 山梨県山梨市万力806
電話番号 0553-22-0148
取寄せ オンラインショッピングあり HP http://www.fruits.jp/~caney/
自社畑あり、契約栽培畑あり ツアー等 訪問可
テイスティング可(無料)
栽培品種 甲州、デラウェア、シャルドネ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、他 営業日 定休日:毎週火曜
営業時間:9:00〜19:00
★  2005年12月17日、2006年8月31日
備考:山梨県産葡萄のみ使用
銘柄: キャネー ロゼ 2005
生産元: 金井醸造場
価格: 1600円
使用品種: メルロー・甲州
備考 ロゼとしては色が濃く、透明感のある黒く鮮やかな紅色。ワイルドベリーやチェリーの香り、さらにロゼとしてはとても珍しいことに樽由来のヴァニラ香などがあります。
含み香には樽に由来する樽のヴァニラ香と豊かな甘いベリーの香りが主体。辛口なので残糖はあまりありませんが、香りと旨みのせいで若干甘いような印象を受けました。酸もしっかりしており、また余韻は価格に比して長く、ワイルドベリーなどの香りが残ります。全体をとおしては、金井醸造所の中でも特にフルーティーで洗練されたワインであるような印象を受けました。

生産本数が極少でほとんど酒販店にも卸していない銘柄なのですが、国産ロゼでは間違いなくトップクラスなのでワイナリーに行ってあったならば迷わず買いです。
飲んだ日: 2006年9月11日
樽とビンのセラーです。ここも清潔に管理されています。なお、一階だけでなく地下にも貯蔵庫があります。
写真が悪いですが、カベルネとメルローの自社畑。
ほどほどの傾斜地にある畑となります。
カベルネとメルローの自社畑の看板。これが見えれば
目的の畑はすぐ。