ヒトミワイナリー
〜生活の総合演出を目指して〜
外観
近くを通ると焼いたパンの香ばしい匂いが漂い、つい引き付けられてしまう、こういった経験は多くの人があるのはないでしょうか。同じ経験を、パン工房を建物内にもつ珍しいワイナリー、ヒトミワイナリーに訪れればするでしょう。
分厚い木製の扉をあければ、パンとワイン、陶器に服といった商品が並べられている光景を目にします。奥ではコーヒーなどを飲んでくつろげるスペースまでもが用意されているのが見え、全体としてスペースを贅沢にとった作りになっています。
その内装は歴史の項にもあるように、服飾問屋である親会社の面目をつぶさない洗練されたもの。実におしゃれなワイナリーです。
歴史
大阪に本社を持つスポーツウェアを主とした男性ファッションメーカー、日登美(株)の創業者・図師礼三氏が、故郷であるこの地にワイナリーと美術館を建設することを決意したのが始りです。その理由については詳しくはわかりませんでしたが、仕事で図師礼三氏がフランスへ行き、そこでフランスのワイン文化に触発されたのが設立の動機のようです。
1994年より、設備・醸造等に関しては京都の丹波ワインによる指導を受けながらワイナリーとして営業を始めました。
オーナーがそもそもファッションメーカーということもあり、ワインとは「ただのお酒ではなく、生活を演出するもの」という考え方を前面に出していることにこのワイナリーの特徴があります。実際、店内には陶器の食器や服、パンといった商品が並べられており、他のワイナリーとは少し趣が異なります。新しい服や食器類によって生活する場の雰囲気を変えていくというのはよくあることですが、ワインもそれらと同じものであるととらえています。目標は色々な自社の製品でもって総合的に消費者の生活を演出していくということなのでしょうが、これはワイン専門の会社では出てこないユニークな発想といえます。
醸造においては無濾過や無添加、非熱処理の有無を記載するなどワインの醸造過程で加工処理を少なくするように努力していることがうかがえます。
観光地の近くであることから、販売している商品をみると梅やブルーベリーなどの甘口フルーツワインが多いのですが、こちらも原料にこだわったものが多く、農家の余剰生産物の最終処理の産物といった商品ではありません。特に梅ワインは和歌山県の紀州の梅の熟したもので仕込んだ自慢の一品です。
また、本格ワインでは濾過作業を行わないことにより葡萄のポテンシャルをできるだけそのままに表現しようとした「にごりワイン」は有名です(詳細はテイスティングの項)
生産量は7〜11万本(フルーツワイン含む)で、海外の原料やワインはいっさい使用されていません。
施設の概略
外観でも記述したように、ワイナリーと同じ建物内にパン工房のひとみ工房があります。このパン工房では高品質の小麦を使用した高級パンが生産されており、もちろんワイナリー内で購入可能です。値段は通常のパンと比べると高くなっていますが、休日の時などは売り切れ必至の人気商品です。
隣には日登美美術館が併設されており、こちらでは陶芸家バーナード・リーチの作品が展示されています(リーチの作品の所蔵量は日本一)。日本の多くの近代陶芸家に大きな影響を与えた人物なので、興味がある方ならここは行っておいたほうがよいでしょう。他に浮世絵、棟方志功の版画なども展示されています。
美術館そのものは有料(大人 700円 子供 400円)。普段は鍵がかかっているのでヒトミワイナリーの社員の方に開けてもらう必要があります。
ワイナリーの醸造施設はガラス越しに見ることができます。特にツアーなどはありません。
他にワイナリー内にお茶が飲める喫茶もあり、ここでくつろぎながら試飲したワインについて友人などと話してみるのもいいかもしれません。
葡萄畑
ワイナリーから少し坂を下った所にありますが、葡萄畑に関して造詣がある方なら驚くような場所にあります。周りは田んぼと住宅だらけで他にどこにも葡萄畑がない、そのなかで孤島のようにあるのがヒトミワイナリーの葡萄畑なのです。所有する葡萄畑全体の面積は0.5ヘクタールです。
シャルドネやリースリング、カベルネ・ソーヴィニヨンなどが植えられており、栽培方式はヨーロッパ品種としては珍しい一文字短梢の棚栽培です。一文字短梢の栽培はワイン用の甲州では時折行われており、確かに棚栽培としては収量がかなり制限される栽培方法ではあるのですが、普通はヨーロッパ品種で収量制限をかける場合は垣根栽培にするだけにかなり目をひきます。
滋賀県はかなり降水量が多い県なので、垣根よりこちらの方が適しているとの考えからでしょう。田んぼがすぐ近くにあることを考えるとおよそ水はけが良好とは考えにくい立地なので、そういったなかで優れたワインを作るのには大変な苦労があると思われます。
自社畑以外では滋賀県竜王町の農家からマスカットベリーAなどを購入して、ワイン醸造にあてています。
銘柄: |
Tar tar Wine(タータル)白 2001 |
生産元: |
ヒトミワイナリー |
価格: |
2,625円 |
使用品種: |
シャルドネ、リースリング、セミヨン(全て自社畑産) |
備考 |
シュール・リー製法と樽発酵によるワインで、無濾過です。このために瓶の底部には澱が見えることがあります。
色はかなり強い麦藁色。香りはグレープフルーツとリンゴなどの爽やかな香りに樽香があります。
含み香はやや樽香が強いのですが、果実味もしっかりあります。味わいは複雑味があり少しずっしりくるほどですが、爽やかな酸味があるので飲んだ後に口中に味が残るようなことはありません。
複雑味はヒトミワイナリーの白ワインでもっとも複雑な味わいです。
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飲んだ日: |
2004年6月27 日 |

テイスティング
カウンターで社員の方に頼めば試飲を行えます。
ヒトミワイナリーの代表商品といえば”にごりワイン”といえるでしょう。この醸造方法に関しての詳細は公式ホームページにあります。簡潔に書くと、果汁を発酵させる途中のもろみの状態を濾過せずに、
果実繊維もそのままにビンづめされたワインです。こうするとフィルターを使用したワインにはない風味があります。
以下に試飲させていただいたワインの感想を手短にまとめておきます。参孝程度に呼んでください。
にごり生葡萄酒 凛(りん) 白:価格は2100円。使用品種はシャルドネ。火入れや濾過処理は行っていないワインです。リンゴのような香りのある辛口ワインで軽い酸味と少し特徴的な苦味があるワインです。
無添加にごりワイン 阿諛追従 赤:値段は1,575。生食用として有名なアーリースチューベンを使用。やや甘口の無添加ワインですが、酸化の味わいはほとんどない、すっきりしたフルーティーなワインです。ジュース気分で飲むのに向いています。
無添加にごりワイン 赤::値段は2100円。マスカットベリーAを使用した辛口ワイン。瓶内二次発酵により炭酸を残し、それによって無添加ワイン最大の問題の一つである酸化を防いでいるワインです。シードルと似た発想のワインです。やはりわずかに酸化したニュアンスが無いではないですが、ほとんど気にならない程度。微発泡しているので爽やかな味わいですが、値段は少し高いかも。
Tar tar Wine:銘柄の意味は酒石酸のこと。詳細は管理人のワイン記録に譲りますが、全量自社畑産のフラグシップワインだけあり、他の商品とは一線を画しています。赤はカベルネ・ソーヴィニヨン100%のワイン。自社畑はおよそ条件が優れているように見えない畑ですが、けしてばかにはできない品質でヒトミの方々の努力のほどがうかがえます。
全体としてはすっきりした味わいのワインが多い傾向があります。”にごりワイン”などにより葡萄の味を極力残そうと醸造面で努力しているにも関わらず、ともすると「薄い」という感じがするワインもいくつかあるなど、滋賀県の降雨量の多さを感じさせます。
またフルーツワインも色々と売っていますが、こちらも手抜きなしで原料の選別・醸造をしているために馬鹿にできない品質のものが多くあります。ワイン愛好家の方もそうでない方も偏見を捨てて、フルーツワインも飲んでみるとよいでしょう。
自社畑。ヨーロッパ品種主体の畑としては珍しい収量を制限した棚栽培が行われています。
購入方法
ワインの販売はワイナリー内の販売店と、公式ホームページからの通販、県内の酒販店などで行われています。また、パンもjホームページ上での通信販売を受付ています。
ワイナリーアクセス
アクセスに関してはヒトミワイナリーの公式ホームページに詳しく説明されているのでそちらを御参照下さい。
総論
滋賀県というあまり恵まれていない風土において高品質のワインを造るべく頑張っているワイナリーです。自社畑のワインはさすがに努力の成果が結実しており、本格ワインの名に恥じない品質です。が、他のワインには常にある程度の「薄さ」や水のようなニュアンスがある気がします。これはもう一つの滋賀県のワイナリー太田酒造(琵琶湖ワイン)にも共通している部分でもあるので、県の風土によるものかもしれません。
とはいえ、瓶内2次発酵による無添加ワインの酸化の防止や、”にごりワイン”など、醸造面ではかなりの個性を発揮しています。ワインの本質から遠のくことなく様々な醸造方法を研究している数少ないワイナリーであるといえます。
立地が観光地であるだけに観光客向けのフルーツワインや無添加の甘口ワイン作りもしっかり押さえていますが、それらの品質にもこだわっているところには好感がもてます。
歴史の項で説明したように壮大な目標を持っているワイナリーだけに、今後ともさらに高品質のワインを作っていってほしいところです。
美術館はワイナリーのすぐ隣です。陶芸に興味がある人なら必見のコレクション。
社名 |
(株) ヒトミワイナリー |
住所 |
滋賀県神崎郡永源寺町山上2083 |
電話番号 |
0748-27-1707 |
取寄せ |
オンラインショッピングあり |
HP |
http://www.biwa.ne.jp/~hit-omi/index.html |
畑 |
自社畑あり、契約栽培畑あり |
ツアー等 |
訪問自由
テイスティング可(無料) |
栽培品種 |
シャルドネ、リースリング、セミヨン、カベルネ・ソーヴィニヨン、マスカットベリーA、他 |
営業日 |
年中無休(12月30日〜1月7日は休業)
営業時間:午前10時〜午後6時 |
★訪問日 2004年4月27日 |
備考:国産葡萄のみ使用、パン工房(ひとみ工房)併設、日登美美術館併設(詳細本文) |
店内のテーブルにはずらりとワインが並べられています。カラフルなワインやボトルが多いのも特徴です。
多分、日本で唯一洋服を売っているワイナリーでしょう。親会社の扱っているブランドものの服を主に販売しています。